姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

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第12話:シルバッツ大森林 Ⅰ

 スリヒ台地の乾いた風が、背後へと遠ざかっていく。

 代わって肌を撫でたのは、湿り気を帯びた濃密な森の空気だった。

 

「......空気が変わったな。」

 

 僕は愛馬オニキスの首筋をポンと叩き、その漆黒の毛並みを愛でながら独りごちた。

 目の前に広がるのは、鬱蒼とした木々が空を覆い隠す『シルバッツ大森林』。

 かつては人も獣も拒む魔境と呼ばれていた場所だ。

 

 だが、今の光景は少し違う。

 

「流石は帝国軍と言うべきか。......悔しいが、いい仕事をしている。」

 

 僕たちの足元には、整然と敷き詰められた石畳が真っ直ぐに森の奥へと伸びていた。

 道幅は広く、馬車が三台並んでも余裕ですれ違えるほどだ。

 左右の木々は綺麗に伐採され、視界も良好。かつての薄暗い獣道の面影はどこにもない。

 一年前に勃発した戦争の際、帝国軍が大軍を送り込むために突貫工事で整備した軍用道路だ。

 

 皮肉なことに、この道のおかげで僕たちの帰郷の旅路は劇的に短縮されている。

 侵略のために作られた道を通って帰るというのは、敗戦国の騎士として複雑な心境ではあるけれど。

 

「街道の状態は良好。これなら予定よりも早く国境へ抜けられそうですね。」

 

 隣に並んだネリーが、地図を片手に淡々と告げる。

彼女の視線は油断なく森の奥へと向けられているが、その表情には少し余裕が見える。

 

「あぁ。オニキス達の足への負担も少なくて済みそうだ。......このまま何事もなく抜けられればいいんだけど。」

「ご安心を。魔物が出ようと野盗が出ようと、このネリーが盾となり、エヴ様の視界に入る前に塵へと変えてみせます。」

「......頼もしい限りだよ。」

 

 僕は苦笑いをした。

 彼女の言う「塵に変える」が比喩表現ではないことを、僕はよく知っている。

 

「総員、散開! 街道が広いとはいえ、油断するな! 左右の林縁部への警戒を厳にせよ!」

 

 ルイーズの凛とした号令が響く。

 30騎の隊列は、石畳の広さを活かして横に広がり、僕を中心とした強固な防御陣形を敷いた。

 

 硬い石畳を叩く蹄の音が、静かな森に反響する。

 整備されているとはいえ、ここは魔境の只中だ。

 鳥の声一つしない不気味な静寂が、肌をピリピリと刺す。

 

 平和だ。

 平和すぎる。

 

  

「......止まれ。」

 僕は右手を上げ、隊列を制止させた。

 先頭を行くミリアたちが、驚いたように振り返る。

 

「どうされましたか? エヴ様。」

 

 ルイーズがすぐに馬を寄せてくる。

 僕は答えず、石畳の上に残された「痕跡」を指差した。

 

「......轍が、乱れている。」

 

 綺麗な石畳の上には、うっすらと土埃が被っている。

 そこには、数台の馬車が通ったであろう車輪の跡が残っていた。

 

 だが、その軌道がおかしい。

 直進していたはずの轍が、唐突に蛇行し、急ブレーキをかけたように擦れている。

 そして、その先。

 街道の脇、伐採された切り株に何かが激突したような真新しい傷跡があった

 

「襲撃......でしょうか。」

「恐らくな。......しかも、ついさっきだ。」

 

 僕は馬から降り、轍の横にしゃがみ込んだ。

 石畳の上に、点々と黒い染みが落ちている。

 指先で触れると、まだ生温かい。

 

「血だ。まだ乾いていない。」

 

 僕の言葉に、騎士たちの空気が一変した。

 先ほどまでの余裕は消え失せ、抜き身の刃のような殺気が森に充満する。

 

「総員、戦闘準備! エヴ様を囲め! 蟻一匹通すな!」

 

 ルイーズが叫ぶと同時に、鋼の壁が僕の視界を塞いだ。

 いつもの過保護ムーブだが、今回ばかりは僕も止めるつもりはない。

 

「風に乗って、焦げ臭い匂いがする。」

 

