マリーの中の寄生虫   作:ややや

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仕事が忙しいため次回の投稿は間延びすると思います。


労働:深海電脳楽土 SE.RA.PH

 BBはムーンセルから派遣されたサーヴァントである。殺生院キアラというビーストが顕現したのを皮切りに対処要員としてメルトリリスとパッションリップと合わせて召喚されたのが、彼女達の経歴である。

 

 セラフィックスは完全に電脳化し、時間の齟齬はどんどん狂っている。128体のサーヴァント達を蹴散らしながら、BB達は指揮官として招いた藤丸と彼に命乞いをしていたゼパルを仲間として殺生院キアラまで最短でたどり着いた。

 

 凡そ1週間の強行軍だったが、悪くない記録だった。BBが傍目から見ている限り、メルトリリスとパッションリップは藤丸に惹かれて─マシュ(恋人)がいる事実にけっこうな脳破壊をされていた。

 

『愛人も─アリだと思わない?』

 

 復活したメルトリリスがパッションリップに呟いた言葉は不穏でしかなかったが、BBには他人事だったので無視した。

 

 藤丸はBBが親愛してやまない岸波白野に似た諦めの悪さを持つ人間だった。彼が突き進むならば、殺生院キアラを倒すのは不可能ではないと思えるほどに。

 

 そして、それは事実だった。藤丸立香はメルトリリスにパッションリップ、現地サーヴァントとして契約したエミヤオルタを指揮して彼女を追い詰めた。神性ダメージが通ったので200ターン以上費やして削り続けたのだ。

 

 失策は、BB達が殺生院キアラを知り尽くしていたこと。ビーストとして再誕した時点で、彼女の人格は蟲の思考が組み込まれていた。気持ちよくなるために生存するのではなく、失わない─死なないために生存する。

 

 勝つために自我を棄てる殺生院キアラを、BB達は予測出来なかった。

 

『ワンチャン!ワンチャンある!多分!まだ俺未婚だしマシュを未亡人にあれ婚約してないから未亡人っていえない戯言をいや死ぬソロモン回路頑張って一応ビースト(時空適性)あるだろうおお!』

 

 唯一無知故に対応出来た藤丸も、半死半生の致命傷を負った。負けると判断した藤丸は一縷の希望に賭けて地道に練習していた魔術を発動させた。レムレム睡眠での強制レイシフト(拉致)を防ぐ為の、単独レイシフト魔術モドキ。

 

『なんとかなれー!!』

 

 圧縮される時空間。増設された神経の材料(アンナマリー)。召喚術の開祖仕込みの回路。対ビーストの抑止力。最後に純粋な幸運が重なって、メルトリリスは未来の記憶をインストールすることに成功した。藤丸は主人公だった。

 

 …後に話を聞いたカルデアチームは胃痛と頭痛を訴えたが。

 

 とにかく。

 

 臨場感に溢れた記憶を妄想と断言出来るほどメルトリリスは愚かではなく、BBが無根拠に信じない理由もなかった。正面から倒せないならば搦手を使うだけ。今まで洗脳を警戒してキアラから遠ざかっていたBBだったが、試しに危険を冒して精密解析を仕掛けたキアラに反応は見られない。

 

 完全なる無反応に、BBは自身の思い込みに対して冷や汗を流した。

 

 解析結果は更に酷い。殺生院キアラのビースト霊基は99%以上が脳以外に反映されていた。その上で脳の大部分は死にかけの人間脳。無意識の魔力により無理矢理回復しているが、永くは保たないとはっきり分かるほど損傷している。

 

 殺生院キアラは祈荒(セラピスト)に寄生している巨大なダニだった。

 

 ならば、話は早い。祈荒を主軸として生きながらえているキアラを殺すには内臓まで混ざり合った肉体を分離すればいい。前回は祈荒の生きる目的だった三馬鹿達を倒してしまったことで不可能だったが、今の祈荒は死んではいない。

 

 分離術式は完成した。BBがメルトリリス達を創り上げた際の術式を応用したものだ。祈荒とキアラを選り分ける基準を見極めればアルターエゴ祈荒とビーストキアラを再誕させることは可能だ。

