姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

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皆さんはどのキャラクターが一番好きですか?
作者はアンドレア殿下が一番好きです。
ドSで拗らせた権力者とか癖にぶっ刺さるんすよね。


第13話:シルバッツ大森林 Ⅱ

「..................」

 

 重い。

 空気が、湿ったスポンジのように重く、そして暗い。

 赤錆の風傭兵団と別れてから数刻。

 僕たちマドゥワス騎士団は、シルバッツ大森林のさらに奥深く、「幻惑の森」と呼ばれるエリアへと足を踏み入れていたのだが、隊列を包む空気は、まるで葬列のように沈み込んでいた。

 

 誰も口を利かず、ただ規則正しい蹄の音と、時折漏れる深い溜息だけが響いている。

 

「......あの、ルイーズ?」

 

 耐えきれず、僕は隣を行く副団長に声をかけた。

 彼女はビクリと肩を震わせ、恐る恐るこちらを振り返ると、その瞳は潤んでいて、まるで捨てられた子犬のような弱々しさが見えた。

 

「......何でしょうか、エヴ様。」

「いや、その......元気ないね? お腹でも痛い?」

「いえ......体の不調ではありません。ただ、心の臓が......シクシクと......。」

 

 ルイーズは胸元の鎧をギュッと握りしめ、悲痛な表情で俯いた。

 彼女だけではない。反対側のネリーも、後方のサーシャも、周囲を固める従騎士たちも、全員がこの世の終わりのような顔をしている。

 

 原因は明白だ。

 先ほどの女傭兵、バルバラ。

 彼女が別れ際に放った、「イイ体だねぇ、ウチに来て毎晩可愛がられてみないかい? 報酬も弾むよ」という爆弾発言。

 そして、その時の僕の曖昧な返事が、彼女たちの不安を煽ってしまったらしい。

 

「......エヴ様。」

 

 ネリーが、消え入りそうな声で呟く。

 

「あのバルバラという女性......野蛮でしたが、確かに『華』がありましたね。」

「え? そうかな?」

「はい。自身の欲望に忠実で、強引で、そして何より......少なからず部下も持つに値するカリスマを持っていました。」

 

 そうかな?

 僕としては皆の方が余程いい上官になると思うんだけど。まぁ、僕の騎士団にいるせいで、異性ととんと縁のない生活を強いている事に罪悪感もあるし……。

 

「それに比べて私たちは......貴方をお守りすると言いながら、いつもエヴ様に助けられてばかり。......もしエヴ様が、あのような『強い女性』に惹かれてしまったら......私たちは......。」

「そ、そうだよエヴァン......!」

 

 サーシャも涙目で割り込んでくる。

 この女が泣くのは珍しい。……酒臭ッ!?

 あっ!こいつ酒飲んでる!ヤケ酒か!?!?

 

「アタシたちじゃ、やっぱりダメなのか......? エヴァンはもっと、外の世界に羽ばたくべき人なのか......?」

 

 おいおい、どうしたんだみんな。普段の愚連隊地味だ狂犬っぷりはどこへ行ったんだよ。

 いつもみたいに「ヒャッハー!」してくれよ。

 完全にネガティブモードに入っている。

 彼女たちの脳内では、「エヴァンが愛想を尽かして出ていく」という最悪のシミュレーションが完了してしまっているようだ。

 

「考えすぎだよ。僕はどこにも行かないし、君たちに不満なんてないさ。」

 

 僕は努めて明るく、安心させるように言った。

 ここで選択肢を間違えたら「いっそ居なくなる前に美味しく頂いた方が良いのでは?」と暴走しかねない。

 大丈夫だよ、マイサン。

 乱暴に剥かれない様に頑張るから安心してね。

  

「むしろ、いつも過保護なくらい守ってくれて感謝してるよ。......ほら、元気出して。」

「うぅ......エヴ様......お優しい......。」

 

 ルイーズが鼻をすすった。

 多少は持ち直したようだが、まだ彼女たちの瞳には暗い影――「いつか彼の手が届かなくなる」という根源的な不安がこびりついている様だった。

 

 ……参ったな。何か気分転換になるような話題はないか?