 僕は立ち上がり、オニキスに飛び乗った。

 整備された街道。

 見通しの良い直線。

 そんな場所で商隊を襲うなど、よほどの命知らずか、あるいは......。

 

「行くぞ。......生存者がいるかもしれない。」

「エヴ様!? お待ちください! 先行偵察を......!」

「待っていたら手遅れになる!」

 

 オニキスの腹を蹴ると、黒馬は即座に反応し、石畳を蹴って弾丸のように加速する。

 優秀な街道のおかげで、オニキスのスピードは最高速に乗った。

 景色が後方へと飛び去っていき、焦げ臭い匂いが濃くなる。

 

視界が開けた先。

石畳の街道を塞ぐように、横転した馬車が燃え盛っていた。

 

 

 ☆

 

 

 「......なんだ、あれは。」

 

 現場に到着した僕は、オニキスの手綱を引き、呆気にとられた。

 そこにいたのは、統一された装備の正規軍ではない。

 革鎧に金属のパーツを継ぎ接ぎした、ラフな格好の武装集団――傭兵団だった。

 

 数は15名ほど。

 彼らが剣や魔法を乱れ打っている相手は、人間ではない。

 全長4メートルはあろうかという、巨大な岩と鉄の塊。

『自律型・土木作業用ゴーレム』だ。

 

「ゴオオオオオオッ!!」

 

 ゴーレムが咆哮のような駆動音を上げ、丸太のように太い腕を振り回す。

 その一撃が地面を叩くと、石畳が粉砕され、衝撃波で傭兵たちが木の葉のように吹き飛ばされた。

 

「ひるむな! 報酬分は働け!」

「無茶言わんでください姐さん! こいつ完全にイカれてやす!」

「チッ! 帝国の連中、整備不良のポンコツを押し付けやがって!」

 

 どうやら状況は見えてきた。

 街道整備のために帝国が雇った傭兵団が、護衛対象である建設用ゴーレムの暴走に巻き込まれたらしい。

 彼らは自分たちが守るべき「飯のタネ」に襲われているわけだ。

 

「......ふん。傭兵風情か。」

 

 隣で、ルイーズが興味なさそうに鼻を鳴らす。

 

「エヴ様。放っておきましょう。金で動くゴロツキなど、野垂れ死のうが知ったことではありません。」

「同感ですね。」

 

 ネリーも無表情で頷く。

 

「あのゴーレムが彼らを片付けた後、私たちがゴーレムを破壊すれば済みます。余計なリスクを負う必要はありません。」

 

 騎士団の全員が、同じ意見だった。

 騎士にとって、金で主を変える傭兵というのは、あまり好ましい存在ではない。

 ましてや敵国の仕事を受けている連中だ。助ける義理などこれっぽっちもない。

......普通の指揮官なら、そうするだろう。

 

「......悪いけど、僕はそうは思わないな。」

 

僕はオニキスの腹を蹴り、一歩前へと進み出た。

 

「エヴ様!?」

「彼らは仕事をしているだけだ。それに、この街道を維持してくれているおかげで、僕たちは快適に旅ができている。」

 

 屁理屈かもしれない。

 でも、僕は見てしまった。

 あの中で指揮を執っているリーダーらしき女性が、逃げ遅れた若い傭兵を庇おうとして、ゴーレムの前に立ちはだかったのを。

 

「それに......目の前で人が死ぬのを黙って見ているなんて、寝覚めが悪い。」

 

 僕は腰の剣を抜き放った。

 本来ならば敵になる相手であろうと、その魂の高潔さを見せられてしまったのなら助太刀するのが僕の流儀だ。

 

「総員、傾注! これより暴走ゴーレムを鎮圧する!」

「なっ......敵を助けるのですか!?」

「『人』を助けるんだ! ......遅れるなよ!吶喊!」

 

 僕はルイーズの制止を振り切り、戦場へと突っ込んだ。

 

 ☆

 

 突然の騎馬の乱入に、ゴーレムが反応する。

 その巨大な岩の拳が、僕めがけて振り下ろされた。

質量にして数トン。直撃すればオニキスごとミンチだ。

 

「オニキス!」

 

 僕が手綱を引くより早く、オニキスが鋭角にステップを踏む。鼻先数センチを岩塊が通過し、風圧が僕の髪を乱した。

 

