具体的にはオルガマリー母の存在を捏造しています。
「と言う訳で、所長とアポは取れませんか?」
「君さあ。宿題を後回しにしないように教師から言われなかった?」
ゴルドルフは藤丸の頭を小突いた。
自慢話を聞く程だったのに、何やら報告を隠してゴルドルフの人格を精査していた事実は驚きは少ない。結構な頻度で時計塔がやらかすからだ。彼らは来月のゴルドルフの血の色が緑色になるかもしれないと危惧している。
それでも緊急事態に1週間放置は問題だらけではないだろうか。
「体感1週間単位なら何も発生しないと実感してるので」
「何故だか凄く否定できない理由!!けど人理の危機に悠長なことはしちゃダメでしょ。きっと…そう、後から後悔する羽目になるからな…」
ゴルドルフは横目でオルガマリーを見た。嫁を手に入れた以上は必要な後悔だったが、それでももっと良いやり方があった気もするのだ。
その場合はレフボムで爆死している気もするが。
「それで、私はオルガマリーを呼び出してから席を外せば良いのかね?」
「ぶっちゃけいてもいなくても問題なさそうなので大丈夫かと」
「なーんも否定できん…」
ゴルドルフは緩く笑ってザビエルの頭を叩いた。ギョッとする周りに対して、昼食を食べてからほぼ無言だった彼女の目が切り替わる。宝石のような、奥底に神秘を宿す煌めきが光る目をカルデアは知っていた。
「ほれ、起きろ、
「いえーい」
「「「「ああああああ!!!」」」」
扉の奥で待機していた運命⭐︎エクストラ勢の叫び声が響いた。ゴルドルフの肩が数センチ浮いた。
「なになにいったいなんなのかね!?」
「爆死の声…実装の闇…所詮ファンサだと理解できぬ性根が齎した悲劇。待機組の列に入ることを祈るが良い」
「君はいつも理解不能なことを呟くな…」
ビビり散らかしたゴルドルフは口元を引き攣らせながら首に滴った汗を拭った。
「アンナマリーだったの!?」
「久しぶりだな藤丸!マスターがビーストを鎮圧している合間、残党の討伐御苦労だった」
「よもやそこまで…!」
藤丸に話しかけたアンナマリーの表情は先程の鉄面皮ではなかった。絵師が変わるレベルの表情差分にふらふらと部屋に入ってきたネロが血を吐いた。2度目のガッツを発動した彼女の膝は豆腐より柔らかかった。
「貴様達が『借金返済大作戦!?マリーのムジーク婚活録!』をクリアしたなら知っているだろうが」
「知らないよそんなレイドイベント」
「生存競争を謡う絶滅戦争。オルガマリーは寡兵ながら3000万の群勢に果敢に立ち向かい、27時間40分の死闘の末に憎しみの霧散に成功したのだ!」
「ギュー!!?」
アンナマリーはコヤンスカヤの首を掴んで水平にし持ち上げた。側から見れば無知から生まれた動物虐待の現行犯である。藤丸は躊躇いつつ、顔を徐々に白くする子兎を指差した。
「えっと、これは?」
「戦利品だ!!日本人は確定申告が出来るペットに目がないと聞いた!!」
「とりあえず手を緩めなさい。死体は働かないぞ…いや、働くか?死徒なら働けるから…彼女も実は問題なかったりするのか…?」
「ギュ…!ぺべ、…!!」
本格的に死相が見え始めたコヤンスカヤにゴルドルフは息を吐いた。彼の眼ではこのやり取りが本気かすら見分けられない。彼女の肉体は弱体化しているが、それはオルガマリーの目線でのこと。
彼女がたとえ遊び目的だとしても人類絶滅を主張した以上、扱いは慎重なものになる。ゴルドルフが求めた彼女への救いであり、ビーストが更生できるかの試金石でもあった。
「彼女が抱えている子兎は非常に危険な魔獣でな*1。オルガマリーが手懐けたのは良いものの四六時中目を離さないのは厳しい*2。サーヴァント達がいるカルデアの旅路まではアンナマリーがオルガマリーの肉体を操作していたのだよ*3」
「区別し易く肉体はアンナマリー仕様だ!!*4」
ちょっとした魔法の応用である。
オルガマリーはアンナマリーと同一の肉体に魂を紐付けている。(部品さえあれば)肉体を複数創れるアンナマリーの身体の主軸を移し替えるのは造作もない。ゴルドルフの念話を受けたオルガマリーは、サーヴァントモードのアンナマリーに魂の主軸を移し替えていた。
「では、所長はいま何処に…?」
「査問会だよ!?最高責任者だよ彼女!?何で君達みんなして彼女が何も疑われない前提なの!?」
