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学校2日目、どうやら義務教育の例に漏れずこの学校も第1週であるところの授業は担当教師との顔合わせや授業方針の説明が中心で特に難しい話を聞くこともなかった。昨日雪ノ下に言われたこともあって授業時間はそれなりに気を張り詰めていたが帰りのHRの時間になり他の真面目な生徒たちもある程度気を抜いていた。そんな中、担任であるところの星之宮先生が全体に関する連絡を行っていた。
「今日はこれで解散だけど、この後体育館で部活動に関する説明会がありま~す!参加は自由だけどすでに入部を決めてる人なんかはその場で申請できたりするからぜひ参加してみてね。興味ない人ももしかしたらなんかいい部活が見つかるかもね~。生徒会の挨拶なんかもやってるよ。じゃあ今日は終わります。さようなら~!」
みんなが口々に帰り支度を進める中、俺はどうしたものかと考えていると神崎が声をかけてきた。
「比企谷は何か部活動に入る予定はあるのか?」
「いや、俺は今のところ特に入る予定はないな。そういうお前は何か入るところ決めてたりするのか?」
「俺も特に部活動をしようとは思っていないな…一之瀬のように中学の頃から何かをやっていれば変わったのかもしれないが、生憎と帰宅部だったからな。比企谷は何か部活とかしてたのか?」
「まぁ一応は、けどまぁ…変な部活だったしここにはないだろ。多分。」
俺の返答で神崎は何かマイナーなスポーツか何かの部活をしていると判断したのか納得したように頷いた。しかし2人とも説明会に興味がないのでは広がる話もない。帰ろうかとしたところになぜか由比ヶ浜と一之瀬がこちらまで来ていた。
「あっ、ヒッキー!今からほなみんと説明会行こうと思うんだけど一緒に行かない?」
「比企谷君と、神崎君もよかったらどうかな…?もしかして興味なかったりする?」
どうやら女子2人はすでにかなり仲良くなっているらしく由比ヶ浜に至ってはなぜかすでにあだ名までつけている。君ほんとどこでもゆるゆりとしてますね…。
「あぁ、今のところ俺と比企谷は特に部活には入る予定はないな。だけどせっかくの誘いだし、見てる間に何か興味を持つかもしれない。俺は行こうと思うが、比企谷はどうする?」
「ん、行くわ。どうせ断っても由比ヶ浜に連れていかれるのが見えてるしな。俺の座右の銘は押してダメなら諦めろ、だ。」
「そんな無理やり連れてったりしないし!てかヒッキーちゃんと友達出来たんだね!!」
「だからお前らは俺の母ちゃんかよ…。じゃあ行くか。」
「う、うん。じゃあ4人でいこっか。」
そこからは体育館に向かう道の中で俺たちは軽い雑談をしながら向かっていた。
「ほなみんは陸部?あっ、けど入る予定はないって言ってたよね~。」
「うん、部活には入るつもりはあんまりないんだけど、生徒会にちょっとだけ興味があってみておこうかなって。って言ってもまだ学校も始まったばかりだし慣れるまではどのみち無理だけどね。」
「一之瀬は部活じゃなくて生徒会に興味があるのか。そういえば比企谷と由比ヶ浜は同じ中学だったみたいだが…。」
「うーん、私たちの部活ってちょっと変わってたから。多分ないと思うんだよね。」
「だろうな。あんなのがそうそうあってたまるか。」
「結衣ちゃんたちっておんなじ部活だったんだ。何部だったの?」
「えっとね、奉仕部っていう部活でほかの子のお悩み相談、みたいな?なんだけどちょっと違うっていうか。なんていうんだっけヒッキー、ゆきのんのやつ。」
「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるってやつな。」
「なんだかちょっと難しいね?どういうことなんだろ。」
