ミシェルは走っていた。ただ、ただ走っていた。
途中、扉を開ける行為が面倒になり、屋根に登り、シャーリーに合流しようと思っていたのだ。
だが、腕が使えない状態……と言っても、無理をすれば使えないことはないが……のミシェルにとって屋根に登るのも一苦労であり、時間が掛かってしまった。
そんな時、積み荷を渡している巨人の男…ドニーとソレを受け取っているニースとばったり出くわしたのだ。
ミシェルは連結部に降り二人に話しかける。
「ニースか。無事か?」
「私は大丈夫です。それより、ミシェルさんのほうがやばいんじゃ?」
「…かも知れないな。ったく、シャーリーはどこに居るんだ。」
「シャーリーさんですか?シャーリーさんなら、ジャグジーと一緒に居ると思いますよ。向こうです。」
ニースの指差す方向にミシェルも顔を向ける。
そして、ニースに礼を言うとまた走りだした。
それから、また少し走るとミシェル自身の相方。シャーリーがこちらに向かってきていた。
彼女の手には黒い物体が握られていた。
「ああ、ミシェル!って……手ブラーンってさせてどうしたの?」
「…関節が外れただけだ。」
あっけらかんと言うミシェルにシャーリーは目をこれまでかという程見開いた。
「はぁ!?それなのに何でそんな普通にしてられるの!?こっち来て!」
シャーリーはミシェルの腕を掴もうと自身の手をあげるがハッとしてからミシェルの服を掴み、ひとつの部屋に入った。
ミシェルを座らせシャーリーはミシェルの腕の関節を付け直した。
ミシェル自身も関節を付け直すぐらいのことはできるのだが、流石に両腕とも外れてしまっては無理だ。
その為こうやってシャーリーを探していたのである。
「全く、無理したらダメだよ!」
「分かってる。さて、行くぞ。」
「どこに?」
「お前がおいてけぼりにした奴のところだ。」
「あ、バレてた?」
「当然だ。……ニースがジャグジーと一緒にいるって言ってたからな。」
盛大なため息をついたミシェルはシャーリーの頭を軽く小突き、部屋から出た。
シャーリーに軽く話を聞いたミシェルは元きた道を引き返し始めた。
「あれ、何でこっち?」
「黒服の武器は火炎放射器なんだろ?ならまずは逃げる。相手から距離を取る為にな。
それなら後ろに行くのが一番だ。シャーリーの話から行くとジャグジーはこっちだ。」
「なるほどー。」
納得したシャーリーはミシェルの後に着いて行く。
引き返すということはニースたちと会うはずなのだが、そこには誰も居なかった。
ミシェルは疑問に思いながらも次の扉を開けようとする。
だが、シャーリーの言葉でミシェルは立ち止まった。
「あれは…レイルトレーサー?」
「なに?」
ミシェルはシャーリーの向いている方に顔を向ける。
すると、そこにはロープを持ったレイルトレーサーがいた。
そのロープの先を見るとアイザックたちがいる。ガンマンと赤いドレスだ見間違える筈がない。
「これはまた面倒な。……おい!レイルトレーサー!」
ミシェルがレイルトレーサーに呼びかけるとその声を反応して彼がこちらに顔を向ける。
何だ?とでも言っているような顔だ。
「手を貸してやる。あいつらは俺の知り合いなんでな。」
「……じゃあ、お願いしようか。流石に俺一人じゃ時間がかかるからな。」
そう言いながらレイルトレーサーはミシェルの横にやって来る。
列車の側面にいたというのに何とも身軽な男だ。
レイルトレーサーの掴んでいるロープをミシェルとシャーリーが掴む。
「今回は手を出さないでやる。だが、こんなこと、一度きりだ。」
「同感だ。貴様と手を組むなんて考えただけでも反吐が出るからな。」
「こんな時まで喧嘩しないでよ……。」
そして、三人は力一杯ロープを引いた。
誰かが力を入れ過ぎたのか、それとも皆力が強かったのか、どちらなのかはわからないが、ロープはそのまま宙を舞い、屋根を飛び越え車両の反対側へと落ちていった。
だが、それでも充分だったようで、アイザックたちはどうにか列車に登ることができたようだ。
「よかった。」
「………まぁ、そうだな。」
ミシェルとシャーリーは安堵し、ロープを離した。
もうその頃にはレイルトレーサーは居なくなっており、姿がなかった。
シャーリーははっとした表情で、ミシェルに目を向ける。
「そうだ、ミシェル。騙したでしょ。」
「……何のことだか。」
彼女の言っていることはミシェルとレイルトレーサーのこと。ミシェルは情報を買ったと言っていたが、それではレイルトレーサーのあの口振りが説明つかないのだ。
最低でも一回は顔を合せたことのあるような口振りが。
「レイルトレーサーと何の関係があるの?」
「そんなことよりシャーリー、さっきから手に持ってるソレ、何だ?」
「ああ、これ?黒服のリーダーが持ってたのスって来た。って、話逸らすな!」
シャーリーが手を持っている黒い物体を握りしめ怒鳴る。
その瞬間、その物体から銃声が鳴り響き、銃弾が空を向かって放たれた。
「っ!?……危なかった。……てか、ほんと何、これ。」
後数ミリずれていたら確実に指が消えていたが、運良く助かったので気にしないでおこう。
それよりも、この小型拳銃が何なのか、それを調べるに夢中になっているのだから。
――――こうして、フライングプッシーフット号内で起きた馬鹿騒ぎは幕を閉じる。
あとは、話を締めくくるだけ。
それで、この二人の物語は幕を閉じる。