マリーの中の寄生虫   作:ややや

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セイレムだしヨハンナ様だしてホプキンスに懺悔させるか
→FAKEコラボを見たらもろ被りしたので路線変更
→遅筆


平穏:禁忌降臨庭園 セイレム

 この特異点は『平穏』に支配されているとキリシュタリアは言った。

 

「この特異点に住む存在は、あらゆる行動が保守的になる。未知の行動を極度に否定し、肉体は現状を維持する。その時点での最適な行動を選ぶだけの、決まりきった日を過ごすだけの世界だ。毎回自己紹介するレベルのね」

「出来の良いRPGの町に迷い込んだと思えば良いぜ」

 

 キリシュタリア達が訪問しない限り、囚われた彼らは迷いなく今までの日常で1日を過ごす。決まりきった時間で日は落ち、雨はにわか雨がきっかり1時間。プーリンは同じ輩からナンパされ、撃退されて歯が抜け落ちたはずの男は翌日には怪我ひとつなくナンパを繰り返す。

 

 永遠と、延々と、『今日』が続いている。

 

 召喚された現地サーヴァントも変わらない。耐性があるために説き伏せれば思い出すことはできるが、それだけだ。感染者である彼女をロマニは救おうと試みて、彼らは『新婚夫婦』としてセイレムに組み込まれた。

 

 昏倒したロマニを解析したキルケーが断言した。

 

黄泉戸喫(よもつへぐい)の仕組みだね」

 

 あの世のものを食べると、この世に戻れなくなる。世界中の何処にでもあるありふれた逸話のひとつだ。強制力が皆無な代わりに、自主的に捕らえられた対象は逃げ出すことが困難になる。

 

 キルケーはこの空間が別世界としてテクスチャ化されていると判断していた。それも、キルケー自身すら見破れないほど高度に偽装された状態でだ。

 

「ロマニは?」

「食っただろう、女」

 

 キルケーは親指と人差し指をくっ付けてその中に中指を通した。

 

「それ、アリなんだ」

「当然さ。つまるところ、環境に定着する(染められる)のは()()()()()()()行為が重要なんだ。食事とは即ち休むこと。それはまぐわいだって同じだ。Aチームが郊外で寝泊まりしたのは正解だったね」

 

 ロマニも賭けに出たのは間違いない。《ステイナイト》はどの世界も生命の象徴だ。汚染度が低いだろうサーヴァントの治療を狙うならば悪くない作戦だった。問題だったのは、ロマニ自身が死者側、即ち異常値として生きながらえたゆえに一般人以上に汚染が早かったことか。

 

 …とマシュには説明するが、割と衝動的にやらかしたんだろうなぁとキルケーは判断している。キルケーが藤丸と同じ状況になったら同じ言い訳を口にしてしけこむと思ったからだ。

 

「それでも、影響は私達も例外ではない」

 

 キリシュタリアは憂いた顔で拳を握った。

 

「本来ならレイシフトは全員で行う予定だった。私とベリルはカルデアに何かを伝えるためにオリュンポスで敵対したカオスの負傷を無視してまでレイシフトを敢行したはずだった」

 

 リスクを無視した命懸けの行動はこの特異点で天中殺だった。カルデアに報告するべきナニカを失ったキリシュタリアとベリルは腑抜けた状態で治療に専念している。

 

「力不足で申し訳ない。藤丸君には是非とも特異点RTAをしてほしいんだ」

「余裕あるのか侵食された結果なのか分かりにくいボケはやめて」

「魔術王を斃した君ならば可能だと私は信じている。もちろん、私達も出来うる限り協力しよう。共に迅速な解決を模索しよう!」

 

 こいつ無視しやがった…!

