当然独自設定です。
観測がない世界で自らを形創ることは、己の自我を剥き出しにする事に等しい。他人が支える己という評価を棄却した肉体は、いつだって取り繕った全てを脱ぎ捨てて顕現する。
魂が燃えるような熱を、
息をするだけで喉が焼ける。己の肉が焦げる匂いが漂っている。肉すらないのに、中身のない器に火を焚べて全てが無尽蔵に焼かれている。夜と闇に人が力を感じるのは熱を生み出す炎だ。弱いものを愛し、しかしその愚かな弱者を糧に燃え上がる、
「キリエライトの時系列なら、初めてあったのは第4次聖杯戦争のレイシフトだったよね」
「はい。マスターに魂喰いを行いふらふらと放浪していたリリスを、私達は討伐しました」
「あの後はね、本来ならアテシの真なるマスターちゃんと出会う予定だったんだ。…いや、出会っていたが正解かな」
座に帰ってからも忘れたことのない記憶。炎に包まれた冬木の光景が、眼前で燃え上がると誰かの叫び声に上書きされる。キャスターのリリスは聖杯が孕んでいる
「この服も、言葉も、友情も、◼︎◼︎は惜しみなく与えてくれた。ただの悪霊として定義されたアテシを救ってくれた。アテシはその恩のためならばキリエライトにだって助力する。あんたが生き残ることこそ、◼︎◼︎は次善に望む理想だから」
友情を選んだ結果だった。友を救った代償だった。誰かの絶叫を子守唄にして、私は消費された。現世に居座るつもりなど毛頭なかった。そうしなければ、あの死人の思考に囚われたマリスビリーは友を贄にするとわかっていたから。
幸運とは、主観的なものだ。誰かを幸せにするために誰かを犠牲にしても、踏みつけられた存在以外は幸せを享受することができる。
リリスは幸福と不幸を理解していた。マシュのために力を助力し、マシュを幸せにするために危険物を奪い取った。マシュが先陣を担う必要がない世界で、マシュの霊基を奪うことは、マシュのための幸福に他ならない。
「だからアンタに利益になるように霊基を掠め取った。
リリスの蹴りをマシュは盾で受け止めた。普段ならばなんてことのないDランクの一撃に、マシュの手から盾が零れ落ちた。それどころか、マシュの鎧の全身が細かくひび割れた。膝をつくマシュに、リリスは歯を剥き出しにした。
その領域は自我を失い、ただそこにあるだけの現象そのもの。本来ならばとうの昔に『魔術王の人理焼却を解決した1年間を永遠にループし続ける未来なき存在』として変貌するマシュを留めたのはオルガマリーだった。
彼女はかつてロマニとソロモンを分離したように、ギャラハッド霊基をマシュと分断させ、外付けの魔術礼装としてマシュの立ち位置を元に戻した。夢幻召喚の仔細を把握していたのもそのためだ。マシュは既に夢幻英霊として実践稼働していた。
その霊基をリリスは喰らい尽くした。
赤子に病と死をもたらす悪霊リリスは、男ならば8日、女なら20日の間、赤子を支配する権能がある。この赤子とは、母の股から産まれた子供を指す。つまりは、生誕した自我の薄い生命体をリリスは支配できる。
ならば、
「キリエライトの
「確かにギャラハッドさんは避妊に関して不健全だと夢見で語る人でしたが、彼の魂は間違いなく高潔で立派です。訂正してください」
「っ…!脳が!脳が…!!」
藤丸の下半身事情を聞かされたリリスは血反吐を吐いてもんどり打った。まともに返答が返らないと確信したマシュはため息を吐いてから右手の甲にある刺青に魔力が注げることを確認した。
「何故、私の立場を奪おうとするのですか、リリス。先輩の貞操観念にこだわりがある訳でもないでしょう。先輩の不興を買ってまで私の存在を奪うほど、貴女の恋は安いものではないはずだと確信していますが」
「何故か、ね」
リリスは態とらしくマシュに憐れみの目線を送った。
「それが分からないから、貴方は友だちがいないんだろうね」
「いますよ!数は少ないですけど!!!」
マリスビリー・アニムスフィアが潜入した第4次聖杯戦争に、リリスはキャスターとして参戦した。気に食わない
奇運な女だった。アサシンの吐息を吸い込む不運に出会いながらも、死にかけでリリスに見つかる幸運を持った女だった。死を看取るだけのリリスに『つまり産まれたばかりの糞悪霊の
令呪3画を(魔術師にとっては)無意味に使い捨て、彼女達は冬木から逃げ出した。ゴミのような争いより、カスみたいな嫌がらせをしたほうが気持ちがいい。そう笑った彼女の提案に乗った結論だった。
幸か不幸か、マリスビリーが接触したことにより彼女は何ひとつ背景を知らずに脱出出来た。