 

 僕が頭を悩ませていた、その時だった。

 森に、乳白色の霧が立ち込め始めた。

 視界が悪くなり、数メートル先の木々さえ霞んで見える『幻惑霧』だ。

 

「またこの霧か......。みんな、はぐれないように......。」

「――悲しい顔は似合わないよ。僕の愛しい騎士たち。」

 

 僕の言葉を遮るように、前方の霧の中から声が響いた。

 甘く、とろけるようなバリトンボイス。

 低音だが優しく、傷ついた心に染み渡るような、包容力のある声だ。うおっ、いい男。

 

「誰だ!」

 

 ルイーズが反応し、反射的にツヴァイハンダーに手を掛ける。

 だが、その動作にはいつもの鋭さがない。心ここにあらず、といった感じだ。

 

「怪しい奴......! 姿を見せなさい!」

「ははは、そう警戒しないでくれ。......僕は、君たちが一番会いたがっていた男だよ。」

 

 霧が揺らぐ。

 白い帳が晴れ、そこから一人の男が優雅に歩み出てきた。

 その姿を見た瞬間、騎士団全員の時が止まった。

 

「......え?」

「うそ......エヴ様......?」

 

 そこに立っていたのは、僕だった。

 いや、正確には「僕と同じ顔をした男」だった。

 身長180センチの長身。鍛え上げられた体躯。

 浅黒い肌も、ヘルムを被るために短くした黒髪も。

 全く同じである。 

 

 しかし、その雰囲気だけは僕とは決定的に違っていた。

 溢れんばかりの自信と、女性を優しく包み込むような余裕。正直、純潔大帝国の童帝たる僕にはおよそ出せぬオーラがある。なんだオーラって。

 

「待たせてすまないね。......君たちが不安に泣いている声が聞こえたから、駆けつけたんだ。」

 

 その男は、キラキラとしたエフェクトが見えそうなほど優雅に微笑み、甘い視線を騎士たちに向けた。

ドッペルゲンガー......いや、森の魔物『ミラー・シェイプ』か。

 相手の心の隙間に入り込み、最も望む姿を見せるという厄介な魔物。

 どうやらこいつは、彼女たちの「不安」を餌に現れたらしい。

 

「エヴ様が......二人!?」

「でも、あの方は......!」

 

 騎士たちが動揺し、僕と「彼」を交互に見比べる。

 本来ならすぐに見破れるはずだ。あんなキザな男、僕であるはずがない。

 だが、「彼」は今の彼女たちが一番欲している言葉を、躊躇いなく口にした。

 

「心配しなくていい。僕はどこにも行かないよ。」

「彼」は両手を広げ、ルイーズたちを受け入れるポーズを取った。

 

「バルバラ? あんな女、僕の目には入らないさ。......僕が愛しているのは、世界で一番可愛い、僕だけの騎士団だけだ。」

「ぐわァァァァァァ!?」

 

 痒い!痒い痒い痒い痒い!!!!

 頼むから僕の顔でそんな恥ずかしいセリフを言わないでくれ。いや、ここまで()()奴なら僕との見分けもつくはず……。

 頼むぞみんな。僕は精神的ダメージで動けそうにないからみんなで囲ってリンチ…………。

 

ズギュュゥゥゥゥゥゥン!!!

 

 ウッソだろお前。

 騎士たちの胸を何かが撃ち抜く音が、幻聴レベルで聞こえた気がした。キュンッ所じゃない。

 

「エヴ、様......?」

「そうだよ。......さあ、おいで。僕の胸で泣けばいい。」

 

 まずい。

 これは戦闘以前の問題だ。

 精神的に弱っている彼女たちにとって、その言葉は劇薬すぎる!僕の精神にも大ダメージだ!

