姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

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第15話:決闘!ド変態エルフ!

「……ルールは単純だ。」

 

 張り詰めた空気の中、ルティエルがレイピアの切っ先を下げ、冷ややかな声で告げた。

 彼女の背後には、興味津々といった様子で見守るエルフの弓兵隊。

 僕の背後には、今にも飛び出しそうなのを必死に堪えているマドゥワス騎士団。

 森の静寂は、これから始まる「決闘」という名の茶番……いや、僕にとっては人生と貞操を懸けた大一番の前の、嵐の前の静けさだった。

 

「どちらかが戦闘不能になるか、あるいは降参するか。……殺しは無しだ。貴重なサンプルを損壊させては元も子もないからな。」

 

 ルティエルは眼鏡の奥で、値踏みするように僕を見ている。その立ち姿には、一切の隙がない。

 だらりと下げた切っ先は、一見すると無防備に見えるが、それは誘いだ。

 レイピア特有の、点での攻撃に特化した構え。

 エルフ特有の動体視力と反射神経があれば、僕が動いた瞬間に喉元を貫く自信があるのだろう。

 

「……随分と余裕だな。僕が降参するとでも?」

 

 僕はロングソードを正眼に構え、じり、と足場を確かめるように摺り足をした。腐葉土の柔らかい感触。

 決して足場は良くないが、それは相手も同じだ。

 

「フン。虚勢を張るな、ボウヤ。」

  

 ルティエルが鼻で笑う。

 

「ヒュム族のオスがどれほど非力か、我々が知らぬとでも? 魔法による身体強化を使おうと、元々のスペックが違う。……痛い目を見る前に、大人しく私の胸に飛び込んでくればいいものを。」

「お断りだ。君の胸より、硬い畳の上の方が落ち着く性分でね。」

「……減らず口を。」

 

 カッ、とルティエルの瞳の色が変わった。

 殺気ではない。もっと純粋な、闘争本能のスイッチが入った音。

 

「始めようか。……エルフの舞踏を、特等席で見せてやる。」

 

 その言葉が、合図だった。

 

 爆発的な踏み込み音と共に、ルティエルの姿がブレた。

 速い。

 身体強化魔法を使った気配はない。純粋な脚力だけで、十メートル近い間合いを一瞬でゼロにしたのだ。

 

「シッ!」

 

 鋭い呼気と共に、銀色の閃光が奔る。

 狙いは右肩。

 剣を持てなくするための、正確無比な一撃。

 

「ッ……!」

 

 僕は反射的に剣を立て、その刺突を「受け」るのではなく「逸らし」た。

 正面から受ければ、その運動エネルギーで剣ごと弾き飛ばされる。

 剣道でいう「擦り上げ」の要領で、レイピアの側面を滑らせるように軌道をずらす。

 

 金属同士がぶつかる甲高い音が森に響き、火花が散る。

 ルティエルのレイピアが、僕の耳元数センチを通過し、風切り音だけで鼓膜を揺らした。

 

「ほう?」

 

 交差した瞬間、ルティエルの顔に驚きの色が浮かんだ。彼女はそのまま流れるように回転し、遠心力を乗せた裏拳のような斬撃を放ってくる。

 レイピアは突くだけじゃない。そのしなりを活かした鞭のような斬撃も厄介だ。

 

「クッ!」

 

 僕はバックステップで距離を取りつつ、皮一枚の差でそれを躱す。頬にヌラリとした感触が走り、続けて鋭い痛み。

 

「エヴ様ァァァッ!!」

「卑怯者! エヴ様のご尊顔を!」

 

 背後でルイーズたちの悲鳴が上がるが、構っていられない。ルティエルは攻撃の手を緩めない。

 突き、払い、薙ぎ。

 嵐のような連撃だ。

 一撃一撃が重く、速い。たった一太刀浴びるだけで、充分戦闘不能になるだろう。

 

 純粋な膂力もさることながら、とにかくやりづらい。

 というのも、彼女の動きには「型」がない。

 森の地形、木の根、風向き、すべてを味方につけたような、変幻自在の体術。

 これが、長命種であるエルフが数百年かけて磨き上げた戦闘術か。乱雑に見えて、どこか美しい。

 素晴らしい剣技である。

 

「どうした、防戦一方ではないか!」

 

 ルティエルが挑発的に笑い、手首のスナップを効かせた変則的な突きを放ってくる。

 軌道が読めない。

 蛇のようにうねる切っ先がフルプレートメイルの隙間を縫い、僕の太腿、脇腹、二の腕を掠めていく。

 浅い傷から血が滲み、痛みが走る。

 

 ……くそっ、やっぱり基礎能力が違いすぎる!