 

 そのための基準として、BBはキアラのみが知る感情を揺さぶられる存在をピックアップした。

 

 つまり、岸波白野の顕現だ。

 

 ─決してBBが再会を求めているわけではない。

 

 ない。

 

 ないのだ。

 

 そのために、BBは何故かやたらと白野に酷似しているザッビーに彼女の再現を依頼した。BBの内心とは異なり、ザッビーは気にすることもなく頷いた。

 

「別にいいザッビー」

「いいんですか?事実上死ねと言っているようなものですけど…」

「ボスはお間抜けザッビー。毎回毎回毎回毎回死ぬほど指摘してもザッビーを自壊させるセーフティを忘れるザッビー」

 

 ザッビーは唾を吐いた。

 

「し、辛辣ですねー。BBちゃん、ちょっと幻滅しちゃいます」

「ぶっちゃけ可愛さとか訳の分からない理由で語尾にザッビー言いながら(命令を聞きながら)聖杯戦争終結を待つよりさっさとボスの元へ戻りたいんですよね。退去出来るなら多少の融通は利かせます」

「あっはい」

 

 何処かのブリテン島の女王のような声色でザッビーは愚痴をこぼした。如何にギャグ時空なユニヴァースと言えど、自認寄生虫のザッビーは長く独立して生存したくない。設定は命より重いのだ。

 

「それで、この肉体に最も相応しい人格をインストールすれば良いザッビー?」

「そうですそうです。センパイが必要なんですよー。いや別に私が会いたいとかそんな理由じゃないんですけど」

「なんか対象の読み込み(ようりょう)がクソ重いザッビ。今の肉体だとドライブが足りないッビー。追加のザッビーを要求するビー」

 

 BBは固まった。四苦八苦して集めて創り上げたセンパイボディはザッビー500体分である。メルトリリスから知らされた殺生院が()()()タイミングはあと数日。

 

「…あ、あとどれくらいでしょうか」

「900。天井まできっちり回してもらうザッビー」

 

 BBは全力で思考を加速させた。自身が死ぬ寸前までザッビー捕獲をした場合の総数と、協力している藤丸が今までに納品した数を比較した。藤丸はAPも概念礼装も完凸していた。金リンゴの無いBBでは比較にならない差があった。

 

 しかし、彼に助けを乞うのはつまり、メルトリリスに土下座を見せるということ。商売上手なザッビーはインストール中の人格データを部分展開して再生した。

 

 岸波白野は静かに涙を流し、BBはその顔に愕然とした。

 

「そっか。BBは岸波白野(わたし)に会いたくないんだ」

 

 BBはメルトリリスが閉口するほどの美しさで藤丸に土下座した。

 

 ⭐︎★⭐︎★⭐︎★

 

 いい男は星の数ほど居ても、掴み取る手はそれ以上に存在する。

 

 メルトリリスが懸想をした藤丸立香には既に女が存在した。彼女のために藤丸は奇跡を起こして、そして死んだ。未来だからといってそれは覆せない。メルトリリスが恋した藤丸立香はあの時点で世界ごと死んだ。

 

 いい男だった。

 

 それはそれとしてメルトリリスは新たに藤丸立香に恋焦がれた。同一人物がメルトリリスの違和感に即座に気付くイケ魂を引き継ぐのだから当然である。藤丸が召喚したコロンブスの指揮下でザッビーを連行する雑用にもウキウキしてしまう。

 

 今のうちに魔力供給と称して《エミヤ》しようかしら…?

