マリーの中の寄生虫   作:ややや

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発見:禁忌降臨庭園 セイレム

 入院を休暇で扱うのは違う気がすると退院した藤丸は思いついた。

 

 藤丸の名ばかりの有休は入院に消えた。人理修復に伴い最近ようやく労基が仕事をし始めたが、サーヴァントの対処は藤丸ではないと難しい。

 

 オルガマリー(〆るひと)ロマニ(諌めるひと)もいないカルデアは藤丸無しでは回らない。謂わば免許持ちのガソリンスタンドの店員である。いざという時に消火器を振る舞うのが藤丸の仕事だ。

 

 マシュとの時間を削られると確信した藤丸はとりあえず無駄にゲームと魔術を教え込むエルメロイ2世を殺すことに決めた。

 

 人権を獲得するためには対価が必要なのだ。

 

 そして、魔術教室の発表会で藤丸が披露した魔術により2世は精神的に死んだ。

 

 藤丸の目論見通り、司馬懿ことライネス、孔明ことエルメロイ2世、そしてメディアが主催していた魔術教室は急遽休講となった。

 

 藤丸の時空間断絶跳躍魔術(スーパーレイシフト回避術)はそれだけやばい代物であり、権利を放棄した藤丸はある意味正解だった。一応マシュが命名した術式名だけは主張したが。

 

 藤丸の認識では所属している会社内で経費を使って開発したソースコードの所有権は会社に帰属するだけという考えだが、カルデア側…正確には時計塔側は違う。

 

 何せ擬似的な時間跳躍魔術である。藤丸の認識では現地→カルデア→現地のレイシフトを繰り返すだけだが、魔術師側の視点から見れば実行中のプログラムでフォルダ移行を行うような暴挙である。魔法が魔術落ちするスレスレの魔術を見過ごすことは出来なかった。

 

 だから買い取る。購入せざるを得ない。幸いにも藤丸は根源に興味はない。言い方は悪いが言い値で買い取れる。それよりも、彼らが頭を抱えたのは買取先だった。

 

 開発:藤丸立香(権利放棄)

 資材:アニムスフィア(権利協議中のカルデア施設)

 協働:エルメロイ(擬似サーヴァント)

 出資:国連

 

 ゴミのような権利関係である。

 

 誰がどこに払えば良いのか分からない。その上、意味消失からの復元という死者蘇生レベルの無法をやらかした術式である。解析結果によっては第二、第三魔法に近付けるのすら目論める術式に、魔術講師側の頭が痛くなってしまった。

 

「自称ソロモンしてた時に若い頃の2世(ウェイバー)から渡された論文からでっち上げた代物だし、魔術協会ならもっと有用に使えるでしょ」

「(声にならない号泣)」

 

 問い詰められた藤丸がさっくり言った言葉に、2世は亡き倒れた。訂正、泣き倒れた。号泣だった。

 

 藤丸は言葉だけでサーヴァントを戦闘不能にした唯一の人類となった。

 

 呼延灼はまだ居なかった。

 

 そんなこんなで暇を作り上げたはずの藤丸だったが、彼の休みはマリスによって台無しとなった。どこから持ち出したのか、豪華な椅子で膝カックンされた藤丸を鎖で雁字搦めにして捕縛したのだ。

 

「マリスの雑談タイムゥーなのです!」

「イヤー!」

 

 藤丸が取り寄せたコミックがバサリと落ちる。ブルマ姿となったマリスの放つ雑談は平均して2時間は止まらない。折角作り上げた余暇が台無しになった結末に、藤丸は甲高い声で叫んだ。

 

 ライネス達が自業自得だと切り捨てる光景だった。

 

 1時間後。

 

 マリスの話は立て板に水を流すような流暢な内容だった。つまり全く教養にならない無駄に聞き取りやすい会話である。井戸端会議のおばさまのほうが余程実のある話をしていると藤丸は考えていた。

 

「それでですね。この世界ではですね、藤丸様。主人公である限り一般人の肩書きは薄っぺらいものとなるんですよ」

「はあ」

 

 藤丸はマリスがまた変なことを言い出したと思った。マリスは陰謀論的な秘密を嬉々として話す悪癖がある。サーヴァントに地雷を踏み抜いて吊るされることもしょっちゅうだ。

 