 

 弱い所をひけらかして主張するやり取りに藤丸は非常に弱い。彼自身の主義主張が薄いためにバーサーカー的な破綻しない意見を曲げられないのだ。利益がプラスならば藤丸は妥協をしてしまう。

 

 マシュがオルガマリーを警戒した理由だった。マシュはひたすらに隠しているが、泣き喚いて妾にして欲しいと縋り付けばワンチャンあるのが藤丸だ。カルデア内では藤丸の連れ添いの人数は賭けの対象となっていた。

 

 ラスト特異点の筈なのに何故ここまで問題が発生するのか。微少特異点のようにサーヴァント任せで終わる内容で良いじゃないか。藤丸は所長を思い浮かべた。空想の所長はこの特異点の住民を半殺しにしてセイレムを更地にしていた。藤丸がダメだった際の末路だった。

 

 藤丸は息を大きく吐いてマシュの胸元に顔を突っ込んだ。ベリルの顔面が崩壊したのを見れたのは話に無関心だったカイニスだけだ。不機嫌だったマシュは顔を真っ赤にして胸元にタオルを差し込んだ。汗の匂いは乙女の恥だった。

 

「ひゃっ!せせせせんぱいいまはまだひがたかい」

「めーんーたーるー…リセット!!」

 

 視覚・嗅覚・触覚を素晴らしいモノで埋めた藤丸は特異点RTAの化身として本腰を入れた。気合度はエリザベートのハロウィン特異点に等しい。エリザ粒子に長時間浸った所長は死ぬほど面倒くさい。この特異点は心地良さで所長を駄目にする特異点そのものだった。

 

 駄目な時の所長は徹夜で新作ゲームをしてしまうのだ。

 

「ま、まずは現状を整理しましょう」

 

 マシュが眼鏡の縁を上げた。シャーロキアンな彼女は推理シーンになると生き生きとする。藤丸はマシュからクリップボードを受け取ってセイレムと書いた。

 

「年代は近代。服装や人口は17世紀にも関わらず、家や農業は現代に近しいほど発達した街です。拉致された人々の大半の所在は不明ですが、キリシュタリアさん達が調べた限り200名ほどが『住民』として過ごしているようです」

「正確にはマイナス2人だ。あのボンクラが腑抜けた途端、街で医者していた夫婦が消えやがった」

 

 死んでなきゃ良いがな、とカイニスは舌打ちをした。

 

「人口も明らかに少ないね。本来のセイレムの仔細は知らないけど、まばらな空き家だらけの生活空間が正常だとは思わない。何処かの家に格納されてると見込んでいるけど、魂ごと燃料にされた可能性もあるね」

「暗い話は好きじゃないよ。メリットデメリット語るなら敵の嗜好を見極めてからだ。大魔女の見識的には…生かされていると思うけどね」

 

 プーリンの茶化しにキルケーは半目になった。同時に、カルデアのダヴィンチから通信画面が開く。いつもより大きいのはアメリカから派遣された監視者(お偉いさん)が背後にいるためだ。

 

 Aチームの状態は見逃すと断言した良い人でもある。

 

 その背中に資料を抱えたハサン達の姿が見えたが、退社する藤丸には関係なかった。

 

『特異点は黒幕の目的が表面化する。能力を拡張する、不都合を壊す、欲望を具現化する。即ち、力のための生贄(強くなる)か、歴史改変(過去を変える)か、特異点を維持する(望む世界を創り上げる)かの3パターンだ。今回は明らかに最後のパターンとなる』

「つまり…『何もない平穏な1日』を黒幕は望んで創り出した」

『オルガストーンの内容も粗方抽出されている。余った成分で最も多い配分は『怠惰』。責任感を捨てたオルガマリーの可愛らしい部分さ』

 

 オルガマリーは何もないと遊び惚けるのですかと監視者は藤丸に目線で訴えた。

 

 人理焼却解決後に率先してゲーム大会開いてましたと藤丸は頷いた。

 

 監視者は藤丸をなんとか引き止められないか上に相談しようと決心した。

 

「だが、1日の終わりに特異点の副作用と思わしき残滓(ウェアウルフ)が旅団単位で街を襲撃している。今のところ街の守護者であるらぶらぶはぁと大石像に蹂躙されて終わるが、能動的に手を出さない限り被害はないとはいえ、オルガマリーが住民に怪我人を出すような環境を肯定するのか?」

 

 キリシュタリアは世迷言を訴えた。

 

