マリーの中の寄生虫   作:ややや

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制裁:禁忌降臨庭園 セイレム

「よう。おまえがキリシュタリア(マスター)の言ってた藤丸か。中々イイ眼をしてるじゃねえか」

 

 広い庭が目立つ家だと藤丸は思った。農場跡地に建てたと思わしい家屋の前で見張りをしていたサーヴァントが藤丸達を見て相好を崩した。傭兵に偽装した服装だったが、腰に取り付けたショットガンの銃口は埃が見える。

 

「どうも藤丸立香です」

「ランサー、カイニスだ」

 

 自己紹介。

 

 カイニスの名前は耳にしていた。アルゴノーツの一員として共に冒険を繰り広げたとアタランテやメディアが口にしたのを覚えている。話に聞いたよりも遥かに怒りを魂に刻んだ存在だと藤丸は思った。アンナマリーが所長に処刑される前の気質が全面に出た性格だと、藤丸は取扱レベルを3に引き上げた。

 

 清姫レベルである。

 

「…その棒切れ、着ける必要あるの?」

「ねぇな。テメェ以下の節穴だけの場所なんだよ、此処は」

 

 借り物の武装を使う気もない強者であることを自負するサーヴァントだと藤丸は判断し、プライドをくすぐるように問いかける。カイニスは戯言を見抜きつつ、面白い連中が来たと玄関を開いた。

 

 微かに漂う血の匂いに、藤丸の目が細くなる。カイニスは疑念に応えるように窓ガラスを叩いた。逆さに吊るされた熊が庭先に存在した。背中には拳大の穴が広がっており、カイニスがその剛腕で貫いたことを雄弁に語っていた。

 

 しかし、漂う血の香りはケモノのモノではない。首を振った藤丸に、カイニスは詐称が通じないことを喜びながら廊下の先を槍で示した。

 

「ちいとカルデアスでヘマこいてな。オリュンポスは消滅する羽目になるわマスターが大怪我を負うわ、情けねぇザマになってよ。このレイシフトもカルデアの治療を求めたのもあるのさ」

「それでこの大魔女を求めたのかい?かのアンナマリーならやれそうな気もするけど」

「…アレがまともな治療すると思うか?」

 

 カイニスの苦々しい顔にキルケーの表情も辛いものとなった。

 

「しないね。むしろ骨折した大腿骨を丸ごとチタン製に置換しそうだ」

「惜しいな。今時はベータリン酸3カルシウムらしいぜ」

「思ったより最先端な治療だ!?」

 

 それでも骨折に対しては過剰である。

 

「連れてきたぜ」

「ありがとう、カイニス」

 

 藤丸の後ろでマシュが息を呑む声が聞こえた。

 

「よう、情けない様で挨拶させてもらうぜ。ベリル・ガットだ。久しぶりだな、マシュ」

「初めまして、藤丸立香。キリシュタリア・ヴォーダイムだ。短い間になるが、よろしく頼む」

 

 キリシュタリアとベリル。どちらも初対面の間柄だが、Aチームの人柄はマシュ達から聞いていた。その姿形もだ。貴公子然とした金髪美形のキリシュタリアに、黒髪メガネの尖り耳なベリル。

 

 キリシュタリアには両脚が無く、ベリルには左腕が無かった。

 

 血の匂いから、予想出来た光景だった。

 

 キリシュタリアは気にする必要はないと笑った。

 

「名誉の負傷さ。そもそも、この肉体は仮初のモノだからね。あと数ヶ月保てばそれでいい」

「それに本来の身体よりマシだからな。何せバラバラだぜ!オレなんか肛門以外の場所から汚物が飛び出したのを見ちまったぜ!」

「うーん回答しにくい」

「解凍だけにかい?─いたっ」

 

 キリシュタリアの頭にカイニスの拳骨が突き刺さった。カイニスはふらついたキリシュタリアを猫のようにひょいとベッドに投げ入れた。ベリルも予想していたのか、ゴロゴロと転がったキリシュタリアに肘を突き立てながら悶絶する彼に掛け布団を乗せた。

 

「テメェは無駄なことを喋る暇があるなら大人しく寝てろ」

「あはは。仲が良いんだね」

 

 カイニスは溜息だけを回答とした。

 

「…あの。…そろそろ私も自己紹介したいのだけれども…?」

「半泣きになってましたね」

「なにをばかな。ないてないよ?」

 

 確かに悲しんではいないと藤丸は見抜いた。悪側のサーヴァントマニュアルに記載した部分だ。他人の反応に愉悦を感じる上位者タイプだ。この手のタイプは操られていないととても拗ねてしまう。エイリークから絶賛された空気読みのスキルは、彼女を敬いつつぞんざいに扱えと判断していた。

 

