姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる 作:お庭屋さん
「……ルールは単純だ。」
張り詰めた空気の中、ルティエルがレイピアの切っ先を下げ、冷ややかな声で告げた。
彼女の背後には、興味津々といった様子で見守るエルフの弓兵隊。
僕の背後には、今にも飛び出しそうなのを必死に堪えているマドゥワス騎士団。
森の静寂は、これから始まる「決闘」という名の茶番……いや、僕にとっては人生と貞操を懸けた大一番の前の、嵐の前の静けさだった。
「どちらかが戦闘不能になるか、あるいは降参するか。……殺しは無しだ。貴重なサンプルを損壊させては元も子もないからな。」
ルティエルは眼鏡の奥で、値踏みするように僕を見ている。その立ち姿には、一切の隙がない。
だらりと下げた切っ先は、一見すると無防備に見えるが、それは誘いだ。
レイピア特有の、点での攻撃に特化した構え。
エルフ特有の動体視力と反射神経があれば、僕が動いた瞬間に喉元を貫く自信があるのだろう。
「……随分と余裕だな。僕が降参するとでも?」
僕はロングソードを正眼に構え、じり、と足場を確かめるように摺り足をした。腐葉土の柔らかい感触。
決して足場は良くないが、それは相手も同じだ。
「フン。虚勢を張るな、ボウヤ。」
ルティエルが鼻で笑う。
「ヒュム族のオスがどれほど非力か、我々が知らぬとでも? 魔法による身体強化を使おうと、元々のスペックが違う。……痛い目を見る前に、大人しく私の胸に飛び込んでくればいいものを。」
「お断りだ。君の胸より、硬い畳の上の方が落ち着く性分でね。」
「……減らず口を。」
カッ、とルティエルの瞳の色が変わった。
殺気ではない。もっと純粋な、闘争本能のスイッチが入った音。
「始めようか。……エルフの舞踏を、特等席で見せてやる。」
その言葉が、合図だった。
爆発的な踏み込み音と共に、ルティエルの姿がブレた。
速い。
身体強化魔法を使った気配はない。純粋な脚力だけで、十メートル近い間合いを一瞬でゼロにしたのだ。
「シッ!」
鋭い呼気と共に、銀色の閃光が奔る。
狙いは右肩。
剣を持てなくするための、正確無比な一撃。
「ッ……!」
僕は反射的に剣を立て、その刺突を「受け」るのではなく「逸らし」た。
正面から受ければ、その運動エネルギーで剣ごと弾き飛ばされる。
剣道でいう「擦り上げ」の要領で、レイピアの側面を滑らせるように軌道をずらす。
金属同士がぶつかる甲高い音が森に響き、火花が散る。
ルティエルのレイピアが、僕の耳元数センチを通過し、風切り音だけで鼓膜を揺らした。
「ほう?」
交差した瞬間、ルティエルの顔に驚きの色が浮かんだ。彼女はそのまま流れるように回転し、遠心力を乗せた裏拳のような斬撃を放ってくる。
レイピアは突くだけじゃない。そのしなりを活かした鞭のような斬撃も厄介だ。
「クッ!」
僕はバックステップで距離を取りつつ、皮一枚の差でそれを躱す。頬にヌラリとした感触が走り、続けて鋭い痛み。
「エヴ様ァァァッ!!」
「卑怯者! エヴ様のご尊顔を!」
背後でルイーズたちの悲鳴が上がるが、構っていられない。ルティエルは攻撃の手を緩めない。
突き、払い、薙ぎ。
嵐のような連撃だ。
一撃一撃が重く、速い。たった一太刀浴びるだけで、充分戦闘不能になるだろう。
純粋な膂力もさることながら、とにかくやりづらい。
というのも、彼女の動きには「型」がない。
森の地形、木の根、風向き、すべてを味方につけたような、変幻自在の体術。
これが、長命種であるエルフが数百年かけて磨き上げた戦闘術か。乱雑に見えて、どこか美しい。
素晴らしい剣技である。
「どうした、防戦一方ではないか!」
ルティエルが挑発的に笑い、手首のスナップを効かせた変則的な突きを放ってくる。
軌道が読めない。
蛇のようにうねる切っ先がフルプレートメイルの隙間を縫い、僕の太腿、脇腹、二の腕を掠めていく。
浅い傷から血が滲み、痛みが走る。
……くそっ、やっぱり基礎能力が違いすぎる!