「遅い!」

 

 すれ違いざま、僕は身体強化を乗せた一撃を叩き込んだ。

 僕の剣は切断強化の魔法が込められた王国きっての業物ではあるけれど、流石にゴーレムを両断することは出来ない。

 狙いは関節部、岩と岩の間にある駆動用の魔導シリンダーだ。

 

「フンッ!」

 

 硬質な音と共に、ゴーレムの左肘から火花が散る。

 片腕の制御を失った巨人が、バランスを崩してよろめく。

 

「な、なんだ!? 誰だ!?」

「騎士......!? 帝国の騎士か!?」

 

呆然とする帝国兵たちを尻目に、僕は馬上で剣を構え直した。

 

「ボサッとするな! 下がれ! 巻き込まれるぞ!」

 

 僕が一喝すると、兵士たちは弾かれたように我に返り、慌てて負傷者を連れて後退した。

 よし、これで心置きなく暴れられるな。

 

「ゴゴゴ......ッ!」

 

 片腕を壊されたゴーレムが、残った右腕を振り上げ、魔力の光を帯びさせ始めた。

 単純な物理攻撃じゃない。魔法を込めた一撃になるな……。

 まずい。この距離で放たれれば、背後にいる帝国兵たちもただでは済まない。

 

「させるかッ!」

 

 横合いから飛んできた銀色の閃光――ルイーズのツヴァイハンダーが、ゴーレムの右腕を根元から粉砕した。

 

「ルイーズ!」

「勘違いしないでくださいね!」

 

 ルイーズはゴーレムの破片を払い除けながら、プイと顔を背けた。

 

「私はエヴ様の命令に従っただけです! 決して、帝国兵を助けたいわけではありません!」

「......はいはい。わかってるよ。」

 

 見れば、ネリーや他の騎士たちも展開し、ゴーレムの退路を断っている。

 口では文句を言いながらも、僕が飛び出せば必ずついてきてくれる。

 本当に、最高の部下たちだ。

 

「エヴ様!」

「ああ!」

 

 両腕を失い、しばし混乱した様子を見せるゴーレム。

 その胸部に輝くむき出しのコア。

 僕はオニキスを加速させ、流れるような動作で剣を突き出した。

 

 一点突破。

 オニキスの加速と身体強化によって繰り出された超速の刃は、吸い込まれるように魔力核であるコアを貫いた。

 

 パンッと硬いガラスが割れるような音が森に響く。

 巨人の目から光が消え、その巨体がズズズ......と崩れ落ちて土煙を上げた。

 

「......ふぅ。」

 

 僕は剣を振り、残心をとってから鞘に納めた。

 静寂が戻った街道に、帝国兵たちの荒い息遣いだけが聞こえる。

 

 さて。

 ここからが、戦闘よりも面倒な『外交』の時間だ。

 僕はため息を飲み込み、警戒心と困惑の入り混じった目でこちらを見ている傭兵隊長の方へと馬を向けた。

 

 

 ☆

 

 

 土煙が晴れると、そこには気まずい沈黙だけが残った。

 

「............」

 

 助けられた傭兵たちは、武器を下ろすことも忘れ、呆然とポカンと口を開けている。

 まぁ無理もない。

 死を覚悟した瞬間に、通りすがりの騎士団が乱入し、自分たちが手も足も出なかった暴走ゴーレムを瞬殺したのだ。

 

「怪我人は?」

 

 僕はオニキスの上から、努めて平静を装って声をかけた。

 その声に、傭兵たちの中心にいたリーダーの女性がハッと我に返る。

 

「......ああ。重傷者が二名出ちまったが、死人はゼロだ。あんたのおかげでな。」

 

 彼女は煤で汚れた赤髪をかき上げ、大剣を肩に担ぎ直して歩み寄ってきた。

 目つきが鋭く、露出の多い革鎧を着崩した、いかにも「姉御肌」といった風貌の女性だ。

 その瞳が、値踏みするように僕を見上げる。

 

「あたしは『赤錆の風』傭兵団の団長、バルバラだ。......見ねぇ顔だが、グラディウスの騎士様かい?」

「通りすがりの騎士だ。......名は名乗るほどのものではない。」

 