 騎士たちの瞳から理性の光が消え、代わりにハートマークが浮かび上がりそうである。

 

「だ、騙されるなみんな! そいつは偽物だ! 僕はそ、そんな恥ずかしいセリフ言わない!言わないんだよォ!」

 

 僕の必死の叫びは、霧の中に虚しく吸い込まれていく。

 偽物の放つ「理想の王子様オーラ」が、完全に場を支配していた。

 

 

 ☆

 

 

「偽物はあっちだよ、ルイーズ。......僕が分からないのかい?」

 

 偽エヴァンが、霧の中で微笑んだ。

 その笑顔は、砂糖菓子のように甘く、そして毒のように彼女たちの理性を侵食していく。

 僕の脳みそにも癒えぬ傷跡を残していく。

 

「嘘......エヴ様が、あんなふうに笑うなんて......。」

 

 ルイーズが呆然と呟く。

 彼女の手から、愛用のツヴァイハンダーがカラン、と音を立てて滑り落ちた。

 普段ならあり得ない失態だ。だが、今の彼女には剣を握る力など残っていないようだった。

 

 偽物は、まるでダンスを踊るような優雅な足取りで、ルイーズの目の前へと滑り込んだ。

 そして、躊躇うことなくその距離を詰める。

 ゼロ距離。

 互いの吐息がかかるほどの密着度だ。

 

「ッ!?」

「可哀想に。......不安だったんだろう? 僕が他の女に目移りするんじゃないかって。」

 

 偽エヴァンが、長い指でルイーズの顎をくい、と持ち上げた。いわゆる『顎クイ』だ。

 前世の少女漫画でしか見たことがないその光景を、まさか自分の顔をした男がやっているのを見る日が来るとは。

 見ていて背中と脳が痒くなる。今すぐ叫び出して走り回りたい衝動に駆られる。駆られるというか、実際そうした。だが、ルイーズの反応は違うようだった。

 

「ぐわァァァァァァ!ヤメテ!僕の顔でそんな事しないでくれ!」

「あ......エヴ、様......。」

 

 彼女の頬が、見る見るうちに熟れた果実のように赤く染まっていく。

 瞳は熱っぽく潤み、口元は何かを欲するように半開きになっている。

 それは、騎士団副団長としての顔ではない。完全に「恋する乙女」の顔だった。

 

「僕が君以外の女を見るわけがないだろう? ......君は、こんなにも美しいのに。」

 

 偽物は甘く囁くと、空いた片手でルイーズの腰を大胆に抱き寄せた。

 金属の鎧越しではない。鎧の隙間、腰のラインが露わになったインナーの上から、直接肌に触れるように。

 

「ひゃうッ!?」

 

 ルイーズが可愛らしい悲鳴を上げる。

 だが、拒絶しない。

 むしろ、その僕と同じ逞しい腕に身を委ねるように、とろりと脱力してしまっている。

 

「ちょ、ちょっと待て! 何してるんだ貴様!」

 

 僕は耐えきれず叫んだ。

 公開羞恥プレイにNTRまで!?

 いや、ルイーズと僕はあくまで上司と部下だし、付き合ってる訳でもないからNTRにはならないのか……!?

 あぁ、いや幼馴染がなんかそういう扱いされてるの見るのキッツイわ!

 あっ、これキッツゥ!なにこれ!?新世界!?

 

「離れろ! ルイーズも正気に戻れ! 僕はそんな......そんな恥ずかしい触り方はしない!」

 

 僕の必死の抗議。

 しかし、それは最悪の形で裏目に出た。

 

「......ほら、聞こえるかい? あの『偽物』の情けない声を。」

 

 偽エヴァンは、僕の方を見もせずに、ルイーズの耳元で囁いた。

 

「『僕はしない』だってさ。......そうだね、あの臆病な偽物には無理だろう。君を抱きしめることも、君の熱を感じることも。」

「アッアッアッ......。」

「でも、僕は違う。......僕は君が欲しい。君の全てを、今ここで愛したいんだ。」

 

 ズブズブと。

 偽物の言葉が、ルイーズの心の隙間に突き刺さっていく。

 それは彼女が長年抱えていた、「エヴ様はいつまで経っても私に触れてくれない」「私は女として見られていないのではないか」という欲求不満を、的確に刺激するものだった。

 