僕は歯噛みした。
魔力による『身体強化』を全開にして、ようやく彼女の「素」の動きに反応できるレベルだ。
もし彼女が本気で強化魔法を使ってきたら、瞬殺される。
だが、彼女は使わないだろう。
なぜなら、これは「狩り」ではなく「躾」だからだ。
圧倒的な実力差を見せつけ、僕の心を折り、無力感を植え付けて「保護」を受け入れさせる。
それが彼女の狙いだからだ。
「しまらないな。口ほどにもない。」
ルティエルが追撃の手を止め、数歩下がって距離を取った。
クソ……余裕の表れだ。
彼女は乱れた呼吸一つせず、眼鏡の位置を直しながら冷ややかに告げる。
「所詮は温室育ちのオスか。……もういいだろう? 諦めろ。痛い思いをするだけ損だぞ?」
彼女の言葉に、周囲のエルフたちもクスクスと笑い声を上げる。
「やっぱり隊長の相手になるわけないわ」「早く降参しちゃえばいいのに」「手当てしてあげるからこっちにおいで」という、甘く侮蔑的な囁き。
悔しい。
確かに、この世界の基準で見れば、僕は「弱者」だ。
力も、魔力も、寿命も、彼女たちには敵わない。
けれど。
けれどだ。
「……まだだ。」
上がりかけた息を整え、剣を構え直す。
中段の構え。
攻防一体の基本にして奥義。
「……まだ、一本取られていない。」
「往生際が悪いな。」
ルティエルが呆れたように肩をすくめる。
だが、僕は見ていた。
彼女の攻撃は確かに速いが、そこには「驕り」がある。
「相手は弱い」という前提で動いているから、攻撃が直線的で、踏み込みが深い。
つまり、「カウンター」を合わせる隙がある。
前世の記憶。
道場の床の冷たさ。
竹刀がぶつかり合う音。
父上の厳しくも温かい指導。
思い出せ……。筋力で勝てない相手をどう崩すか。
更に呼吸を整える。
肺の中の空気をすべて吐き出し、森の清浄な空気を吸い込む。
魔力を、筋肉ではなく「感覚」に回す。
相手の動きを見るのではなく、起こりを感じる。
「……ふん。構えを変えたところで、結果は同じだ。」
ルティエルが再び姿勢を低くした。
来る。
今度は、先ほどよりも速い。
決める気だ。
「終わりにしてやる!」
二度目の爆音。
ルティエルが、人間離れした加速で突っ込んでくる。
その切っ先は、僕の右肩――剣を持つ腕の腱を狙っている。
速い。目では追えない。
だが、分かっていた。
……そこだ……!
恐怖を押し殺し、後ろに下がるのではなく、あえて「前」へ。
死地への踏み込み。
「なにッ!?」
ルティエルの驚愕の声が聞こえた瞬間、僕の世界はスローモーションになった。
☆
カァンッ!!
