なんだかんだでザッハークを倒し、3体目の魔神柱の亜種特異点の話へ進む。
負けても構わない上に欲求が満たされたザッハークとカルデアチームでは強さの質が異なった。当然の結果にオルガマリーは頷き、自分の廃棄物が変なことに使われている事実に気分が落ち込んだ。
魔術的に価値があったことは理解している。だが、勝手に回収された爪の垢や抜け毛などを核兵器や原子力発電に使用されていたら落ち込むのは当然だと思う。
「次の特異点はセラフィックスでしたね」
「はい。魔神柱ゼパルがそこに潜伏していました」
海洋油田基地セラフィックス。
アニムスフィアが所有する、北海に設置された油田基地。100名以上のスタッフが昼夜問わず常勤しているカルデア運営の予算に関わる資金源のひとつ。
資金源のひとつ(半ギレ)。
だった!畜生!!
今は油田すら消失して何ひとつ存在しない。機材も資材も何もかもが無かったことになり、アニムスフィアの借金返済における穏便な解決方法のひとつが消失したことになる。
ふざけないでよ…!魔術抜きでも
刻むでしょう…!普通…!せめて億単位から…!!
ある意味でゼパルは最も
「(ギリギリギリ…)」
「ザビエルさん、どうしたの?」
「無駄金が費やされたことにイライラしているだけだ。話を続けてくれたまえ」
とうとうオルガマリーを気にしないことにしたゴルドルフが話を促す。マシュは困惑しながらも、頷いて話を進め始めた。
「その上、同時期にドクターも魔神柱ラウムにより先立ってセイレムへ強制レイシフトをされてしまい、カルデアは一時的に混乱。助太刀にこられた月の支配者違法上級AIのBBさんの助力を得て、先輩は無事に未来へのレイシフトを成功させました」
オルガマリーはセイレムのレイシフト日を見た。セラフィックスの3ヶ月後の日付だった。およそ1シーズンのサバイバルに、オルガマリー達は気の毒な表情でロマニを思い浮かべた。
「彼には特別手当を出さないといけないですね」
「大丈夫です。その期間は休職となることに内内で決まりました」
「拉致被害者に厳しいなあ!?」
マシュの声は冷たかった。藤丸達がレイシフトをして探し当てた際のロマニは褐色巨乳美女といちゃいちゃ新婚生活を送っていたからだった。後に新婚期間と称されることになるそれは、今でもマシュの逆鱗である。
「早々に降伏と隷属及び助命を嘆願したゼパルによると、人間の可能性への期待を命題にアニムスフィアで燻っていた魔術師達と共に人体実験を行っていたようです」
「三下ぁ」
「ゼパルが拝領したオルガストーンはアンナマリーさんの割合が高かったらしく、色々と都合が良かったと自白していました」
実験体はセラフィックスにいた一般職員だった。アンナマリーが行った平行世界の転移を元に別世界の情報を抽出、調査、
デミ・サーヴァントのような安定性は微塵も無く、爆速で寿命を減らす代償に欠片程度の力。しかし、彼らは人間であり、人格に難はあれどセラフィックスの管理を担う優秀なエリートだった。
彼らは、
監視の隙を突いてセラフィックスの天球シミュレーター室を改造した実験室に立て籠もった彼らは、肉塊となった職員を生命維持装置らしき何かに保管して、どうしようもない事実を自覚して神頼みの儀式を行った。
生き残りの職員達は魔術を知らなかった。旗印のセラピストは上書きされた知識に従って
結末として、彼らの復讐は成功した。職員をマスターにしたサーヴァントが召喚され、
偶然にも聖杯戦争としての魔力と下地が完成したことにより発生した戦争は、除け者として実験体となった彼らには全くの部外者となれた。マスターに成れない鎧袖一触で処理される彼らは、平身低頭を心掛けるだけで容易くセラフィックスを動き回れた。
サーヴァントにより魔術師達は皆殺しにされ、ゼパルも邪魔な害意あるデカブツとして少なくないダメージを負った。彼らはその隙を狙ってゼパルを討伐し、セラフィックスの支配権を取り返した。
