マリーの中の寄生虫   作:ややや

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閲覧:悪性隔絶魔境 新宿

「パラララーパラララーラララ-ララエジソーン」

 

 サーヴァント達が屯する談話室で、マリスはたった1人で新宿特異点を記録した映像を眺めていた。ダヴィンチ達が提出する編集版ではない、マリスが独断でピックアップしたオリジナルの参考資料だ。

 

 倒壊した新宿駅は無数のバリケードに覆われており、迷宮内部の様子は見ることが出来ない。しかし、バリケードに陣取る住民達は皆が苦い顔をしている。轟音に断末魔。地盤が軋むような地震の連打はどちらが優勢かをはっきりと示している。

 

 やがて、新宿駅の鉄塊が新宿駅の瓦礫を吹き飛ばした。落ちてくる鉄塊の近くにいた住民が恐怖に支配された顔をさらにこわばらせた。それは死体と戦車を混ぜ込んだ球体だった。文字通り丸め込まれたソレが、銃弾のように回転して地面をえぐり抜いたのは明らかだった。

 

 オルガマリーの偽物がゆっくりと開いた穴を登る。虚構体(イマジ・オルガ)と名付けされたソレはオルガストーンを軸にした半ビーストの幻霊体。アンナマリーの崩壊した魂が『直近の指令(ビースト討伐)』を実行するだけの、走ることすら出来ない劣化品である。

 

『ここどこよぉー!』

 

 虚構体に自意識はない。莫大な魔力で身体を軋ませながら敵を殴るだけの一般ゴーレム以下の行動しか出来ない。策はない。罠もない。ただ漠然とした強化魔術で進むだけのモンスターに、特異点の住民は蹂躙されていた。

 

 しかし、彼らも無策で諦めている訳ではない。

 

『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーッ!!』

 

 3mを超す巨大な狼とそれに跨った首無しの騎士が時速200キロの猛スピードで虚構体の頸椎を斬り付ける。蠱毒の贄として召喚された幻霊サーヴァントのひとつであるへシアン・ロボは、縄張りを荒らす外敵として虚構体を攻撃した。

 

生贄(エサ)と怨敵がいたら憎しみが抑えられないのは復讐者の欠点ですよねぇ」

 

 虚構体の体躯自体は人間の肉体と変わりない。マリスは、へシアン・ロボが『急所を貫通すれば死ぬのは間違いないと理解していた』とテロップを追加した。マリスが解析したへシアンは、虚構体がローション階段ですっ転んで鼻血を出していたのを記録していた。

 

「ロボさんが逃亡に専念しない。それはつまり、虚構体がロボさんの一撃で死ぬ存在だと理解している証拠。罠を見破れても、罠の動機までは類察出来ない。ワンちゃんの限界ですねぇ」

 

 可愛いですねぇ。無様ですねぇ。素晴らしいですねぇ。

 

 マリスはニヨニヨと笑いながら首元を半ば斬られた状態でロボの片目を潰す虚構体との争いを眺めた。治癒魔術を平行しながらロボを半殺しにして追撃を振り切る姿は現代人を元にしたとは思えない。

 

「結果としてロボさんを使役する結果を手に入れた藤丸さんには敬意を払わざるを得ませんねえ。…いや、本当に凄いなぁ」

 

 早送りにして時間を飛ばす。

 

 藤丸はカルデアのサポートの下に虚構体を討伐する作戦を実行したが、バアルの執念はそれ以上だった。バアルは藤丸が作戦を成功することを前提にモリアーティを派遣し、最後の最後で藤丸を殺しにかかった。モリアーティの宝具である『終局的犯罪(カタストロフ・クライム)』を利用した隕石による広域爆撃。自らの生死すら運否天賦に任せた狂気のギャンブル。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 藤丸(カルデア)を守るために虚構体が呼び込んだ隕石を迎撃する。虚構体に藤丸の能力を計算する機能は無い。負傷しないように隕石が抱える莫大なエネルギーを全て相殺して消滅する。

 

 蠱毒の儀式が成立し、バアルは自己を崩壊させながらビーストの霊基を取り戻した。

 

「基礎スペックだけのてきとーCPUなら街ひとつの犠牲で勝てる。いやあ我がオリジナルの暴力はすごいですねぇ」

『お前のような平凡で平均、凡庸な男のせいで、全てが破綻した…!能力では無い!運命だけのお前が憎いのだ!!だから無様に逃げるという恥辱に耐えた!何としてもおまえを殺すために!!』

 

 3000年を費やした、たった5分の絶対的な力。あの時に油断して腑抜けた己ではなく、藤丸立香という宿敵を全力で滅ぼすためだけの全盛期。

 

運命(お前)だけは!何が何でも殺してやる!!』

「─美しい」

 

 マリスは感動の涙を流した。純粋な感情から生まれた目的の最終段階。魂の奥底から発した情動の結末は決して複製することなど出来ない。

 

