もしもグランドツアーの3人がキヴォトスに来たら2 作:ガチタン雷電
危険すぎる現場
トリニティ自治区郊外 ―― 英国陸軍護衛部隊 前哨キャンプ
朝日はは白く、空はやけに澄んでいた。
トリニティ自治区の外縁に設けられた簡易拠点は、どこか物々しさがあり緊張感が漂っていた。
リチャード・ハモンドは戦車の影でヘルメットを抱え、英国陸軍の若い士官から説明を受けていた。
「――以上が現在の状況です、ハモンドさん」
士官は淡々としていた。
あまりに淡々としすぎていて、内容と口調が釣り合っていなかった。
「トリニティ内部では、パテル分派の長――美園ミカがクーデターを起こし現在は拘束されています。」
「……“クーデターを起こした”?」
ハモンドは聞き返した。
士官は一瞬だけ言葉を探すように週順したが、すぐに続けた。
「はい。すでに事態は収束したとトリニティでは判断されています。」
「待って。クーデターだろ?」
「はい」
「トリニティ自治区で?」
「はい」
「それで“収束”?」
士官は困ったように肩をすくめた。
「キヴォトス基準では、です。」
続く説明は、さらに胃の奥を冷やした。
「なお、トリニティの最高指導層のうち一名が現在行方不明。
フィリウス分派の長――桐藤ナギサが、事実上一人で全体を回しています」
「一人で?」
「はい」
「それで平常運転?」
「……平常に“戻っている”と、公式には」
ハモンドは土を踏みしめ、遠くに見えるトリニティの白い建造物群を見た。
鐘楼は静かで、人影は穏やかだ。
見た目だけは、完全な平和だった。
「ミカは外部勢力――アリウス派を内部に引き込んでいましたが、
現在は危険は排除されたと発表されています。」
「“発表”ね。」
思わず、皮肉が口から漏れた。
士官は少し声を落とした。
「正直に言います。
我々と領事館は、まったく安心していません。」
「……だろうな。」
ハモンドは額を押さえた。
理解できないのは状況そのものではない。
『それを“気にしていない周囲”だった。』
拠点の外では、トリニティの生徒たちが普通に行き交っている。
笑い声。談笑。
昨日と何一つ変わらない日常。
「クーデターがあって、トップが消えて、外部武装派閥が絡んで――
それで“まあ大丈夫”?」
士官は小さく頷いた。
「キヴォトスでは、よくある……とは言いませんが。
“よくあることとして処理される”類です」
ハモンドは短く息を吐いた。
「……信じられない」
そのとき、1人の士官が近づいてきた。
「それでハモンドさん。
あなたが“マスコミの代表”に選ばれました」
「……はぁ?どういうこと?」
一拍置いて、答えが返る。
「英国側来賓としてです。
戦車を持ち込んだ人物でマスコミであり著名人ということで…」
ハモンドは言葉を失った。
「ちょっと待ってくれ。
僕は客で来ただけだ。
状況を見て、撮影する予定で――」
「“戦車を持ち込んだ英国人(外の世界の大人)”という絵面が、
彼らにとって分かりやすいそうです」
視線の先。
すでに遠くでうちのスタッフのカメラが回っているのが見えた。
「……冗談だろ」
誰にも聞こえない声で呟く。
彼の頭に浮かんだのは、
トリニティの“平和な街並み”でも、
拘束されたミカの名でもなかった。
『――本気で危機を理解している人間が、どれだけいる?』
その問いだけが、胸の奥に重く沈んだ。
「なあ」
ハモンドは士官を見た。
「もしこれがイギリス本土だったら、
議会はどう反応する?」
士官は即答した。
「非常事態宣言です」
「だろ?」
ハモンドは、遠くの白い塔と、平然と歩く生徒たちを見比べた。
「……なのに、ここでは俺達は“過剰反応してる側”か」
砂漠の風が吹き、制服の裾を揺らした。
その瞬間、彼は理解した。
自分がここに呼ばれた理由は、
戦車をもっているからでも、マスコミとしでもない。
“危機を危機だと言ってもらうための存在”
炭 鉱 の カ ナ リ ア
それが、自分の役割なのだと。
そしてそれは、
想像していたより、ずっと重い役だった。