姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

24 / 55
シリアス展開多めになります。

アンケートにご協力頂き、本当にありがとうございました!
みんなアンドレア殿下好きねぇ.....握手しよ握手!!!!!

アンケート結果から、アンドレア殿下の視点での話を書きますが、折角ご投票頂けたのに書かないのは勿体無いので、その他のキャラクターの視点も順次書いていこうと思います!
お待ちくださいませ!


第二章:王国の影
第24話:故郷の大地


 アウグス伯爵領の最後の関所を抜け、行軍を続ける事半日。

 荒涼とした大地の表情が、次第に緑ある優しげなものに変わりつつある中、カステ高原の、岩を削り取るような乾いた風が止んだ。

 代わりに馬たちの鼻先をくすぐり始めたのは、湿り気を帯びた土の匂いと、どこか懐かしい草木の香り。

 シルバッツ大森林の噎せ返るような緑とも、帝都の石造りの街並みが放つ無機質な匂いとも違う。

 それは、僕の魂に深く刻み込まれた、故郷マドゥワス領「ブレスダン」の息吹だった。

 

 街道の脇に、古びた石造りの道標が見える。

 長年の雨風に打たれ、表面の苔に半分ほど覆われているが、そこには確かにマドゥワス家の紋章である「盾と若木」が刻まれていた。

 

 ここが、境界線。

 この石を越えれば、そこから先は僕たちが守り、育むべき愛しき大地だ。

 

「……帰ってきたんだな。」

 

 ぽつりと漏らした僕の声に、隣を並走するルイーズが力強く頷いた。

 

「はい。エヴ様、ついに、ついに帰還いたしました。長かったですね……本当に。」

 

 彼女の声は、喜びよりも安堵、そしてどこか祈りに似た震えを含んでいた。一年前、この地を離れる時、僕たちはこれほどまでに険しく、そして遠い旅路になるとは想像もしていなかった。

 

 だが、馬の歩みを進めるにつれ、僕の胸を占めていた再会の高揚感は、急速に冷え込み、重苦しい沈痛へと塗り替えられていった。

 

「……これは……」

 

 絶句したのは、僕だけではない。

 街道の左右に広がるのは、かつて僕が領主代行として、村人たちと共に泥にまみれて耕したはずの広大な田園風景……ではなかった。

 そこに広がっていたのは、見渡す限りの「沈黙」だった。

 

 かつて黄金色の穂を揺らしていた麦畑は、膝の高さまで伸びた雑草に飲み込まれ、境界を分かっていた木の柵は腐り落ちて地面に伏している。用水路の石積みは崩れ、詰まった泥のせいで淀んだ水が異臭を放っていた。

 

 農具が投げ出されたまま錆びつき、人の手が入っていないことが一目で分かるその光景は、豊かな大地がゆっくりと死にゆく様を晒しているかのようだった。

 

 前世で日本人として生きていた頃、僕は剣道に打ち込む傍ら、管理や整備という言葉を重んじていた。今世でマドゥワス家の嫡男として生まれ、この世界の歪な「男卑女尊」の規範に戸惑いながらも、僕は自分の役割を見出したつもりだった。

 

 男性は守られるべき存在――そんな価値観が支配する世界で、僕は「領主代行」という肩書きを、単なる象徴ではなく「責任者」であり「守護者」であると定義した。

 

 女性たちが汗を流す畑に自ら入り、用水路の泥を共に掻き出し、効率的な輪作を提案する。そうやって、この地で生きる人々の隣に立ち、共に歩んできた自負があった。

 だが、僕が帝国での労役に駆り出されていた、空白の一年。

 その時間が、この地にこれほどまでの停滞と疲弊をもたらしたのか。

 

「……僕が、不在だったせいで。」

 

 絞り出すような僕の声に、背後から馬を寄せたネリーが、静かに首を振った。

 

「エヴ様のせいではありません。帝国への人質同然の労役は、この国が正しく終戦するする為に、ラウラ様の跡継ぎとして果たさねばならなかった公務です。」

 

 ネリーはそう言ってくれるけれど、やはり不甲斐なさは消えない。

 

「……ですが、たった一年で、これほどまでに土地が荒れてしまうとは。管理を任せていた者たちの苦労が、偲ばれますね。」

 

 ネリーの声にも、怒りはない。ただ、故郷を愛する者としての深い悲しみと、自分たちもまたこの地を空けていたことへの申し訳なさが滲んでいた。

 この世界において、男性の主人が不在であることは、家の「魂」が欠けていることに等しい。女性たちがいくら現場を守ろうとしても、彼女たちが崇敬し、寄り添うべき主柱が不在であれば、精神的な支えを失った土地は自ずと活力を失っていく。

 それが、代行とは言え『領主』であるなら尚のこと。

 

 僕たちは言葉を失い、ただ馬の蹄が立てる乾いた音だけが、荒れた大地に虚しく響いた。

 時折、風が吹き抜けるたびに、枯れた作物の茎がカサカサと鳴り、僕たちの帰還を責めているようにさえ聞こえる。

 

「……あ、あの、エヴ様、見てください。あそこです。」

 

