藤丸達にとって初となる単独の人理修復は、ところどころに危機こそあったものの順調に聖杯を手にすることが出来た。彼らカルデアが一丸となって藤丸達をサポートしたからであり、オルガマリーの背中を見て学んでいたからでもあった。
マキリ・ゾォルケンにより人格が歪められたランサーアルトリアを撃破した藤丸達は、現地サーヴァントであるモードレッド・シェイクスピア・アンデルセン・金時・玉藻との会話もそこそこに聖杯を回収すべく聖杯に歩んで行った。
「─ッ!!」
しかし、聖杯を手にする直前にマシュは咄嗟に藤丸を掴んで跳び退いた。悍ましい殺気と寒気が混じった気配に本能的に防御を選んだ結果だった。カルデアから観測機であるシバが不安定となり、ロマニ達との通信が途切れ途切れとなる。
「カルデアは時間軸から外れた故、誰にも見つける事のできない拠点となった。無様にも、無惨にも、無益にも、我が眼から観測が困難となる故に生き延びている。大海に棄てられた哀れな小船のように」
白髪の褐色肌に、全身の刺青。三つ編みには魔神柱のような眼球が辺りを見渡している。震えるほどの霊基と魔力が、この場にいる全員の肌を震わせた。
「オルガマリー・アニムスフィアは察していた。奴がレイシフト出来る回数は幾許も無い。あの女はレイシフトの度にコイントスで己の生死を賭けている。故に、愚者は1人だけ。燃え尽きた人類史に残った染み。私の事業に唯一自発的に逆らえるのは─藤丸立香、貴様だけだと」
「この72柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの。名をソロモン。数多無象の英霊どもの頂点に立つ、7つの冠位の一角を知るが良い」
ソロモンは、藤丸達を全く相手にしていなかった。7つ全ての特異点を消去出来たならば敵と見做すと、傲慢にサーヴァントを薙ぎ払った。
通常のサーヴァントを『個人に対する
マシュは歯噛みした。ようやく現れた元凶になす術なく防戦一方。しかも、その理由は見下し故にだ。あらゆる生命への感謝がない故に弄んで楽しんでいる。
「生命を、なんだと─!」
「死を前提にする時点で語る価値もないな。ひたすらに死に続け、無為を繰り返す人間は死を克服出来ない。その無駄な知性など、無様さから捨て去るべきだった」
侮蔑の目線でソロモンは嘲った。藤丸達以外の全てのサーヴァントが消滅し、マシュも魔神柱に押し潰されないよう防御するだけで精一杯。路上に転がる聖杯を眺めながら、ソロモンは呟いた。
「…オルガマリーは、来ないか」
『随分と警戒しているんだね、ソロモン王』
「あれほど献身的で憐れな女を私は知らんな。それに気付かぬ貴様らの間抜けぶりにも」
「所長は素晴らしい人です!」
ソロモンの揶揄にマシュは叫んだ。それに対してソロモンは笑った。げらげらと、横に侍らせた魔神柱達も併せて嗤う
「人か。それを棄てて現象になる女が素晴らしいと!
ソロモンは下品に哄笑していた。こいつは頭がお悪いんだなという差別的な目線で藤丸達を見ていた。
ヒトの身でサーヴァント複数体で斃せる魔神柱を何故撃破したのか。
十全にある魔力を持ちながら何故サーヴァントと契約出来ないのか。
そして、このソロモンが警戒しているという事実に何故恐怖しないのか。
─この連中はオルガマリー・アニムスフィアの何を知って信頼しているのか!
