マリーの中の寄生虫   作:ややや

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初回「えっ何このオッ…推定オッサン。えっなんで2対1してんのウッソでしょ…子供の喧嘩に親が同伴するのは当然?…んにゃぴ…」
2回目「おらぁ復活じゃボケカスゥ!小娘1人程度あっこころつよい死ぬ」
8回目「ワタシ、まだ羽化してないんだが!?受験前…受験前!?」
今回「なんか観客がいる気がする…」


日常:死界魔霧都市 ロンドン

 見渡す限りの地平線。

 

 人理焼却から久しい澄んだ色の空だ。あおい、青い色の空の中で藤丸は半透明で浮いていた。夢であることはすぐにわかった。明晰夢なのかは定かではないが、出来れば覚えておきたいと彼は思った。

 

 所長同士が闘う夢なんて、素面なら想像も出来ない。

 

『「ハァアーッ!!」』

 

 拳と拳がぶつかり合い、魔力の奔流が火花と化して辺りにヒビを入れる。

 

 思わず藤丸は片手の令呪を起動した。撃鉄を動かしたような空撃ちの感覚が体内に響き渡る。夢の中で令呪は機能しないと藤丸は思い出した。土煙が藤丸の胴体を貫いたことで、彼はこの戦いに手出しできないことを直観した。

 

 息を吸い、息を吐く。

 

 戦っているのはオルガマリーと、話に聞いていたアンナマリーだろうか。いつもの服装に武装が追加されたオルガマリーと、腹部を露出した蠱惑的な薄着に巨大な角をもつアンナマリーがぎりぎりと拳を震わせながら押し合いをしている。

 

「狙って、倒す!」

 

 先制したのはオルガマリー。常に無い野生的な笑みを浮かべてアンナマリーを殴り付ける。それを半透明の障壁で防いだアンナマリーは、四つ足となって頭部にある角をドリルのように回転させてオルガマリーに発射したが、オルガマリーが生成したキューブ状の障壁にピンポイントで防がれた。

 

『なんだと!?』

「縮小物質、再展開!!」

 

 アンナマリーの角ごと彼女の肉体が空中に弾き飛ばされる。障壁は突撃槍らしき礼装となっていた。宙を蹴るような足捌きと合わせて礼装が巨大な靴として爪先蹴り(トゥーキック)をアンナマリーへ向ける。姿勢を整えたアンナマリーは同様に角を牙として踵落としを繰り出した。

 

『「レディオタワー!!」』

 

 ぎゃりぎゃりと礼装と角が歯軋りを起こして雷を創り出す。弾ける空気が互いの酸素を奪って生命力を減算する。膠着を捨てたオルガマリーは息を吐き出しながら裏拳をアンナマリーの側頭部に当てて吹き飛ばした。

 

『ぐっ…』

 

 数キロ先の岩壁に穴を開けながらオルガマリーは入念に礼装を確認する。槍のような形状はリボンのように柔らかく硬い1枚の織り込まれた金属板となっていた。

 

 星魂の守り糸(コード・アニムスフィア)。アンナマリーを倒すためにオルガマリーが創り上げた、戦闘能力のみを向上させる魔術使いとしての武器だ。

 

 魔術師としての腕はゴルドルフと仲良くしている以上お察しである。マリスビリーはオルガマリーに子供は思想相続を円滑にするためにも魔術師にするよう言明されている。オルガマリーはちょっと落ち込んだ。

 

「ダヴィンチには感謝しなきゃ…ここまで頑丈になるとはね」

 

 機能に問題がないことを認識した彼女はアンナマリーと同様に頭部に礼装を装着する。回転して光り輝く礼装を付けたその姿は天使の輪のようだった。

 

『頭がふらふらするぞ。なんだこれは。素晴らしいな!』

「新しい物好きの貴女らしい欠点ね。不要な中身も模倣して弱点を再現するのは」

『模倣ならば中身をいれてこそだろう!』

「それはそう」

 

 藤丸が知る由もないこととして。

 

 人類悪『浪費』の戦いは強制的に同一リソースで戦わされる。正確には、リソースを明確にしない場合、人類悪側の供給のタガが外れる。人類悪を討伐する方法は大まかに2択。全てを使い潰して無限に増加するリソースを潰し切るか、全てを制限して対等なスペックで人類悪を叩き潰すか。

 

 オルガマリーは後者を選び、勝利を繰り返している。

 

「カルデアスに何が起きてるの?」

『言えない!』

 

 音速の突撃を占星魔術で計算しながら軌道を逸らす。アンナマリーの瞬間移動に対してフラッシュを焚いて牽制する。会話は位置を探すためのツールだ。アンナマリーの討伐にはとにかく効率を必要とする。

 

「黒幕は?」

『見当も付かない!』

 

 大岩の投擲を礼装で防ぐ。分離する角を併用した乱打を天体魔術を利用して緊急回避をする。発動は一瞬で良い。地球に取り残されるだけの魔術は瞬間移動と変わらない。肉体強化を併用してオルガマリーはアンナマリーの左脚にヒビを入れた。

