マリーの中の寄生虫   作:ややや

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懺悔:深海電脳楽土 SE.RA.PH

 ゼパルにとって、オルガマリーは武力に特化したお人好しの魔術師の皮を被った化物である。

 

 その姿は組織の長として厳格を保つように努力した姿であり、彼女の責任を持たない立場では緩く甘い子供のような人格を保持している。強いだけの駄々っ子がゼパルが出した評価であり、それに差配されるカルデアも、ゼパルから見れば非常に無駄が多い組織だと思えた。

 

 しかし、無駄は進化の可能性だ。ゲーティアだった時のゼパルはそれを看過できずに人類を否定し、節穴ゆえに破れた。寿命は意志の強さだと、ゼパルは敗走したことで実感した。必死という言葉の真意を学んだバアルは文字通り全霊をかけてカルデアに勝利した。死は敗北ではないことをゼパルは学んだ。

 

 ゼパルは、人間を同類として共に実験を開始した。

 

 藤丸達は怒っていたが、ゼパルは本気で魔術師達を同志として尊重したし、魔術師達もゼパルを同胞として仲良く邁進していた。多少の倫理観を無視したのは事実だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()をリスクとして看過するのは当然だと判断していた。少なくとも、彼らとの実験の成果は数少ない検体の犠牲と比較しても破格なほどに得たと断言出来る。

 

 研究成果は荼毘に消えたが。

 

 逆襲や報復は考慮していたし、負けたのを恨むつもりは全くない。というより、人間と共同で開発したのだから人間が利用するのは当然の用途である。些か血生臭い派閥争いに負けた側からすれば、成果くらいは流用してほしいと感じただけだった。

 

 正直バアルが敗北した時点でカルデアが来るのは時間の問題だったし…。

 

 ゼパルは既に詰んだ認識だった。ロマニがバアルの残骸あたりからソロモン霊基を部分的に抽出すれば直に魔神柱は呼び出すことは可能だ。諦観から安全面を放棄して運営をした結果が祈荒攻略隊による敗北である。

 

 ゼパルも抵抗して人数を10分の1には追い込んだが、顔を真っ赤にした祈荒が使用した《エミヤ》宝具によりゼパルは《エミヤ》に《エミヤ》された。おまけに霊基に侵食されたキアラにより《エミヤ》や《エミヤ》や《エミヤ》までされてしまう始末だ。

 

 人間の性癖は際限がないとゼパルは身をもって知った。

 

 性自認が雌となったゼパルはちょっと精神が脆くなりながらも媚び諂って生き延びた。キアラのビースト完全体を観たかったのと、カルデアがどのように対処するかを冥土の土産に知りたかったからだ。

 

 生命を棄てた物見遊山は、ゼパルの価値観を大きく変化させた。

 

 魔神柱の形態ではただ辺りをうろちょろと逃げ回るだけだと思っていたが、藤丸は思った以上に戦闘に貢献していた。そうでなければ128のサーヴァントによるバトルロワイヤルを優勝出来ない。

 

 真名を把握した上で出身文化特有の拘りや癖を気分良く利用し、敗退させる。気分良くが恐ろしいところだ。欲を持って参加したはずの英霊が納得して死を選ぶ。公平感を与えた理不尽。

 

 バアルが呼び出したモリアーティが戦慄するのも理解出来る。藤丸が悪に染まれば、奴は容易く稀代の詐欺師に名を連ねるだろう。罪に問われない最も最高な方法は、被害者が被害を訴えないこと。

 

 のらりくらりと聖杯戦争を勝ち進む彼は、ついぞ殺生院キアラに危険視されずに目の前に立つことに成功した。

 

「ワコウドウジン、シンニョハラミツ。ジヒデス、タワムレトイタシマショウ」

「聞き取り難い!」

 

 アーアーアアーアー(例のBGM)

 

 あらゆる悪意を包み込む菩薩の掌も、蜚蠊の触腕では握ることすら出来ない。人間は自分のモノという過剰な自我が、同類を支配する妨げと成り果てる。

 

 人間と混ざって良かったとゼパルは思った。

 

「殺生院キアラは昆虫が進化した世界線で生まれたビーストだ。対人ではなく、対魔獣を意識した方が良い」

「確か…いやなんでそんなもん混ぜようとしたの?」

「チガイマスケド?」

 

 ゼパルは首を傾げた。

 

