食事も終わり、会議が再開される。
ゴルドルフは横にいるオルガマリーをチラ見した。アンナマリーは喜んであの
「…」
あっ違うカプサイシンの蠕動運動に耐えているだけだ。
「…ちょっとトイレ休憩を」
「だいじょうぶです」
「私が!トイレ休憩をしたいのだ!具体的には20分くらい!」
「どうぞ」
「護衛役の君がいないと私の安全が損なわれるわ!」
無理矢理にオルガマリーを抱えてトイレまで駆け込んで多目的トイレに放り込む。肩に飛び乗ったコヤンにゴルドルフはひどくびびったが、ため息を吐いて受け入れた。
彼女のビーストとしての本音は戦闘中に聞き取れたが、あまり同情できるモノでは無い。ツングースカ大爆発により発生した自然霊から誕生し、人間の憎しみはそこから生まれたと当人は語ったが、果たして何処まで本当なのか。
人類悪は人類愛。だが、その生誕の本質は人類が核となる。動物霊が寄り集まって正常に人類に愛憎するとはゴルドルフは信じていない。ツングースカ大爆発は遊牧民の
核はおそらく母国嫌いの小娘だと、ゴルドルフは結論した。
「ある意味では、憐れなのかもしれんな」
「…はぁ?種馬風情が何を知ったような口を」
思い返したように言葉を話すのやめて欲しい。
「なあに。牙を剥くなら私を先にしろという話だ」
「虎の尾を踏む愚行は致しかねますが?」
「他よりはマシだぞ?無関係な他人を殺戮して失敗するより、余程納得して終われる」
人間は愚かで浅ましく、何よりも嫉妬深いのだから。
コヤンは何かを口にしようとしたが、幾分か復調したオルガマリーが戻ったのを見て可愛らしい子兎のロールを再開した。この1ヶ月で大分調教されてしまっている。…ように見えるが、ゴルドルフの節穴では中身を見渡すことは出来ない。
「怖い怖い」
ゴルドルフは飄々と部屋に戻った。ある種の開き直りだ。見下しも叱咤も山のようにゴルドルフは浴びせられて育った。才能のある奴らは必ず無才に対してナニカを強要する。自分が成し遂げられない事実を誤魔化したいのかと、ゴルドルフは最近感じるようになった。
「待たせたな。さて、始めるとするか」
サーヴァント。ビースト。力を持つ存在は酷く窮屈だ。自分勝手に暴れているように見えて、結局は他者を求めて苦しんでいる。女ひとりを捕まえる方が余程素晴らしい人生を送れるだろうに。
少なくとも、目の前の2人は我が人生の参考にしたいと、ゴルドルフは信じている。
⭐︎★⭐︎★⭐︎★
藤丸がレイシフトしたアガルタは、1人の王によって支配された国だった。
治世としては安定していて、奴隷や山賊がそれなりに存在し、傭兵が鎬を削る。よくある中世文化の国だ。藤丸は取り敢えず持ち前の度胸と交渉力で傭兵ギルド(国営だった)に参入した後、高額賞金首となっていたシェヘラザードを捕まえた。
オルガマリーは首を傾げた。
「何で?」
「食費が高かったから…」
食文化が現代基準なのに作物が中世基準だった。そのために豊作と思われる土地柄なのにやたらと食材の費用が高い結果となり、経済がインフレを起こしていたのだ。
新たに増設されたロマニ印の魔術刻印は藤丸自身の魔力を使用する。藤丸は取り敢えず睡眠中にアサシンを顕現して街中の安全確認を行いつつ、アストルフォとデオンに路銀を稼がせて調査をしていた。ゴルドルフには語れないがAチームと合流する意図もあった。
そんな最中、シェヘラザードは白旗を振りながら土下座してカルデアに命乞いをしてきた。褐色ムチムチ薄着美女の土下座に藤丸の背中が冷たくなった。物理的に視線で殺されると直感したのは、初めての…いやカルナがいた…ことだった。
「シェヘラザードは自分が魔神柱フェニクスの手でアガルタに召喚されたと言ってました」
シェヘラザードによれば、初めのアガルタは群雄割拠する女王たちとその部下によって、地下世界に引き込まれた男性たちが支配されたディストピアだったらしい。
終局特異点から逃れた魔神柱フェニクスによって形成された亜種特異点はシェヘラザードの宝具である『
死を与える男性に対する恐怖心が女性が男性を虐げる女性優位の社会になっているのは一側面に過ぎず、その本質はシェヘラザード自身が生前身をもって体験した『凶王が民を苦しめ続ける世界』。
しかし、シェヘラザードもフェニクスも死を恐れるあまりに基盤を強化しすぎた。オルガストーンを用いて進化した宝具は正しくシェヘラザードの世界を反映した。世界のために狂王が呼び出されたのだ。
ペルシャの伝承に語られし蛇王の異名を持つ暴君にして怪物『ザッハーク』。
元々はアラビアの王子だったが、ある時悪霊に唆されて契約を結び、父王を殺して王位を簒奪した末に国を乗っ取り、千年もの間独裁者としてイランに君臨した暴君。それが、役割を得て顕現した。
凶王として召喚された彼は当然のようにフェニクスを蹂躙し、
そして、そのおかげでシェヘラザードは悠々と逃げ延びることに成功した。
『なんだ…何だコレは!!