「老子の教えだな。人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、釣りを教えれば一生食べていける。ようするに飢えている人に魚を与えると喜ばれるが、その場しのぎにしかならない。それよりも魚の釣り方を教えてあげることがその人のためにはなるって意味の教えだ。」
「なるほど~。確かにその通りかも。もしかして神崎君って頭いい?」
「自慢じゃないが、そこそこできるほうだとは思っている。けどこの話は単純に聞いたことがあったからってだけだ。しかしそんな理念のお悩み相談の部活ってなるともしかして、比企谷たちの学校ってかなり厳しい感じの中学だったのか?」
実際神崎はかなり頭がいいんだろう。奉仕部の理念をかみ砕いて一之瀬に説明したまま、俺たちの背景まで考えている。しかし、実際にはそんなことはなく別に学校全体に根付いていたわけではない。
「いや、別にそんな難しい話じゃなかったぞ。まぁある程度の進学校ではあったけど、由比ヶ浜みたいなやつもいる学校だったしな。あれはどっちかっていうと部長の方針だ。」
「ヒッキーマジでひどい!確かにその…テストの点数はそんなに良くないけどちゃんとゆきのんと一緒に勉強して成績上がってるし!!」
「あはは、2人はめちゃくちゃ仲いいんだね。けどそっか~、部長さんの考え方なら確かにこの学校でも同じようにってわけにはいかないよね。」
「まぁその部長様はAクラスにいるけどな。」
「え?そうなの?」
「あっ、そうだよ~。ゆきのん、雪ノ下って言ってね、あたしの親友!!」
おい見てるか雪ノ下。親友ですってよこの子。そんな純粋なことを言われたら思わず涙が出そうになってしまう。よかったねゆきのん!
「にゃるほど…。じゃあ結衣ちゃんたちは新しい部活として作るのもありかもね!」
「確かにこの学校の売りの一つは生徒の自主性に大きく任されている部分がある。そういった健全な心持ちの部活であれば作ってしまうのもいいかもしれないな。」
そうして話していると、体育館についた。中ではそろそろ説明会も始まるといったところでちょうどよかった。一之瀬も神崎も話してくれるいいやつだが根は真面目なんだろう。司会役であろう人が壇上に上がったのを確認すると俺たちはそろって口を閉じた。
「一年生のみなさんお待たせしました。これより部活代表による入部説明会を始めます。私はこの説明会の司会を務めます、生徒会書記の橘といいます。よろしくお願いします。」
司会である橘先輩の指示に倣うように各部活のおそらくは部長であろう代表者が次々と自身の部活のアピールポイントを説明していく。そうして一人ずつ説明を終え、最後の一人になったところで説明会にいるみんなの視線がその一人に集中した。しかしなかなかその生徒は話始めようとしない。どうしたことかと見ていると
「がんばってくださ~い」
「カンペ、持ってないんですか~?」
おそらく1年生であろう生徒がそんな馬鹿にしたような励ましが投げられる。しかし、壇上に立つその生徒はざわめきが収まるまで一切口を開くことはなかった。何かおかしさを感じ皆が黙って空気もシン、と静まったころにようやくその先輩は演説を始めた。
「私は、生徒会長を務めている堀北学といいます」
どうやら生徒会長だったらしい。だが明らかにただの生徒会長が出していいオーラじゃないだろ。むしろ政治家かなんかといわれたほうが信じるレベル。生徒会長といえば思い返されるのは城廻先輩だが先輩とは全く違うその威圧感に集中していると、生徒会長の演説はどんどんと進んでいく。
いつの間にか聞き逃してしまっていたらしい。気づけばもう終わり、という雰囲気になっていた。
「それから――――私たち生徒会は甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、学校に汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が、学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ、歓迎しよう。」
