特撮の敵組織のようにやってきた
大本営発表である。
故郷を取られたはずの島民は死人が出なかったのもあって順当に島から逃げていった。文化もクソもない文字通りの異種族である。恨みはあるが憎しみまでは生まれない。一部の肝の座った住民は彼らに商売をしていたが。
「俺さぁ。ハナタレ小僧の時は軍隊って化け物に銃弾ぶち込む仕事だと思ってたんだよ」
「あー。分かるわ。
「まさか実現するとは思わなかったわ」
カルデアス人の目的はあくまでも生存である。よく分からない未知の計算結果により体内に銀河を収めているが、それはカルデアスに2016年が入力されていない結果によるもの。瞬きの間に別生命体に変貌する状態なのが、今のカルデアス人類だ。
『我が力を味わうが良い!』
「何度見ても…デケェサイバネ枯木にしか見えねー」
「あれ、地球風に翻訳するならパワードスーツらしいぞ。
カルデアス人類として世界に確立する。
カルデアスの『生きる』とは、生死に価値観を傾けない。
『この世界の言語に習って捧げよう─
「この期に及んでだけどよ、あれちょっと羨ましくねぇか?」
「当たったら心臓麻痺する光線─いや光線にしては割りかし遅いが、結構苦しそうな仲間を見てよく言えるなお前」
決められたエリアで戦争する。
決まった時間で殺し合いをする。
地上10メートル以上の空中兵器の禁止。
その他にも様々な制限はあるが、
「ぅお」
兵士は飛んできた『魔法』を咄嗟に避けた。直撃すればAED必須な即時魔法である。人道的だが割と夢がないと笑った同僚は無言で泡を吹いて死んだ。腰だめに抱えたグレランの慣性に舌打ちをしながら、兵士は地面にへばりついてそれを放った。
『ぬうう!!?』
3メートル前後のカルデアス人の頭頂部が円状に消し飛んだ。木炭の香りを漂わせた彼に兵士は追撃の小銃を乱射したが、途中でグレランを投げ捨てる形で真横に飛んだ。苦痛の叫びを上げながらカルデアス人が放った魔法が、彼の軍用靴を焼き焦がした。
「はあ!?そこは死んでおけよ人として!!1マガジン使い切ったんだぞ!?」
『カルデアス人だ!頑丈さには自信がある!』
彼は胴回し回転蹴りを放った。少なくとも、兵士の目にはそう映った。鈍重な動きをするカルデアス人は人類にはない膂力がある。おまけに腕は複数と来た。掠るだけでも死にかねない攻撃に、いよいよ兵士は背を向けて全力で走った。
『速度には勝てんが近接なら意味がなかろう!』
柔らかい土に叩き込まれる振動は兵士の足を遅くする。パニックホラーでチンタラ走る連中の気持ちが兵士は身をもって理解した。腰にある手榴弾を撒菱代わりにしながら、兵士は舌打ちをした。
「面白え木の根だ!こんな場所じゃなきゃ飲み屋で一発芸見せ合えるのによ!」
「『此方も残念だ!地球人なら空気中の二酸化炭素濃度を10倍にしても生き残れるだろうに!』
「死ぬわ!半分でも!テメェらこそ何とかならねぇのかよ!」
『
「ああっ…!クソッタレ!!!」
仕方がない。
カルデアス人が口癖のように語る言い回しだ。賢しらに囀るその言い回しを、兵士は殊更に嫌っていた。彼のしみったれた人生そのものを否定するような嘲りが毒のように魂を削り出すのだ。
死んでも良いなんて馬鹿なことを叫ぶなと、口には出来なかった。口を開く前にカルデアス人の腕が兵士の足首を掴んだ。圧搾はカバーされた鉄板により防げだが、振り下ろしを妨げる力は兵士にはなかった。背中に背負った背嚢が右の肋骨を圧折し、全力で受身した頭は脳震盪でズタズタだった。
それでも、勝利は兵士側だった。
『───ガッ』
「!」
決着は流れ弾だった。誰かが放った手榴弾に弾け飛んだ何らかの破片がカルデアス人の中心を貫いた。空気が弾けるような音と併せて噴き出すのは、天の川のような謎の気体。
あの気体がカルデアス人の本体だ。若しくは血液なのかもしれない。非常に強固な外殻を砕いた中身は地球の空気に耐え切れず放散する。兵士は生暖かい額の血を舐め取って膝を震わせた。
彼はものひとつ言わずに死んだ。銀河が放出する様を兵士は呆然と見守り、そして骸と化したカルデアス人の下敷きとなった。脳震盪がオーケストラとして星人を歪め、兵士は吐瀉物を吹き出しながら気絶した。