ザッハークがその身に受けた呪いは、両肩の蛇に毎日2人の人間の脳味噌を喰らわせて養うこと。劣化したとはいえ魔神柱とアンナマリーの無限を喰らったザッハークは、神が求める贄の量に到達することに成功した。
決して呪いが解けたわけでは無い。あくまでもザッハークの口が蛇の胃から外されただけだ。しかし、その衝撃は彼の狂った思考を是正するのに十分だった。蛇の支配権を手中にしたザッハークは、喜びのままにシェヘラザード達の拠点を破壊した。
忘我となったザッハークは崩壊したシェヘラザードの拠点を彷徨い歩いた。否、本能的に焦がれていたものを求めてある場所に向かっていた。満たされた感覚を得ても尚足りない執念の欲望。
崩壊した厨房にて、ザッハークは瓦礫に押しつぶされた食糧庫に転がっていた林檎を手に取った。泥と砂が混じった皮に怯みもせずにザッハークは齧り付いた。砂の味。苦い味。果物の甘味。みずみずしい甘美な味。
『…美味い』
アガルタ王ザッハークの誕生だった。
「ザッハークさんは案の定圧政に走りました。先輩達はレジスタンスに合流し、先輩お得意の交渉術をもってレジスタンスを掌握。オフェリアさんとアシュヴァッターマンさんの助力を得てザッハークを撃破したのです」
「オフェリア?何でAチームの名前が?」
「あっ」
あって…ええ…。
誤魔化すのは受け入れてるんだからもう少し腹芸をやって欲しいとゴルドルフは思ったが、横にいる婚約者も大概なので黙ることにした。
「オフェリアはレイシフト不可能だと聞いていますが、何故彼女がアガルタに?」
しかし、彼の気遣いを無視してオルガマリーはマシュに問いかけた。自分が別組織から来た人間だという設定を忘れているらしい。
「あっ。ええ、えおええとその」
「現地サーヴァントの神霊スルトがオフェリアさんを依代に顕現したんですよ。孔明やイシュタルみたいな擬似サーヴァントとして。ね、マシュ」
「は、はい!オフェリアさんとは友人なのでどうしてもスルトさんの名前を誤ってしまいまして…」
確かに渡された資料ではオルガマリー並みに生き恥フォーム…というか魔法少女チックなオフェリアがレーヴァテインをザッハークに振り回していた。あの出力は確かにサーヴァント霊基のものだ。現代魔術師には到底実現出来ない壁を軽々と超えている。
筈なんだけどなぁ。多分、これ本人なんだろうなぁ。
「ならばよろしい。それにしてもなんだね、えらくあっさりと解決しているな」
「まあ互いに立場が悪かっただけですし。ノーサイドの精神で話はつけてます」
ゴルドルフが咳き込んだ。
「…いるの?」
「別にザッハークの
バーサーカー星5ザッハーク。
自主的に食料調達を行う違法レイシフト常習犯である。