そのまま生徒会長は舞台を降りて体育館を出ていった。その間、体育館にいる誰もしゃべることはなく、ただあの会長の威圧感に吞み込まれていた。
そのまま指示に従い、体育館を後にした俺たちは少し開けた場所でまた雑談に花を咲かせていた。
「いや~、なんか最後の生徒会長の人。すごかったね~。なんかあたし、ちょっと怖かったかも。」
「あぁ、確かにただものじゃない感じがしたな。国立校に通う生徒の文字通りトップ、ということだろう」
「そうだね。生徒会に興味あったけどちょっと自信なくなっちゃったかも。」
「別にいいんじゃねぇの。」
「え?」
「甘い考えによる立候補は望まないって言ってたし、そもそも別に生徒会に絶対入らないといけないわけじゃないんだ。もうちょっと考えてみてそれでもってなるならその時立候補したらいいだろ。」
「…うん。比企谷君の言うとおりだね。そうしてみるよ、ありがとね。」
「…別に礼を言われるほどのことじゃない。これくらいは誰だっていうだろ、まぁ、俺としては一之瀬に生徒会に入ってもらって毎月のppを増やしてもらえると大変助かるけどな。」
そういうと俺たちに軽い笑いが起き、一之瀬も何か吹っ切れたらしい。
「でた。捻デレ。」
「うるせぇよ。てかデレてねぇし。」
そうして俺たちは寮まで戻ってほどほどの時間で解散した。
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新しい学校でも早1週間、慣れないながらもなんとかなっている、というところに中々珍しいことがあった。なんとこの学校、四月の頭の段階でもう体育の授業がプールになっていたのだ。別に泳げないわけではないが、わざわざこんな時期にやることもないだろうと思っているとその疑問は神崎によって解決した。
「確かにこの時期に水泳っていうのはほかの学校じゃまぁないだろうな…。だがこの学校のプールは室内かつ水温管理も完璧らしいから早めても問題ないんだろう。それに、この間年間スケジュールを見たが夏休みが結構長かったからな、夏の時間はあまり使えないってことじゃないか?」
「年間スケジュールなんてあったのか。サンキュ、また確認しとくわ。だがまぁ、夏休みがその分長いなら文句はないか。」
俺たちが話しているとクラスの男子が数人、こっちのほうに来ていた。
「おい、神崎、比企谷。お前ら聞いたか?この学校の水泳。男女一緒なんだってよ!」
「あぁ、そうなのか。」
神崎は普通に答えていたが、思春期の男子といえば頭の中はエロいことでいっぱいだろう。それも高校生という都市でプールが男女一緒というのは男子にとっては一大イベントだろう。女子にとっても一大イベントかもしれないが、もちろん悪い意味で。
「なんだよお前らノリ悪いな~、比企谷とか確か由比ヶ浜と仲いいだろ?どうなんだ?」
「どうなんだって言われても別に…特になんもねぇよ。」
「ほんとか~?まぁいいや、それに何より俺たちには一之瀬がいるからな!!」
そうなのだ。由比ヶ浜は確かに目立つ容姿をしているしスタイルもいい。だがそれをしのぐ逸材、一之瀬帆波がこのクラスに入るのだ。かくいう俺もついつい目で追って…いやそんな気持ち悪いことしてませんけどね?一目ぼれでもあるまいし。
「気持ちはわからないでもないが…ほどほどにな。特に女子からしたら体型の話をされるというのは気分がいいものでもないだろう」
「神崎の言うとおりだな、てか女子ににらまれんの超怖いし」
