姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる 作:お庭屋さん
アンケートは第一章の完結まで実施しますので、ぜひご回答の方をよろしくお願い致します。
岩の隙間から差し込む朝日の眩しさで、僕は目を覚ました。
「……んぐ……。」
起き上がろうとした瞬間、頭の中でガンガンと鐘が鳴り響くような痛みが走る。
二日酔いだ。
昨夜、あの亜人たちに勧められるがままに飲んだ、白濁した謎の発酵酒。
口当たりはフルーティーだったが、どうやら度数は殺人的だったらしい。
「……うぅ……気持ち悪い……。」
僕はこめかみを抑え、重たい瞼をこじ開けた。
視界に飛び込んできたのは、幸せそうな顔で折り重なって眠る、灰色の亜人たちの山。
そして、その中心で、マントをミノムシのように被って震えている自分。
――記憶が、フラッシュバックする。
『アブドミナル・アンド・サイ!!』
『見てくれ! この大胸筋を!』
『サイド……チェストォォォォッ!!』
パキーン!と弾け飛んだ鎖。
黄金のニップルカバーだけを残して露出した筋肉。
そして、興奮のあまり鼻血を吹いて卒倒した亜人のリーダー。
「…………ッ!!」
カァァァァッ!!
一瞬にして、二日酔いの頭痛を凌駕するほどの熱が顔面に集まった。
死にたい。
今すぐこの洞窟が崩落して、僕という黒歴史ごと埋めてくれないだろうか。
一国の騎士が、異種族のハーレム(?)の中心で、半裸になってポージング大会を開催するなんて。
しかも「キレてる!」とか言われて満更でもない顔をしていた自分を殴りたい。
「……お目覚めですか、エヴ様。」
涼やかな、しかしどこか弾んだ声が聞こえた。
恐る恐る振り返ると、そこにはすでに身支度を整えたルイーズが、紅茶を優雅に啜っていた。
その手には、ハンカチで大切そうに包まれた「歪んだ黄金の金具」が握られている。
「……ルイーズ。」
「はい。」
「その……僕の胸のアレを、大事そうに持つのをやめてくれないか。」
「心苦しいですが。エヴ様の頼みとは言え、お断りします。」
彼女は即答し、その包みを懐の奥、心臓に一番近い場所へしまった。
「これは、エヴ様の筋肉が物質的束縛に勝利した証。……『鎖ちぎりの聖遺物』として、ロンズデール家の家宝にします。」
「やめて!! お願いだから溶かして捨てて!!」
「おはようございます、団長。」
サーシャも大あくびをしながら起きてきた。
彼女はニカっと笑うと、僕の背中をバシバシと叩いた。
「昨日は凄かったなー! アタシ、あんなに輝いてるエヴァン初めて見たぜ? ……特にラストの『サイド・チェスト』? アレが決まった瞬間、後光が差してたもん。」
「……忘れてくれ。頼むから。」
「無理だね。ネリーがバッチリ映像に残してるし。」
見れば、ネリーが無表情で水晶を磨いていた。
その水晶の中には、汗とオイルでテラテラに輝く僕が、満面のドヤ顔で筋肉を誇示している姿がフリーズフレームされている。
終わった。僕の社会的地位は、この辺境の洞窟で死んだんだ。
その時だった。
僕の足元で、気絶していた亜人のリーダーが「んぐ……」と呻き声を上げた。
「……ヒッ!」
僕はビクリと身を強張らせた。
また「ワンモア・ポーズ!」とか言われたらどうしよう。もうこれ以上は、僕の精神が持たない。
「グルァ……ア……ヴォフッ……。」
リーダーはゆっくりと体を起こし、充血した目で僕を見上げた。その瞳に宿っていたのは、情欲ではなく、純度100%の「信仰心」だった。
いや、それを通り越して狂信者の目である。
彼女は震える手で自身の仮面を外す。
中身は意外にも理知的な顔立ちの美女だった。
そんな美女が突如として地面に額を擦り付けて平伏した。
「ガウッ! ガウガウ!」