「魔神柱ゼパルは女体化されて《エミヤ》されてました」
「さっきから噛ませ犬扱いだね本当に」
自業自得の末路にゴルドルフは溜飲を下げた。
「ならば、君の仕事は生き残りの救助だったわけかね?」
「いえ。別世界の殺生院キアラが特異点を利用し始めました」
ゼパルを討伐するために、セラピストである殺生院キアラは自身の肉体を利用してゼパルを吸収した。
きっと、ゼパルを取り込んだその時に彼女は正気を失ったと藤丸は判断している。化け物を自らを化け物として認める形で倒す行為に、彼女は耐えきれなかった。道中で回収した彼女の記憶には、ゼパルを
ゼパルが行っていた対オルガマリーの対策。それは生命活動を現実世界から切り離すこと。オルガマリーが如何に強者でも、拳を振るえない場所にゼパルが入れば脅威では無い。ゼパルが進めていたセラフィックスそのものを
サーヴァントを過剰なほど追加召喚し、聖杯戦争の規模を拡大させて終わりを分からなくする。セラフィックスを支配したキアラは更なる力を求めて暴走するサーヴァントを生贄に新たな肉体を構築し始めた。
とうに正気を失っていた仲間もキアラにとっては赤の他人。子機として支配したゼパルを陵辱の誹りに与えつつ、自らの欲望を満たすための新たな肉体は、邪魔がはいることなく順調に進んでいた。
それが失敗したのは、単純に無知ゆえだった。
「キアラは愛欲の
「─なんで?」
自身の欲を追求する代償が人類絶滅だろうが破滅だろうが気にしない。他人の人生を台無しにすることでしか絶頂することができない彼女は、他者を虫同然として道具として扱うことを是としている。
かつては菩薩として崇め奉られたが、それは単に逸脱しすぎた人間性を解脱と見紛われたに過ぎない。狂った人格を以て全ての人間を真に『愛している』と嘯ける人格が彼女の本性だ。
そんな人格がオルガストーンをマトモに扱うことは不可能だった。
オルガマリーにより中和されているが、アンナマリーの本質は願いを足を掬う形で叶える願望機である。嫌いな相手には、と前提はあるが。『人類は自身だけで他人は虫』ならば、『
それを知る機会はキアラに存在しない。本人としては気分よく、実態は醜い化け物に変貌しながら。キアラは欲望のままに悪意を持って人を見下したまま自己改造を行い、違和感に気付いたのは全てが完了する直前だった。
殺生院キアラはありとあらゆる虫に惚れられる女王蟲へと進化していた。
その美しさはありとあらゆる昆虫が魅了され、吐息一つで自由自在に従僕となる。肉体は至る所に産卵管が存在し、優れた雄の仔を無尽蔵に排出する。頭脳は明瞭で人外の域に達した高周波は虫達の安らぎの子守唄だ。
全高10メートル。体長1キロ。体重測定不能。移動能力皆無。自身が想像する最高最強の女王蟲の理想系。他者を手脚とし、自らは優雅に愛欲に耽るための理想の体現。ただし、人間ではなく、キアラと同じように嫌悪される見た目なだけ。
それでも。
それでも、究極完全体ビースト女王蟲キアラは自らを誤魔化してビーストとして覚醒しようと思い込んだ。ビーストの完全覚醒はそれほどに垂涎の力を秘めていた。
「醜い虫に…虫に。…嫌われても
顕現の騒音によりやってきたサーヴァント達を見下しながら、キアラは大量の複眼によって部屋の全てを把握してしまった。
「─」
『要らないモノ』として吐き出された学生時代のキアラボディとなったメス堕ちゼパルの後ろ姿を。
「ガチ切れしてゼパルを殺しにかかってきました」
「だろうね」
ビーストに羽化するはずの殺生院キアラ、全身全霊を懸けた渾身の羽化停止だった。
ビーストキアラ(アンナマリーのすがた):強く、美しく、愛を振り撒き、無限に他者を使い潰せる。ただちょっとフォルムがギーガーリスペクトなだけ。美しい神になれないなら妥協する。なれるなら死んでも妥協しない。ゼパルを取り込んで肉体を再改造する目論見。