姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる 作:お庭屋さん
「……はぁ。思い出すだけで心が痛むな。」
大森林の奥深く。
樹齢数百年はあろうかという巨木が立ち並ぶ回廊を、僕たちは無言で進んでいた。
街道は相変わらず整備されているものの、先ほどの「幻惑の霧」エリアを抜けてからというもの、空気の密度が変わったような気がする。
清浄すぎて、肺が痛くなるような感覚だ。
だが、僕の胸を締め付けているのは、そんな気圧の変化ではない。つい数刻前に起きた「偽物騒動」による精神的ダメージだ。
『エヴ様は、女性に言い寄られただけで挙動不審になるのがデフォルト!』
『そのピュアさが尊いのに!供給過多で死ぬわ!』
部下たちの愛ある(?)罵倒が、脳内で無限リフレインしている。
理想の王子様ムーブをかました偽物が「解釈違い」でボコボコにされたあの一件以来、騎士団の結束は強固になった気がするが、僕の男としてのプライドは更地になったままだ。
ヘタレでウブなのが至高、なんていう歪んだ性癖を向けられていると知って、どう胸を張ればいいというのか。というか、幼馴染達に
女所帯の中に男が一人。性癖が歪むのも致し方ないのか……?申し訳ない事をした。
「エヴ様? 顔色が優れませんが、やはり先ほどの戦闘で消耗を……?」
オニキスに跨った僕の背に、心配そうな視線が飛んでくる。
声の主はネリーだ。
「いや、大丈夫だ。……ただ、この森の視線が少し気になってね。」
僕は努めて平静を装い、周囲の鬱蒼とした森へと視線を向けた。決して誤魔化したかった訳じゃない。ホントだよ。ホント。
気配がある。
魔物のような殺気立ったものではない。もっと静謐で、そして冷徹な「観察者」の視線だ。
僕たちが帝国の作った街道を進んでいることを、快く思っていない連中がいる。
「視線、ですか? ……確かに。先ほどから鳥の声が止んでいます。何者かが我々を監視し、品定めしているような……そんな嫌な気配を感じます。」
ルイーズが即座に反応し、ツヴァイハンダーの柄に手を掛けた。
彼女の野生の勘は馬鹿にできない。
「品定め」というのは言い得て妙だ。
敵意というよりは、珍しい動物を檻の外から眺めるような、あるいは市場に並んだ商品を値踏みするような、そんな不躾な視線を感じるのだ。
「総員、警戒態勢! 相手はこの森の主かもしれん。粗相のないようにな!」
僕が号令をかけると、弛緩していた空気が一瞬で引き締まった。
マドゥワス騎士団の面々が、流れるような動作で僕を中心とした円形陣を組む。
過保護だなんだと言ってはいるが、この一糸乱れぬ統率は流石としか言いようがない。
これなら、いきなりドラゴンが降ってきても即座に対応できるだろう。……僕を肉壁の奥に隠してから、だけど。
しばらく進むと、街道を塞ぐようにして建てられた、白亜の門が見えてきた。
帝国の作った無骨な石畳とは明らかに様式の違う、植物と鉱物が融合したような美しいアーチだ。
そして、その前には数名の影が待ち構えていた。
「……止まれ、人間たち。」
涼やかな、鈴を転がすような声が響いた。
しかしその声には、一切の感情が含まれていない。
絶対的な上位者が、足元の虫に声をかけるような響きだ。
「ここから先は、我ら高貴なるエルフの森『シルバ・マギア』の管理領域。帝国の兵隊風情が、土足で踏み入って良い場所ではない。」
現れたのは、長い耳と、透き通るような白い肌を持つ美女たちだった。
エルフ族。
魔力に愛され、悠久の時を生きる森の守護者。
先頭に立つのは、一際背が高く、腰まで届く銀髪をなびかせた女性だ。
身に纏っているのは、森の緑に溶け込むような薄手のドレスアーマー。露出度は高くないはずなのに、体のラインが強調されるデザインのせいで、妙に艶かしく見える。
彼女は切れ長の碧眼を細め、僕たち……いや、正確には「僕」を見据えていた。
「私は警備隊長のルティエル。……ほう? 男連れか。」
ルティエルと名乗ったエルフは、僕を見た瞬間、ピクリと眉を動かした。
その瞳の奥で、何かがギラリと光った……気がした。
興味、好奇心、あるいは……もっと別の、粘着質な何か。
背筋に冷たいものが走る。あのオーク商人や、女傭兵バルバラに向けられた視線とはまた違う、知性的でありながら底知れない欲望を感じる目だ。
どうしてこの世界の女性達は男と見るや否や視姦してくるのだろう。ゾクゾクしちゃうじゃないすか。
「我々はベレイン王国の騎士団だ。故郷へ戻るため、この街道を通らせてもらいたい。」
