姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

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温泉回は大事!!!!!!!!!!!!!!!!!


第11話:束の間の休息

「……ふぅ。ガス欠だ。」

 最後のミストウルフが霧の彼方へ逃げ去ったのを見届けると、僕は大きく息を吐いて脱力した。

 やはり身体強化の反動は大きい。

 全身の筋肉が悲鳴を上げ、鉛のように重い。

 短時間なら最強格の女性騎士とも渡り合えるが、これ以上続けば、ただの「元気なサンドバッグ」になっていただろう。

 

「お疲れ様です、エヴ様。……タイミングよく、霧も晴れてきたようですね。」

 

 ネリーが涼しい顔で、剣についた血糊を布で拭っている。彼女のスタミナは底なしか。これだからこの世界の女性は恐ろしい。

 

「ネリー。……この死体、どうしようか。」

 

 僕は周囲に転がる狼の死骸を指差した。

 ネリーが倒したものはともかく、僕が斬った個体は、明らかに「膂力のない男」がやった傷ではない。

 骨ごと両断された断面を見れば、従騎士たちが「団長様って実はゴリラ……?」と疑念を抱くのは明白だ。

 

「ご安心を。全て『私がやりました』ということにしておきます。」

 

 ネリーは悪戯っぽく微笑むと、僕が倒した狼の死骸に近づき、自身の剣で傷口をさらにグサグサと突き刺して偽装工作を始めた。

 ……手際が良すぎて怖いよ、ネリーさん。

 

「助かるよ。君との秘密だね。」

「ええ。二人だけの、甘い秘密ですね。」

 

 甘いと言うか赤い秘密ですよ。鮮血的な意味で。 

 そうこうしているうちに、急速に視界が開けてきた。

 乳白色の壁が薄れ、荒涼とした台地の風景が戻ってくる。

 

 そして、遠くから地鳴りのような轟音が近づいてくるのが聞こえた。

「エヴ様ァァァァァァァッ!!!!」

 

 ドォォォォォンッ!!

 目の前の岩山が爆散した。

 粉塵の中から現れたのは、鬼の形相……もとい、心配のあまり限界突破したルイーズと、殺気立った騎士団本隊だった。

 

「ご無事ですか!? お怪我は!? 霧にさらわれて神隠しに遭ったのではと……ッ!!」

 

 ルイーズが馬から飛び降りる勢いで駆け寄ってくる。

その目には涙が溜まっているが、手にはしっかりと、岩を砕いたであろうツヴァイハンダーが握られている。

 

「大丈夫だ、ルイーズ。見ての通り、ネリーが守ってくれたよ。」

「申し訳ありません副団長。……少しばかり数が多く、手間取りました。」

 

 ネリーが涼しい顔で報告すると、ルイーズは地面に転がる狼の死骸を見て、目を剥いた。

 

「これだけの数を、一人で……? さすがはネリー。……よくぞ、よくぞエヴ様を守り抜いてくれた!」

 

 ルイーズは感極まった様子でネリーの手を握りしめた。

従騎士たちも、「すごいですネリー様!」「やっぱり最強!」と歓声を上げている。

 その影で、僕とネリーがこっそりと視線を合わせ、小さく笑ったことは誰も知らない。

 

「さて、無事に合流もできたことだし、先を急ごうか。みんなも疲れただろう。」

 

僕が場の空気を切り替えようとした、その時だった。

 

「団長! あちらをご覧ください!」

 

 斥候役のミリアが、岩場の奥を指差して叫んだ。

 そこは、先ほどまで霧に隠れて見えなかった場所、岩の裂け目から、もうもうと白い湯気が立ち上っている。

 

「あれは……湯気?」

「硫黄の匂いがします!」

 

 まさか。

 こんな荒野のど真ん中に?

 僕たちは顔を見合わせ、その場所へと近づいた。

 そこには、岩盤の窪みに並々と湛えられた、エメラルドグリーンの天然温泉が湧き出していたのだ!