気絶から目が覚めた時には、すでに終わっていた。
「………」
サイレン音が鳴った。今日の戦争を終える区切りの合図だった。
殺し合いをしていた全員が武装を棄てた。全員が訓練された軍人なのもあるが、何よりカルデアス人類の戦意を理解してしまっているからだ。数分もしないうちに現れたのは防護服を身に着けた工作兵と、青白い肌に白い髪をした生身のカルデアス人。
兵士は数分かけふらふらと立ち上がった。
兵士は工作兵から渡された枝切り鋏のような刃物で同僚の首を切断した。
最後に残ったのは灰を注いだような白い大地だった。工作兵とカルデアス人は慎重に身を屈めながら大地を歩き回り、数十の種を拾い集めた。兵士達の中ではそれは『平和の種』と呼ばれていた。兵士には理解しかねるが、あれを埋め込まれたカルデアス人は地球でも生存出来るらしい。
『定住』したカルデアス人は全てが優秀だった。ガキらしき小僧すら兵士より頭が良いと察せる程度には。風の噂では偏屈を極めたようなカルデアス人もいるらしいが、誰しもが理性的だ。
身分差と言う言葉が兵士の頭の裏にこびりついた。
兵士は煙草に火をつけた。目の前の大地に相応しい空気の色が宙に吐き出された。ふと、戦ったカルデアス人の死体の場所を見れば、銀河色に煌めく骨の欠片が夕焼けに光った。頭蓋骨だと、兵士はなんとなく理解した。
「…はぁあああ」
兵士は靴を焦がしながら骨を拾った。指先が切れそうな薄い破片だった。出自を知らなければ宝石のように見えるそれを、兵士はダクトテープで乱雑に巻き付けてから自身の認識票に仕舞い込んだ。
白い大地は互いに指名した
恨みはない。
どちらも利益を求めるための、必要な殺し合い。
互いの地肉を生贄に地球を富ませる肥料に、兵士達は選ばれただけだ。
「畜生が」
呟いた声は、誰にも聞かれずに消えた。
⭐︎★⭐︎★⭐︎★
新たに設立された新カルデア施設『彷徨海カルデアベース』にカルデア職員が集合していた。
半ば強制的な徴兵だった。
崩壊した南極のカルデアから機材をサルベージしつつ新施設に移住する作業としては非常に迅速な時間だった。それだけ国が本気であるという意味でもあるし、カルデアスが危険な存在であると認知された結果だった。
当然、藤丸も徴兵された。
そもそも世界戦争のために渡日は制限されていた。
しかもいつの間にかカウンセラーとして免許すら渡されていた。給料の額を見てキアラが嫉妬じみた口噛みをしたのは初めてだった。退職したいなあと思いながらホテル内で国連のシンパを増やす彼は下手な宗教家より邪悪だった。
モリアーティもニッコリである。
レイシフト適性者も全員復活し、各チームごとに別れて作戦に従事すると藤丸はデイビットから聞いていた。初対面であるのに異常さが一目で分かる存在だった。今も藤丸の真横でじっくりと見つめている。
マシュ、カドック、キリシュタリア、オフェリア、ペペロンチーノ、芥、デイビット、ベリル。
Aチーム─特異点主力攻略班。そこのチームとして藤丸は立っていた。
「Aチームに配属ざれまじだ…オルガマリーでず…」
「藤丸立香です…」
再編されたカルデアは藤丸とオルガマリーを合わせた10名をAチームとして選出していた。他のチームが10人で区分けしているため当然である。と藤丸は内心を誤魔化した。
給料が月給となっていよいよ社会人として就職している現在に藤丸はガバの気配を覚えた。マシュと一緒に渡された年金手帳が赤紙に見えた。幾人かのサーヴァント達が喜んでいたことが恐ろしいと藤丸は歯噛みしていた。
司令官はゴルドルフである。身内人事だったが、それに文句をつけるカルデアメンバーは存在しなかった。オルガマリーの胸にあったカルデア階級章を身に付けた(させられたとも言う)ゴルドルフはべそべそに泣くオルガマリーにハンカチを渡した。
「所長が所長(渾名)になってしまった…」
「降格人事、若しくは督戦隊というべきか。オレとアンナマリーが提出した証拠によりオルガマリーは無一文になるだけで無罪となった」