「フン。人間ごときが軽々しく森に入る事すら烏滸がましいというのに、こんなふざけた道など整備しおって。」
彼女は優雅な仕草で、くい、と顎をしゃくった。
「ここは我々の庭だ。通りたくば、我々の法に従ってもらおう。……もっとも、タダで通すほど我々もお人好しではないがな。」
やっぱりか。
ファンタジーのお約束、通行税の要求だ。
まあ、エルフは排他的だと聞くし、わざわざねちっこく絡んでくることもあるまい。払うものを払えば通すと言うのなら話は早い。
金で解決できるなら安いものだ。
殿下から頂いた「褒賞」はまだたっぷりと残っている。
「……分かった。通行税だな。金貨でいくらだ? 望む額を払おう。」
僕は革袋を取り出し、中の金貨をジャラジャラと鳴らしてみせた。
これだけの額を見れば、大抵の者は目の色を変える。
しかし、ルティエルの反応は予想外だった。
彼女は呆れ返ったように溜息をつき、両手を広げて大袈裟に首を振ってみせたのだ。
「やれやれ……これだから短命種は。何でも金属片で解決できると思っているのか? 我ら森の民にとって、金など何の意味も持たない。」
「……では、何を望む?」
嫌な予感がする。
金じゃないなら、食料か? 武器か?
いや、彼女の視線はずっと僕に固定されている。
僕の装備や馬を見ているのではない。僕という「生物」そのものを、解剖するように観察している。
ルティエルはゆっくりと僕の馬に近づいてきた。
ルイーズたちが殺気立つが、僕は手で制する。まだ交渉の余地はあるはずだ。
彼女はオニキスの鼻先で立ち止まると、分厚い書物のようなものを取り出し、パラパラと捲り始めた。
「条令第108条。『希少種保護および異種間魔力伝達に関する特別措置法』に基づき、ヒュム族の男性個体が自治区を通過する際は、指定の『通行料』を徴収するものとする。」
彼女はそこで言葉を切り、眼鏡の奥の瞳を妖しく光らせた。
そして、まるで今日の天気を話すような気軽さで、とんでもないことを言い放った。
「貴様の遺伝子情報を提出してもらおう。……具体的に言えば、貴様の下腹部に蓄えられた『生命の種』を一回分、だ。」
「……はい?」
僕の耳はおかしくなっちゃったのかな。
ここ最近、やたらとセクハラを受けて続けているし、部下たちにも散々言いたい放題言われた直後で、どうやらソッチ方面へ引っ張られているらしい。
「んん、生命の種っていうのはあれか?果物の種子的な?」
「いや、遺伝子情報を含んだ貴様の種だ。」
遺伝子? 種?
いや、それはつまり、その……そういうことか?
「なッ……!? き、貴様ァ!! 何を言っているか分かっているのか!?」
真っ先に反応したのはルイーズだった。
彼女は顔を真っ赤にして激昂し、ツヴァイハンダーを抜き放つ。
ネリーも無言だが、その瞳は完全に据わっている。
騎士団全体から、「このアマ殺す」という明確な殺意が噴き上がった。
だが、ルティエルは動じない。
むしろ、「野蛮な猿たちが騒いでいる」とでも言いたげな冷ややかな視線を向け、淡々と説明を続けた。
「勘違いするなよ、短命種ども。これはあくまで学術的な研究のためだ。ヒュム族の男性は絶滅危惧種に近い。その遺伝子サンプルを採取し、保存し研究することは、この世界の生態系を守る我らエルフの崇高なる義務なのだ。」
彼女は懐から、試験管のようなガラス器具を取り出した。
その底には、魔法陣のようなものが刻まれている。
……用意周到すぎんだろ。
「さあ、そこのオス。馬から降りろ。採取室は用意してある。……手は煩わせない。我が精鋭たちが、貴様が果てるまでの『補助』を完璧にこなす手筈になっている。」
ルティエルの後ろに控えていたエルフたちが、一斉ににじり寄ってくる。
その目は、学者のものではない。
完全に、久しぶりの御馳走を前にした捕食者の目だった。
☆
「……本気で言っているのか?」
僕は乾いた声で問い返すことしかできなかった。
目の前の美女、ルティエルは、至って真面目な顔をしている。
その碧眼には、一点の曇りもない。まるで「明日の天気は晴れだ」と告げる予報士のように、あるいは「この計算式はこう解くのだ」と説く教師のように、彼女は僕の股間を指差して断言したのだ。
「無論だ。エルフは嘘をつかない。」
ルティエルは眼鏡のブリッジを中指でクイッと押し上げた
「ヒュム族の男性個体は、現在大陸全土で見ても減少の一途を辿っている。その希少な遺伝子を確保し、次世代へ繋ぐ可能性を模索するのは、長命種である我々の責務。……いわば、貴様のそれは『個人の所有物』ではなく『世界の共有財産』なのだよ。独り占めしようなどと、傲慢だとは思わんか?」