 

「お、温泉だァァァッ!!」

 

 僕の心の叫びがこだました。

 前世、日本人として生きた僕にとって、風呂は命の洗濯。

 しかも野営続きで体はベタベタ、さっきの戦闘で汗だくだ。

 これが運命でなくてなんだと言うのか。

 

「素晴らしい……! 神は我々を見捨ててはいなかった!」

 

僕が感動に震えていると、ルイーズが真面目な顔で頷いた。

 

「確かに。戦闘後の汚れを落とすには最適ですね。……では、直ちに周辺を封鎖! 『入浴防衛陣形』を敷きます!」

「「「イエスマム!!」」」

 

 騎士たちが一斉に動き出した。

 簡易テントで脱衣所を作り、岩場の高所に弓兵を配置し、温泉の周囲をぐるりと盾兵が取り囲む。

 相変わらずの手際の良さだ。彼女たちにかかれば、ただの露天風呂も要塞へと早変わりする。

 だが、ここで僕には一つ、譲れない美学がある。

 

「みんな、待ってくれ。」

 

 僕が声をかけると、設営に動いていた騎士たちがピタリと止まった。

 

「みんな、連日の行軍と戦闘で疲れているだろう。ここはまず、君たちが先に入りなさい。僕は最後でいい。」

 

 そう。指揮官たるもの、部下の休息を優先すべきだ。

 それに、男の僕が一番風呂に入り、垢や汗で湯を汚すようなことがあっては、レディたちに申し訳ない。

 

 しかし。

 僕の提案を聞いた瞬間、ルイーズたちは目を見開き、そして全員がブンブンと首を横に振った。

 

「な、何を仰いますかエヴ様!! とんでもない!!」

 

 ルイーズが眉を吊り上げ、悲鳴に近い声を上げた。

 

「主君であらせられるエヴ様を差し置いて、我々が一番風呂を頂くなど! 騎士道の恥! 末代までの恥です! そのような不敬、万死に値します!」

 

「そ、そうだよエヴァン! 序列ってモンがあるだろ! 団長が一番綺麗な一番風呂で清めるのが筋ってモンだ!」

 

 サーシャも慌てて否定する。顔が赤いのは、きっと興奮しているからだろう。

 従騎士たちに至っては、「あり得ない!」「順序が逆です……!」と青ざめて後ずさっている。

 ……ああ、なんて忠義に厚い部下たちなんだ。

 僕なんかのために、そこまで序列を重んじてくれるなんて。

 僕の目頭が少し熱くなった。この世界、男の地位は低いが、彼女たちの僕への敬意は本物なのだ。

 

「いや、でも僕は汗だくだし……お湯が汚れるかもしれないよ? 君たちが後から入る時、不快だろう?」

 

 僕が遠慮がちに言うと、ルイーズが一歩進み出た。

 その表情は、殉教者のように真剣そのものだ。

 

「汚れる? ……滅相もございません。」

 

 ルイーズは胸に手を当て、熱っぽい瞳で僕を見つめる。

 

「エヴ様が先に入り、その身を清められることで、ただの温泉水は『聖なる水』へと浄化されるのです。我々は、その清められた後の湯に浸かることで、騎士としての心身を引き締めたい所存。……そうですよね、皆の者!」

「「「イエスマム!!!!!!!」」」

 

 全員の声が揃った。

 ものすごい圧だ。

 彼女たちの瞳の奥には、何かこう、信仰心にも似た、あるいはもっとドロっとした執着のような光が見える気がするが、きっと気のせいだろう。

 全員が口を真一文字に結び、鼻息を荒くして「一番風呂はエヴ様」と主張している。

 

 特にネリー。

 無言だが、目が笑っていない。「入らないなら私が服を脱がせて投げ込みますよ?」というオーラが出ている。怖い。

 

 ……これ、断れないやつだ。

 僕の感動を返してほしい気もするが、彼女たちの忠義(?)を無下にするわけにはいかない。

 それに、正直に言えば一番風呂は魅力的だ。彼女たちがそこまで言うのなら、甘えるのが上司の務めというものだろう。

 

「……わ、わかったよ。一番風呂は頂くよ。」

 

 結局、僕は折れた。

 いや折れざるを得なかったと言うべきか。

 僕が了承した瞬間、騎士団全体に「ホッ」という安堵の空気と、「よしッ……!」というガッツポーズのような気配が広がった。

 

「ではエヴ様、こちらへ! 最高の状態に整えてあります!」

 

 ルイーズに案内され、僕は簡易脱衣所へと向かう。

 その背中に、三十人の視線が突き刺さる。

 決して卑猥な視線ではない。あくまで直立不動、真顔での警備だ。

 だが、その視線の熱量が異常に高い気がするのは、やはり温泉の熱気のせいだろうか。

 

 

 ☆

 

 

「……わ、わかったよ。一番風呂は頂くよ。」

 