『僕の人生は、()()()()()()()()って後悔ばかりだが─今回ばかりは間に合って良かった』

『アンタが後輩?はん、項羽様と比べるのが失礼なくらい覇気のない顔ね。解凍されたら先輩として扱き使ってやるわ』

Aチームをレイシフト可能とした甲斐がありました

 

 とはいえ、冷凍措置後の彼らの活動は事実上ビーストの配下としてカルデア業務を放棄していたように見えると、彼らは自ら隠蔽してくれと言い出したのはマリスも驚愕した。マリスビリーが選別したAチームという看板に惑わされたが、彼らはカルデアの一員として選ばれた素晴らしい中身だった。

 

「バアルさんは、素晴らしい最期でした」

 

 バアルは藤丸立香に勝利したが、カルデアに敗北した。全力で勝負したバアルは満足げに藤丸に勝鬨を上げ、そのまま滅びた。死は人生のピリオドだ。最高の死を見て、マリスの魂が羨望で軋んだ。

 

「魔神柱でカルデアに挑む覚悟を決めたのはバアルだけ。オルガストーンは劣化したオルガマリーの一部。その戦闘分野全てが消滅した以上、残るオルガストーンは文字通り肉塊そのもの。わくわくしますねぇ」

 

 戦闘を放棄した魔神柱は何を目指すのか。魂の奥底に眠る本質をどのような形で曝け出すのか。『生』で見る景色は余りに甘美だった。この報酬はカルデアに還元しないとならない。

 

 居ても立っても居られなくなったマリスは談話室を飛び出して腹ばいになった。腹痛に呻くマリスを起こしたのは、たまたま歩いていた黒髭だった。

 

「あらーマリスちゃん。誰もいない談話室で何を。いや誰もいないのは珍しいでござるなほんとに」

「下劣…外道…陳宮!閃きました!!」

「いま拙者から最低な連想しませんでした?」

 

 マリスは止まらない。黒髭を馬にして管制室に乗り込み、ケーキを貪るロマニの前に座った。嫌な予感にロマニはソロモンスマイルで首を振った。

 

「ダメだよ(先行入力)」

魔術髄液(コレ)、陳宮さんの掎角一陣の弾として使えないでしょうか」

 

 魔術髄液の成分サンプルを見せながらマリスはドヤ顔で提案した。

 

「超小型の魔術回路超加速器で味方を一時的に超強化し、超攻撃力とともに超臨界させる陳宮さんの宝具。そして魔術髄液は魔術回路を擬似的に体内に構築する霊薬。さらにサンプルに新宿の髄液(ヤク)をキメて瞬間的魔術師(マッシュルーム)になった住民がいっぱいあってな猫ちゃん!…ロマニさん!」

 

 マリスはアサシンエミヤの宝具発動を真似た。指先にいた黒髭が察して霊基を再臨させて決めポーズを取る。マリスが親指を地面に向ければ、黒髭は器用に頭を爆発させて霊基を戻した。

 

「命名、天国への片道切符(ヘルズ・クーポン)。素晴らしいと」

「マリスちゃん」

「はい」

「流石にそれはダメだよ」

「(ㆀ˘・з・˘)」

 

 ロマニの嗜めにマリスはぶー垂れた。しかし、その顔は嬉しげである。構ってもらうために悪どい意見を口にするのはマリスの癖だった。サーヴァント達に自らの失敗談をインタビューするのを職員達が止めたのは1度や2度ではない。

 

 ロマニにトイレ掃除を命じられたマリスはるんるんと部屋を出た。掃除用具の鍵を回しながら廊下を歩く彼女の足がぱたりと止まる。目の前にパイプを咥えたホームズがいたからだった。

 

「驚いたよ。まさか君がノコノコと此処に現れるとは」

「わたしの製造目的から外れてませんよー?」

 

 マリスの言葉に嘘はない。マリスは間違いなくオルガマリーの栄光の礎のために生誕した。オルガマリーの手を離れたカルデアをサポートする。目的を完遂する。

 

 善因には善果を。悪因には悪果を。正しいことはいつだってスッキリする。

 

「進捗はー?」

「…。…今はまだ語るべき時ではない」

「便利な言葉ですよね。無能は従えって言い換えても違いなさそうです」

「それなら私はとうの昔にワトソンに見捨てられてたさ」

 

 ホームズの言葉をマリスは聞き捨てた。結局はマリスに説明しないならば、問いかけに意味は無い。熱の無い言葉にマリスは興味は持てない。そんな時間は存在しない。

 

「まあ、別に。わたしはわたしで機能を稼働するだけ。貴方を縛ることは決してしません。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…」

()()()()()()()()()。貴方の類稀な頭脳がカルデアに貢献さえすれば何をしようともご自由に。わたしは正義を歩む貴方を信じています」

 

 偶然か、それとも必然か。

 何のセキュリティも存在しない会話を聞き取る存在は、何処にも存在しなかった。

 

「悪い存在は無様に失敗するべきなのだと、わたしは思ってますよ」

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