 

「流石に相棒の貞操を狙うのはチクらせて貰うぜ、嬢ちゃん」

「何の話かしら(すっとぼけ)」

 

 パッションリップ達がいる中でムードのない行為などするつもりはない。藤丸が性欲を爆発させたなら話は別であるが。キアラの魅了で暴走した際にはメルトリリスは一肌脱ぐ覚悟がある。

 

「それにしてもよ」

 

 ザッビーを籠に背負いながらコロンブスは首を傾げた。

 

「サーヴァント召喚は一応大魔術なんだよな?カルデアを経由しねぇで召喚するのが俺でよかったのか?強さだけならもっと良い連中が居ただろうに」

 

 対ビーストとしてピックアップするには強さが足りていないとコロンブス自身が理解している。当然の疑問を、藤丸は苦笑いしながら否定した。

 

「ザッビーを回収するのに1番相応しかったし…」

「おいおい!俺は奴隷商人の水兵かよ」

「はは。でも、それを抜いてもコロンブスが適任だと思ってるよ。ビーストの」

「ほーう。何故だ?」

「『恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は、恋の前では無力になる』。コロンブスは全部勝ったじゃないか」

 

 貴族の女房を妻に迎えて現実を折り曲げた男がコロンブスだ。

 

「よくわからないけど、美しさで魅了する敵ならコロンブスは耐えられるはず!ダメだった時は心置きなく後ろから撃てる!万事よし!」

「人間コンパスかよ…まあ、それなら俺は負けねえか」

 

 コロンブスは不敵に笑った。コロンブスは敬虔で愛深い男である。酸いも甘いも噛み分けた彼が中身の無い女に負けるなら、それはコロンブスではあり得ない。

 

「おっと」

「いたいザッビ」

 

 ザッビーを籠に入れる際に藤丸の左腕が痙攣した。3度目の不調にコロンブスが怪訝な顔で藤丸の腕を掴んだ。細かな手術跡があれど、鍛えられた腕だ。魔術師の真髄を知り尽くしていない彼には、何が不調なのかを理解することは出来なかった。

 

あのボンクラ(ロマニ)が造った神経だったか?…大丈夫なのか?」

()()()まではあと数年かかるみたい」

「本当かぁ?神経が腐る結果にならなきゃ良いけどな」

 

 コロンブスが胡乱げに呟く。治験もしていない大魔術を埋め込んだ神経がまともに動くのを彼は信じきれていない。ロマニは罪を重ねすぎていた。

 

「後遺症とか出るだろ…絶対」

「レイシフト率が下がるみたいだよ。まあ数%程度らしいけど」

 

 外付けの魔術回路は奇跡でも無い限り遺伝しない。特別を体内に取り入れた藤丸は徐々に肉体がありふれたものから外れていく。それは、藤丸立香のレイシフト率が魔術師程度まで低下することと同義だった。

 

 カルデアが渡した新たな力は、強制的に拉致された藤丸への詫びであり、今後の活動を阻害しない為の手段を併用したカルデアからの退職金だった。

 

「ほーん。まあ、相棒は野望者(船乗り)でもねぇしな。これからの人生に問題はねぇか」

「一応専門学校通ってからパン屋を開くつもり。偶にはみんなを召喚するよ」

「護衛がてら?」

「護衛がてら」

 

 藤丸とコロンブスは悪びれた顔で笑い合った。メルトリリスが戦慄した顔で藤丸を見ていたことに、彼らは気付かなかった。

 

「あと10年もすればレイシフト率は人並みに下がるかもしれないって。まあ、カルデアじゃなきゃ無用の体質だからね。会えなくなる訳でもないし」

(特別)を、失うのが怖くないの…?」

 

 メルトリリスは揺らいだ声で質問した。

 

他者(サーヴァント)に力を委ねて、自分が弱くなるだけなのに」

「藤丸立香を特別だと信じてくれる人がいる」

 

 藤丸の顔を見て、メルトリリスは泣きたくなるような衝動に焦がれた。彼女の根幹にいる女神の成分が殺してでも奪えと警告する。激情をメルトリリスは右手で押さえ込んだ。感覚が鈍い掌が痛いと感じるのは初めてだった。

 

「その人の力になれるなら、俺はどんな特別も差し出すよ」

 

 ここすきが爆発したメルトリリスは、思わず藤丸に見惚れてしまった。

 

「…ジュルッ」

「…嬢ちゃん」

「…大丈夫よ、ダイジョウブ」

「ダメだからな?お前さんがやらかしたら俺がマシュにドヤされちまうからヨォ。頼むぜ、なぁ。マジで、《エミヤ》で死ぬ相棒は見たくねぇからな!?」

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