 

 僕は歯噛みした。

 魔力による『身体強化』を全開にして、ようやく彼女の「素」の動きに反応できるレベルだ。

 もし彼女が本気で強化魔法を使ってきたら、瞬殺される。

 だが、彼女は使わないだろう。

 なぜなら、これは「狩り」ではなく「躾」だからだ。

圧倒的な実力差を見せつけ、僕の心を折り、無力感を植え付けて「保護」を受け入れさせる。

 それが彼女の狙いだからだ。

 

「しまらないな。口ほどにもない。」

 

 ルティエルが追撃の手を止め、数歩下がって距離を取った。

 クソ……余裕の表れだ。

 彼女は乱れた呼吸一つせず、眼鏡の位置を直しながら冷ややかに告げる。

 

「所詮は温室育ちのオスか。……もういいだろう? 諦めろ。痛い思いをするだけ損だぞ?」

 

 彼女の言葉に、周囲のエルフたちもクスクスと笑い声を上げる。

「やっぱり隊長の相手になるわけないわ」「早く降参しちゃえばいいのに」「手当てしてあげるからこっちにおいで」という、甘く侮蔑的な囁き。

 悔しい。

 確かに、この世界の基準で見れば、僕は「弱者」だ。

 力も、魔力も、寿命も、彼女たちには敵わない。

 けれど。

 けれどだ。

 

「……まだだ。」

 

 上がりかけた息を整え、剣を構え直す。

 中段の構え。

 攻防一体の基本にして奥義。

 

「……まだ、一本取られていない。」

「往生際が悪いな。」

 

 ルティエルが呆れたように肩をすくめる。

 だが、僕は見ていた。

 彼女の攻撃は確かに速いが、そこには「驕り」がある。

 「相手は弱い」という前提で動いているから、攻撃が直線的で、踏み込みが深い。

 つまり、「カウンター」を合わせる隙がある。

 

 前世の記憶。

 道場の床の冷たさ。

 竹刀がぶつかり合う音。

 父上の厳しくも温かい指導。

 

 思い出せ……。筋力で勝てない相手をどう崩すか。

 更に呼吸を整える。

 肺の中の空気をすべて吐き出し、森の清浄な空気を吸い込む。

 魔力を、筋肉ではなく「感覚」に回す。

 相手の動きを見るのではなく、起こりを感じる。

 

「……ふん。構えを変えたところで、結果は同じだ。」

 

 ルティエルが再び姿勢を低くした。

 来る。

 今度は、先ほどよりも速い。

 決める気だ。

 

「終わりにしてやる!」

 

 二度目の爆音。

 ルティエルが、人間離れした加速で突っ込んでくる。

 その切っ先は、僕の右肩――剣を持つ腕の腱を狙っている。

 速い。目では追えない。

 だが、分かっていた。

 

 ……そこだ……!

 

 恐怖を押し殺し、後ろに下がるのではなく、あえて「前」へ。

 死地への踏み込み。

 

「なにッ!?」

 

 ルティエルの驚愕の声が聞こえた瞬間、僕の世界はスローモーションになった。

 

 

 ☆

 

 

 カァンッ!!

 硬質な音が、森の静寂を引き裂いた。

 ルティエルのレイピアが、僕の右肩を貫く――その寸前。僕は左足を軸に、体を半回転させながら懐へと飛び込んだ。

 『抜き胴』の応用だ。

 相手の突きをギリギリで躱し、すれ違いざまに横腹を薙ぐ。

 

「なッ……!?」

 

 ルティエルの驚愕の声が耳元を過ぎる。

 彼女は完全に虚を突かれていた。

「弱いオスは怖がって下がる」という思い込み。それが彼女の敗因だ。

 僕のロングソードが、彼女の脇腹――薄いドレスアーマーの継ぎ目を捉える。

 刃は立てていない。ミネ打ちだ。

 

「ぐぅッ!?」

 