「いいなぁ......。」

 

 背後から、羨望の声が漏れる。

 ネリーだ。

 彼女は紅潮した顔でその光景を食い入るように見つめている。

 

「あんな強引なエヴ様......素敵すぎます......。」

「アタシも......アタシもあんな風に顎クイされたいよぉ......!」

 

 サーシャも身を捩っている。

 ダメだ、完全に集団催眠にかかっている。

 彼女たちのこうあって欲しい「理想」という願望が、目の前の偽物を「本物以上」に補正してしまっているのだ。というかみんなこんな僕がいいのか?

 昔、ワイワイ猥談してた頃は「男を優しく抱くのが淑女の務め。」とか抜かしてただろうに!

 

 偽エヴァンの手が、ルイーズのうなじを優しく撫で上げる。

 その手つきはあまりにも手慣れていた。

 指先で敏感な部分をなぞり、焦らすように愛撫し、ルイーズの喉から、甘い吐息が漏れる。

 

「はぁ、っ......エヴ様......だめ、です......みんなが見て......。」

「見せつければいい。君は僕のものだと、世界中に知らしめよう。」

「......はい......っ。」

 

 堕ちた。

 我が騎士団最強の副団長……陥落!

 彼女の瞳からはハイライトが消え、完全にメロメロの状態だ。

 偽エヴァンが、ゆっくりと顔を近づけ、その表情には獲物を捕食する肉食獣のような色気を放つ。

 唇が触れるまで、あと数センチ。

 僕の脳が破壊されるまで、あと数センチだ。

 

「さあ、ルイーズ。......誓いの口づけを。」

 

 偽物は目を細め、ルイーズの唇を奪おうと――。

 

 ドスッ。

 

 鈍い音が響いた。

 それは、唇と唇が重なる音ではない。キッスの音だとしたら、ヘッドバッド並の勢いでしてるだろうな。

 そんな硬質で、物理的な衝撃音だった。

 

「グッ!?」

 

 偽エヴァンの動きが止まり、その表情が、苦悶に歪む。

 僕の目には見えた。

ルイーズの右手が、握り拳を作って、偽物の鳩尾に深々と突き刺さっているのを。

 

「......え?」

 

 時間が止まった。

 ルイーズは、未だ熱っぽい瞳のまま、しかしその拳だけは正確無比に急所を捉えていた。

 彼女は、うっとりとした表情のまま、ゆっくりと口を開いた。

 

「......違う。」

「ぐ、ふ......ち、違......?」

「私のエヴ様は......。」

 

 ルイーズが顔を上げる。

 その瞳から、先ほどまでの陶酔の色が急速に引いていき、代わりに現れたのは、絶対零度の「拒絶」だった。

 

「私のエヴ様は、こんなにキスが『上手そう』じゃない!!」

 

 ズドォォォォォン!

 追撃のボディブロー。

 偽エヴァンが「ごふっ」と汚い声を上げて吹き飛んだ。数本の木々をなぎ倒し、地面を転がる「理想の王子様」。

 

「は......?」

 

 僕はポカンと口を開けたまま、その光景を見ていた。

 な、何が起きた?

 今、キスされる寸前だったじゃないか。

 なんで急に殴った?しかも、理由が......え? 「上手そうじゃない」?

 

「......危ないところでした。」

 

 ルイーズが、乱れた息を整えながら、拳についた偽物の名残を拭った。

 そして、虫を見るような目で、吹き飛んだ偽物を見下ろす。

 

「あの流れるような所作。完璧な角度。そして女慣れした手つき......。あんな芸当、エヴ様にできるわけがありません。」

「......。」

「エヴ様なら、間違いなく私の顔が近づいた時点でテンパって、耳まで真っ赤にして、『ちょ、近すぎるよルイーズ!』と叫んで逃げ出すはずです。」

 

 ネリーが眼光を光らせて頷き同調する。

 

