もしもグランドツアーの3人がキヴォトスに来たら2 作:ガチタン雷電
アビドス砂漠・最終調整
――「撃って、走って、壊れなければ合格」――
■到着:砂漠はすべてを試す
灼けつくような太陽。
風に乗って砂が流れ、視界の端で蜃気楼が揺れる。
近代化されたクルセイダー戦車は、アビドス砂漠の端に静かに停車していた。
外付け防弾ユニット、スペースドアーマー、水ジェリカンを積んだ砲塔ラック。
見た目は明らかに「博物館の車両」ではない。
ハモンドは砲塔の横で、手にしたチェックリストを見つめている。
ハモンド
「……最終調整だ。 ここで壊れたら、イギリスまで帰れないからね」
ジェレミー
「壊れたら置いて帰ればいい」
ジェームズ
「君はいつも“帰り”を軽視する」
■テスト①:エンジンと冷却
カミンズのディーゼルが唸りを上げる。
砂を噛んだ履帯が、ゆっくりと前進を始めた。
ジェームズ(運転席)
「回転数は安定してる。 油圧、油温問題なし。……意外だね」
ハモンド
「“意外”って言うなよ! スクラップから救ったんだぞ!」
ジェレミー(車内後方)
「エアコンは?」
ハモンド
「……効いてる」
ジェレミー
「勝ったな」
ハモンド
「まだ勝ってない!!」
車内は驚くほど静かだった。
第二次大戦期の戦車とは思えないほど、熱と騒音が抑えられている。
アヤネ(通信)
「車内温度、想定より低いです。 砂塵吸入も問題ありません」
ジェレミー
「ほら見ろ。NBC対策は正義だ」
ハモンド
「だから“サリン前提”で話すな!!」
■テスト②:走行・重量バランス
速度を上げ、砂丘を越える。
水ジェリカンを積んだ砲塔が、ゆっくりと揺れる。
だが転倒する気配はない。
シロコ
「重心……悪くない。 水の配置、ちゃんと効いてる。」
ノノミ
「砲塔に水を積む戦車、初めて見ましたけど…… 理にかなってますね。」
ハモンド
「“生存性第一”だからね。 砲塔が抜かれたら終わりだし。」
ジェレミー
「つまり“撃たれたら逃げる”戦車だ。」
ジェームズ
「それがクルセイダーの本質だよ」
■テスト③:防弾ユニット実地確認
射撃エリア。
砂地に立てられた的(クルセイダー)に、防弾ユニットが設置される。
ジェレミー
「さあ、やろう。」
ハモンド
「待て待て待て! 本体に撃つ気じゃないよね!?」
ジェレミー
「安心しろ。 駄目なら帰るだけだ。」
拳銃を抜いたシロコが的(クルセイダー)に撃つ。
乾いた発砲音。
――コンッ
弾はアルミ板を貫通しアラミド繊維で止まり、エラストマー層で衝撃が吸収される。
ジェームズ
「大分良いね」
次はライフル。
数発が重なり、ユニットが大きく揺れる。
アヤネ
「三層目で停止。 四層目は無傷です」
ハモンド
「……よし」
彼は深く息を吐いた。
ハモンド
「“中の人は生きてる”」
ジェレミー
「いい響きだ」
■テスト④:主砲・最終確認
6ポンド砲。
古いが、整備された砲身が砂漠に向く。
シロコ
「弾道、計算済み。 安全範囲、クリア」
ジェレミー
「撃てるってだけでテンション上がるな」
ハモンド
「“使わない前提”だからね?」
発射。
――ドンッ!!