リリスと彼女は友となり、そして魔力不足により離別した。戦闘を一切しない、ただの無価値に無能で無意味な脱落をリリスは選んだ。別れ際にありったけの加護を与えたリリスは、彼女と酒を飲み交わしながら新幹線の車内で親友となった。
彼女は藤丸という男と結婚し、リリスの加護を受け継いだ子供を産んだ。
「理由なんて、何ひとつないよ」
現代では発現しようもないはずの、災厄にかからない肉体を潜在的に秘めた肉体。それはリリスの夫。死を司る天使。毒を意味する名を語源とするサマエルの再現。凡ゆる毒をその身に受け止め、凡その契約を実現実行する、今を生きる人類。
藤丸立香をリリスが運命だと結論したのは必然だった。
「アベルはカインを憎んで殺した。神の愛を受け取ったから殺した。それに意味なんかない、利益もない、役体すら、ありえない、有り得ない、ありえない。それが嫌いって感情でしょう?」
藤丸立香はサマエルの再誕としてリリスを妻にする運命だった。もしかしたらリリスの魂に酷似した運命の女が近場に存在したのかも知れない。そのはずだった。だが、人理焼却とマリスビリーがリリスの召喚を阻害し、全てはやっかみの戯言に変貌した。
「恋に狂った愚者が凶行に走った、ただそれだけ。それだけでいい。中身は、私だけが抱え落ちる。気に入らないだけが、キリエライトに与える結論だよ」
結局。
リリスはマシュ・キリエライトによって磨かれた藤丸立香に、召喚された側からどうしようもなく一目惚れしてしまうだけだ。横から掻っ攫ったマシュを気に入らなくて、気に入らなくて、ただ憎しみを募らせただけ。
リリスにも意地があるから、口にはしないけれども。
「じゃ、逝こっか♡」
「色々ありますが先輩を騙せると本気でお思いで?」
「だからキリエライトを喰らうんでしょうが。魂も脳も記憶も全部ごった混ぜてニュー・リリエライトとして生まれ変わる。ほーんのすこし、1%だけ
リリスは小躍りしながらマシュへと近づいた。そして痛みを感じないように頭部を粉砕するべくダブルスレッジハンマーを振り下ろした。人間には対応不可能な速度と力を両立した一撃は──すっと立ち上がったマシュに軽く避けられた。
「天誅!!」
「がっぺ」
マシュのカウンターの強打に、リリスは錐揉み回転して地に臥した。
「…。……。……あっるぅれぇー?」
「ええ、そうでしょうリリス。私も、あなたも、きっと意味なんか必要ない」
マシュは膝立ちのまま、刺青を─カルデアのサーヴァントによる全面協力の元作成された
「
当然である。公平を義務付けるギャラハッドの力よりも、藤丸をマスターとするならばその霊基は最適だ。母胎の時点で素養を宿し、その伴侶として守護の力を有するならば、マシュ・キリエライトが最も強くなる霊基はそれしかありえない。
その霊基が誰を贄にしたのかを理解して、リリスは目を見開いた。
「だから、
リリスは歯噛みした。奪ったギャラハッドの霊基の負担が異常に少ないことに気がつくべきだった。マシュは
マシュ・キリエライトが同じくリリスを排除しようと考えるのは、必然だったではないか!!
「な…ッ!?なん…でだぁ!!よぉ!!」
「リリス。
リリスは睨んだ。
マシュは嗤った。
普段の諍いとは反対の顔をした2人は、示し合わせたように霊基を解放した。
「アンタの人生が
「あなたの身体が
マシュとリリスは全く同じ装備を宿した。ギャラハッドを武装に藤丸を守護する存在としての
「マシュ・キリエライト─喧嘩に付き合ってもらうよ」
「リリス─あなたにだけは絶対に負けません」
互いに示し合わせたように、2人はリソースの全てを目の前の宿敵に振り分けた。夢であるが故に、自我と肉体の認識はあやふやとなる。接触による混ざり合う自我を、2人は唾を吐くことで否定した。盛大に火花を散らし併せながら、2人は殺戮の方法を同時に理解した。
意思を押し付けるのがこの世界の勝者だ。互いに勝つ手段は、敵を否定する剣で殺しきらなければならない。それを察したマシュとリリスは、互いに不慣れな斬撃を振るい合った。マシュは卓越した技術でそれを逸らし、リリスは並外れた肉体でそれを躱す。稚拙な攻めと反比例した防御に、2人は忌々しげに歯軋りをした。
「「死ね!!この阿婆擦れ女!!」」
後に不仲の詳細を聞いた藤丸がドン引きする、凄惨な恋争いが開幕した。
藤丸「色素が薄い髪の家庭的な人が好みかな。そう、マシュみたいな」
マシュ「(うそでしゅ…先輩は白髪歳上お姉さん系が嗜好…!所長のうなじを凝視しているのは分かっていましゅ…!!リリスにだけは負けません…!!)」