「その通りです。あそこまでスマートな求愛行動は、エヴ様の辞書には存在しません。......解釈違いです。」

「おう! エヴァンはもっとヘタレで、奥手で、アタシたちが迫っても『わわっ』てなるのが可愛いんだ! あんな娼夫じみたビッチはエヴァンじゃないな!」

 

 騎士たちが一斉に頷く。

「解釈違い」「公式設定と違う」「エヴ様は童貞であれ」という謎の合言葉が飛び交う。

 森に横たわる偽エヴァン(魔物)も、何が起きたのか分からず、涙目でこちらを見ていた。

 ……分かるよ、魔物。

 僕も今、お前と同じくらい傷ついている。

 

 

 ☆

 

 

 「な......なぜだ......。」

 

 吹き飛ばされた偽エヴァンが、苦悶の表情で上半身を起こした。

 その顔は僕と瓜二つだが、今は泥と脂汗にまみれ、先ほどまでのキラキラした王子様の面影はない。

 

「僕は......完璧だったはずだ......。君たちが心の奥底で求めていた、理想の王子様を演じたはずなのに......なぜ、拒絶する......?」

 

 魔物『ミラー・シェイプ』の悲痛な問いかけ。

 それは、ある意味で核心を突いているとも思う。

 確かに、彼が見せた振る舞いは、乙女ゲーの攻略対象も裸足で逃げ出すほどの完璧なムーブだった。

 

 普通なら、コロッと落ちていてもおかしくない。

 だが、ルイーズは冷めた目で一歩踏み出した。

 その手には、再び拾い上げた巨大なツヴァイハンダーが握られている。

 

「貴様の敗因は一つだ。」

 

ルイーズが切っ先を偽物の鼻先に突きつける。

 

「『理想』と『現実』を履き違えたことだ。」

「......は?」

「確かに、夢の中でエヴ様に情熱的に抱かれるのは......悪くない。いや、正直に言えば最高だ。毎晩夢に見る。」

 

 おい、そこは否定してくれよ。というか毎晩そんな淫夢見てるのか?どんだけ溜まって……。

 まぁ行軍続きだしな……。

 僕も人の事言えた立場じゃない。なんかごめん。

 

 ルイーズが少し頬を赤らめる。

 

「だがな! それはあくまで『妄想』だから良いのだ! 現実のエヴ様が、あんなチャラついた手つきで腰を抱き、あんなスラスラと歯の浮くようなセリフを吐いてみろ!」

 

 ルイーズの声が、森の木々を震わせるほどの熱量を帯びる。

 

「そんなの......そんなの、私の知っている『愛すべき不器用なエヴ様』じゃない! ただの女好きのビッチじゃないか! そんな奴に私の純潔は渡せん!!」

「「「そうだそうだー!!」」」

 

 背後でネリーとサーシャ、そして他の団員たちが一斉にシュプレヒコールを上げる。

 

「エヴ様は、女性に言い寄られただけで挙動不審になるのがデフォルト!」

「『手、繋いでいいですか?』って聞くのに3日悩むのがエヴ様!」

「そのピュアさが尊いのに、いきなり顎クイとかハードル上げすぎ! 供給過多で死ぬわ!」

「エヴ様には抱かれるより抱きたいんだよ三下!」

「お、お前たち......。」

 

 僕は頭を抱えた。なんてことだ。

 彼女たちが僕に求めていたのは、「頼れる男」でも「セクシーな男」でもなく、「初心でヘタレな童貞」だったのか。なんだろう、貞操観念が逆転した世界だからか?ちょっと分かるのがさらに嫌だ。

 ビッチよりウブな清純派ヒロインが好き!みたいな。

 うわぁ、わかる〜。嫌すぎ〜!!!

