「
アンナマリーの燦然とした声に、カルデアで凍結されていた7人が目を覚ます。レフによって爆破された肉体は何の支障も無く復元され、全員が豪奢な椅子に座ってアンナマリーに相対している。
貴公子然とした金髪の男、キリシュタリア・ヴォーダイム。
銀灰色の髪に卑屈な表情を宿す男、カドック・ゼムルプス。
震えながらも毅然に姿勢を正す女、オフェリア・ファムルソローネ。
無関心にあたりを見渡す女、芥ヒナコ。
面白げに笑みを浮かべたまま茶化す男、スカンジナビア・ペペロンチーノ。
オールバックの眼鏡の奥に潜む眼光が妖しい男、ベリル・ガット。
現実に現れた孔のような男、デイビット・ゼム・ヴォイド。
全員が特異点を修復出来る能力を持つ者であり、肉体の無いアンナマリーがオルガマリーの肉盾として準備していた『予備機』である。オルガマリーに却下されたので何もしていなかったが、使えないならば利用しても構わないだろう。
「キリシュタリア、デイビット、芥は知っているか。オルガマリーの使い魔をしているアンナマリーだ。故あって今は『異星の神』をしている」
「無駄話か?」
いち早く現状を理解したデイビットは立ち上がった。
「オレとおまえは奴の敵だ。了承は不要と思うが」
「ふむ」
無礼とも言える命令に、アンナマリーは気にすることもなく頷いた。
「確かに、ワタシの中に解答は無い。白の部屋に行け。資料はそこにある」
「わかった」
デイビットは躊躇うことなく『白』と書かれた扉に入った。少しして、キリシュタリアが息を吐いて肘と膝を付け、前屈みとなった。
「アンナマリー。私達を蘇生してくれたことに感謝する。オルガマリーの治癒魔術が優秀なのは理解していたが、君も卓越していたとは」
「この世界は魔力で力技が成せる。この住民は堪え性がない。魔力の捻出には苦労しなかった」
「目的は人理修復の追加人材か?」
カドックの問いにアンナマリーは首を振った。
「貴様達の身体はまだレフっている。爆弾の除去に手こずっていてな、人理修復には間に合わない」
「…身体は無事に見えるが」
「ここは、ワタシの脳内だ。高さ50メートル。体重は秘密。右の眼球内で魂だけで会話しているのが、今の貴様らだ」
カドックは立ち上がって窓ガラス…角膜の外を見た。外には大量のビル街に光り輝く夜景、巨大な重機がごたごたに屯していた。
「魂からの肉体の再生には時間が─」
轟音。
振動と共に部屋が斜めに傾く。角膜に寄りかかったカドックは重機が巨大なオルガマリーらしき肉体を解体しているのを確認した。血と神経組織を切り開く光景は寄生虫のようだ。
アンナマリーは面倒くさそうにため息を吐いた。
「ここ最近は物入りなのか…?これ以上『肥って』しまうとオルガマリーに叱られてしまう…神秘は隠すべき…宇宙人理論で許して…」
「お、おい、これは攻撃されてるのか?」
「問題ない。ワタシに物理的な限界はない。困惑はしているが」
下半身を解体された状態でアンナマリーは手元にある電話で誰かに連絡した。ハンズフリーの電話から響くのは採掘現場のような重機を動かす音。それがアンナマリーの右脚を運んでいることを理解したのは、ベリルとペペロンチーノだけだった。
「作業中にすまない。ああ、遊んでいてな。『垢取り』は脚部だけに─そうか、それなら問題ない。ああ、序でに
他のAチームも何をされているのかを理解したが、止めることが出来ない。アンナマリーと相手のやり取りは茶飲み友達がやり取りする口調で、互いの声に悪意は存在しない。芥に至っては口を開いたまま呆然としているように見えた。
「さて、話が途中だったな。貴様達にはワタシのダイエットを考えてもらいたい」
ダイエット。食事のコントロールと適度な運動で健康的に適正体重を目指すこと。許容範囲を超えた肉体は健康を破壊して自滅する。してしまう。だが、何事にも例外が存在する。
「ワタシの生態として、与えられた分だけ増える機能がある。つまり、食事の分だけ太る。無限大に
アンナマリーは頭が悪いことを自覚している。使われることこそ己の本質で、それ故に適切に使い潰していたオルガマリーを愛している。
「オルガマリーはワタシを打倒した。『浪費』に打ち勝った。
時代か。業か。宗教か。人外か。陰謀論か。生態か。
アンナマリーには判別出来ない。理解出来ない。アンナマリーの感覚では彼らは彼女を丁重に持て成していることに間違いは無い。だが、アンナマリーの中にあるイマジナリーオルガマリーは顔を見ろと指摘する。確かに、持て成す男は土気色をしていた。マイナスの顔だ。
続くはずの大人気小説が絶筆するような、常識がズレるような、言葉に表せないナニか。カルデアス人類は何かに押されるように死を目指している。言葉は通じたはずなのに齟齬が発生している。何故、
違和感。それをアンナマリーは感じ取っている。
取り敢えず頭にはアルミホイルを着けた。これで思考にいるAチームは察知されないだろう。コオロギ大帝には負けるつもりはない。足りなければ足せばいい。オルガマリーは頭が良いのだ。
オルガマリーは分からないなら恥をかけと言った。少しでも誰かの役に立てばチャラになると笑っていた。功績を評価されないのに、前に進める彼女。肉体を持って、ワタシは漸くその素晴らしさを学んだ。
世界くらいは、救ってみたいと思えるほどに。
「自滅するカルデアス人類を救うのが、貴様達の
ワタシは
⭐︎★⭐︎★⭐︎★
『ちょっとAチームをオルガマリーの為に借りていきます。
人理修復後には返せると信じています。
かしこ。
アンナマリーより』
「しょ、所長!自殺はダメですって!」
「放しなさいロマニィ!あの馬鹿にはいっぺん痛い目に合わせないとダメなのよ!!」
「うーん。これは…どうしよっか♪」
「止めましょうよ!マシュ、お願いできる!?」
「マ、マシュ・キリエライト吶喊します!」