助け船を出してくれた神崎に感謝しつつ乗っかることで難を逃れた。実際にこんな話をしているところでも見られたらそこそこは引かれるだろうしな。もしかしたら優しい一之瀬なんかは許してくれるかもしれないが『もう…そんなこと言ってちゃ、メッ、だよ?』なんてされた日には俺の心と理性が持たないだろう。いろんな意味で。ほかの男子も本気で女子の体を値踏みしているわけではないのかほどほどにこの下世話な会話は打ち切られた。この件もそうだがどうもこのクラスは真面目な奴が多い。授業中も特に何はなくともある程度は真面目に受けているし、多少の会話はあれど授業に支障が出るほどではない。教師は注意しないのかとは思うもののこの学校は義務教育でもなければ優秀な人材のための学校だからそんなので注意される人物は端から見放している、なんてこともあるのかもしれない。ダメだな、初日の雪ノ下の話のせいでどうにも疑い深くなっている。単純にまだ高校に慣れてなくて浮足立っていたり、そもそも先生方が寛容なだけってこともあるだろう。俺は頭の中に浮かんだ考えを振り払うように水泳の準備をするため移動を始めた。
学校指定の水着に着替えて、プールサイドへ向かうとすでに準備をしていたらしい神崎がほかに来ていた男子と会話しているところだった。神崎…お前俺以外にも話せるやつがいたのか。俺は由比ヶ浜を除いたらお前しかまだいないというのに、裏切られた気分だ。そう思いつつ視線を向けると神崎とその男子生徒は俺に気づいたらしくこっちまで歩いてきていた。
「よう、比企谷!今神崎とも話してたんだけどさ~、比企谷って泳げる方?」
「まぁ、それなりにはって感じだな。」
「そっか、しっかしこんな4月からプールって珍しいよなぁ。まぁ俺は好きだから結構うれしいけど。」
信じられないほどの気さくさで話しかけてきた生徒に、俺は動揺を隠せないでいた。そう、名前を全く覚えていなかったのだ。いや、聞いた覚えはあるんですよ?ホントだよ?だって自己紹介したはずだし。てか俺自己紹介失敗してろくに他の奴の名前聞いてねぇわ…失敗失敗!てへっ!
よくよく考えたら神崎の名前も別に憶えてなかったし、あの時は連絡先の交換で何とか場をしのいだがここはプール。携帯端末があるわけでもないのでやり過ごすのは難しいだろう。聞かぬは一生の恥、という諺もあるくらいだ。変に挙動不審になるよりかはとっとと聞いてしまったほうが早いだろう。まぁ俺の場合聞いても聞かずとも一生の恥なのだが。
「すまん、まだ全員の名前と顔が一致しなくてな。悪いんだが名前が出てこない。」
「あっごめんごめん、まだ入学したばっかだしそうだよな。俺は柴田颯、サッカー部に入ってるけど運動全般が好きかな。比企谷のことはさっき神崎から結構聞いたぜ。」
「あぁ、とは言っても俺もまだ比企谷と知り合って間もない。そんな大したことは知らないがな。そういうのはむしろ…」
そう神崎が言葉をつづけようとしたところにそろそろ時間が近づいてきたためか、クラスの人間がどんどんとプールサイドから歩いてきていた。
「あ~、由比ヶ浜と同じ中学だったんだっけ。結構仲良かったりする?ていうかもしかして付き合ってる?」
「ねぇよ。ねぇ。あとない。俺は誰とも付き合ってないし今のところ誰かと付き合う予定もない。」
「え~、けどさすがに気になる女子とかはいるだろ。」
話を続けていると、由比ヶ浜と一之瀬、それに数人の女子もこっちに来ていた。
「3人とも何の話してるの?」
「比企谷が誰とも付き合う気はないって言ってたからほんとかどうか今聞いてる。」
「あはは、ヒッキー中学の時からそうだもんね。けどあんまりそれ言ってるとまた小町ちゃんに怒られるよ?」
「ふっ、心配するな由比ヶ浜。初日は少し残念だったが、逆に考えればこの学校は3年間小町からのあの変なちょっかいをかけられずに済むんだ。俺に死角はない。」
「小町?お米の話?」
「なんで俺の周りの女子は全員小町からお米を想像するんだ…。なに、君たち全員秋田出身なの?妹だよ。兄貴に余計な気まわしてくるかわいいやつだ。」
「へ~、比企谷君妹居るんだ!私もね、妹居るんだ~。3年間会えないのはちょっと寂しいけどね。」