硬質な音が、森の静寂を引き裂いた。
ルティエルのレイピアが、僕の右肩を貫く――その寸前。僕は左足を軸に、体を半回転させながら懐へと飛び込んだ。
『抜き胴』の応用だ。
相手の突きをギリギリで躱し、すれ違いざまに横腹を薙ぐ。
「なッ……!?」
ルティエルの驚愕の声が耳元を過ぎる。
彼女は完全に虚を突かれていた。
「弱いオスは怖がって下がる」という思い込み。それが彼女の敗因だ。
僕のロングソードが、彼女の脇腹――薄いドレスアーマーの継ぎ目を捉える。
刃は立てていない。ミネ打ちだ。
「ぐぅッ!?」
ドスッという重い衝撃音が響き、ルティエルがバランスを崩してタタタッと数歩よろめいた。
エルフたちが「あっ!」と息を呑む。
最強の警備隊長が、ヒュムのオスに一撃を入れられたのだ。その衝撃は計り知れないだろう。
「……言っただろう。まだ一本取られていない、と。」
僕は残心を取り、再び剣を正眼に構えた。
心臓が早鐘を打っている。
今の動きは、前世の記憶と火事場の馬鹿力が生んだ奇跡に近い。
もしコンマ一秒でも遅れていたら、今頃僕の右腕は使い物にならなくなっていただろうし、もう一度同じことをしろと言われても無理だろう。
冷や汗が背中を伝うが、顔だけは「余裕の笑み」を張り付けておく。ハッタリも実力のうちだ。
「……貴様。」
ルティエルが顔を上げ、眼鏡のズレを指先で直した。
その碧眼から、先ほどまでの余裕が消え失せている。
代わりに宿っているのは、屈辱と、そして燃え上がるような憤怒だ。
「よくも……よくも私に触れたな。汚らわしいヒュム風情が!」
「おや、これは失敬。だが触れてほしくて誘っていたんじゃないのか?」
「黙れッ!!」
ブチギレた。
ルティエルが叫ぶと同時に、彼女の周囲に緑色の魔力が渦巻いた。
風だ。
森の空気が彼女の感情に呼応して荒れ狂う。
「ただのまぐれだ! 調子に乗るなよ人間!」
ルティエルが再び突っ込んでくる。
先程までとは速さが違う。魔力で身体強化を乗せている上、風の魔法で加速しているのだ。
レイピアが分身したかのように無数の切っ先となり、雨あられと降り注ぐ。
「くっ……!」
いよいよ僕は防戦一方に追い込まれた。
速い。速すぎる。
剣で弾く暇すらない。
最小限の動きで急所だけを避けるが、頬、肩、太腿に次々と浅い傷が増えていく。
「どうした! さっきの威勢はどうした!口ほどにもない! 所詮はまぐれ当たりか!」
ルティエルが嘲笑いながら、執拗に攻め立ててくる。
彼女の狙いは、僕をじわじわと追い詰め、恐怖心を植え付けることだ。
サディスティックな笑みが、その美しい顔を歪ませている。
……まずいな。このままじゃジリ貧だ。
僕は焦りを感じ始めていた。
スタミナの差は歴然だ。このまま持久戦になれば、先に倒れるのは僕の方だ。
どこかで反撃の糸口を掴まなければならない。
だが、その隙が見つからない。
その時だった。
「エヴ様ァァァッ! 素敵です! その汗ばんだ横顔……尊すぎます!!」
「ああっ! 斬られてギャンベゾンが破れた! 鎖骨が見えました! ありがとうございます!」
「頑張れー! エヴ様頑張れー! そのエルフを泣かせてやってくださいー!」
背後から、黄色い声援……というより、欲望丸出しの絶叫が聞こえてきた。
ルイーズたちだ。
彼女たちは僕が劣勢であることなどお構いなしに、傷つきながらも戦う僕の姿に興奮し、ペンライトでも振りそうな勢いで応援している。
……どゆこと???
いつもの世紀末ぶりはどこへ???
いや、これは「エヴ様の騎士としての戦いを邪魔してはいけない」という、彼女たちなりのリスペクトなのか?
だとしたら方向性が間違っている気がするが!
「……チッ。外野がうるさいな。」
ルティエルが苛立ちを露わにし、視線を一瞬だけルイーズたちに向けた。
その一瞬の隙。
集中力が途切れた瞬間を、僕は見逃さなかった。
1対1の打ち合いにおいて、相手の心が動いた瞬間こそが「好機」だ。
僕は大きく息を吸い込み、気合いと共に踏み込んだ。
「エェェェェェイッ!!」
裂帛の気合い。
魔力を足ではなく、上半身と腕に集中させる。
音速を超えるような踏み込みではない。
だが、相手の意識の外から放たれる一撃は、反応速度を凌駕する。
「なッ!?」
ルティエルが慌ててレイピアを戻そうとするが、遅い。僕のロングソードが、空気を切り裂き、彼女の脳天へと振り下ろされ……。
寸止め。
ビタリ、と切っ先が彼女の額の皮一枚手前で止まった。風圧で彼女の前髪が舞い上がり、眼鏡がカチャリと揺れる。
「……ッ、ぅ……。」
ルティエルが息を呑み、硬直した。
彼女の瞳が、至近距離にある僕の剣を見開き、そして僕の顔を映し出す。そこにあるのは、恐怖ではない。
一人の剣士としての「強さ」を見せつけられたことによる、本能的な畏怖と……ときめき?