「人類が生物的に抱えている孤独に対する脆弱性を補強するための実験だぞ?自我が希薄な昆虫人以下の社会性を持つ人類などいるわけないだろう。おそらく、素体の自意識に引っ張られたために自意識が混濁した結果だ」

「コロシマス」

 

 何故かバチギレしたキアラにより戦闘が開始される。

 

 人類(むしけら)を叩き殺すほどに進化した新人類だと褒めたつもりだったが、何かやらかしたらしい。

 

 多数の触腕に百足の如き甲殻、その頂点で歪に埋め込まれた人型の上半身。触角のようにはみ出した人型は女性らしい肉感をしていたが、蟻と素体(キアラ)の混じり合った顔は不気味さが主張する。

 

 エミヤオルタは、キアラを見て醜悪に嘲笑した。

 

「随分と中身らしい肉体になったじゃないか」

 

 3時間の戦闘。暴風のような触腕の嵐を掻い潜り、関節から噴き出す毒霧を藤丸が庇いつつ的確に甲殻の隙間をこじ開ける。正気ではない。サーヴァントよりも高い毒耐性を持つからといって盾役となるなど!

 

無限の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)

 

 藤丸はエミヤオルタを主軸に胸部の甲殻を割り砕いた。キアラの肉体からぼだぼだとこぼれ落ちたのは内臓ではなく、半ば溶解された人間とサーヴァントの死体だった。悍ましい臭気に藤丸達が後退する中、キアラは自らの頭部を引きちぎって再生させた。

 

 BB達の良く知る、殺生院キアラの顔が露わとなった。

 

「アーアーアアーアー。あー。うふふ。これならばあなた方にも」

「うわっいきなりショタを襲いそうな声になった」

「ちょっと?─ぷぎゃ!?」

 

 藤丸の戯言に反応したキアラの鼻筋にエミヤオルタの投影がヒットした。エミヤオルタの投影は一般的な魔術とは異なり宝具すら複製する。顔面に壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)を喰らったキアラは蟲体の身体でタタラを踏んで盛大に尻餅をついた。

 

 美しさのために本体の防御力を犠牲にするのは素体の意思だろうか。ビーストならば人間体を別途に用意すれば問題ないだろうに、なぜそこまで本体の美しさに固執するのか。

 

 理解出来ない所感を浮かべながら、ゼパルは藤丸に情報を渡した。

 

「素体マーブルの声帯だ。聖杯戦争に敗退したサーヴァントだけではなく、あらゆる死体を無差別に貪って利用する自己愛のビースト。奴を倒すには奴の愛を否定し尽くさねばならない!」

「なるほど!」

「なるほどではないのですけれど!?」

 

 冷静に広範囲攻撃を乱射されても困るためなのか、メルトリリスが濃縮毒を拵える間に藤丸の適当な挑発がキアラに浴びせられる。まんまと引っ掛かったキアラは天井近くに無数の魔術陣を作り上げ、雷のような神通力を放った。

 

 随分と劣化した神通力を使っているとゼパルは思った。

 

 ダキニ天は確かに力を授ける存在だが、今のキアラでは事情が異なる。ダキニ天の逸話には悪魔とされたものがある。倉稲魂(ウカノミタマ)の神名を仮りた偽神としての伝承だ。人間が神通力を使用するならともかく、キアラが利用すれば逸話再現によりその力は偽物(劣化品)と成り果てる。

 

 一般的な対軍宝具程度には。

 

 側にいるコロンブスは神通力を無視してキアラの内臓に大砲を打ち込む。爆破と血飛沫がキアラの肉体に降り注ぐが、神通力は止まらない。メルトリリスの叫び声が響く中、エミヤオルタとコロンブスだけが冷静に攻撃に注視していた。

 

「ふんっ!」

「えっ」

 

 えっ。

 

 …………えっ?

 

 いや、まって。今すり抜けたのか!?信じられない現象を見たのだが!?

 

「ふふ。これぞ藤丸魔術奥義『スーパーレイシフト回避術』」

「スーパーレイシフト回避術!?」

「観測結果を意図的に遅延することにより一瞬だけ無敵となる究極の回避術!ギルガメッシュ王すら気持ち悪いと言わしめたこの技を破れるものか!」

 

 こいつ本当に在野にいた一般人か???

 

 ソロモン王の回路に適合したことといい、実はソロモンの血を継いでいるのではないのか?おまえ自分が一瞬世界から消失した現象の価値を理解出来るか??仮にもビーストの残滓である魔神柱が知覚できない魔術とか何で創り出せてるの???

