世界樹のふもとで、風が揺れていた。
巨大な幹の影で、ゴンの背中が少しずつ遠ざかっていくのが分かる
もう振り返らない。
それが、あいつなりの覚悟だって分かっているから。
「……行っちゃったね」
小さな声が、キルアの隣から聞こえた。
アルカはキルアの服の裾をぎゅっと掴みながら、空を見上げている。
その瞳は、少し寂しそうで、それでも不安を押し殺すように澄んでいた。
「……ああ」
短く答えたあと、キルアは一度だけ深く息を吐いた。
ゴンと一緒にいた時間。
命を懸けて、笑って、怒って、走って――
もう戻らない日々が脳裏に思い出として過ぎ去っていく
「でもさ」
キルアはアルカの方を見て、少しだけ口角を上げる。
「また会えるはずさ!」
「うん!」
アルカは即座に笑顔になる。
「お兄ちゃんが一緒なら、どこでもいいよ!」
その言葉に、胸の奥がきゅっと締め付けられた。
――ああ、そうだ。俺にはまだ"護るべき存在"がいる
だからオレはもう、迷わない。
ゴンの隣にいる役目は終わった。
でも、俺たちの人生は、終わっちゃいない。…またどこかで
『またなゴン!』
◆
夜。
人里離れた山中の簡易テントで、キルアは目を覚ました。
違和感があった。
空気が、重い。
いや、違う――歪んでいる。
「……アルカ」
すぐに隣を見る。
アルカは眠っていたが、その額にうっすら汗が滲んでいた。
「ナニカ……?」
キルアが小声で呼びかけると、アルカの体がびくりと震える。
次の瞬間。
――空間が、音を立てて“割れた”。
視界が白に染まり、足元の感覚が消える。
重力も、方向も、常識も――すべてが失われる。
「キルア!」
アルカが叫ぶ。
キルアは反射的にアルカを抱き寄せ、腕に力を込めた。
「離すなよ!」
雷のような衝撃が、体を貫いた。
◆
――ドンッ!!
鈍い音と共に、二人は地面に叩きつけられた。
「っ……!」
キルアはすぐに起き上がり、周囲を確認する。
舗装された道路、無機質な建物、聞き慣れないサイレン音。
「……ここはどこだ?」
見上げた空には、見知らぬ都市の輪郭が広がっていた。
「お兄ちゃん……」
アルカは少し震えながらも、しっかりと立っている。
「大丈夫か?どこか怪我してないか?」
「うん。大丈夫。でも……変な感じ」
その言葉通り、キルアの肌がぴりっと痺れた。
――強烈な視線。
「おい、見ろよ……」
「子ども……?」
通行人たちが、ざわつき始める。
だが、キルアの警戒心が反応したのは、彼らじゃない。
ビルの屋上。
そこから、異様な殺気が降りてきていた。
「……アルカ…下がれ」
キルアはアルカを護るため一歩前に出る。
次の瞬間。
「ヒャハハハ!!」
人間とは思えないほど歪んだ笑い声と共に、**巨大な“何か”**が道路へ飛び降りてきた。
異形の体。
不自然に膨れ上がった腕。
それでも、人の形をしている。
「……なんだ、あれ」
キルアは直感で理解する。
――こいつは…敵だ。
「怪我人を増やす前に片付けるか」
アルカの前に立ち、キルアは構えた。
コイツかは念は……感じない。
だが、何か別の違和感…念とはどこか違う…
「お前ら、ヒーロー気取りかぁ!?」
化け物が地面を踏み抜き、突っ込んでくる。
速い。
でも――
「遅せぇよ!」
キルアの姿が、一瞬で消えた。
次の瞬間、化け物の頭上。
化け物が頭上を見上げるより先にキルアの指先から青い稲妻が走り、首筋へ正確な一撃。
『落雷(ナルカミ)!!』
「――ッ!?」
膝をついた相手を見下ろし、キルアは眉をひそめた。
「……俺の雷受けてまだ意識があるのか!?」
“普通の人間”じゃない。過去キメラアントと言った外来種と対峙したことのあるキルアは
それだけは、はっきりと理解していた
ーーするとその時!
「お兄ちゃん!」
背後でアルカが叫んだ。
慌てて後ろを振り返るとそこには
別の影が、次々と現れ始めていた。
7.8〜いや10はいるか…とにかく数が多い。
周りを見渡すとーー街の人間たちは、逃げ惑っている。
「……ちっ」
キルアは歯を噛みしめる。
ゴンがいれば、なんて考えはしない。
今ここにいるのは、オレだけだ!
