もしもグランドツアーの3人がキヴォトスに来たら2 作:ガチタン雷電
■シスターフッド防衛戦
教会の石壁は、夜の冷気を吸い込み続けていた。
黒ずんだ煉瓦の街並みの中心で、その建物だけが、かろうじて“祈りの形”を保っている。
前庭に据えられたM2ブラッドレイ二両は、エンジンを止めたまま、静かに外界を睨んでいた。
砲塔は左右に分かれ、街路と広場、屋根と窓――すべてを重ねて視界に収めている。
「警戒継続。
交代は120分、誰も一人にするな」
兵士たちは教会を背に半円を描く。
中には、巻き込まれたトリニティの生徒と戦闘に向かないシスターフッドの生徒。
誰一人、犠牲は出さない。
最初に現れたのは、音のない敵だった。
霧の向こう、街灯の下に、修道服の影が立つ。
白いはずの布は、灰色に沈み、その顔はガスマスクに覆われていた。
その下の肌は――青白い。
「……来た」
声にならない声で、兵士が呟く。
幽霊のようなシスターはこちらに向かって銃を撃ち始めた。
ゆっくりと距離が縮む。
落ち着いて暗視スコープ越しに照準、発砲。
銃口は確かに合っている。
だが倒れない。
発砲。
だが銃弾は、確かな手応えを返さない。
影は倒れない。
代わりに、周囲の霧が濃くなる。
「弾が効かない……?」
その時、教会の壁際にいた兵士が叫ぶ。
「違う! 完全に無効じゃない!
近づかせるな!」
「間合いを詰めさせるな! 教会前から追い出す!」
ブラッドレイの25mmが、低い唸りを上げる。
直撃ではないが、破片がシスターを覆う。
それで、シスターは止まり消え去った。
その背後――
今度は、別方向から銃声が響いた。
それは同じくガスマスクしてるが、現実感のある姿
「右路地! 実体あり!」
アリウスだ。
フード、白い戦闘服、古い自動小銃。
市街戦に慣れた動きで、影から影へ移る。
幽霊と人間。
二種類の敵が、同時に襲ってきていた。
「目標優先順位変更!
アリウスを先に抑える、幽霊を近づけさせるな!」
兵士たちは混乱しない。
誰も突出しない。
撃ちすぎない。
教会の扉付近では、シスターフッドの生徒が負傷者を手当てしていた。
銃声の合間に、シスターフッドが負傷者に毛布をかける。
夜が明けず、
霧も晴れない。
一日目。
ゲリラは波のように来て、引く。
幽霊のシスターは、常に霧と共に現れる。
弾薬は管理され、
疲労は溜まるが、誰も眠り込まない。
ブラッドレイは位置を微調整し、
建物の影で、互いの死角を潰し合う。
幽霊が接近すると、
なぜか暗視スコープが一瞬だけノイズが走る。
「……ホラー映画かよ」
誰かが言ったが、答えは出ない。
二日目。
ゲリラの動きが荒くなる。
焦りが見える。
「幽霊がいる間に決める気だ」
教会の柵に、
青白い手が増えていく。
だが、突破はされない。
兵士たちは撃ち、下がり、救護し、また警戒する。
戦死者は出さない。
誰も出さない。
三日目の夜。
霧が、異様に濃くなった。
幽霊のシスターたちが、教会を囲む。
数は、これまでで最も多い。
ゲリラは、遠巻きに銃を構え、動かない。
その時だった。
街のどこか――
教会ではない、ブラッドレイでもない。
低く、確かな振動が伝わってくる。
爆発ではない。
砲声でもない。
ただ、空気が“切り替わった”。
霧が、揺れる。
青白いシスターたちが、
一斉に、立ち止まった。
誰も撃っていない。
誰も命令していない。
ただ――
曇り空の向こうから、朝日が差し込んだ。
眩い、強い光。
だが確かに、夜を終わらせる光。
シスターたちは、
影のように薄れ、
祈る姿勢のまま、霧に溶けていく。
声もなく、
抵抗もなく。
それを見て、ゲリラが動揺する。
「……引くぞ」
誰かが叫び、
銃声が途切れる。
彼らは撤退していった。
追撃はしない。
