もしもグランドツアーの3人がキヴォトスに来たら2 作:ガチタン雷電
エデン条約序章
アビドス砂漠。
昼と夜の境目、太陽が低くなり、砂の温度がようやく人間に優しくなり始める時間帯。
クルセイダー戦車は、砂丘の影に静かに佇んでいた。
近代化されたその姿は、どこか不格好で、それでいて異様に“実用的”だった。
操縦席のハッチが開き、リチャード・ハモンドが顔を出す。
「……よし」
独り言だった。
かつては三人で騒ぎ、喧嘩し、叫びながらやっていた作業。
だが今は違う。
三人いない理由
ジェレミー・クラークソンは来なかった。
理由は二つ。
一つは、番組司会の仕事。
もう一つは――
「農業」
本人がそう言って譲らなかった。
「悪いなハムスター。
俺は今、土を耕してる。
砂漠よりよっぽど現実的だ」
スマホ越しに聞いた声を、ハモンドは思い出す。
ジェームズ・メイも来られなかった。
理由は単純で、そして致命的だった。
「ゲヘナで起きた爆破事件について、
しばらくキヴォトスへの入域はご遠慮ください」
――外交文書に、そう書かれていた。
「……彼は何をしたんだろうね」
答えは分かっている。
いつも通りだ。
実地テスト開始
エンジン始動。
カミンズディーゼルの低い音が、砂漠に広がる。
以前のリバティL-12とはまるで違う、安定した鼓動。
ハモンドは計器類を確認する。
温度、油圧、吸気――すべて正常。
「エアコン、オン」
冷たい空気が車内を満たす。
この一点だけは、ジェレミーの主張が完全に正しかった。
戦車が動き出す。
砂丘を越え、斜面を下り、再び登る。
履帯は砂を噛み、無駄に空転しない。
「……いいね」
思わず笑みがこぼれる。
■想定外の“実戦”
そのときだった。
増設したモニターに白い影が映る。
複数の熱源。
距離は遠い。
だが、規則性がある。
「……人影?」
ハモンドは即座に停止させる。
通信が入る。
アビドス側の短い警告ホシノからだ。
「リチャード。
砂漠で武装集団を確認。
逃げてもいいし、止まってもいいあとで必ず助けるから。」
あまりにも淡々とした声。
「……選択肢が雑すぎるよ」
ハモンドは呟く。
武装集団――
この世界では珍しくもない。
だが、今日はテストだ。
彼は深呼吸し、車内から射手席に移動し砲塔を旋回させようとする。
小さいとはいえ170cmの身長は、狭い車内での移動は一苦労だったとはいえ外から通ってわざわざ敵に姿を暴露することはしない。
そして射手席に座る。
撃たない。
ただ、向ける。
6ポンド砲の砲身が、夕焼けを背にゆっくりと動く。
それだけで、十分だった。
相手は止まり、一瞬の逡巡のすえやがて方向を変える。
――撃たれないと分かった瞬間の、あの独特の間。
「……よし」
ハモンドは安堵の息を吐いた。
防弾ユニットに、小さな金属音。
遠距離からの牽制射撃だろう。
だが、内部に衝撃はほとんど伝わらない。
「大丈夫だ」
誰に言うでもなく、そう言った。
■エデン条約への招待
テスト終了後。
夜の砂漠で、戦車を止めたまま通信を受ける。
形式ばった声。
「こちら、キヴォトス大使館経由。
リチャード・ハモンド殿に、
エデン条約締結式への来賓出席を正式に要請します」
一瞬、言葉を失う。
「……僕だけ?」
「はい。
クラークソン氏は業務都合、
メイ氏は現在、入域制限中のため」
ハモンドは苦笑した。
「でしょうね」
通信が切れる。
彼はハッチを開け、夜空を見上げた。
星が多い。
イギリスより、ずっと。
「……まさかね」
小さく呟く。
三人の中で、一番“普通”な僕が、
条約の場に出ることになるなんて
クルセイダーの装甲に手を置く。
冷たい金属。
だが、確かな安心感。
「君も一緒だ」
誰に向けた言葉かは、自分でも分からなかった。
ナレーション(締め)
「こうして、
三人のうち一人だけが、
エデン条約という“世界の節目”へ向かう」
「戦車は完成し、
砂漠での試練も越えた」
「だが――
本当に試されるのは、
これからだった」
画面は、
アビドス砂漠に佇むクルセイダー戦車と、
その横に立つ、小柄な男の背中を映して暗転する。