「まぁそう悲観することもないぞ。3年後成長した妹の姿を見れると考えたら悪くない。」
「出た、シスコン…」
俺と一之瀬が妹について話し合っていると体育教師がやってきたので俺たちは会話を切り上げて整列を行う。しかし、妹との仲の良さは千葉の兄妹だからと思っていたが、一之瀬もそうだとは。一之瀬も千葉出身なのか、それとも妹の可愛さは全国共通なのかもしれない。これは考えを改める必要があるな…。
「よーしお前ら、今から体育の授業を行う。早速だが、準備体操をしたら各々どれだけ泳げるかをはかるため、50mほど流して泳いでもらう。泳ぐ自信のないものは自己申告するように。」
「すみません、私あんまり泳げなくて。」
「大丈夫だ。自己申告してもらったものは橋の1列を使ってつきっきりで夏までには必ず泳げるようにしてやる。泳げるようになっておけば、必ず後で役に立つぞ。必ず、な。」
大柄な体育教師はそういうと準備体操を指示した後、タイムを計る計器などを用意しに行った。俺たちは、準備体操を行ってそれぞれ順番に指示通り流しで泳ぎ始める。
しかし、夏までに泳げると役に立つ、ねぇ。雪ノ下じゃないが今の発言はさすがに俺でも少し違和感を覚える。大事なことは2回言うのだ、これ漫画では常識な。あの教師の言い方だとまるで夏ごろまでに泳げないと困る何かがある、と遠回しに俺たちに伝えているように感じてしまう。別に俺はもともと泳げるしそんなに気にする必要もないのだが、こんなにも違和感を感じる事象が続けば俺でなくとも疑り深くなってしまうだろう。
しばらくたつと泳げない生徒の面倒を見ていた教師がプールから上がり、泳ぎ終わって休憩していた俺たちのほうまでやってきていた。
「よし。みんなウォーミングアップはできたな。それではこれから男女別50M自由形の競争を行ってもらう。1位になった生徒には俺から特別ボーナス、5000ppを支給しよう。一番遅かった奴には逆に補修を受けさせるから覚悟しろよ。」
授業も始まって間もないのに、いきなり競争、しかも自由形の50Mとした結構本格的な競争だ。ふん、俺はフリーしか泳がない…といいたいところだがそもそもほかの泳法なんて対してうまく泳げるわけもないため普通に泳ぐことになるだろう。別に早くもないので特別ボーナスは誰かに持っていかれてしまうだろうが、無理なことに進んで挑戦して疲れるほど情熱があるわけでもない。雪ノ下の話をもとにすればこういう細かなところでppを稼げるのは大変喜ばしいことだが、さすがに無理なものは無理とあきらめる。そのまま俺たちは競争を始めたが結果は9位。まぁ男子20人の中間なので決して割る結果ではないだろう、8位だったら8万ppだったのにね。おしいね、八幡。
そのまま補修が確定した生徒の嘆きとともに体育の授業は終わり、俺たちは着替えていつも通り校舎へと戻った。
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4月も3週目となったある日、俺は珍しく放課後すぐに帰ることもせずに教室で考えことをしていた。毎月もらえるppの減少についてだ。雪ノ下の考察通りだとすると5月1日にもらえるppが10万ではなくなってしまう。初日から一応節約に気を使ってはいるが、それでもバイトなどして稼げる手段がない以上、仮に来月からもらえなければ毎月どんどんと減っていく貯金を切り崩しながら生活していかなくてはいけないのだ。そう考えるとなかなかに憂鬱なのだが、確定していないことを考えていても気分が悪くなるのは当たり前。いつだったろうか、未来は憂鬱で、過去も変えられないから消去法で現在が最高なのだと考えたのは。今では割と違う考え方をできるようになったと思ったがこの閉鎖環境に近い教室と今の状況では昔の俺の考え方もあながち間違いではないのかもしれないと思い始めていた。これ以上考えてもよい状況になる算段が思いつくわけでもないため、さっさと帰ろうとしたところ珍しく呼び止められてしまった。
