「誰も居ないね…。」
「そんな筈はない筈なんだが。」
まさか、ラッド、ここまで綺麗に掃除を……?――いや、無いな、ありえない。あいつは血を見たら水遊びのように遊ぶタイプだろう。いや、まぁ見たことが無いためわからないが……だが、綺麗にしていくタイプではない、それは、あの服を見れば一目瞭然だ。
真っ白な紙に赤い絵の具を無差別にまき散らしたかのようなあの服を着た人間が綺麗好きなど到底ありえないだろう。
「……わけがわからない。だが、ここにはもう用は無い。行くぞ。」
「う、うん…。」
ミシェルは元来た道を戻り、連結部……つまり外に出る。
そこで、ふと思い浮かぶ。…上の方が断然楽なのではないか、と。
人はそうそういないだろう。まず、あの狭い道を通るのはあまり好きではない。
「シャーリー…上に行くぞ。」
「え、上?」
「ああ、列車の屋根だ。そこから行ったほうが断然早い。」
「まずどこに行くの?」
「それは歩きながら話す。」
ミシェルはそう言うと、梯子を登り屋根上に立つ。
「思ったより風が強いな。シャーリー、大丈夫か?」
「っ――へ、平気。」
シャーリーもそれに続き立ち上がる。風になびく長い髪がうっとおしくなり一つに結ぶ。
「で、どこに行くの?」
「黒服の奴らのところに行く。」
「黒服って、あの?」
二人は少しばかり早歩きで前へと進む。
「ああ、白服の奴らのボスはラッドだ。あいつは放っておくしかないだろう。
だが、黒服の奴らは違う。まず、あいつらのボスは顔を一切出していない。
ということは、本拠地に居るだろう。」
「…なるほど。まぁ、そっちはわかった。他にも聞きたいことあるんだけど。」
「なんだ?」
「レイルトレーサーのこと、ミシェル、レイルトレーサーの本名わかってたから、何でかなって。」
そう、ミシェルはレイルトレーサーのことをクレアと呼んだ。そして、レイルトレーサーは否定しなかった。
ということは、クレアが本名なのだろう。だが、何故知っている?それが謎なのだ。
「少し前に、クレアの事件に立ち会ったと言っただろ?その時、DD…Daily Daysで買った。」
Daily Daysとは情報屋だ。まぁ、表の顔は新聞社なのだが。
そこで文字通り、買ったのだ。ミシェルの、いや、何でも屋の情報と引き換えに。
向こうが代金はミシェルの情報だけでいいと言ってくれたのだ。逆にそれが幸運だった。
なぜなら、ミシェルは別に自分の情報がどこに流出しようと構わないからだ。
なぜ、シカゴにあるただの個人企業の情報を欲しがったのかは謎だが、別にそれは問題ではない。
それよりも、教えてから依頼してくる人が増え、お礼を言いたいくらいなのだ。
「買ったって、売ってるものなの?」
「まぁ、半分は俺個人で調べたんだが…。」
「有名そうだもんねー彼。」
「俺達の業界では、だろう。」
「流石に、表の業界では有名じゃないの?」
「たまに新聞に乗るくらいだろ…きっと。」
そんなことを話しているうちに結構前の方に来ていた。
「そろそろ降りるぞ。」
「はーい。」
ミシェルは丁度、近くにあった車輌の連結部に飛び降りる。
「何だ!貴様っ。」
だが、そこはもう黒服のテリトリーだったようだ。突然目の前に現れた男に驚きながらも銃を向ける。
「ただの通りすがりですよ。」
「どこが通りすがりだ!上から現れただろう!」
その後ろからまたも、上から女が降ってきた、と言っても綺麗に着地したが。
「ちょっと!飛び降りるとか危ないことしないでよ!」
「その言葉、そっくりそのままお前に返す。」
二人が訳の分からないことで言い合いをしているうちに黒服の一人は近くにいる黒服を呼び、何処かへ連絡をしろと伝えている。
それから少し経ち、黒服の男がやってきた。
「こいつらか、上から現れたというのは。」
「はい、いきなり降ってきまして…。」
「撃ち殺せば良かっただろう。何故連絡を寄越した!」
「す、すみません!…でも、こいつら銃を向けてもビビリもしなくて…。」
「そんな簡単なことで呼ぶのではない。私は忙しいのだ、分かったな?」
「は、はいっ!」
ミシェルたちをおいてけぼりにして話は進んでいく。
「ねぇ、こいつら、気絶させたりとかしちゃダメなの?」
「ダメだ。今回ここに来たのには目的がある。」
「ふーん…目的かぁ。」
彼らが自分達の話で盛り上がっている中、二人は黒服たちに聞こえないような声量で話し合っていた。
「おい、こいつらを縛って餓鬼共と一緒に放り込んでおけ!」
「わ、わかりました!」
そう言われた黒服はロープを持ってミシェルに近付く。
だが、ミシェルは抵抗はしない。つまりはこういう作戦なのだ。
それに見習い、シャーリーは黒服がロープで自身を縛っているというのに抵抗の一つもしなかった。