 僕はあえて名を伏せた。

 ここで身分を明かせば、()()()面倒な話になりかねない。

 

「そうかい。......だが、なんで助けた? 騎士様ってのは、あたしらみたいな薄汚い傭兵稼業を嫌うもんかと思ってたがね。」

 

 バルバラは意外そうに眉をひそめる。

 当然の疑問だ。

 僕の背後では、ルイーズたちが「余計な真似をしたら即座に首を刎ねる」と言わんばかりの冷たい視線を傭兵たちに浴びせているが、気にせずに続ける。

 僕は肩をすくめ、背後で沈黙しているゴーレムの残骸を親指で指した。

 

「勘違いしないでくれ。君たちを助けたわけじゃない。」

「あァ?」

「あのデカブツが道を塞いでいて邪魔だったから、どかしただけだ。......それに、この道は君たちが管理しているんだろう? 通りやすくしてくれたことには感謝しているよ。」

 

 僕の言葉に、バルバラはキョトンと目を丸くした。

 そして、しばらく僕の顔をまじまじと見つめた後、ケラケラと豪快に笑い出した。

 

「ハハハッ! 傑作だねぇ! 命を救っておいて『道が邪魔だったから』だと? 気障なセリフ吐きやがって!」

 

 彼女はバンバンと自分の太ももを叩く。

 どうやらツボに入ったらしい。

 ひとしきり笑った後、彼女はスッと表情を変え、肉食獣のような瞳で僕を見た。

 

「......気に入ったよ、騎士様。」

「は?」

「あんた男だろう?その野暮ったいヘルムを被ってたってわかるさ。それに、腕も立つし、度胸もある。そんでもってそのガタイ......あたしの好みど真ん中だ。」

 

 バルバラが、ねっとりとした視線で僕の体を下から上へと舐め回す。

 その目は、優秀な戦士を見る目半分、獲物を狙うメスの目半分といった感じだ。

 

 ......嫌な予感がする。

 

「どうだい? その堅苦しい鎧を脱いで、ウチに来ないか? 報酬は弾むよ。......あたしの『夜の相手』も込みで、特別待遇で雇ってやるよ。」

 

 ――彼女はウィンクし、豊満な胸元を強調するようにポーズを取った。

 たわわに実ったソレが零れ落ちそうである。

 

 ......おい待て。

なんでこの世界の女性は、どいつもこいつも隙あらば勧誘してくるんだ。しかも性的な意味で。

 傭兵団の団長に求婚されるなんて、ハードボイルドすぎる。

 いやでも、結構でっけぇんだよな……。

 うわ、めっちゃいい……。デッカ…………。

 

 ………………いかん。

 

 バルバラが一歩近づこうとした瞬間、銀色の切っ先が彼女の鼻先に突きつけられた。

 ルイーズだ。

 彼女は能面のような無表情で、しかし隠しきれない殺気を撒き散らしながら、僕たちの間に割って入った。

 

「......その汚い口を閉じろ。」

 

 地獄の底から響くような声。

 背後のネリーたちも、いつでも抜刀できる構えを取っている。

 傭兵たちも慌てて武器を構えるが、気迫の差は歴然だ。

 

「おっとォ、怖い怖い。」

 

 バルバラは両手を上げて降参のポーズを取ったが、その口元はニヤリと笑っていた。

 うーん、ゴーレムに怯まず部下を庇おうとしたり、殺気を振りまく我が騎士たち()にもこの態度……。

 なかなか()()()な……。

 

「冗談だよ。......今のところはな。」

「次はないぞ。......行きましょう、エヴ様。こいつらと同じ空気を吸っていると、吐き気がします。」

 

 ルイーズに促され、僕は慌ててオニキスの手綱を返した。これ以上長居すると、本当に全面戦争になりかねない。

 

「あぁ、行こう。......達者でな。」

「へへっ、縁ってのは中々どうして不思議なもんでね。あんたとはまたそのうち会える気がするよ。」

「それには同感だ。では、それまでお互い壮健でいる事としよう。」

 

 僕は最後に一言だけ残し、傭兵たちに背を向けた。

 背後から、「いい男だったなぁ......」「また会ったら、次は強引にでも......」という不穏な独り言が聞こえた気がしたが、全力で聞かなかったことにした。

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
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