砂漠に衝撃が走り、遠方の標的が吹き飛ぶ。
ノノミ
「……普通に強いですね」
セリカ
「控えめとか言ってごめん」
ジェームズ
「必要十分、というやつだ」
■想定外:アビドスの日常
その時、遠くで銃声。
ホシノ
「あ〜、向こうで小競り合いかな〜」
ジェレミー
「……日常?」
シロコ
「日常」
アヤネ
「日常です」
ハモンド
「最終調整中に“実戦が始まる”世界って何!?」
ホシノ
「じゃあ、いい機会だし〜 少し移動してみよっか〜」
ジェレミー
「完璧だ」
ハモンド
「テストってそういう意味じゃない!!」
■――実戦遭遇――
砂漠は、調整を待ってくれない。
アビドスの空は高く、乾いた風がクルセイダーの装甲を舐めるように吹き抜けていた。
朝の太陽が砲塔の縁を照らし、外付け防弾ユニットのアルミ板が鈍く光る。
履帯が砂を噛み、低く唸る。
「……走行系は安定してる」
ハモンドは操縦席で、静かに言った。
いつもの軽口はない。声は低く、集中している。
ジェームズは後部、計測機材の間で腕を組み、振動のリズムを感じ取っていた。
「悪くないね。
少なくとも“80年以上前の設計”には思えない」
ジェレミーは砲塔内、赤外線モニターを覗き込みながら言う。
「つまらんな」
「それは褒め言葉だよ!」
ハモンドが即座に返す。
その瞬間だった。
――モニターが、変わる。
赤外線画面の端。
砂丘の影が、不自然に揺れた。
シロコの声が、通信に割り込む。
「……前方、敵影。複数」
ホシノは砂丘の陰から、いつもの緩い声で続けた。
「うん、あれは……
ちょっとした“お客さん”だねぇ」
砂嵐の名残で視界は悪い。
だが、近づいてくる気配は隠せない。
――発砲音。
乾いた音が、砂漠に弾けた。
カン、と鈍い衝撃。
クルセイダーの側面、防弾ユニットに何かが当たる。
車内が一瞬、静まり返る。
ハモンドの目が見開かれ、即座に撃たれた箇所の内側を見る。
「……貫通、なし」
ジェームズが冷静に補足する。
「外装で止まってる。
内部に飛散は来てない」
ジェレミーが、満足げに低く笑った。
「ほら見ろ。
Amazonは嘘をつかない」
「今それ言うな!!」
次の瞬間、複数の影が砂丘から現れた。
軽武装の集団。
キヴォトスでは、珍しくもない“野良の武装勢力”。
ホシノが言う。
「んー、交渉する感じじゃないねぇ」
シロコは短く。
「……撃つ」
アヤネの声が、冷静に重なる。
「被害最小で。
撃退は可能です」
ハモンドは一瞬、迷った。
博物館の戦車。
撮影用。
番組企画。
だが――今は。
「……戦車、前進」
低い声で、そう言った。
履帯が回り、砂を巻き上げる。
6ポンド砲が、ゆっくりと向きを変える。
ジェレミーが言う。
「安心しろ。
威嚇だ」
「“威嚇”の定義が怖いんだよ君は!」
砲身が静止する。
――轟音。
砂丘の手前、何もない場所に着弾。
砂柱が立ち上り、衝撃波が空気を震わせた。
武装集団が、動きを止める。
一拍。
そして――蜘蛛の子を散らすように、退却。
静寂が戻る。
砂が落ち、風だけが残った。
車内で、誰もすぐには喋らなかった。
やがて、ジェームズが穏やかに言う。
「……撃たれて、撃って、
それでも誰も怪我をしていない」
ハモンドは、深く息を吐いた。
「……防弾ユニット、意味があった」
ジェレミーは、珍しく真面目な声で言う。
「そうだな。
これは“強くなる改造”じゃない」
少し間を置いて、続けた。
「“生き残る改造”だ」
ホシノが通信越しに、くすっと笑う。
「合格点だねぇ。
アビドス基準でも」
シロコが短く締める。
「……実戦、問題なし」
ハモンドは操縦桿に手を置いたまま、空を見上げた。
青い空。
乾いた砂。
そして――まだ動いている戦車。
「……帰れるな」
ジェームズが頷く。
「うん。
“帰るための実験”は成功だ」
ジェレミーは、いつもの調子を取り戻した。
「じゃあ次はだな――」
「次はない!!」
砂漠に、笑い声が響いた。
■結論:合格
夕暮れ。
砂漠に長い影が伸びる。
クルセイダー戦車は、問題なく戻ってきた。
エンジンは健在。
装甲は無傷。
中の人も無事。
ジェームズ
「……合格だね」
ハモンド
「うん。 “生きて帰れる戦車”だ」
ジェレミー
「じゃあ次は何をする?」
全員が嫌な予感を覚える。
ジェレミー(満面の笑み)
「夜間戦闘テストだ」
ハモンド
「却下!!」
ナレーション
「こうして――
第二次大戦期の戦車は、
アビドス砂漠で“現役”として合格を与えられた。」
画面:
夕焼けの中、砂漠を走るクルセイダー。
字幕:
『撃って、走って、壊れなければ合格』