「詭弁だッ!!」
僕がツッコミを入れるより早く、横から怒号が飛んだ。
ネリーだ。
普段は冷静な彼女が、今は般若のような形相で盾を構え、一歩前へと踏み出し、その背後では、ルイーズが全身からどす黒いオーラを噴出させ、サーシャが槍の石突きで地面を粉砕していた。
「世界の財産だと? 笑わせるな! 貴様らのその目、研究者の目ではない! ……ただの発情したメス犬の目だ!」
ごもっとも。
ルティエルの背後に控えるエルフたち。
彼女たちは「採取の補助」を行う係らしいが、その手には怪しげなピンク色の液体が入った小瓶や、肌触りの良さそうなシルクのタオル、そして何に使うのか想像もしたくない拘束具のようなものが握られている。
学術研究? 冗談じゃない。あれはどう見ても「悦楽の宴」の準備万端だ。
「心外だな。我々はあくまで効率を重視しているだけだ。」
ルティエルは肩をすくめ、心底呆れたように溜息をついた。
「野生の猿と違い、我々は高度な文明を持つエルフだ。強引に襲うような野蛮な真似はしない。……あくまで、彼が気持ちよく、最高のエクスタシーの中で最良の種を出せるよう、テクニカルにサポートするだけだ。数百年を生きた我らの『技』は、人間ごときには想像もつかん極上の快楽を約束するぞ?」
「それがセクハラだと言っているんだッ!!」
僕は我慢の限界を超えて叫んだ。
なんだその自信満々なプレゼンは。
「技」とか「極上の快楽」とか、公衆の面前でなんという破廉恥なことを言うんだ。
僕の騎士としての尊厳は、彼女たちにとっては「気持ちよくなれる玩具」程度のものでしかないらしい。
それにこのエルフ、先程から性の事となるとやたら早口でまくし立ててくる。なんだ?オタクか?
「断る。断じて断る! 僕は実験動物じゃないし、種馬でもない! 一人の騎士として、そのような不当な要求には屈しない!」
僕が拒絶の意志を示すと、ルティエルの目がスッと細められた。
先ほどまでの余裕が消え、絶対零度の冷気が漂い始める。
彼女はパチン、と指を鳴らした。
「……交渉決裂か。残念だ。」
その合図と共に、周囲の巨木の枝葉がざわめいた。
木々の間から、無数の矢尻が顔を覗かせる。
エルフの弓兵隊だ。その数、およそ五十。
完全に包囲されている。
「平和的に解決したかったのだがな。……条令第109条。『希少種が自身の価値を理解せず、保護を拒否した場合、強制執行を許可する』。」
ルティエルが冷酷に告げた。
その瞬間、彼女の後ろにいた「採取係」のエルフたちが、舌なめずりをしながら一斉に武器……ではなく、媚薬の瓶やロープを構えて散開した。
「捕らえよ。……ただし、オスには傷をつけるな。周りのメス共は……殺しても構わん。」
「上等だァァァッ!!!」
ルイーズの中でキレた。
次の瞬間、彼女の身体強化魔法が炸裂する。
目にも止まらぬ速さで踏み込み、ツヴァイハンダーを一閃し、ルティエルが立っていた場所の地面が爆発したように吹き飛んだ。
「チッ、野蛮人が!」
ルティエルは軽やかにバックステップで回避し、空中で優雅に弓を引き絞る。
放たれた矢は風を纏い、正確無比にルイーズの喉元を狙うが、割り込んだネリーの盾がそれを弾き返す。
戦闘開始のゴングは、唐突に鳴らされた。
「総員、エヴ様を死守せよ! 近づくエルフは片っ端からミンチにしろ!」
「エヴ様の貞操は我らが守る! 指一本触れさせるな!」
「ぶっ殺せ!!!」
マドゥワス騎士団とエルフ警備隊。
女と女の、仁義なき戦いが始まった。
飛び交う魔法と矢、そして怒号。
だが、戦況は芳しくない。
ここは敵のホームグラウンド。地の利は向こうにある上、エルフたちの連携は巧妙だ。
何より、「エヴ様を傷つけないように」という制約があるエルフに対し、僕たちは「敵国内でエルフを殺してしまっては国際問題になる」という別の制約がある。
お互いに全力を出しきれない泥仕合。
だが、数で勝るエルフ側がじわじわと包囲網を狭めてくる。
「くっ……このままじゃジリ貧だ!」
僕はオニキスの上で歯噛みした。
僕が剣を抜いて参戦すれば戦況は変わるかもしれない。だが、僕が前に出れば、それこそエルフたちの思う壺だ。「保護対象が出てきた!」と歓喜してネットを投げてくる未来しか見えない。
かといって、部下たちが傷つくのを黙って見ているわけにもいかない。
「……エヴ様。ここは私が活路を開きます。」
乱戦の中、ネリーが馬を寄せてきた。
彼女の盾には矢が数本突き刺さっているが、致命傷になるような傷は無さそうだ。だが、その表情には焦りが見える。