  

 命拾いしたはずなのに、なぜだろう。死ぬほど恥ずかしい。

 

「り、理解......不能......。」

 

 偽エヴァンが、ガクガクと震え出した。

 人の心の隙間に入り込む魔物にとって、「理想を具現化したのに『解釈違い』で殴られる」という理不尽な事態は、処理能力を超えていたらしい。

 彼の体がノイズのようにブレ始め、黒い霧へと戻っていく。

 

「終わりだ、三文芝居の役者風情が。理想は理想のままでいれば良い。死んで詫びよ。」

 

 ルイーズが大剣を振り上げる。

 

「私のエヴ様は、世界でただ一人。......あの、隅っこで頭を抱えている可愛い方だけだ!」

 

ズドォォォン!!

容赦ない一撃が振り下ろされ、偽物は断末魔を上げる間もなく霧散し、森の湿った空気の中に消えていった。

 

 

 

 

 静寂が戻った森。

 戦闘、というか一方的な言葉のリンチを終えたルイーズは、ふぅ、と息を吐いて剣を納めた。

 そして、恐る恐る僕の方へと振り返る。

 

「......あー、その。エヴ様。」

「......何かな、ルイーズ。」

「申し訳ありません。一瞬とはいえ、偽物に心を許してしまいました。......副団長として、あるまじき失態です。」

 

 彼女はシュンと項垂れている。

 先ほどの鬼神のような勢いはどこへやら、今は叱られるのを待つ子供のようだ。

 僕は深いため息をつき、彼女の肩にポンと手を置いた。

 

「いいよ、もう。......助けてくれてありがとう。」

「エヴ様......!」

「ただし。」

 

 僕は彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、引きつった笑顔で釘を刺した。

 

「さっきの言い草に関しては、あとでじっくり話し合おうか。『不器用』とか『挙動不審』とか、君たちの僕に対する評価について、ね。」

「ングッ!?」

 

 ルイーズが悲鳴を上げ、ネリーの後ろに隠れる。

 ネリーも目を逸らし、サーシャは口笛を吹いている。

 

 この連中、確信犯だ。

 

「でも、これで分かったでしょう? エヴ様。」

 

 ネリーが、澄ました顔で言った。

 

「私たちは、完璧な王子様なんて求めていないんです。......今のまま、少し頼りなくて、優しくて、私たちの前でだけ隙を見せてくれる......そんなエヴ様が一番『尊い』んですよ。」

「......フォローになってない気がするけど。」

「バルバラのような『経験豊富な女』には、貴方のその良さは分かりません。私たちマドゥワス騎士団だけが、貴方の真の魅力を理解し、守り抜けるんです。」

 

 ネリーはそう言って、僕の手をそっと握った。

 その手は震えておらず、温かかった。

 

「だから......どこにも行かないでくださいね? 私たちの可愛い主君。」

「......はぁ。」

 

 僕は諦めのため息をついた。

 結局、僕はこの過保護で、愛が重くて、少し性癖が歪んだ騎士たちからは逃げられない運命らしい。

 バルバラの誘いに乗っていたらどうなっていたか分からないが、少なくとも退屈はしなかっただろう。

 でも、不思議と嫌な気分ではなかった。

 

「分かったよ。......行くぞ、みんな。森の出口は近い。」

「はいッ! エヴ様!」

 

 騎士たちの声が弾む。

 先ほどまでのお通夜ムードが嘘のように、隊列には明るい笑顔が戻っていた。

「やっぱり本物のエヴ様の背中が一番!」「あの頼りなさが守ってあげたくなるのよね~」という会話が聞こえてくるのには、全力で耳を塞いだが。

 なんだこの騎士団。拗らせ童貞より達が悪い。

 

 こうして、僕たちの「理想と現実」を巡るドタバタ劇は幕を閉じた。

 僕の男としてのプライドはズタズタになったが、まあ、命と貞操が守られたなら良しとしよう。

 ......いつかあんな偽物よりカッコよく振る舞ってやるからな。

 そう心に誓いながら、僕はオニキスの腹を蹴った。




この作品はプロットもなければ下書きもないです。
後々、キャラクター投票とかで皆さんの好きなキャラクターの視点で書いてみたりしたいです。
ぜひ、好きなキャラ教えてくださいね。
いっぱい書きます。解釈違いになったらすまん。

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
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