どうやら、僕の筋肉は彼女たちを満足させるどころか、信仰を確固たるものにしてしまったらしい。
彼女は懐から、大切そうに包まれた一本の「短剣」を取り出し、恭しく僕に差し出した。
「……これは?」
「グルァ!」
恐る恐る受け取ると、それはズシリと重い、黒曜石で作られた短剣だった。ガラス質で鋭利な刃は、朝の光を吸い込むように黒く輝いている。
柄の部分には、何かの獣の骨や牙が装飾され、禍々しくも美しいオーラを放っていた。
「……ァ、アグリム……アグリムノキバ……。」
渡された短剣を指さしながら、彼女がたどたどしく共用語で教えてくれる。
どうやらこの部族にとっての、特別な武器らしい。
そんなものを貰っていいのだろうか。
「ありがとう。……大切にするよ。」
そう答えると、満足そうに笑う族長らしき亜人。
ニコニコと笑う彼女は純粋無垢な子供の様で、昨夜のマッスルパーティで嬉々として踊り狂っていたのが嘘のようである。
僕は少し救われた気分になった。
昨夜の失態も、この同盟(?)と武器を得るための儀式だったと思えば、ギリギリ納得できるかもしれない。
そう思いながら、何気なく短剣の「柄」を握りしめ、その彫刻に目を落とした。
「……ん?」
柄の骨細工。
幾何学模様かと思っていたが、よく見ると何かの「図」が彫り込まれている。
隆起した背中。
極限まで収縮された腕。
そして、顔をしかめてポーズをとる
「……これ。」
僕は震える指で、柄頭、ポンメルの部分を指差した。
そこには、男が胸の前で両手を合わせ、大胸筋を強調している図が、デフォルメされつつも精巧に彫り込まれていた。
「……『サイド・チェスト』だ。」
「ぶふっ!」
サーシャが吹き出した。
「マジだ! 昨日のエヴァンと完全に一致してるじゃねぇか! 特にこの、血管が浮き出てる感じとか!」
「ああっ! こっちの鍔の部分は『アブドミナル・アンド・サイ』です!」
ルイーズが嬉々として指摘する。
「素晴らしい……。この部族には古来よりこのポージングが神事として伝わっていたのですね。つまりエヴ様は、正真正銘の『予言の子』だったわけです。」
「いらない予言だよ!!」
僕は頭を抱えた。
高価な黒曜石の短剣。切れ味も魔力も一級品。
だが、その柄には「マッチョがポーズを決めている図」がビッシリと彫られている。
これを使うたびに、僕は自分の黒歴史を掌で感じ、敵に見せつけることになるのだ。
まさに特級の呪物。呪われた武器である。
い、要らねぇ………………。
「グルァ~♡」
だけれど、リーダーが上目遣いで尻尾を振っている。
「いらない」とは言えない空気だ。
「……感謝する。一生……大事にするよ。」
僕は引きつった笑顔でそう告げると、逃げるように立ち上がった。これ以上ここにいたら、僕自身が「神像」として掘られかねない。
「行くぞ! キャンプに戻って、すぐに出発だ!」
僕の号令に、騎士たちは笑いを噛み殺しながら従った。こうして僕は、新たな武器と、消えない心の傷を抱えて、カステ高原の朝を迎えたのだった。
☆
僕の号令と共に、騎士たちはテキパキと荷物をまとめ始めた。
一刻も早くこの場を離れなければ。
僕の心臓と尊厳は、もう限界だ。いや手遅れかもしれないが。
「グルァ! ガウッ!」
「ヴォフッ!」
しかし、僕の背後で、予想外の号令が響く。
振り返ると、数十人の亜人たちが、簡易テントを畳み、食料の干し肉をまとめ、家財道具一式を背負い始めているではないか。
その顔は、希望と期待に満ち溢れている。
「……え、ちょっと待って。」
僕は嫌な予感と共に、リーダーの元へ駆け寄った。
「あの、何をしてるの?」
「グルァ!」
リーダーはその慎ましやかな胸誇らしげを張った。
うーん、薄着。極寒の地でそんな薄着で大丈夫なのかな。風邪ひいたりしない?零れそうだよ?