「強行突破しかありません。私が囮になり、敵の注意を引きつけます。その隙にエヴ様とルイーズたちは森を抜けて……。」
「馬鹿なことを言うな! ネリーを置いていけるわけがないだろう!」
「ですが、このままでは貴方が……貴方が汚されてしまいます!」
ネリーの悲痛な叫び。
彼女たちにとって、僕の貞操は命よりも重いのだ。
だが、僕にとっても彼女たちの命は僕の貞操より重い。
……いや、貞操も大事だけど!
「待て。……落ち着け。」
僕は大きく深呼吸をした。
パニックになるな。
相手のペースに飲まれるな。
エルフたちの目的は「僕の種」だ。そして建前は「学術研究」と「法」。
ならば、その「建前」を利用して、土俵を変えるしかない。
「やめろォォォッ!!!」
僕はありったけの魔力を声に乗せ、戦場に響き渡る大音声で叫んだ。
ビリビリと空気が震え、騎士たちもエルフたちも、驚いて動きを止める。
静寂が戻った森の中で、僕はオニキスをゆっくりと進め、ルティエルの前へと躍り出た。
「……ほう? 観念して投降するか、オスよ。」
ルティエルが弓を下ろし、勝ち誇った笑みを浮かべる。彼女は確信しているのだ。か弱いオスが、この状況に耐えきれず保護を求めてきたのだと。
だが、僕は彼女を見据え、ニヤリと不敵に笑って見せた。
「勘違いするな。……僕は取引を提案しに来たんだ。」
「取引? 貴様に選択権などないはずだが?」
「あるさ。……君たちは言ったな。『優れた遺伝子が欲しい』と。」
僕はオニキスの鞍から降り、腰の剣をすらりと抜き放った。
切っ先を、ルティエルの鼻先に突きつける。
周囲のエルフたちが色めき立つが、ルティエルは動じない。むしろ、僕のその行動を「可愛い抵抗」とでも思っているようだ。
「そうだ。貴様の種は貴重だ。」
「なら、試してみるといい。」
「……何?」
「僕が本当に『優れた種』を持つオスなのかどうか。……ただ珍しいだけの肉だるまなのか、それともエルフの長である君を屈服させるほどの『強き雄』なのか。」
僕は挑発的に言い放った。
この世界の女性は、本能的に「強さ」を求めている。
特に、プライドの高いエルフなら尚更だ。
「か弱い保護対象」としてではなく、「対等な敵」として認識させれば少なからず話し合いが出来るかもしれない。
「決闘だ、ルティエル。……僕が勝てば、通行税はチャラにして無条件で通してもらう。」
「ハッ! 面白い冗談だ。か弱い貴様が、この私に勝つと? ……で、私が勝てば?」
ルティエルが獲物を見る目で舌なめずりをした。
食いついた。
「君が勝てば……好きにするがいい。研究材料にでも、夜のペットにでも、煮るなり焼くなり好きにしろ。」
「エヴ様ァァァッ!!??」
背後でルイーズたちの絶叫が響くが、僕は無視した。
大丈夫だ。負けるつもりはない。
身体能力で劣ろうとも、「技術」と「心」で勝つ。
これは、僕の貞操と、騎士団の安全を懸けた、絶対に負けられない戦いだ。
「よかろう。その蛮勇に免じて、相手をしてやる。」
ルティエルが弓を放り投げ、腰のレイピアを抜いた。
「たっぷりと可愛がってやるから、覚悟しろよ? ……可愛いボウヤ。」
メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!
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ルイーズ・ロンズデール
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ネリー
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サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
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アンドレア殿下
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ガーベラ
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アグニ
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バルバラ
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