 先日は半泣きのアタランテに「歴史では子を捨てた伝承が非常に多いですけど、座の記録は不要な情報は削除される仮説を組み立てました!アタランテ様はアルテミス様に操を誓った経歴からして棄てた子供はいるはず!もしかしたら情報自体を切り捨てた可能性があるのではないでしょうか!」と質問して吊るされていた。

 

 死ぬのが怖くないのだろうか。

 

「主人公とは、いわば世界の出資者が使用するカメラです。多数の観客から感情移入されるためには─なるべく画一に、平凡に、さりとて美麗に、便利に。唯一の特別を。エンディングを迎えるための能力を発揮するためのナニカ。『—ここに例外が存在する』という現象です」

「凄く…具体的な…名前だね」

 

 若い頃のエミヤが持っていそうな力である。

 

 ただ、なんとなく分かると藤丸は頷いた。

 

 ゲーティアに対するロマニ(ソロモン)。それを防ぐ盾の乙女(マシュ)の支えとなった藤丸。存在したからこそ発生した奇跡を否定する気にはならない。

 

 でもその場合藤丸の役割はマシュの栄養ドリンクだ。安いのか高いのか些か測りかねる例外である。

 

 マリスは鼻息荒く顔を紅潮させて藤丸にお菓子を食べさせた。栄養と水分はきっちり賄わせるのがマリス流である。今日の食事は饅頭に渋茶だった。

 

「ですが、主人公が続投するなら話は別です。強大な敵。世界を滅ぼす化け物。宇宙崩壊を目論む星見の魔術師。それに渡り合うには一般人(ふつう)では及ばない。逆説的に、世界から才能が()()()()()()

ふぁいほう(才能)が…?」

 

 奇跡は連発しない。

 

 人類が無意識に自覚している願望であり、希望でもある。運だけで下剋上が多発する世界より、才ある存在が活躍する世界の方が可能性は広がる。たまたま人を指揮する戦場に居なかった。適合した手術により特異な能力を手に入れた。

 

 才能が開花するのと、才能が加算されるのは、同意義となる。

 

「これを『逸般人現象』と呼びます」

「寿命犠牲にして次回作で死んでる役じゃないかなソレ」

「運命に合わせて継ぎ足したらなんか凄いことになっちゃいました」

「この魔術回路マリスに会う前に手術したんだけど」

 

 人理焼却からカルデアを観ていたわけでもないでしょと藤丸は当然の理屈で返答し、マリスは楽しめたでしょうねと戯けて答えた。

 

「こんなことになるとは思っていませんでした!」

 

 あっはー!

 

 清々しいほど笑顔でマリスは藤丸に抱きついた。藤丸は動けない。鎖で雁字搦めにされている椅子はゴンブトの四脚だった。サーヴァントは近くで微笑ましく笑うだけで何もしない。巻き込まれたくはないからだ。

 

 マシュに折檻されるのは確定したと藤丸は項垂れた。

 

「藤丸様は私の予測をいつも超えます!このままじゃんじゃんビーストをばったばったと討伐しましょう!」

「じゃんじゃんもばったばったも嫌だなぁ」

「偉そうな犯罪者は怪物の定義を理解不能で語りますが、私から言えば上から目線の発言ですね。怪物とは何よりも()()()()()()()()。藤丸様の意見なんて耳にすらしませんよ」

 

 恥を知れば程度を学ぶ。どれだけ自分勝手な極悪人も利用するために他人を価値ある行為を強要させる(便利に使い潰す)。意味なく殺すのが怪物であり、それに対抗する才能が藤丸に再建された。

 

 このまま退職出来るのか、藤丸は少しだけ不安になった。

 

「…で、俺に何か用でもあるの?」

「無いです!」

「無いの!?この陰謀論を喋るだけに椅子へ縄…鎖縛りしたの!?」

 

 藤丸立香は一般人である。それは才能の有無とは別種のカテゴリだ。レイシフト率100%とは、彼がどの世界に存在しようともおかしくはないと保証する才能である。

 

 一般人はどこにでもいる。だから藤丸立香は一般人であり、サーヴァントの一部は藤丸を我が物にしたいと欲にかられる。

 