 僕は一度は頷き、脱衣所へと足を向けた。

 だが、そこでふと足を止めた。

 待てよ。

 今、時刻は夕暮れ前だ。

 僕が一人でゆっくり入って、その後に三十人が交代で入るとなると、最後の人たちが上がる頃には完全に日が暮れてしまう。

 湯冷めも心配だし、何より効率が悪い。

 

それに……よく考えれば、過剰に意識する必要なんてないのだ。

 ここは「男卑女尊」の価値観が根付いた異世界。

 世間で持て囃される「美しい男性」というのは、身長150センチ台で、折れそうなほど細く、肌は透き通るように白く、守ってあげたくなるような「儚い少年」のことだ。

 

 対して、僕はどうだ?

 母上の強靭な遺伝子と騎士になるための訓練のおかげで、身長は無駄に高い180センチ。

 肩幅は広く、胸板は厚く、腹筋は割れ、背中は逆三角形の「ナイスバルク」。

 この世界基準で見れば、僕は可愛げのない、無駄にデカいゴリラでしかない。

 

 幼馴染のルイーズやネリーに至っては、目が肥えているだろう。

 王都の社交界で、愛らしい美少年たちを散々見てきた彼女たちが、僕のような野暮ったい筋肉達磨の裸を見たところで、興奮するわけがない。

 むしろ「相変わらず可愛くない体ですね」と、鼻で笑われるのがオチだろう。

 僕は一人で勝手に恥じらっていた自分が恥ずかしくなった。

 

 彼女たちは百戦錬磨の騎士だ。戦場での野営や行軍で、男の裸、捕虜とか死体とかなんて見慣れているはず。

 僕の裸体に、性的価値など皆無。

 ならば、答えは一つだ。

 

「みんな、やっぱり訂正する。」

 

 僕が振り返ると、騎士たちが「?(早く入って出汁を……)」という顔でこちらを見た。

 

「効率が悪すぎる。……全員、一緒に入ろう。」

 

 ピタリ。

 風が止まった。

 鳥のさえずりも消えた。

 世界が止まった。

 三十人の騎士たちが、彫像のように完全に固まった。

 

「……は?」

 

 ルイーズが、聞いたこともないような間の抜けた声を出した。

 

「だから、混浴だよ。この広さなら全員一度に入れるだろう?」

 

 僕は岩場の広さを手で示した。

 五十人は余裕で入れる広大な露天風呂だ。

 

「え、エエエエエヴ様!? ほ、ほほほ本気ですか!?」

 

 ルイーズが顔を真っ赤にして、壊れた玩具みたいに手足をバタつかせた。

 

「だ、だって男と女ですよ!? しかも主人と部下で……その、裸の付き合いなんて……!」

 

「何を言ってるんだルイーズ。戦場では寝食を共にする仲間だろう?」

 

 僕はあくまで爽やかに、そして少し自嘲気味に笑って見せた。

 

「それに、僕みたいな可愛げのないゴリゴリの体を見れたところで、君たちが目の保養になるわけでもないしね……?」

「ッ~~~~~!!!!」

 

 全員が息を呑んだ。

 何故か数名が鼻を押さえ、数名が天を仰ぎ、ルイーズに至っては「ゴリゴリ……? それが至高なのに……」とブツブツと譫言を呟いている。

 やはり、僕の体など見る価値もないと呆れているようだ。

 

「拒否するなら無理強いはしないけど……どうする? 一緒に入れば……。そうだな、日頃の労いも込めて背中くらいは流させてもらうよ。」

 

 僕が提案すると、ネリーがスッと手を挙げた。

 その顔は能面のように無表情だが、耳の先まで真っ赤だ。

 

「……団長命令とあらば、拒否する理由はありません。」

 

 声が震えている。怒っているのだろうか? いや、これは緊張か。

 やはり、ブ男と混浴なんて嫌だったかもしれない。申し訳ないことをした。

 

「また、入浴中のエヴ様を狙う刺客からお守りするためにも、至近距離での護衛が必要です。……断じて、やましい気持ちではありません。」

「そ、そうね! 護衛よ! あくまで警備の一環として、一緒に入るのよ!」

 

 ルイーズも慌てて乗っかってきた。落ち着け、口調が変わっておるぞ。

 他の騎士たちも、「任務なら仕方ない」「あくまで任務」「視姦じゃない、監視だ」と口々に言い訳……じゃなくて、覚悟を決めている。

 最後のやつは本音がちょっと漏れてる気がする。

 

