もしもグランドツアーの3人がキヴォトスに来たら2   作:ガチタン雷電

5 / 15
馬鹿が戦車でアビドスにやってくる

 

アビドス砂漠・最終調整

 

――「撃って、走って、壊れなければ合格」――

 

■到着:砂漠はすべてを試す

灼けつくような太陽。

風に乗って砂が流れ、視界の端で蜃気楼が揺れる。

近代化されたクルセイダー戦車は、アビドス砂漠の端に静かに停車していた。

外付け防弾ユニット、スペースドアーマー、水ジェリカンを積んだ砲塔ラック。

見た目は明らかに「博物館の車両」ではない。

ハモンドは砲塔の横で、手にしたチェックリストを見つめている。

ハモンド

「……最終調整だ。 ここで壊れたら、イギリスまで帰れないからね」

ジェレミー

「壊れたら置いて帰ればいい」

ジェームズ

「君はいつも“帰り”を軽視する」

 

■テスト①:エンジンと冷却

カミンズのディーゼルが唸りを上げる。

砂を噛んだ履帯が、ゆっくりと前進を始めた。

ジェームズ(運転席)

「回転数は安定してる。 油圧、油温問題なし。……意外だね」

ハモンド

「“意外”って言うなよ! スクラップから救ったんだぞ!」

ジェレミー(車内後方)

「エアコンは?」

ハモンド

「……効いてる」

ジェレミー

「勝ったな」

ハモンド

「まだ勝ってない!!」

車内は驚くほど静かだった。

第二次大戦期の戦車とは思えないほど、熱と騒音が抑えられている。

アヤネ(通信)

「車内温度、想定より低いです。 砂塵吸入も問題ありません」

ジェレミー

「ほら見ろ。NBC対策は正義だ」

ハモンド

「だから“サリン前提”で話すな!!」

■テスト②:走行・重量バランス

速度を上げ、砂丘を越える。

水ジェリカンを積んだ砲塔が、ゆっくりと揺れる。

だが転倒する気配はない。

シロコ

「重心……悪くない。 水の配置、ちゃんと効いてる。」

ノノミ

「砲塔に水を積む戦車、初めて見ましたけど…… 理にかなってますね。」

ハモンド

「“生存性第一”だからね。 砲塔が抜かれたら終わりだし。」

ジェレミー

「つまり“撃たれたら逃げる”戦車だ。」

ジェームズ

「それがクルセイダーの本質だよ」

 

■テスト③:防弾ユニット実地確認

射撃エリア。

砂地に立てられた的(クルセイダー)に、防弾ユニットが設置される。

ジェレミー

「さあ、やろう。」

ハモンド

「待て待て待て! 本体に撃つ気じゃないよね!?」

ジェレミー

「安心しろ。 駄目なら帰るだけだ。」

 

拳銃を抜いたシロコが的(クルセイダー)に撃つ。

乾いた発砲音。

――コンッ

弾はアルミ板を貫通しアラミド繊維で止まり、エラストマー層で衝撃が吸収される。

ジェームズ

「大分良いね」

次はライフル。

数発が重なり、ユニットが大きく揺れる。

アヤネ

「三層目で停止。 四層目は無傷です」

ハモンド

「……よし」

彼は深く息を吐いた。

ハモンド

「“中の人は生きてる”」

ジェレミー

「いい響きだ」

■テスト④:主砲・最終確認

6ポンド砲。

古いが、整備された砲身が砂漠に向く。

シロコ

「弾道、計算済み。 安全範囲、クリア」

ジェレミー

「撃てるってだけでテンション上がるな」

ハモンド

「“使わない前提”だからね?」

発射。

――ドンッ!!

砂漠に衝撃が走り、遠方の標的が吹き飛ぶ。

 

ノノミ

「……普通に強いですね」

セリカ

「控えめとか言ってごめん」

ジェームズ

「必要十分、というやつだ」

 

■想定外:アビドスの日常

その時、遠くで銃声。

ホシノ

「あ〜、向こうで小競り合いかな〜」

ジェレミー

「……日常?」

シロコ

「日常」

アヤネ

「日常です」

ハモンド

「最終調整中に“実戦が始まる”世界って何!?」

ホシノ

「じゃあ、いい機会だし〜 少し移動してみよっか〜」

ジェレミー

「完璧だ」

ハモンド

「テストってそういう意味じゃない!!」

 