「だって所長あんまり偉い人になる才能がないし…」
「(さっきまで押し付けられてましたという顔)」
アンナマリーが恐ろしく暗い目をしている…。
「マスターと見目が酷似した個体がいるのは勘繰られるとゴルドルフが息巻いてな。査問中はこの世界に存在しない見目の躯体に変更したのだ。ゴルドルフの護衛も兼ねてな。妙に警戒されたが」
「そうだったんだ…」
「今決まった」
「時系列狂ってるよ!?」
狂ってないのだよ…。
ゴルドルフは目を伏せた。さっきまで藤丸達の話を聞いていたのはオルガマリーだ。恥を晒したくない余りに嘘を量産するダメな時の彼女だ。目的がない彼女は欲に弱い。
ちゃんと子育て出来るのかゴルドルフは不安になった。
「アポはないが、緊急事態だ」
「了解した。面倒なので直に繋げるぞ」
アンナマリーが紅茶のスプーンでこめかみを突き刺し、ぎちぎちと骨を削るように顎近くまで押し切り裂いた。横向きに広がった傷口の中は舌と歯が生えており、息を吸わずに流暢に話し始めた。
『すみませんすみませんカルデアは全くその方面での政治的知識は私含めて皆無でしてはい父の野望とか何も知らなくていえいつかやらかすとは薄々感じてましたがその前におっ死んだので─なんなの?』
素晴らしい勢いで陳情していたオルガマリーが涙声で接続に応答した。
随分と絞られているらしい。マリスビリー氏の心情が不明な以上、カルデア職員の殉職が恣意的なものか判断にあぐねているとオルガマリーは溢した。
とにかく、魔神柱からの忠告は伝えなければならない。
緊急性を加味して、査察官はそのまま会話をしていいと許可した。それは査察官達にカルデアの危険を伝えることと同義だったが、彼らは近場にいるサーヴァント達を肌で感じながらニヒルに笑った。
「この環境で今更我々が動いても、部屋を出るのが精々だろうさ。敵味方の区別すらないのが我々だ。多少の時間であれば好きなだけ話せば良い」
国連の査察官達はとても有能で度胸があった。
「やっぱり…所長って…」
「…先輩、言わないことは美徳ですよ」
『聞いてるからねあんたら…!!』
藤丸の口から魔神柱の遺言が伝えられる。秘匿で話す必要もない危険物の処理要請。それは即ち、言外にカルデアに『敵』がいる事実に他ならない。
オルガマリーは留守中にまんまと忍び込んだ自称ホムンクルスが頭に浮かんだ。アンナマリーが過去を読み込んで把握した個体情報で近辺を精査したが、彼女の痕跡は何ひとつなかった。
文字通りに世界から消失したような隠蔽に、オルガマリーは父の背中を思い出した。そして、魔神柱の話はまさしくマリスビリーの根幹を主張していた。
『父の大切な物、ねぇ…』
「マスターではありませんねー」
『…まあ、それはそうだけど…!!確かに、私は父の副次的な宝物よ…!でも、一応、多分、しっかりとは愛されていたわよ!』
自信の無い言い回しに年齢を重ねている監査官達の目線が憐れんだものになる。
「ワタシ達が知るマリスビリーの大切な物とは、
妙に遠回しなアンナマリーの回答に、全員が固まった。
「…。その、マリスビリー氏の奥方など見たことも聞いたこともないのだが」
「享年14歳。ワタシ達も数えるほどしか見たことはなかったが、死後数十年は過ぎた遺体だった。
監査官の目線がいよいよ可哀想なものを見る目となった。
『その事実初耳なんだけれど!?私の母は適当な貴族から買い取ったものだと信じたかったんだけど!?』
「いやオルガマリーの魔術回路・量が
『いいえあの効率最適に固執する父が後継者の選定に愚かなことはしない筈よ…!多少遺伝子操作で混ざっている可能性は否定しないけど…!』
「内心認めてるじゃあないか…」
ゴルドルフの呟きに心の強い監査官達も居た堪れなくなった。
『とにかく!!』
いよいよ堪らなくなったオルガマリーが遮るように叫んだ。
『父が最も大切にしていた器物は父と一緒に墓場へ火葬したわよ。アニムスフィア家の別邸にある墓に入れたから、魔術的にも間違いなく価値の無い代物なはずだけれど…』
「
そうだ。
マリスビリーはことある毎に自室で酒を片手にそれに話しかけていた。
2度の聖杯戦争。政争に蹴りがついた時。誰かを処分した時。反対に誰かが大成果をあげた時。オルガマリーが成人した時。祝祭。災禍。彼が想い出と扱う─記念となる日はいつも、マリスビリーは安物の発泡酒を片手に報告をしていた。