 

「目的くらい…奪われそうなナニかくらいは分かる?」

『分かってない!!』

 

 ワン、ツー、アッパー。ピーカブースタイルに転じたアンナマリーの隙を縫うような右ロー。膝に乗ったシャイニングウィザード。皮膚から出血した血を治しながらアンナマリーを崩している。

 

「無能!」

『ハハハ!すまない!!』

 

 世間話をしながら、オルガマリーは的確に相手を追い詰める。アンナマリーとオルガマリーで唯一異なるのは肉体だ。全身から血のかわりに結晶片を溢すアンナマリーに疲労は存在しない。音速を超える速度を常時維持しているはずなのに、負傷していくのはアンナマリーだけだ。

 

「肉体差があっても技術が稚拙。お勉強が足りなかったかしら」

『宿題は随時やっている!!』

 

 遂に左脚が砕かれたアンナマリーは地面にへばりつき、全身を結晶化させて地面に沈み込む。オルガマリーは軽く跳び下がり両手を地面に向けた。高笑いが辺りに響き、地面から這い出たのは全長が50メートルはあるだろう巨大なアンナマリーだった。

 

『ビッグマリーモード!!デカい方が強い!!スペシャルな力で踏み潰してや』

「環境無視魔力出し放題は初見殺しがやり易くて助かるわ」

 

 ぐちゃ。

 

 アンナマリーが肉塊となった。魔術の筈なのに、宝具のような力だった。天体魔術を利用したはずの攻撃は、観測者である藤丸の知識では全く理解の及ばない領域まで達していた。

 

アニムスフィアの魔術の本気を忘れたかしら?

『むむむ!流石は主人様!だが肉体を得たワタシはまだまだしぶといぞ!!』

 

 オルガマリーが手を空高く上げた。その手には何も無い。変化したのは空だ。高く、高く、誰にも見えない空の彼方から呼ばれたのは真っ赤に燃え盛る巨大な隕石。あの手この手で藤丸達と所長を分離させる魔神柱達が警戒する必殺の一撃。

 

 あまりにも大きい光の束に貫かれ、藤丸の意識は消えた。

 

 ⭐︎★⭐︎★⭐︎★

 

 目が覚める。身支度をして部屋を出た目の前には後輩であるマシュが立っていた。手にある書類から、たまたま廊下を歩いていたようだ。

 

「おはようございます、先輩。…顔色が、今朝はあまり優れないようですね」

「ちょっと変な夢を見てね」

 

 所長の本気を知らないのにサーヴァントのような戦闘と大魔術を妄想するのは痛い夢だと藤丸は自嘲する。藤丸の顔に何かを思いついたのか、マシュは顔を赤くして指を絡めながら下を向いた。

 

「そ、それはもしかして契約したサーヴァントの夢が見れるというあの…。も、ももしかしてでしゅが、それは、わたしの、その」

「いや、トンチキな夢だったよ」

「そ、そうですか。良かった…

 

 ホッとした息を出したマシュは、次いでハッとした表情で藤丸に笑いかけた。

 

「それでは、朝食後に管制室へ来てください。ドクターのブリーフィング後、特異点の攻略が始まりますので」

 

 藤丸は手早くエミヤ印の朝食を食べた。朝から重いがカツ丼を胃に収める。所長が不在の初の特異点攻略だ。今まで所長が執りなしていた片方の魔神柱を同時に相手しなければならない。少しでもゲンを担ぎたいと藤丸は考えていた。

 

「おはよう、藤丸君。良いタイミングだ。こちらも準備が整ったところだよ」

 

 管制室に入り次第ロマニの説明を藤丸はいつものように受けた。認識合わせのためであり、藤丸の不安をロマニが察知したからでもあった。

 

 魔神柱がソロモン王の魔神として稼働していた紀元前10世紀頃に特異点は見られなかったこと。かつて先代所長のマリスビリーがソロモン王をサーヴァントとして従えていたこと。そして、彼は既に死んでおり─おそらくは殺されていること。

 

「魔神柱を従えている黒幕の正体。正直、ボクには見当も付かない。けれど、特異点が解消されている以上、いずれ痺れを切らして姿を見せるのは間違いない。ボク達は解決に向かって進んでいることを忘れないでくれ」

 

 ロマニの激励にマシュと藤丸は深く頷いた。ロマニはその姿に口元を綻ばせたが、軽く首を振って真剣な表情で藤丸達の肩を掴んだ。

 

「正直、ボクは所長の判断を認めたくない。カルデアの一員として間違っているのは分かっていても、人理修復は所長を含めた3人が理想だと思っている」

「ドクター…」

「それでも、君達は行くんだね?」

 

 半分確信を含んだ言葉に、藤丸達は頷いた。ロマニは手を振るわせ、一瞬だけ天井を仰いだ。いつもの癖である左手で首を掴んだロマニは、跪いた後に優しげな笑みで彼らの手を握った。

 

「頼んだよ。マシュ、藤丸」

「「はい!!」」

 

 そして、彼らは初めて人類悪と対峙する。

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