 

「そんなイかれた魔術なんて物量で─連発するのはやめなさい!嘘でしょう!?」

「発動は一瞬!つまり魔力消費も一瞬!二世も泣いて喜んでたし!魔術って凄いし奥深い!ゲーティアを参考にしたけど劣化再現にしかならなかったよ!」

 

 それ目の前で言ったらゲーティアがぶん殴りにくるぞ!

 

 ⭐︎★⭐︎★⭐︎★

 

 戦闘は26時間に及んだ。

 

 戦いは千日手だったが、藤丸立香は人間である。

 

 結論から語れば、恥を捨てた殺生院キアラに藤丸立香は敗れた。

 

 決して目がない勝負ではなかった。藤丸が持ち得る内容は十分だった。特異な魔術。自身の毒耐性。BBが作成した魅了耐性の魔術礼装。サーヴァントの指揮能力。ビーストとして羽化したキアラすら驚愕するほどの恐ろしいほどの胆力と判断力は、藤丸の左腕を対価に彼女をあと一歩まで追い詰めた。

 

 足りなかったのは、サーヴァントの攻撃力。

 

 BBが融通した魔力の貯蓄を食い尽くすほど、キアラの肉体は生存能力に優れていた。人間を諦める意思決定が、キアラのビーストの規格を人類の枠から外してしまった。知性を半ば捨てた顕現は、戦闘に限ればゲーティアに引けを取らない。

 

 BBは裏方。遊撃の死兵と化したエミヤオルタは意思で喰らいつく。コロンブスは小賢しく継戦能力を維持しながら宝具を維持している。ギリギリの生死の狭間で劣っていたのは、ハイサーヴァントとして接戦を知らないパッションリップとメルトリリスの2人で、失策はメルトリリスだった。

 

 誰が失敗してもおかしくはなかった。殺生院キアラは独りで、カルデアは複数だった。致命傷を受けた藤丸は死を目前としても、メルトリリスをいたわりつつ勝利を諦めることはなかった。

 

「なんとかなれー!!」

 

 ゼパルは奇跡を目撃した。

 

 ビーストには時空耐性がある。要は、なくなったはずのあり得ない未来を認識できる。だから、藤丸の奇跡に追従する形でゼパルは未来のゼパルから記憶を受け取ることに成功した。

 

 …やっぱりコイツ絶対ソロモン王の末裔か何かだろ。なんで一般人が魔術師顔負けの大魔術成功させているんだよ。

 

 内心の動揺を無理矢理深呼吸して納めていく。私が見えるだけの絶望から与えられた未来はゼパルには都合の良い中身だった。息が整ったころには、ゼパルの内心は希望で埋められていた。

 

「…これなら、生き延びれるかも知れない」

 

 藤丸は馬鹿だが愚かではない。メルトリリスの言葉を信じてキアラの弱点を探し当てる。苦戦はするだろう。未来の運命に沿って腕を失う可能性も高い。だが、それはゼパルにとっては恩を売るチャンスだ。

 

「怪我、もしくは魔力が不足した際に藤丸立香に我が霊基を譲り渡す。今すぐ乗っ取る必要はない。何百年、複数世代に因子として潜り込み、都合の良い肉体を選べば良い。私はただ、特異点に死ぬまで貢献すれば生き延びれる」

 

 ゼパルは畜生だった。

 

『だいじょうぶ。だいじょうぶ。私の力なら、力なら。貴方達を食べればきっとまた一緒に話が出来ますから。残さずに。残さずに』

『寂しいのです。淋しいのです。本当のお友達は嬉しかった。どんなことでも、奇跡に縋りたいと、私は…わたしは!!」

いただきます

 

 畜生だったから、過去に見逃していた殺生院祈荒の最後を目の当たりにしてしまい。

 

『私の!私のせいで!!ああ!あああ!』

 

 畜生だったから、恋に敗れてなお想い人のために献身を尽くそうと涙を流すメルトリリスを見て、ゼパルは不思議と目を合わせることができなかった。

 

『貴方も、きっと私も…間違えた罪は償わなきゃならない。キアラの討伐に協力しなさい。ゼパル』

『…分かった』

 

 ゼパルは、この時になってようやく、自身の罪を自覚した。




スーパーレイシフト回避術:予知のないキングクリムゾン。復帰は勇気で補っているらしい。キャスター組は絶句し、ロマニは裁判にかけられた。
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