「あっ、ヒッキー!今からほなみんと千尋ちゃんとケヤキモールに遊びに行こうと思うんだけどもしよかったらいかない?」
「由比ヶ浜か、悪いな。今日は用事があれだからいけない。また誘ってくれ。」
「絶対嘘じゃん!もう何回もばれてるんだからいい加減あきらめたら?」
「いや、そうはいっても一之瀬たちもその、困るだろ。」
「わ、私は別に気にしないけど…」
「私も、一之瀬さんがいいなら…」
女子2人は言葉では肯定したものの困惑が強いだろう。無理もない、普通に仲良くもない男子と遊びに行くのも向こうからしても気まずいだろう。
「ていうか由比ヶ浜、雪ノ下の話忘れたのか?別に俺はいいけどあんまりpp使いすぎんなよ。無くなっても貸さないからな。」
「あっ、忘れてた!!けどまだ大丈夫な範囲だと、思う…」
「2人とも節約してるの?何か買いたいものがあったり?」
「いや、そういうわけでもないんだがな…」
話すのは簡単だが確定していないような疑心暗鬼にさせる内容を話すというのは少しはばかられた。そう俺が悩んでいると、由比ヶ浜が何かを決意したように声を上げた。
「よし、ヒッキー。あたしが無駄遣いしないように見張っててくれない…?」
「いや小学生かよ。自分で何とかしろ、それかお前のpp全部もらっといてやろうか?今日のお小遣いは500ppな。」
「さすがにそこまで馬鹿じゃないよ!?うー、でもなぁ、そっかぁ。」
「ねぇ、比企谷君。結衣ちゃんもこう言ってるし、ついてきてくれないかな…?」
一之瀬がそう言って俺の肩を叩く。思わずびっくりして飛び退いた結果後ろの角に腰をぶつけてしまった。なんで君たちは、パーソナルスペースが狭いんですか…。俺が涙目になりながら腰をさすっていると、一之瀬は慌てたように俺のほうへ再度来る。
「ご、ごめん!そんなにびっくりすると思わなくて!腰ぶつけちゃった?大丈夫?」
「い、いや、大丈夫だから。大丈夫。」
「ほんとに?あっ、そうだ。保健室に行ったら星之宮先生にシップもらえるはずだから、一緒に行こう?」
「いや、ほんとに大丈夫だから。わかった、ついてくから、勘弁してほんとに」
「私のせいだし、そうはいかないよ。ごめん千尋ちゃん、結衣ちゃん。シップもらったらすぐ合流するから先に行っておいてもらっていい?」
「一之瀬さん、私も行くよ。その、、、」
「うんうん、あたしもいくよ?」
「大丈夫、そんなに時間はかからないから。じゃあ行くよ、比企谷君!」
そういって一之瀬は強引に俺を引っ張って勢いよく保健室への道を歩き始めた。というか痛めた腰への対応なのに勢いよく歩かせるなよ。しかしこんな状況でも走ったりしないのは一之瀬の育ちの良さなのだろうか、もうすでに抵抗することをあきらめた俺は途中で一之瀬の手を放して自分で歩けることを主張し、ともに保健室までやってきた。
「失礼します、星之宮先生はいらっしゃいますか?」
「は~い、って一之瀬さんと比企谷君じゃない。どうしたの?」
「すみません、ちょっと腰ぶつけちゃってシップとかいただけないかなと。」
「はいは~い、準備するわね。一応学校側でも記録を残すからそこの紙に痛めた時の軽い記録を書いて待ってね。」
言われた通り保健室の記録用の紙に痛めた場所の詳細や時刻などを書いていると準備を終えた星之宮先生が俺たちに厄介な絡み方をしに来ていた。
「それにしても、比企谷君と一之瀬さんねぇ。てっきり比企谷君は由比ヶ浜さんと付き合ってるのかと思ってたけど、実は一之瀬さんが本命だったりするのかな?」
「にゃにゃ、何言ってるんですか!先生、私と比企谷君はそういうのじゃ…」
「そうっすよ、別に俺は誰とも付き合ってないです。付き合う予定もないですし。」
「へ~、一之瀬さんかわいいのにもったいな~い。けどそんなこと言って、もし付き合えるならまんざらでもないんじゃない?」