 何故彼が絶賛したのかは全く知らないのであまり信用ならないけど。

 

 こほんと彼女は咳き込んだ。

 

 野原に生える美しい花のような女性だった。相対した者の現実が狂うような夢幻的な美貌と、世の摂理を滔々と語る賢人の中身が彼女を更に美しく仕立て上げている。

 

 藤丸はその姿形に見覚えがあった。ロマニが泣きながら剥がしていたネットアイドルのポスター。ケモ耳コスチュームを身につけた彼女をロマニは黒歴史だと嘆いていた。

 

「マギ⭐︎マリ!」

「やあやあ初めまして藤丸くん。ロマニ・アーキマンのストレス解消のために人理焼却の裏で地道にHPを更新していた別世界のマーリンお姉さんだよ。君達の旅路があまりに楽しくてついつい召喚されてきたのさ」

「アレってそういう仕組みだったんだ…」

 

 実態はもっと酷い内容だがそれを語らない良識が彼女にもあった。

 

「よろしく、マーリン。…名前被っちゃうな」

「好きに呼んでくれたまえ」

 

 藤丸にとってマーリンとは胡散臭い花の男の方である。新しい渾名を考えている藤丸を見て、横にいたカイニスはどうでも良さげに鼻で笑った。

 

「プーリンでいいだろこんな奴」

 

 プーリンとカイニスは互いに笑った。

 

「うーん。略さない場合を聞こうか」

「プロフィール詐欺する方のマーリン。流石に体重20キロは恥を知るレベルだろ」

「自称神霊よりマシじゃないかな?」

 

 沈黙。

 

 やがて、プーリンとカイニスは互いに頬を抓り始めた。何度も繰り返したやり取りなのか、キリシュタリアは困った顔で笑うだけだった。

 

「あの!それでドクターは何処に…!?」

 

 マシュの緊迫した声に、Aチームの4人は顔を見合わせて空を見た。

 

「…いや、ロマニは…既に…」

「いいやつだったな…」

 

 キリシュタリアとベリルは悲しげに眼を伏せた。キリシュタリアはともかく、嗜虐心が強いベリルがその態度を表すのは意外だとマシュは思った。しかし、その姿勢は明らかにロマニが手に負えない状態に陥ったことを雄弁に表している。

 

 マシュと藤丸は顔を白くした。居ても立っても居られない激情に囚われたマシュは、ロマニがいる診察室へノックもせずに勢いよく突入した。

 

「ドクター!!」

 

 バァーン!

 

「はぁい。あなた、あ〜ん♡」

「あ〜ん♡」

 

 扉を開けたマシュが目の当たりにしたのは、当時最先端のスイーツであるパウンドケーキを褐色美女に食べさせられているロマニだった。

 

 どう見ても生命の危機ではなかった。

 

()()()()()()()()()

 

 ベリルが悲しげに告げた。

 

「この場所は呪われてる。オレ達はアンナマリーから送り込まれる食料で無事だったが…放り込まれた人質はこの場所で飲み食いした時点で日常に成り果てちまった。ロマニも辻医者として調査に協力していたが、奴は男で、現地サーヴァントはイイ女で、その女も日常に浸っていた」

《ステイナイト》したんですか

「すげぇマシュが下ネタを理解しやがった」

 

 マシュの口調は冷たかった。

 

 絶対零度の視線がロマニにケーキを与える女性を貫く。現地サーヴァントはあからさまにロマニを狙い撃ちにした人選だった。褐色ケモ耳小悪魔ナイスバディ淑女。ロマニの性癖の煮凝りのようなサーヴァントだ。

 

 分かりやすくいハニトラに引っかかったのがロマニだった。

 

「…アイリーン(仮称)さんはいないのか」

 

 藤丸は藤丸で未来マシュから警告された女性が召喚されていないことに嫌な感覚を覚えた。マシュがあれほど毛嫌いするのならば、おそらく所長似の歳上白髪陽キャギャルは仲間面して秋波を送ると確信していたからだ。

 

 プーリン?違うでしょあれは。

 

 不安定な特異点。規模は町ひとつで、他のサーヴァントがいる気配はない。アサシンなら話は別だが、長期間プーリンの監視をかいくぐるのは難しいだろう。藤丸はなんとなく残業の気配を理解してしまった。

 

 …え?まだレイシフトするの?

 

 未来の労働が確定した藤丸は飛び出したマシュを制止できなかった。重心を地面に寄せることにより大幅に加速したマシュの残像がロマニの網膜に映り込む。

 

 ロマニの脳内が高速回転を始めたが、反応する術は存在しない。最後に浮かび上がったのは、首を掻き切るジェスチャーをしたゲーティアだった。

 

スーパーキリエライトパーンチ!!

 

 ロマニは無言で吹き飛び、家の窓ガラスを突き破った。

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