 藤丸は無表情でクリップボードの脇にデフォルメしたダビデ像を描き出した。吹き出しには『ヨハンナミーム発生中』と書かれている。チェイテ特異点で行われたメカエリチャンVSヨハンナ像は悪夢の光景だった。やはりヨハンナの本体は石像が中心らしい。

 

「らぶらぶはぁと大石像ね。大きさは」

「40メートルほどだと思う。街の中央にある教会の裏で普段は待機している」

「うーんツッコマナイゾ。大魔女はクールでビューティな存在なんだ。当然のようにヨハンナの精神を崩壊させる存在を許容するやり取りは洗脳に違いない。きっと、たぶん、おそらく」

「言ってて悲しくならないかい?」

「五月蝿いよネットアイドル崩れ!!」

 

 とにかく情報が足りない。

 

 モリアーティが召喚されたためか近頃不機嫌なホームズが提案したのは、ロマニにハニトラを仕掛けたキャスターの契約だった。現地サーヴァントである彼女は既に洗脳されていた、つまりは初期の特異点を知っている可能性が高い。

 

「ぬんっ!」

「…ほわっ!?」

 

 令呪をひとつ消費してキルケーにより浄化・契約した彼女はあっさりと正気を取り戻した。彼女は驚愕の顔を浮かべた後、倒れ伏すロマニの頭を撫でて慈愛の笑みを浮かべた。完璧に恋に堕ちた彼女の有様に、マシュはロマニとの視線を遮るように盾を突き立てた。

 

「真名と…現状を…詳しく…説明してください」

 

 再婚相手を警戒する娘のようだとキリシュタリア達は思った。

 

「今、私は冷静さを欠こうとしています」

「あ、はい。キャスター、ニカウレーです。かつてはシバの国を治める女王でした。貴方がたにはソロモン王の妻のひとり、と言ったほうがよろしいでしょうか」

 

 マシュの殺気が少しだけ霧散した。

 

「では、ドクターとの…それは、目的があってのことだと…」

「いえ…たぶんハニトラとして召喚されてまんまと策略にハマりました…」

 

 ニカウレーのケモ耳が異常なほど震えた。

 

「仔細は後ほどにしますが、私は魔神柱に対して耐性があります。そのためか、今まで私は特異点やカルデアへの召喚が彼らによって封じられていました。ようやく隙を見て遅ればせながら召喚された所、目の前には魔神柱。死力は尽くしたつもりですが…敗北してとある一家の使用人として働くように洗脳されてました。…逆に言えばそれだけですが」

「それではドクターは」

「ふつーに私と恋愛してごく一般的に結婚を…」

 

 てれてれと指を交差したニカウレーにマシュの新規立ち絵が披露された。オルガマリーが週1くらいの頻度で見ていた嫉妬に駆られた病み病みの表情だった。

 

「…そうですか」

「…え、あは、あはは」

「……」

「……」

 

 押し潰すような沈黙が広がった。カイニスとプーリンは互いに肘鉄を無言で応酬し、キリシュタリアとベリルは苦笑いしたまま肩をすくめるばかり。通信先で無言で藤丸を見据えるダヴィンチ(と胃が痛そうなアメリカの人)にため息をしながら、藤丸は口を開いた。

 

「それで、ホームズは何かわかったの?」

 

 重苦しい空気を無視して藤丸はホームズに問いかけた。盛大にギスギスした空気が生まれたならばとにかく目的を合わせてやればそれなりになんとかなる。目線を併せることは価値観を合わせる行為だからだ。

 

 だからアメリカの偉い人の目線が鋭くなったのを藤丸は無視した。今は特異点RTAを走行中だから。退職RTAを諦めるつもりは毛頭ない。

 

 半ば無茶振りの問いかけに、ホームズは鷹揚に頷いた。

 

『ふむ。理由は不明だが……。一つ……可能性として重要なものがある』

「それは?」

『……。……。ミスター藤丸の協力があれば直ぐにでも話そう』

「!?いつもの構文はどうしたのホームズ!?」

『元より資料は揃っている。Aチームの尽力の結果を私は攫うだけさ』

 

 ホームズは不満げにタバコを蒸した。

 

『チョコクロワッサンを住民に配れば良い』

「…?」

 

 ホームズの指示に、全員が首を傾げた。

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