もしもグランドツアーの3人がキヴォトスに来たら2 作:ガチタン雷電
■スタジオ ―― いつもの三人
照明。
エンジン音のSE。
見慣れたスタジオ。
照明がともり、観客席のざわめきが静まる。
見慣れたスタジオ。
見慣れた配置。
だが、いつもと違うのは――空気だった。
リチャード・ハモンドは、いつもの位置に座っている。
少し痩せたように見えたのは、照明のせいか、それとも。
ジェレミー・クラークソンは、腕を組んだまま黙っていた。
番組が始まってから、珍しいほど言葉が少ない。
ジェームズ・メイも、原稿を手にしながら、ほとんど目を通していない。
数秒の沈黙のあと、
ジェレミーが、いつになく低い声で口を開いた。
「……戻ってきてくれて、よかったよ」
それだけだった。
大仰な紹介も、皮肉もない。
ハモンドは一瞬、驚いたように目を瞬かせてから、小さく笑った。
「うん。僕も、そう思う」
ジェームズが、ゆっくりと続ける。
「君がいない収録はね、 どうにも“バランスが悪い”んだ」
言い方は遠回しだが、
それがメイなりの心配だと、三人とも分かっていた。
ジェレミーは視線を逸らし、照明の方を見る。
「戦車だの、条約だの、正直番組的には“すごい話”なんだろうけどさ」
一拍置いて。
「……君が怪我しなかった。
それだけで十分だ」
観客席から、小さな拍手が起きる。
誰かが笑うわけでもなく、
ただ「帰ってきた」ことを確かめるような音だった。
ハモンドは、少しだけ背筋を伸ばした。
「心配かけたね」
「当たり前だ」
ジェレミーが即答する。
「君は、僕らの中で一番“壊れやすい”んだから」
いつもの言い方。
だが、そこに棘はなかった。
ジェームズが頷く。
「次にどこへ行くにしても、
戦車は……スタジオの外に置いてきてほしい」
ハモンドは吹き出した。
「努力するよ」
ジェレミーが腕を組む。
「で? 戦車は速かったのか?」
ハモンドは肩をすくめる。
「速くはない。でもね、止まらなかった」
ジェームズ・メイが頷く。
「それは実に英国的だ」
三人、少しだけ笑う。
照明が少し明るくなる。
番組は、ようやく“いつも”に戻ろうとしていた。
ジェレミーが、最後にカメラを見る。
「というわけで――」
一瞬、言葉を選ぶように間を置いてから。
「また、次回に会おう」
それだけだった。
爆発も、速度も、皮肉もない。
ただ、
三人が揃っているという事実だけが、
スタジオを満たしていた。
何時ものbgm
ハモンドが、テロに巻き込まれたとジェレミーが知ったのは
遠く離れたイギリスのスタジオでの事だった、
ハモンドの無事を何度も確認したあの夜のことを、
ジェレミーは思い出していた。
「……本当に、無事でよかったよ」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いて。
彼は、スタジオを後にした。
――次に集まるときは、
また三人で、
いつもの場所に立つために。