「ガウッ! ガウガウ!」
イマイチ意思疎通ができないけれど、何となくジェスチャーで伝わった。
彼女たちは、部族総出でマドゥワス領へ引っ越してくるつもりだ。
「ま、待って! それは困る!」
僕は慌てて両手を振った。
とんでもない。僕の黒歴史丸ごと領地に越してくるのか。冗談じゃない。
「君たちの気持ちは嬉しいけど、今はまだ無理だ! 僕の領地は……その、色々と大変な時期で……。」
今のマドゥワス領は、敗戦と、そして2年間の実質的領主不在によって荒廃しているはずだ。
そんな状態で、数十人の異種族しかも食欲旺盛な戦闘民族をいきなり受け入れたら、食糧危機どころか、領民との間でパニックや衝突が起きかねない。
「グルゥ……。」
リーダーがシュンと耳を垂れ、悲しげな瞳で僕を見つめた。周囲の亜人たちも手を止め、不安そうにこちらを見ている。
昨夜の熱狂が嘘のような、静かで重い空気。
……ここで「ポージング」をして誤魔化すこともできるかもしれない。
でも、それは違う。
彼女たちは真剣に、僕を信じてくれているのだ。
ならば、僕も誠意を持って応えなければならない。
「……嫌じゃないよ。」
僕はリーダーの前に膝をつき、目線を合わせて、ゆっくりと言葉を紡いだ。精一杯、誠意を込めて。
「君たちの優しさも、強さも、よく分かった。……でも、今の僕には、君たち全員を養えるだけの力がないんだ。」
「グルァ……?」
不思議そうに僕の身体を指差す彼女。
そんなに強そうなのに?とでも言いたげだ。
「筋肉だけじゃ、国は治められないんだ。」
僕は苦笑しながら、自分の胸に手を当てた。
「僕の領地は今、ボロボロなんだ。君たちを招いても、美味しいご飯も、暖かい寝床も用意してあげられない。……そんな状態で、大切な友人を呼ぶわけにはいかないだろう?」
「…………。」
リーダーは僕の目をじっと見つめ、何かを探るように鼻をヒクつかせた。
僕の言葉が、通じているのかは分からない。
だが、僕の「嘘のない感情」は伝わっているはずだ。
「……だから、待っていてほしい。」
僕は彼女の手を取り、力強く握った。
「必ず故郷を立て直す。君たちが安心して暮らせるような、豊かで平和な場所を作る。……そうしたら、必ず迎えに来るよ。」
「グルッ……。」
「ああ。約束だ。」
僕の言葉に、リーダーはしばらく沈黙した後、ゆっくりと大きく頷いた。
「ガウッ!」
彼女は仲間たちに向かって短く何かを叫んだ。
亜人たちは残念そうに唸ったが、リーダーの決定には絶対服従らしく、大人しく従うようだった。
「ふぅ……。」
思わず安堵の息を漏らす。
よかった。筋肉ではなく、対話で解決できた。
これもまた、領主としての第一歩……かもしれない。
というか、伝わってるんだなコレ……。
☆
翌朝、別れはあっさりとしたものだった。
リーダーは何度も振り返りながら手を振っていたが、決して追いかけてくることはなかった。
彼女たちの「規律」と、僕への「信仰心」がそうさせているのだろう。
「……ふぅ。」
姿が見えなくなったところで、僕は深く息を吐き出した。
と同時に、どっと疲れが出る。
肉体的な疲労よりも、精神的な摩耗が激しい。
「お疲れ様でした、エヴ様。」
ルイーズが馬を寄せ、慰めるように微笑む。
「ですが、怪我の功名とも言えます。強力な亜人の部族と友好的な関係を築けたのですから。……多少、神格化されすぎている気はしますが。」
「多少どころじゃないよ。……でもまぁ、これでカステ高原の安全も確保できたと思えば、安いもの……かな。」
僕は腰の「黒歴史短剣」をマントで隠しながら、自分に言い聞かせた。
今はとにかく、一刻も早くマドゥワス領へ帰りたい。
知っている土地、知っている言葉、そして「常識」が通用する世界へ。
「よし、このまま峠を一気に下るぞ! 日没までには関所を抜ける!」
「「「ハッ!!」」」
僕たちは馬に鞭を入れ、荒野を駆け抜けた。
風が心地よい。
昨夜の狂乱が嘘のような、平和な旅路だ。
――そう、思っていた。
峠の中腹あたりで、馬を休めるために小休憩を取った時のことだ。
「ん……?」
水分補給をしようと、食料や飲料が積まれた荷馬車へ近づくと、その荷台から、ガサゴソと音がした。
風の音かと思ったが、明らかに何かが動いている気配がする。
まさか、魔獣が入り込んだのか?