■――実戦遭遇――

砂漠は、調整を待ってくれない。

アビドスの空は高く、乾いた風がクルセイダーの装甲を舐めるように吹き抜けていた。

朝の太陽が砲塔の縁を照らし、外付け防弾ユニットのアルミ板が鈍く光る。

履帯が砂を噛み、低く唸る。

「……走行系は安定してる」

ハモンドは操縦席で、静かに言った。

いつもの軽口はない。声は低く、集中している。

ジェームズは後部、計測機材の間で腕を組み、振動のリズムを感じ取っていた。

「悪くないね。

少なくとも“80年以上前の設計”には思えない」

ジェレミーは砲塔内、赤外線モニターを覗き込みながら言う。

「つまらんな」

「それは褒め言葉だよ!」

ハモンドが即座に返す。

その瞬間だった。

――モニターが、変わる。

赤外線画面の端。

砂丘の影が、不自然に揺れた。

シロコの声が、通信に割り込む。

「……前方、敵影。複数」

ホシノは砂丘の陰から、いつもの緩い声で続けた。

「うん、あれは……

ちょっとした“お客さん”だねぇ」

砂嵐の名残で視界は悪い。

だが、近づいてくる気配は隠せない。

――発砲音。

乾いた音が、砂漠に弾けた。

カン、と鈍い衝撃。

クルセイダーの側面、防弾ユニットに何かが当たる。

車内が一瞬、静まり返る。

ハモンドの目が見開かれ、即座に撃たれた箇所の内側を見る。

「……貫通、なし」

ジェームズが冷静に補足する。

「外装で止まってる。

内部に飛散は来てない」

ジェレミーが、満足げに低く笑った。

「ほら見ろ。

Amazonは嘘をつかない」

「今それ言うな!!」

次の瞬間、複数の影が砂丘から現れた。

軽武装の集団。

キヴォトスでは、珍しくもない“野良の武装勢力”。

ホシノが言う。

「んー、交渉する感じじゃないねぇ」

シロコは短く。

「……撃つ」

アヤネの声が、冷静に重なる。

「被害最小で。

撃退は可能です」

ハモンドは一瞬、迷った。

博物館の戦車。

撮影用。

番組企画。

だが――今は。

「……戦車、前進」

低い声で、そう言った。

履帯が回り、砂を巻き上げる。

6ポンド砲が、ゆっくりと向きを変える。

ジェレミーが言う。

「安心しろ。

威嚇だ」

「“威嚇”の定義が怖いんだよ君は!」

砲身が静止する。

――轟音。

砂丘の手前、何もない場所に着弾。

砂柱が立ち上り、衝撃波が空気を震わせた。

武装集団が、動きを止める。

一拍。

そして――蜘蛛の子を散らすように、退却。

静寂が戻る。

砂が落ち、風だけが残った。

車内で、誰もすぐには喋らなかった。

やがて、ジェームズが穏やかに言う。

「……撃たれて、撃って、

それでも誰も怪我をしていない」

ハモンドは、深く息を吐いた。

「……防弾ユニット、意味があった」

ジェレミーは、珍しく真面目な声で言う。

「そうだな。

これは“強くなる改造”じゃない」

少し間を置いて、続けた。

「“生き残る改造”だ」

ホシノが通信越しに、くすっと笑う。

「合格点だねぇ。

アビドス基準でも」

シロコが短く締める。

「……実戦、問題なし」

ハモンドは操縦桿に手を置いたまま、空を見上げた。

青い空。

乾いた砂。

そして――まだ動いている戦車。

「……帰れるな」

ジェームズが頷く。

「うん。

“帰るための実験”は成功だ」

ジェレミーは、いつもの調子を取り戻した。

「じゃあ次はだな――」

「次はない!!」

砂漠に、笑い声が響いた。

 

■結論:合格

夕暮れ。

砂漠に長い影が伸びる。

クルセイダー戦車は、問題なく戻ってきた。

エンジンは健在。

装甲は無傷。

中の人も無事。

ジェームズ

「……合格だね」

ハモンド

「うん。 “生きて帰れる戦車”だ」

ジェレミー

「じゃあ次は何をする?」

全員が嫌な予感を覚える。

ジェレミー(満面の笑み)

「夜間戦闘テストだ」

ハモンド

「却下!!」

ナレーション

「こうして――

第二次大戦期の戦車は、

アビドス砂漠で“現役”として合格を与えられた。」

画面:

夕焼けの中、砂漠を走るクルセイダー。

字幕:

『撃って、走って、壊れなければ合格』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。