 ドスッという重い衝撃音が響き、ルティエルがバランスを崩してタタタッと数歩よろめいた。

 エルフたちが「あっ!」と息を呑む。

 最強の警備隊長が、ヒュムのオスに一撃を入れられたのだ。その衝撃は計り知れないだろう。

 

「……言っただろう。まだ一本取られていない、と。」

 

 僕は残心を取り、再び剣を正眼に構えた。

 心臓が早鐘を打っている。

 今の動きは、前世の記憶と火事場の馬鹿力が生んだ奇跡に近い。

 もしコンマ一秒でも遅れていたら、今頃僕の右腕は使い物にならなくなっていただろうし、もう一度同じことをしろと言われても無理だろう。

 冷や汗が背中を伝うが、顔だけは「余裕の笑み」を張り付けておく。ハッタリも実力のうちだ。

 

「……貴様。」

 

 ルティエルが顔を上げ、眼鏡のズレを指先で直した。

 その碧眼から、先ほどまでの余裕が消え失せている。

 代わりに宿っているのは、屈辱と、そして燃え上がるような憤怒だ。

 

「よくも……よくも私に触れたな。汚らわしいヒュム風情が!」

「おや、これは失敬。だが触れてほしくて誘っていたんじゃないのか?」

「黙れッ!!」

 

 ブチギレた。

 ルティエルが叫ぶと同時に、彼女の周囲に緑色の魔力が渦巻いた。

 風だ。

 森の空気が彼女の感情に呼応して荒れ狂う。

 

「ただのまぐれだ! 調子に乗るなよ人間!」

 

 ルティエルが再び突っ込んでくる。

 先程までとは速さが違う。魔力で身体強化を乗せている上、風の魔法で加速しているのだ。

 レイピアが分身したかのように無数の切っ先となり、雨あられと降り注ぐ。

 

「くっ……!」

 

 いよいよ僕は防戦一方に追い込まれた。

 速い。速すぎる。

 剣で弾く暇すらない。

 最小限の動きで急所だけを避けるが、頬、肩、太腿に次々と浅い傷が増えていく。

 

「どうした! さっきの威勢はどうした!口ほどにもない! 所詮はまぐれ当たりか!」

 

 ルティエルが嘲笑いながら、執拗に攻め立ててくる。

 彼女の狙いは、僕をじわじわと追い詰め、恐怖心を植え付けることだ。

 サディスティックな笑みが、その美しい顔を歪ませている。

 

……まずいな。このままじゃジリ貧だ。

 

 僕は焦りを感じ始めていた。

 スタミナの差は歴然だ。このまま持久戦になれば、先に倒れるのは僕の方だ。

 どこかで反撃の糸口を掴まなければならない。

 だが、その隙が見つからない。

 その時だった。

 

「エヴ様ァァァッ! 素敵です! その汗ばんだ横顔……尊すぎます!!」

「ああっ! 斬られてギャンベゾンが破れた! 鎖骨が見えました! ありがとうございます!」

「頑張れー! エヴ様頑張れー! そのエルフを泣かせてやってくださいー!」

 

 背後から、黄色い声援……というより、欲望丸出しの絶叫が聞こえてきた。

 ルイーズたちだ。

 彼女たちは僕が劣勢であることなどお構いなしに、傷つきながらも戦う僕の姿に興奮し、ペンライトでも振りそうな勢いで応援している。

 

 ……どゆこと???

 いつもの世紀末ぶりはどこへ???

 いや、これは「エヴ様の騎士としての戦いを邪魔してはいけない」という、彼女たちなりのリスペクトなのか?

だとしたら方向性が間違っている気がするが!

 

「……チッ。外野がうるさいな。」

 

 ルティエルが苛立ちを露わにし、視線を一瞬だけルイーズたちに向けた。

 その一瞬の隙。

 集中力が途切れた瞬間を、僕は見逃さなかった。

 1対1の打ち合いにおいて、相手の心が動いた瞬間こそが「好機」だ。

 僕は大きく息を吸い込み、気合いと共に踏み込んだ。

 

「エェェェェェイッ!!」

 

 裂帛の気合い。

 魔力を足ではなく、上半身と腕に集中させる。

 音速を超えるような踏み込みではない。

 だが、相手の意識の外から放たれる一撃は、反応速度を凌駕する。

 

「なッ!?」

 

 ルティエルが慌ててレイピアを戻そうとするが、遅い。僕のロングソードが、空気を切り裂き、彼女の脳天へと振り下ろされ……。

 

 寸止め。

 ビタリ、と切っ先が彼女の額の皮一枚手前で止まった。風圧で彼女の前髪が舞い上がり、眼鏡がカチャリと揺れる。

 

「……ッ、ぅ……。」

 

 ルティエルが息を呑み、硬直した。

 彼女の瞳が、至近距離にある僕の剣を見開き、そして僕の顔を映し出す。そこにあるのは、恐怖ではない。

 一人の剣士としての「強さ」を見せつけられたことによる、本能的な畏怖と……ときめき?