「何を…言っているんですか…!?」
「分からないならそれで良い。フラウロスが失敗した以上、私と最期に相まみえるのはオルガマリーだ。奴を潰せない以上、この場所にいる価値は全くない」
ソロモンは魔神柱でぞんざいに聖杯と藤丸達を投げ捨てた。
「そら、鼠らしく逃げ惑うが良い」
『─強制レイシフト、実行!!』
藤丸達がカルデアに帰還する。初の単独任務の成功。黒幕との接触。大きく解決の一歩を踏み込んだはずのカルデア内は暗いままだ。明らかに見逃されていた。屈辱と恐怖が全員にベッタリとくっついていた。
「お帰り、2人とも。無事に…とは言い難いけど、とにかく良かった」
「ダヴィンチちゃん…」
ようやく人心地ついた藤丸は、ガックリと項垂れた。
「俺、何も出来ませんでした」
「いや、君達は良くやり切ったよ。そこにいるロマニを見てご覧」
ロマニは完全に呆けていた。膝を着き、ドッペルゲンガーを見たような驚愕の表情を貼り付けたままに頭を抱えている。絶望と称すには混乱が多く、健康診断で余命を宣告された人みたいだと藤丸は場違いに思った。
「なんてコトだ…こんな…こんなコトが…」
「あの通り、さっきからダメになってる。後で所長に気合いを入れてもらうことにしよう」
「…はっ!す、すまない2人とも。ピンチなのは君達なのに、あまりのショックで…ごめん」
もっと早く強制レイシフトをするべきだったとロマニは頭を下げた。
「ソロモンが君達を消しにかかっていたら、その時点で終わりだった。ボクだけが所長の期待を裏切ってしまった。申し開きもない」
「私が何ですって?」
「所長!…所長!?」
オルガマリーの声に喜びの声を上げたマシュが即座に顔を曇らせた。管制室に入ってきたオルガマリーは尋常ではないほどぼろぼろだった。服は血塗れで、全身には裂傷が目立ち、右腕は大火傷、左腕は明らかに骨折している。
具体的には重症差分が表示されるくらい負傷していた。
「だ、大丈夫ですか!?ち、治療を済ませたほうが!!」
「ロマニがいないから態々歩いてきたのよ。全く、怪我人を歩かせないでよ」
管制室にある空いていたロマニの椅子に座ったオルガマリーは、ロマニの止血を受けながら鬱陶しげに髪を解いた。
「あー、疲れた。皆、私がいない間の人理修復お見事でした。黒幕もわかったことですし、今日は衛宮を酷使してパーティでも」
「所長」
「どうしたの、藤丸?」
「ソロモンが機構になるって言ってました。…本当ですか?」
「はぁ?」
藤丸の質問にオルガマリーの目が猫目となった。あからさまに馬鹿にした顔付きに、藤丸は一歩下がった。
「黒幕の戯言を気にしてるの?マシュならともかく、私にソレは起きないわよ、馬鹿馬鹿しい。あんなもの心意気ひとつでどうにでもなるわよ」
本気でどうでも良さげに話すオルガマリーに、マシュはほっと息を吐いた。
「なら、レイシフトも嘘ということでしょうか」
「あー、それは本当。アンナマリーから霊基を回収してからレイシフト率が元に戻りつつあるから。多分、あと1回が限界だと思う」
マシュが涙目となったのを見て、オルガマリーは慌てて彼女を抱きしめた。
「だ、大丈夫よ。本来の業務に戻るだけよ。それに、手助けはするわよ。そのために態々アンナマリーを調整したのだから。そうね、ついでだし医務室に運んでちょうだい」
「わかりました…」
何故か暗いまま解散する雰囲気にオルガマリーは首を傾げたが、無駄に傷を負った存在がいればそうなるかと思い直した。正直、疲労により考える余裕が無かった。
「ああ、そういえばロマニ。アンナマリーから伝言よ」
「なんだい?」
「『マギ⭐︎マリ』のアイドル…別世界の女マーリンを召喚したからブログは当分更新できないって」
ロマニは崩れ落ちた。
???「マギ⭐︎マリ?確かにやってるよ。まあ召喚されたからには一時閉鎖になるかな。配信?この世界でするわけないじゃないか」