油断はしない。
教会前には、
生きている人間だけが残った。
救援は、まだ来ない。
だが、朝の光が、ステンドグラスを照らす。
兵士たちは配置を崩さず、
警戒を続け、
負傷者と市民を再確認する。
「……誰だ?誰がやった?」
誰かが、呟いた。
「分からない。
だが――やってくれた」
曇り空の向こうで、
太陽は、確かに昇っていた。
教会は、まだ守られている。
■一方その頃救護騎士団
その前庭に――
あり得ない光景があった。
救護騎士団の倉庫から引きずり出され、最低限の整備だけ施されたそれが、病院を背に据えられていた。
6ポンド砲、
クルセイダーと同じ砲が
即席の土嚢陣地に収まっている。
砲弾はまだまたたくさんある。
だが、撃つのは、“ここぞ”だけだ。
「無駄撃ちはしない。
敵の車両か、突破の要だけ狙う」
軍人たちは、そう決めていた。
病院の中では、
患者(シャーレの先生)が寝かされ、
負傷者が増え続けている。
だが逃げない。
ハモンドが嘆息する
「ここは動かせない人間が多すぎる」
救護騎士団やスタッフ達が、ライフルを受け取るのを見ながら言った。
カメラマン、ディレクター、整備士。
今はただの守る側だ。
最初の接触は、夕方だった。
路地の奥から、武装した影が現れる。
即席装甲車となったトラック、そこから降り立つアリウス。
「距離600!」
クルセイダーの砲塔が、スムーズに回る。
照準は正確無比。
「今」
6ポンド砲、発射。
乾いた轟音。
砲弾は、敵トラックの前輪下を正確に叩き潰した。
炎。
破片。
進路が詰まる。
その瞬間、クルセイダーが動く。
低初速の砲弾が、建物の角を削り、
敵の射線をまとめて潰す。
ハモンド
「よし! まだ動くぞ、この骨董品!」
病院内部――
廊下の奥で、異様な音が響く。
ガソリンエンジンの唸り。
「救援も!希望も!そして愛も!」
血のついたスクラブ術衣姿の看護師が、
なぜか――
チェーンソーを振り回していた。
「ハナエはすべて備え持っていますよ!」
理由は誰も知らない。
だが彼女は、朝顔ハナエは躊躇しない。
「わっ!!危ない!」
侵入してきたゲリラが、廊下で立ち止まる。
銃を構える前に、
床に叩きつけられる。
「ご安心下さい。痛いの痛いの飛んでけ〜♪」
患者のベッドは、誰も動かさせない。
外では、夜が深まる。
クルセイダーは被弾する。
ハモンドが悲鳴を上げるが周りは無視する。
装甲は、まだ耐える。
民間人が弾薬を運び、
軍人が指示を出し、
撃ち、下がり、救護する。
戦死者は出ない。
誰も見捨てない。
深夜、敵は再び押し寄せる。
「次、6ポンド使うぞ!」
今度の弾は、
敵の重火器陣地を吹き飛ばした。
それを合図に、敵の攻勢は鈍る。
夜明け前。
曇り空の隙間から、薄い光が差す。
敵は、いつの間にか引いていた。
追撃はしない。
警戒は続ける。
病院の前で、
クルセイダーは静かにエンジンを止める。
看護師は、チェーンソーを床に置き、
患者の毛布を掛け直す。
ハナエ
「……終わった?」
セリナ
「いえ、
今日を越えただけです。
ですが、このような平和を乱す悪党は許せません!!」
だが確かに、
病院は守られた。
博物館の戦車、
古い砲、
名もなき民間人、
そしてチェーンソーの看護師。
誰がやったのか、
後で知る者はいない。
ただ、
生きている人間が、そこにいた。
■収束へ
数日後に復帰した先生の手で、ようやく沈静化される。制空権を失ったアリウスは撤退を選び、ユスティナ・ミメシスは、霧のように姿を消した。
条約は上書きされ、歪な形で存続した。
だが、信頼は深く傷ついた。
ハモンドは、
クルセイダーのエンジンが止まったあとも、しばらく動けなかった。
「……これが、“平和の調印式”か」
誰も、答えなかった。