 

「……一本だ。」

 

 僕は静かに告げ、剣を引いた。

 本来ならこれで勝負ありだ。真剣勝負であれば、今頃ルティエルは脳天から股下までスッパリと2枚おろしになっていた事だろう。

 

 だが、ここは異世界。

「参りました」と言うまでは終わらないのが、この世界の面倒なところだ。

 

「……ば、馬鹿な……。」

 

 ルティエルは震える手で自分の額に触れ、そこには冷や汗が流れている。

 彼女は信じられないものを見る目で僕を見つめ、そして顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「あり得ない! ヒュムのオスごときに、この私が後れを取るなど! 何かの間違いだ!」

「間違いじゃない。君が僕を侮り、隙を見せた結果だ。」

「うるさい! 認めん! 私はまだ負けていない!」

 

 全く往生際が悪い。

 ルティエルは乱れた髪を振り乱し、血走った目で僕を睨みつけた。その背後で、魔力が膨れ上がる。

 先ほどまでの比ではない。

 大気が悲鳴を上げるほどの、濃密な風の魔力。

 森の木々がざわざわと揺れ、落ち葉が竜巻のように舞い上がる。

 

「……おいおい。殺しは無しじゃなかったのかね?」

「黙れ! 人間の、それもオスごときに屈辱を味わわされたまま終われるか!」

 

 ルティエルがレイピアを掲げると、その先端にエメラルド色の光球が収束し始めた。

 上級精霊魔法『エアロ・ディザスター』。

 直撃すれば、僕どころか後ろの騎士団ごと吹き飛びかねない大魔法だ。

 

「消え失せろ! 塵一つ残さずな!」

 

 理性を失ったエルフの暴走。

 もはや決闘の体を成していない。

 僕は舌打ちをし、剣を強く握り直した。

 

「……やれやれ。癇癪持ちの女性は嫌いじゃないけど、度が過ぎると可愛げがないよ。」

 

 僕は覚悟を決めた。

 躱すことはできない。防ぐことも不可能だ。

 ならば、撃たれる前に斬るしかない。

 だが、間に合うか?

 魔法の発動と、僕の突撃。

 コンマ数秒の賭けだ。

 

「死ねェッ!!」

 

 ルティエルが叫び、光球を振り下ろそうとした、その時。

 ドォォォォォン!!

 地鳴りのような音が響き、ルティエルの足元の地面が突如として隆起した。

 いや、隆起したのではない。

 何かが、地面を突き破って飛び出してきたのだ。

 

「グワァッ!?」

 

 ルティエルが体勢を崩し、魔法が霧散する。

 土煙の中から現れたのは、巨大な「根」だった。

 まるで生き物のようにうねり、暴れまわる大樹の根。

 それがルティエルの体を捕らえ、宙吊りにしたのだ。

 

「な、なんだ!? これは!?」

 

 混乱する戦場。

 その中心で、僕は呆然と立ち尽くしていた。

 僕じゃない。僕がやったんじゃない。

 じゃあ誰が?

 

「……森が、怒っている。」

 

 静かな、しかしよく通る声が響いた。

 見れば、ルイーズたちの背後から、一人の少女が歩み出てきていた。

 従騎士のミリアだ。

 彼女は普段の怯えた様子とは違い、どこか虚ろな目で宙を見つめ、ブツブツと何かを呟いている。

 

「森の守護者が、私欲のために精霊の力を使った。……だから、森が罰を与えようとしている。」

 

 ミリアの周囲に、精霊の光が舞っている。

 まさか、精霊魔法?

 いや、これは……『精霊憑き』か!?

 予期せぬ第三勢力の介入。

 暴走するエルフ隊長、それを捕縛する森、そして覚醒した従騎士。

 事態は、僕の手を離れてカオスな方向へと転がり落ちていく。 

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
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