「カルデアスは?」
『資産的にはそれかしら…?まあ破壊するのは私でもキツいから、カルデアス自体にアンナマリーを寄生させて全体検査をする形になるかしらね。上手くいけば、100年後の地球の詳細も把握出来るようになるかもしれないし』
希望混じりの願望をこぼしたオルガマリーは、それが失言だと気付けなかった。カルデアは政治に疎く、国連の役員は有能で、人間ゆえに利益には弱い。
異聞帯の条件が整った。
カルデアスの未来は確定した。
ぎちぎちとカルデアが軋む音に併せて不規則に魔力の奔流とサーヴァントの宝具詠唱が響き渡る。発生場所は話題となったカルデアス。カルデア施設の壁が徐々に湾曲していることから、何かしらの攻撃でカルデアスが爆発したのだとオルガマリーは推測した。
オルガマリーは部屋を飛び出そうとして、自動ドアが開かずにつんのめった。施設全体が歪んだことで扉が固定されたのだ。オルガマリーはドアを消し飛ばしながら、念話にて藤丸へ命令を飛ばした。
「藤丸!力自慢のサーヴァント達に来客者の救助と運搬をさせて!」
「場所は!?」
「そうね─「駐車場に、虞美人が、結界を準備して…いる」…!?」
オルガマリーの真横からカドックが口を挟んだ。存在しないはずの彼に、オルガマリーは驚愕した。
「貴方内臓こぼしながら出てきたの!?藤丸じゃないんだから運命力頼りの無茶はしないほうが…!』
『それは後でいい…!キリシュタリアから伝言だ…!
乱雑に腹部に氷を貼り付けて止血したカドックが真っ青な顔で膝をつく。手にある令呪は全て使い切った状態で、カルデアスの部屋からは膨大な魔力が発せられている。
緊急事態を察したサーヴァントとカルデアは全員が全速力で持ち場に走った。最も近かった職員による警報が鳴り響く中、オルガマリーは藤丸達を持ち運ぶアンナマリーへ念話した。
『アンナマリー!先ずはマシュ達と合流するわ!貴女主導で合体しなさい!』
「了解。…失敗しました。クラッキングを受けてます。セキュリティ脆弱性の解決まで肉体置換できません」
『嘘ぉ!?ええいカルデアス前で全員合流!!』
後に。
巻き込まれた国連の報告書からも、カルデア職員は的確に最善を尽くしてカルデア施設の保護に成功したのは奇跡だったと褒め称えられている。
試算した魔力量ではカルデアスから発生した結界はおよそ10キロを更地にするほどの威力を秘めていた。1分で完了する範囲の拡大を100メートルに抑えこんだのは、サーヴァントの尽力と宝具があってのことだった。
しかし、全員がカルデアスの前に来た時点で既に処理は終わっていた。
「…遅かったわね」
多数のキャスターサーヴァント達が息を切らす中、特に疲弊の強いアナスタシアが呆れをこめて汗を拭った。天井が破壊されて雪が降り注ぐ中、結界に守られたカルデアスだけが静けさを保っていた。
疑似地球環境モデル・カルデアスの地表は真っ白だった。雲一つ存在しない、真っ平に漂白された地面。そして
「所長。アレ、丸ごと壊せますか?」
「余波で南極の氷が全部溶けるから無理」
包帯まみれのムニエルに、オルガマリーは首を振った。
「それよりレイシフトでしょ。機材復旧次第現代時間で直にアクセスするわよ」
「無理っす。あのバリアで
「なんですってぇ…!?」
近未来観測レンズ、シバ。1999年にレフが開発した、カルデアスを観測するための専用望遠鏡。カルデアスの異常は傍目に明らかなのに、それを調査することができない。
再現は不可能だ。レフは既にカルデアが滅ぼしている。カルデアス内部の地球にアクセスするための手段をカルデアは失った。
「カルデアスは─」
アナスタシアが説明を始める前に、全員の目の前でディスプレイが展開された。続け様に繰り出される問題に対し、全員が困惑を隠せない。この通信が世界中の特定人物に同時接続されているなど、カルデアの職員には予想すらしていなかった。
『あっはー!』
カルデアを知る全ての人間に、可愛らしい思念が届いた。
『皆さんには!今から!
この世界線のマリスビリーの大切な物は妻の死体。
防腐処理をして暇があれば眺めているのをオルガマリーは見ていた。
見ていたので死後マリスビリーと合わせて火葬して灰にした。
復活して来そうだというアンナマリーとゴルドルフの意見に反論はしなかった。