「ここ最近デイビットさんは気分がよろしいですね」
「当然だ。この戦争自体がマリスビリーの破綻を示している。カルデアス人類には忸怩たる思いはあるが、彼らにも可能性が残ったのは悪くないと考えている。思考は前向きであるべきだ」
デイビットは気分良く頷いた。
「今のオレはデイバイトゼムヴォイド。1日あたり40分の記憶を持つ男だからな」
「1日の出来事を纏めればそれくらいになりそうな容量ですね」
「ビット計算だったの…?」
素で返答したオフェリアとマシュに彼女達以外の全員が吹き出した。他のチームは悲壮感が大半な空気だったりするが、日刊世界の危機を過ごしてしまった新Aチームにプレッシャーはそれほどなかった。
「うんうん。世界を救う存在として頼もしい限りです。ですが、欠損なしでの勝利は最早消え失せました。全人類とカルデアスの戦争は、刻一刻とカルデアス人類の勝利へ近づいています」
未来の危機としてスポンサーとして就任したシオンもこれにはニッコリである。内容は辛辣極まりないものだったが。
「カルデアス人類は樹木を基礎とする液体生命体として侵略をしています」
神秘の隠蔽はカルデアス人類側も必要不可欠である。空想樹という名の宇宙服を着て戦争する宇宙人という設定は彼ら自身の生命を守る盾でもある。この神秘が漏れた瞬間、カルデアス人類は1人の進化の可能性の情報体を爆発させる。
「まさに宇宙爆弾!自己洗脳してこちらに侵略するカルデアス人類は非常に理性的です。理性的過ぎて順当にドクトリンで上回れているのが困りますが。私達の目的は戦争の早期解決。そのためには様々な障害を取り除く必要があります」
「戦争の加担じゃないのか?」
カドックの問いにシオンは馬鹿らしく笑って手を振った。
「戦争は負けても滅びませんし。カルデアス人類…異星の神が構築した戦争区域、有体に言えばテクスチャですが、あそこで死んだ生命体の結晶はカルデアス人類を地球人類として生まれ変わらせてます。ようは帰化作業です。最終的には有耶無耶になるのは目に見えてますので」
異常なほどカルデアス人類が地球に対して優位を与えているのはそれが理由だ。カルデアス人類は戦争の勝利ではなく、人類の存続を求めている。最後にいち民族として統合されるなら、評判を下げる行為は最悪の一手だ。
カルデアス人類と地球を結びつけるテクスチャの媒体因子は異星の神が開発したことをシオンは見抜いていた。概念的に人類という情報が移動する構築はカルデアスを棄てるカルデアス人類には不要だからだ。
計算結果が物理的にカルデアスから引き離されることでカルデアスの負荷が減少される。100年も続ければカルデアス世界の人類は存在しなくなるとシオン達は計算しているが、人類が保つのは疑わしいと考えていた。
「カルデアス人類も所詮人類。戦争に迎合しなかった反乱分子は大量にいます。異星の神はそれらを生きた聖杯として放逐し、世界各地に特異点もどきを創り上げています」
「ひっでぇ文化爆弾だな」
「面倒なので特異点としますが、特異点を作るカルデアス人は自らを加えた人類絶滅よりも感情を優先した生粋の逸脱者です。厄介なテロリストですが、彼らによって私達はチャンスが生まれました」
自身のサーヴァントである項羽の膝に腰掛けている芥もとい虞美人は首を傾げた。
「チャンス?」
「現在のカルデアスが暴走した要因は2016年が未定だからです。ならば、
レンズ・シバはマシュの盾の中にある1枚のみで、それも本体から複製した粗悪品だ。だが、マリスにより召喚されたカルデアス人類は100年後と現在の時系列を調整して行われている。この計算式を解析できれば、地球からカルデアスへのレイシフトは決して不可能な事象ではない。
「つまり…?」
「特異点を山のように解決してデカい特異点から弱点を抽出しましょう
「今までと何も変わらない!!」
藤丸達の仕事はやはり変わらなかった。
個人的な欲望→微小特異点
才能あったり欲が極まった空想樹→イベント特異点
多数の意思を集合した感情の廃棄物→ストーリー特異点
のイメージで。