「別にないっすね、そもそも俺と付き合うとか罰ゲームでしょ。そもそも俺は俺のことを養ってくれる人じゃないと嫌ですよ。」
「あっははは!何それ~、ヒモ宣言?」
「ヒモじゃないです、専業主夫志望ですよ。ヒモになるつもりはありません。」
「それは私もどうかと思うよ、比企谷君…。」
そうして軽く話をしていると、ふと雪ノ下の話を思い出してしまった。ちょうど今は先生と一之瀬しかいないし、目立つこともないだろう。雪ノ下の話を先生に対して聞いて何か得られるものはないかと思ったが、全体の場で話すのも、先生を呼び止めるのも目立ちそうでどこか嫌だったのだ。この機に聞いてしまおうと思い俺は会話の流れを断ち切った。
「そういえば先生、少し質問なんですけど」
「ん~?どうしたの?」
「もうすぐ4月も終わりですけど、来月って変わらず10万ppもらえるんすかね?」
俺がそう発言した瞬間に空気が凍り付いた気がした。え、マジで何この空気、めっちゃ怖いんだけど。ていうか一之瀬も先生もなんか言ってくれよ、俺だけ時空のはざまに飛ばされた感じ?それか俺の声は誰にも聞こえてないとか?なら納得だわ。いや納得しちゃうのかよ。
「…えっと、比企谷君、それを聞いてどうするの?」
「別にどうもしませんよ、ただ友じ…知り合いが気にしててちょうどいいんで聞いただけです。」
「そっか、ならその答えは答えられないな。」
「聞き方がまずかったですかね?」
「ううん、そういうわけじゃないよ、その問いに対する答えが"答えられない"だよ。」
そこまで言われて気づかないほど俺は馬鹿でも鈍感でもなかった。それはどうやら一之瀬も同じようで一瞬険しい顔をしたのち、何かを考えたように、しかしまたすぐに元の人当たりのいい笑顔に戻っていた。だが動揺はすぐには戻らない。何も言えないでいる一之瀬とともにこの空気の中ここにいるのも嫌だし目的も果たしたため、俺はこの部屋をとっとと後にすることにした。
「一之瀬、由比ヶ浜たち待たせてるし、そろそろ行くか。」
「う、うん。そうだね!星之宮先生、ありがとうございました。」
「うん、またいつでも遊びに来てね~、その時はコイバナも一緒にね。」
「あはは…失礼します!」
俺たちは後者の外に出て、ケヤキモールに続く道を歩いていた。交わされる言葉はない、きっと一之瀬はまだ先ほどの会話を反芻しているのだろう。俺はそこまで確信に至ったわけでも深く考えて発言したわけではないので、そこまで悩まれてしまうとさすがに少し申し訳ない気もするが特に俺が悪いわけでもないので特に何か声をかけるのはやめた。
「ねぇ、比企谷君。」
「どうした?」
「さっきなんで星之宮先生にあんな質問したの?」
「さっきも言ったろ、知り合いが気にしてたんだ…まぁ、それに自分の財布のことだ。気にすんのは普通だろ。」
「うん、そうだね。そっか、確かに私考えてもなかったな。日本の未来を背負う学生を育成する高等学校、だもんね。そんな甘い話しでもないのかもね。」
「人生はいつも苦いもんだからな。そんな甘い話しばっかだったらそのうち糖尿病になりそうだ。」
「あはは!比企谷君ってさ、ちょっと変わってるね。」
「あぁ、よく言われる。ちょっとどころかかなり変わってるってな。」
「いい意味で、だよ?…ちょっといそごっか。千尋ちゃんたちに怒られちゃう。」
俺たちはそのまま小走りでケヤキモールに向かった。
もちろん、待たせすぎと由比ヶ浜達に怒られたのは言うまでもない。
さすがにちょっと強引でしたが割と初期のほうから学校について考察しておかないと私が考える時期に間に合わないので挟み込ませていただきました。
次話も読んでいただけると幸いです。
誤字脱字、感想等ありましたらご報告いただけると嬉しいです。
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