「アルカ、絶対に動くなよ!」
「うん……!」
「神速(カンムル)!」
神速(カンムル)・電気オーラを使って自らの肉体に指令を出すことで、神経による伝達では不可能な超スピードを実現する技の一つである
キルアは蒼白い紫電を纏い神速の速さで再び地面を蹴った。
「ギュルルルルァァァ!!」
下卑た笑い声がこだまする
一体が、地面を蹴った。
常人とは思えないスピードを放つ
だが――
「……遅い」
キルアの呟きは、誰にも届かないほど小さく…
(数が多い。長引かせるわけにはいかないか)
判断は、一瞬。
――バチッ。
空気が、弾けた。その瞬間…世界が、止まったかのように
いや――
置き去りにされたのだった。
◆
一体目。
踏み出した瞬間、一瞬で背後に移動する
喉元へ、正確な一撃を放つ
怪人が“何か”を理解する前に、意識が断たれる。
二体目。
振り向いた瞬間、膝が砕ける。
倒れる途中で、後頭部を踏み砕く
三体目、四体目。
視界に入った順に、ただ処理されていく。
「ギャッ――」
言葉は、最後まで続かない。
キルアは止まらない。
神速は、“手動”で行う技じゃない。
反射そのものを雷に委ねる状態になることである
避ける、攻撃する、間合いを詰める――
そのすべてが、意識を介さず完結する。
怪人の攻撃が当たる未来そのものを、消していく。
「グギャッ!」
最後の一体が叫びかけた瞬間。
キルアは、すでにその懐に潜んでおり
「……静かにしろ」
電光が、爆ぜる。
――ドサッ。
すべてが終わり
雷鳴が響き渡る音が遅れて夜に溶けていく。
「お兄ちゃん大丈夫!?」
全てを片付けた後アルカがこちらに走り寄って来るのが見える。
「あぁ…大丈夫だよ…」
(この後…どうするべきか…ここが何処かまずは知る必要があるな…それに寝床に食料…やることは多い。とりあえずここを離れるか)
「アルッ」
アルカ呼ぼうとしたその瞬間
「私がぁぁぁぁぁぁぉぁ来たぁぁ!」
重く、しかしよく通る声が響いた。キルアが慌てて振り向くとそこには…
街灯の光の中から、筋骨隆々の男が飛び出てくるのが見えた
◆
数秒後。
路地裏に、圧倒的な存在感が降り立つ。
「――もう大丈夫だ、少年少女たち!」
低く、しかし力強い声。
キルアが顔を上げると、そこに立っていたのは――
作り物のような筋肉を持つ金髪の男だった。
背は高く、やたら笑顔が眩しい…だが、その奥にある眼差しは鋭い、まさに修羅場を何度も経験してきた奴の顔だ
(……強い)
一目で分かった。
こいつは――今戦った奴らの誰よりも、強い、桁違いだ
「君が、彼らを止めたのか?」
「…まぁね…いきなり襲いかかってくるんでビックリしたよ。…多少力加減ミスったから運が良かったら生きてるかもね」
キルアは警戒を解かず、距離を保つ。
この男が敵なら、アルカを連れ逃げる準備はできている。
だが男は、肩の力を抜いて笑った。
「そうか。怖がらせてしまったかな。私はオールマイト。ヒーローだ」
「ヒーロー……」
聞き慣れない言葉。
だが、この男が“善人”であることは、雰囲気で分かる。
その時だった。
キルアの視界が、ふっと揺れた。
(……ヤバ)
カンムルでの戦闘。食事も睡眠も足りていないこの状況に数刻前に撃たれた謎のダメージも後を引いており
身体は限界に近かった。
「お兄ちゃん!」
「おっと!」
倒れかけたキルアを、オールマイトが咄嗟に受け止める。
細い身体。にも関わらずしなやかな無駄のない筋肉…
しかし信じられないほど軽い。
(……この子は…この子達は…)
オールマイトは、胸の奥がざわつくのを感じていた。
◆
目を覚ました時、キルアは白い天井を見ていた。
「お兄ちゃん!」
「……アル…カ…ここは病院?」
「正解だ。ほらアルカ少女も離れてあげなさい。まだ怪我が響いてるかも知れない」
「はぁーい!」
隣の椅子に、オールマイトが座っている。
今は筋肉の少ない、痩せた姿だった。
「……変身能力か?」
「はは、鋭いな」
キルアはベッドから身を起こし、周囲を確認する。