 安珍の宿に宿泊しているのが藤丸立香だ。

 エリザベートの牢獄で食事をつくるのが藤丸立香だ。

 シリアの見張り番に勤めているのが藤丸立香だ。

 

「─あはっ♡」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 藤丸立香が強くなるのは、常に他者の力が使われている。

 

 ⭐︎★⭐︎★⭐︎★

 

 セイレムへのレイシフトは即急性を重視して少人数となった。藤丸、マシュ、ロビン、キルケーの4名である。普段ならばもう少し精査をする段取りだが、元ソロモンのロマニを長時間放置するのはリスクが高いと政府が主張したのだ。

 

 政府である。

 

 今回の特異点攻略は、なんとアメリカ合衆国がスポンサーだった。

 

 ロマニのプライベートジェットごと巻き込んだマサチューセッツ州ボストンのさらに北部にあるセイレムを『人質』にした大規模な監禁事件。半径7キロのエリアが隔離される現象に、政府は北米の魔術協会を経由してオルガマリーに解決を打診した。

 

 後から考えるならば、ロマニが報告のためにカルデアから出張したのを魔神柱は狙っていた。政治的な分野から出張を要請されたカルデアは、緊急性の高いセラフィックスの攻略を終わらせたあとに調査をすることを決めた。

 

 何故ならば、実はこの特異点は既にAチームのキリシュタリアとベリルが先んじて攻略中だからだ。カルデアがセラフィックスを優先した理由でもある。ロマニを保護した彼らは地道に特異点の調査を進めていたが、ある日から突然弱音を吐くようになった。

 

 ()()()()()()()()()()()()と。

 

 洗脳か、もしくは敵襲か。非戦闘員のロマニは平常に見えたが、実情は不明だ。マシュはキリシュタリアとベリルをそれなりに知っていた。知っているからこそ、彼らが早々に音を上げる人物ではないと理解していた。

 

『書類上Aチームはまだ冷凍状態だ。非公式の接触となることを一応覚えておいてくれ』

「やっぱりビーストの支配下にある事実が拙いのかな?」

『それもあるけどAチームに見合った給料を所長が払い切れないらしい』

「切実…!」

 

 因みに、Aチームの報酬はカルデアスのアンナマリーが随時支払っている。マリスビリーがカルデアスに脅威情報を入力していないことにより、ほぼ野晒しになった100年前の魔術資料を回収したのだ。

 

 カルデアス人類を経由する(雇う)形となるが、最先端の魔術も名家の秘術も価値ある触媒取り放題。Aチームはアンナマリーの報酬に満足していた。

 

 しているが、高額な報酬にはそれ相応のリスクが伴う。

 

 カルデアもそれは変わらない。スポンサーの顔色は伺う必要がある。アメリカ合衆国から指示された厳命は『セイレムの文化を殺さないこと』。具体的には対軍宝具以上の禁止令と、()()()()()()()()()の制限である。

 

 まあ、服装(メルトリリス)とか文化(清姫)とか身分(神霊)とか色々問題はあるのは分かる。むしろ今まで存在しなかったのが意外なくらいだ。やっぱり所長は上司としての才能がないのではないのだろうかと藤丸は思った。

 

 その経緯から、藤丸もそれなりに緊迫感を持ってレイシフトしたのだが…。

 

「なんもない」

「そうですね。敵性反応、全くのゼロです。キリシュタリアさんの指示した待ち合わせ場所までもうすぐになります」

 

 道中は恐ろしいほど何事もなかった。文字通りの片田舎の道を藤丸達は歩いた。政府が指定した服装(流石にデザインだけだが)は非常に動きやすい神父服だった。代々魔術師を捕縛している由緒正しいどこにでもいる服装らしい。

 

 色々物申したい藤丸だったが何も語らないことを決めた。

 

 政府の指導は至極真っ当だ。神秘を秘匿し、住民に配慮し、いざとなった場合は見捨てる結論を立てている。血の通った…否、血が流れた跡の目立つ冷血なマニュアル。

 

 時に情を優先してしまう藤丸には合わないと感じた。マシュも同様だと理解出来た。辞めるのは正解だと、改めて藤丸は意識した。

 

 そして、とうとう何の障害もなく藤丸達はAチームと合流した。




政府:(サーヴァントマニュアルを見て)藤丸君残ってくれねえかなあ。
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