「よし、じゃあ決まりだ。さっさと服を脱いで入ろう!」

 

 僕はタオル一枚を肩にかけ、躊躇なく服を脱ぎ始めた。

 日本の銭湯文化が染み付いている僕は、隠す所隠せられれば特に躊躇いはない。

 パラリ、とシャツが落ち、上半身が露わになる。

 

「「「ッ!!(ガン見)」」」

 

 背後から強烈な視線を感じるが、振り返ると全員がサッと空や地面を見ていた。

 ……そんなに直視するのが嫌か。

 まあいい。僕は気にせずズボンも脱ぎ捨て、タオルを腰に巻いて湯船へと向かった。

 

 チャポン。

 

「ウォォォォ……極楽極楽。」

 

 肩までお湯に浸かり、大きく息を吐く。

 最高だ。これまでの疲れが一瞬で吹き飛ぶようだ。

 僕が手招きすると、騎士たちがモジモジと脱衣所から出てきた。

 そして、思わず息を呑んだ。

 

 壮観だった。

 鍛え上げられた、しかし女性らしいしなやかさを保った肢体の数々。

 ルイーズの豊満かつ引き締まったボディ、ネリーのスラリとしたモデルのような体型、サーシャの大柄で健康的なライン。

 この世界の美の基準である「強さ」と「美しさ」を兼ね備えた、まさに戦乙女の集団だ。

 

……うわぁ。僕、場違いすぎない?

 

 彼女たちの圧倒的な肉体美に比べ、僕の体はやはり美しさが無い。

 訓練でついた筋肉、既に跡が残った傷跡の数々、そして、彼女たちのような「生物としての強さ」が欠けている気がする我が肉体。

 

 やっぱり、彼女たちにとって僕は対象外みたいなものなんだろうな。

 

 しかし、彼女たちの反応は予想外だった。

 誰も湯船に入ってこない。

 湯気の向こうで、顔を真っ赤にして、バスタオルを握りしめて立ち尽くしている。

 

「どうしたの? お湯、熱そう?」

「い、いえ……!」

 

 ルイーズが震える声で答えた。

 

「その……エヴ様の、その……鎖骨の水溜まりが……あまりにも……尊くて……。」

「は?」

「刺激が……強すぎます……!」

 

 ドサッ。

 数名の従騎士が、鼻血を出して倒れた。

 え、なんで? のぼせた? まだ入ってないよね?

 

「しっかりしろ! ……ほら、早くお湯に入って温まるんだ!」

 

 僕が立ち上がって助けに行こうとすると、「立たないでください!!(目のやり場に困るから!)」と全員から絶叫された。

 

 結局。

 彼女たちは「エヴァンから半径1メートル以内は聖域につき進入禁止」という謎のルールを策定。

 僕を中心にして、ぐるりと円を描くように距離を取って入浴することになった。

 お湯の中、三十人の美女に包囲される僕。

 彼女たちは無言で、しかし熱のこもった瞳で、じーっと僕を見つめている。

 獲物を狙う目じゃない。

 なんだろう、美術館で「国宝」を見ているような、丁重かつねっとりとした視線だ。

 

「……あの、みんな。そんなに見られると落ち着かないんだけど。」

「監視です。」

「護衛です。」

「網膜に焼き付けています。」

 

 即答だった。

 最後の一人、正直すぎないか?

 

「失礼します、エヴ様。」

 

 そんな中、ネリーだけが静かに、音もなくお湯をかき分けて近づいてきた。

 彼女は僕の背後に回ると、持参した手ぬぐいにお湯を含ませた。

 

「お背中、流しますね。」

「あ、ありがとう。……でも、悪いよ。」

「いいえ。……ここは、私の場所ですから。」

 

 ネリーは耳元で囁くと、優しく、しかし丹念に僕の背中を洗い始めた。

 その指先が触れるたび、周囲の騎士たちから「ズルイ……」「代わって……」「あとでその手ぬぐいオークションにかけて……」という呪詛が聞こえてくる。

 僕は温かいお湯と、ネリーの心地よい手つきに身を任せながら、ふと思った。

 

……なんか、みんな僕の裸を見ても全然引いてないな。むしろ楽しんでる?

 やっぱり、仲間っていいものだ。

 ブ男の僕を受け入れて、こうして裸の付き合いをしてくれるなんて。

 僕のこの「平和ボケした勘違い」が、彼女たちの理性をギリギリまで削っていることに、僕はまだ気付いていなかった。

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
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