拘束はない。逃げようと思えばアルカを連れ逃げられる。
「なぁ」
オールマイトが、静かに口を開いた。
「君は、君たちはどこから来た?」
「……」
キルアは黙ったまま、視線を逸らす。正直に言っていいものか…明らかに自分達が前までいた世界とは違う景色…建物…能力者の数々…ここがグリードアイランドのようなゲーム世界じゃなければ説明のつかない連続だった。
「無理に話さなくていい」
その言葉に、キルアは少しだけ驚いた。
「だが――君は…君たちはまだ、子どもだ」
オールマイトの声は、ヒーローとしてではなく、
一人の大人としてのものだった。
「守られるべき存在だ」
「……俺は」
キルアは、拳を握る。
「…守られるほど弱くねぇ」
「それは知っているさ…先ほどの戦闘の痕跡から見て君が明らかに年齢を超えた力を有しているのはね!…でも護るべき存在があるんだろう?…ここは私にも協力させてくれないか?」
「…」
キルアは、何も言えなかった。
◆
数週間後。
キルアは、オールマイトの自宅で暮らし始めていた。
理由は単純だ。
行く当てがなかった。
俺以前に金銭――住居…食料…全て揃ってるならそこで暮らした方がアルカにとっては良いに決まってるからな
ちなみにオールマイトには全てとは言わなくてもある程度のこと…別世界からやってきたこと…アルカとナニカのこと…それに今は俺ら2人しかいないことは伝えてある。ちなみにアルカとナニカは多重人格として落ち着いた。
「なぁオッサン」
「オールマイト!もしくはオジサンと言いなさい!」
「どっちでもいいだろ」
キルアはソファに寝転がりながら言う。
「この世界の“個性”ってやつ、全員持ってんのか?」
「約8割って言われてるね」
「ふーん……じゃあ俺は少数派か」
キルアには個性がない。
だが、電撃と神速は“念による技術”の応用だ。この世界にも念はあるのだろうか…試しにオッサンで試してみるのもありか
「君の力は、間違いなく本物だ」
「……だったら」
キルアは天井を見つめる。アルカを護るため…それに元の世界に戻れる確証が無いのならこの世界で生き残れる術を身につけるために
「俺も、ヒーローってやつになれるのか?」
沈黙。
そして、オールマイトは笑った。
「なれるとも」
太陽のような笑顔で。
「君が望むなら、私が導こう。あ、ところで提案なんだが君たちは今の所戸籍が無い状態なんだがそれだと色々と不便だろう…特に君たちはまだ青春真っ只中の12歳と11歳だ。…よかればうちの子にならないかい?」
「は?」
「え!オールマイトおじさんの子供に!?」
俺は一瞬何を言われたのかわからない声を上げアルカは何故か嬉しそうな声を上げおっさんに飛びつくのだった。…一瞬で懐いたな…アルカはゾルディック家では隔離されてたし俺以外とは喋った記憶すらないだろうからな。無理もない話か…ナニカも何故かおっさんには何も要望しないしな
「つっても俺おっさんの名前すら知らないんだけどオールマイトが本名なのか?」
「そこ!?…あぁそういえば言ってなかったね私の名前は八木俊典。君たちが私の子供になってくれるとすれば八木が苗字として八木キルアに八木アルカになるね。どうだい?」
「八木アルカァ〜!うん!なる!おじ…パパの子供に!」
「おいアルカっ勝手にっ!」
「パパッ!?」
俺の言葉は無視にアルカのパパ発言にまるで雷にでも撃たれたかのような衝撃を受け固まり感動し出すおっさん
その後戻ってきたオールマイトは笑った。
「じゃあ決まりだ!今日から私たちは家族だ!家族で助けあい色んなことを経験しておこう。私は君たちが無事に楽しく過ごせるように全身全霊を尽くすからね!」
「うん!パパ!」「ぐはっ!」
「…もう良いってそれ」
前の親父…暗殺者家系の当主として君臨していた人物とあまりにも違いすぎる父親に俺は若干の呆れと共に何故か心が和らぐのを感じていた
そしてその日、
オールマイトは正式にキルアとアルカを養子として迎える決意を固めたのだった
これは――
平和の象徴が拾った、
ひとりの暗殺者の少年が“ヒーロー”へ至る物語である