「サーシャ、警戒を。」
「おうよ。」
サーシャが槍を構え、慎重に幌をめくり上げる。
僕も剣の柄に手をかけ、中を覗き込んだ。
そこにいたのは。
「……ガウッ?」
荷物の隙間に埋もれるようにして、ちょこんと座っている「灰色」の影。
大きな瞳に、小さな牙。
昨夜の亜人たちと同じ特徴を持っているが、サイズが圧倒的に小さい。
子供……いや、小柄な少女か?
「……え?」
僕たちが固まっていると、その少女は「見つかっちゃった」とでも言うようにテヘッと舌を出し、荷物の奥から一枚の「樹皮」を差し出した。
そこには、リーダーが書いたと思われる、稚拙だが力強い絵文字が描かれていた。
『 筋肉の神 = 約束 = 妹 』
そして、その横にはハートマークと、鎖で繋がれた二人の絵。
「…………。」
解読するのに数秒。
理解して絶望するのにさらに数秒。
つまり、こういうことだ。
『約束を忘れないように、私の妹を監視役(兼、人質あるいは嫁候補)として預けておきます♡』という事だろう。
「あいつらァァァァァッ!!」
僕の絶叫が、カステ高原の空に虚しく響き渡った。
「ガウッ! ガウゥ〜♪」
少女は悪びれる様子もなく、荷台から飛び降りると、僕の足にしがみついて頬ずりを始めた。
その顔はリーダーにそっくりで、将来有望な「マッスル信者」の相が出ていた。
「ど、どうしましょうエヴ様……。置いていきますか?」
「……無理だろうな。」
ここで置いていけば、野垂れ死ぬか魔獣の餌だ。
それに、これはあの部族なりの「契約書」代わりなのだろう。送り返せば、「契約破棄」とみなされて、部族総出で襲撃してくるかもしれない。
「……はぁ。」
僕は天を仰いだ。
黒歴史の短剣に加えて、生きた証人まで背負い込むことになるとは。
「……連れて行くしかない。幸い、一人分くらいなら食い扶持はどうにかなる。」
「まぁ、ペットみたいなもんだと思えば可愛いもんさね。」
サーシャが少女の頭をワシャワシャと撫でると、少女は嬉しそうに「クルルッ!」と喉を鳴らした。
「ふん。……エヴ様の寵愛を独占しようなどと考えないことですね。序列最下位として、しっかり躾けて差し上げます。」
ルイーズが謎の対抗心を燃やしているが、とりあえず受け入れてはくれたようだ。
「行くぞ……。これ以上、変なものが増える前に。」
僕の疲れた号令と共に、一行は再び動き出す。
荷馬車の後ろには、楽しそうに尻尾を振る小さな「監視者」の姿。
カステ高原の旅は、最後の最後まで、僕の胃と筋肉に優しくなかった。
メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!
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ルイーズ・ロンズデール
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ネリー
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サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
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アンドレア殿下
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ガーベラ
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アグニ
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バルバラ
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上記以外のキャラクターは感想等で教えてね