もしもグランドツアーの3人がキヴォトスに来たら2   作:ガチタン雷電

10 / 15
エデン条約調印式 ―― 破られる沈黙

 

 

エデン条約調印式 ―― 破られる沈黙

数日後。

トリニティ中央区、古聖堂。

空は高く澄み、雲ひとつない。

芝生は整えられ、石畳は磨かれていた。

 

英国の式典スタッフ、生徒たち、各自治区の関係者――

すべてが「厳粛」という言葉に収まる光景だった。

その沈黙を、電子音が引き裂いた。

それは一斉に。

兵士、スタッフ、そしてハモンドの端末が、ほぼ同時に鳴り響いた。

ハモンド

「……ミサイルアラート?」

車両そばに居た英兵が青ざめた顔で撮影クルーに駆け寄る。

 

「展開中の英国軍レーダーが――

 巡航ミサイルを捕捉」

一瞬、時間が止まった。

「周囲に警告を!」

誰かが叫ぶより早く、ハモンドは走っていた。

式典用に少し離れた場所へ停めてあったクルセイダーへ登る。

車長は身を乗り出し、叫ぶ。

「全員、車両へ!

 ブラッドレイは、先に前へ出ろ!」

確認するように振り返ると、スタッフたちが次々とM2ブラッドレイへと乗り込んでいくのが見えた。

緊急時は車長が射手席に座ることになっていた。

ハモンドは防弾アーマーとヘルメットを被るとブラッドレイが先頭で発進していた。

クルセイダーが最後尾。

速度の違いでもあるが、安全確認も兼ねての車列である。

隊列が動き出した瞬間、前方の道路に生徒たちの姿が見えた。

まだ、何が起きているのか理解していないようである。

ハモンドは、喉が裂けるほど叫んだ。

「道を譲れええええ!!」

次の瞬間だった。

――光。

古聖堂の方向。

白く、鋭く、空気を切り裂く閃光。

「着弾……!」

反射的にハモンドは車内へ滑り込み、ハッチを閉めた。

「全車、停車!」

衝撃波が来る前に、軍人たちがハモンドの上に覆い被さる。

重い装備。息の詰まる圧迫感。

轟音。

世界が一度、裏返った。

やがて、音が遠ざかる。

「各車、状況確認!」

車長の声。

「ブラッドレイ1、2異常無し」

「クルセイダー、異常無し」

短い安堵。

車長は、各車に指示を飛ばす。

「予定通り、救護騎士団の集合地点へ向かう!」

再び前進。

だが――

道中、明らかに異なる方向からの発砲。

ゲヘナ、そしてトリニティ側からの散発的な攻撃。

「速度を上げろ!

 止まるな!」

車両は加速し、その場を駆け抜ける。

そして見えた、救護騎士団の前。

――バリケード。

「……塞がれてる」

目前で、クルセイダーが止まる。

一瞬の沈黙。

ハモンドは立ち上がり、

まるで指揮棒を振るように、腕を大きく前へ振った。

「撃て。撃つんだ!!」

射手席に座り込んだ車長が、ためらいなく操作する。

砲声。

瓦礫が崩れ、道が開く。

ブラッドレイがそのまま押しのけるように前進した。

その隙間を――

救急車のマークを付けた、古いドイツ製車両が駆け抜けていく。

「……あれは?」

「ホルヒ108だ!」

ハモンドは古いドイツ車を興奮気味に語り始める。

 

その横で、トリニティのモブ生徒――

通称トリモブたちが悲鳴を上げて逃げ出していた。

その姿は誰も気づかれることなく…

 

 

条約。平和。調印式。

そのすべてが、

いまや「誤解」と「遅れ」と「現場との温度差」の上に成り立っている。

――そして彼は確信する。

これは事故ではない。

これは、試されているのだ。

この街も。

この条約も。

そして、自分自身も。

静かな街に、

ようやく本当の現実が、追いつき始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。