「……一本だ。」
僕は静かに告げ、剣を引いた。
本来ならこれで勝負ありだ。真剣勝負であれば、今頃ルティエルは脳天から股下までスッパリと2枚おろしになっていた事だろう。
だが、ここは異世界。
「参りました」と言うまでは終わらないのが、この世界の面倒なところだ。
「……ば、馬鹿な……。」
ルティエルは震える手で自分の額に触れ、そこには冷や汗が流れている。
彼女は信じられないものを見る目で僕を見つめ、そして顔を真っ赤にして叫んだ。
「あり得ない! ヒュムのオスごときに、この私が後れを取るなど! 何かの間違いだ!」
「間違いじゃない。君が僕を侮り、隙を見せた結果だ。」
「うるさい! 認めん! 私はまだ負けていない!」
全く往生際が悪い。
ルティエルは乱れた髪を振り乱し、血走った目で僕を睨みつけた。その背後で、魔力が膨れ上がる。
先ほどまでの比ではない。
大気が悲鳴を上げるほどの、濃密な風の魔力。
森の木々がざわざわと揺れ、落ち葉が竜巻のように舞い上がる。
「……おいおい。殺しは無しじゃなかったのかね?」
「黙れ! 人間の、それもオスごときに屈辱を味わわされたまま終われるか!」
ルティエルがレイピアを掲げると、その先端にエメラルド色の光球が収束し始めた。
上級精霊魔法『エアロ・ディザスター』。
直撃すれば、僕どころか後ろの騎士団ごと吹き飛びかねない大魔法だ。
「消え失せろ! 塵一つ残さずな!」
理性を失ったエルフの暴走。
もはや決闘の体を成していない。
僕は舌打ちをし、剣を強く握り直した。
「……やれやれ。癇癪持ちの女性は嫌いじゃないけど、度が過ぎると可愛げがないよ。」
僕は覚悟を決めた。
躱すことはできない。防ぐことも不可能だ。
ならば、撃たれる前に斬るしかない。
だが、間に合うか?
魔法の発動と、僕の突撃。
コンマ数秒の賭けだ。
「死ねェッ!!」
ルティエルが叫び、光球を振り下ろそうとした、その時。
ドォォォォォン!!
地鳴りのような音が響き、ルティエルの足元の地面が突如として隆起した。
いや、隆起したのではない。
何かが、地面を突き破って飛び出してきたのだ。
「グワァッ!?」
ルティエルが体勢を崩し、魔法が霧散する。
土煙の中から現れたのは、巨大な「根」だった。
まるで生き物のようにうねり、暴れまわる大樹の根。
それがルティエルの体を捕らえ、宙吊りにしたのだ。
「な、なんだ!? これは!?」
混乱する戦場。
その中心で、僕は呆然と立ち尽くしていた。
僕じゃない。僕がやったんじゃない。
じゃあ誰が?
「……森が、怒っている。」
静かな、しかしよく通る声が響いた。
見れば、ルイーズたちの背後から、一人の少女が歩み出てきていた。
従騎士のミリアだ。
彼女は普段の怯えた様子とは違い、どこか虚ろな目で宙を見つめ、ブツブツと何かを呟いている。
「森の守護者が、私欲のために精霊の力を使った。……だから、森が罰を与えようとしている。」
ミリアの周囲に、精霊の光が舞っている。
まさか、精霊魔法?
いや、これは……『精霊憑き』か!?
予期せぬ第三勢力の介入。
暴走するエルフ隊長、それを捕縛する森、そして覚醒した従騎士。
事態は、僕の手を離れてカオスな方向へと転がり落ちていく。
メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!
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ルイーズ・ロンズデール
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ネリー
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サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
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アンドレア殿下
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ガーベラ
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アグニ
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バルバラ
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上記以外のキャラクターは感想等で教えてね