 ルイーズが、沈痛な空気を変えようとするかのように、街道の先を指差した。

 雑草の海の向こう、緩やかな丘の麓に、いくつかの煙突から細い煙が立ち上る集落が見えてきた。

 領地の北端に位置する「ココノ村」だ。

 

 かつては収穫の時期になると、村の広場から威勢の良い女性たちの歌声が響き、子供たちが僕の姿を見つけては競い合うように駆け寄ってきた、活気ある村。

 だが、遠目に見える村の様子も、どこか生気がない。建物は修繕が滞っているのか、屋根の葺き替えが放置され、人影もまばらに見えた。

 

「……行こう。まずは彼らの話を聞くのが先決だ。」

 

 僕は自分の中の自責の念を、無理やり奥底へ押し込んだ。

 今、領主代行である僕にできることは、過去を悔やむことではなく、この現状を真正面から受け止めることだ。

 馬の腹を軽く蹴り、速度を上げる。

 背後で、荷馬車の幌の中に押し込まれた「亜人の少女」が、環境の変化を察したのか「ガウ……?」と小さな声を漏らした。

 

 一年前の僕なら、この惨状を見てただ狼狽えていたかもしれない。

 だが、帝国での地獄のような日々を、そしてカステ高原やシルバッツ大森林での死闘を乗り越えて、アウグス伯爵の貴族としての在り方を見てきた今の僕には、この荒れた大地すら、立て直すべき「戦場」に見えていた。

 

 村の入り口、一人の老いた女性が、道の脇で力なく鍬を振るっているのが見えた。

 彼女が顔を上げ、こちらを向く。

 その瞳に、僕たちの掲げるマドゥワス家の紋章が映った瞬間。

 止まっていたこの地の時間が、音を立てて動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 ガチャン、と乾いた音を立てて鍬が土の上に落ちた。

 老女の震える指先が、僕を指差している。深く刻まれた目尻の皺の奥で、その瞳が信じられないものを見たかのように大きく見開かれた。

 

「……わか、さま……? まさか。……エヴァン様。エヴァン様がお戻りになられたのかい!?」

 

 その掠れた叫びが呼び水となり、静まり返っていた村の空気が一気に弾け、家々の扉が次々と開け放たれる。

 

「若様!?」

「エヴァン様だ! 若様が帰ってこられたぞ!」

 

 飛び出してきたのは、土仕事で腕を真っ黒に焼いた女性たちだ。彼女たちは手に持っていた籠や道具を放り出し、なりふり構わず僕の元へと駆け寄ってくる。

 あっという間に、僕は幾重もの人垣に囲まれていた。

 

「ああ、本当にお戻りに……!」

「お怪我はありませんか? 帝国で、どれほど酷い目に遭わされていたことか……」

「まぁまぁ、みんな落ち着いて……。」

  

 殺到する問いかけと熱気に、僕は圧倒されながらも馬から下りた。

 足が地面に着いた瞬間、押し寄せてきたのは懐かしい土の匂いと、村人たちの汗の匂いだ。

 

 正直に言えば、僕の姿はこの世界の「男らしさ」や「美しさ」とは対極にある。180センチの長身。労役と死闘を経て、以前にも増して硬く盛り上がってしまった筋肉。鏡を見るたびに「可愛げがない」と自嘲してしまうこの身体は、彼女たちの目にも、きっと野暮ったい大男として映っているはずだ。

 もっと端的に言えば「醜いブ男。」それも、鎧を着て剣を振り回す野蛮な女装狂い。

 

 けれど、誰もそんなことは気に留めていない。

 彼女たちが僕に向ける眼差しにあるのは、僕がこの地で過ごした日々の記憶だ。

 一緒に用水路の泥を掻き出し、腰を痛めながら共に苗を植えた日々。身分なんて関係なく、不器用な僕の相談に乗ってくれたおばさんや、畑仕事の合間に「剣を教えてください!」と懐いてくれていた少女たち。

 彼女たちが縋り付いてくるその手の力強さが、僕の胸を熱くさせる。

 

「みんな、ただいま。……遅くなって、本当にすまない。」

 

 そう言って、僕は近くにいた女性の肩を軽く叩こうとして、自分の手を止めた。

 彼女たちの視線が、凍りついたように一点に注がれている。

 捲り上げた袖の隙間。そして、汗を拭うために緩めた襟元。

 そこから覗く、幾筋もの生々しい傷跡に。

 

「…………っ。」

 

 誰かが、息を呑む音が聞こえた。

 沸き立っていた歓声が、潮が引くように消え失せる。

 帝国での蛮族討伐で刻まれた深い裂傷。大森林でのルティエルとの決闘で、鎧の隙間から滑り込んだ剣先が残した切創。特に頬に刻まれた真新しい傷跡は遠くの村人にも見えてしまっているだろう。

 

 「貴種を貴種たらしめているのは平民あってこそ。なれば、我らは青い血をその民の為に流すのだ。」

 

 母上の言葉。

 民が居てこその領主、という母の教えは僕の魂にもしっかりと刻み込まれている。

 この傷の数々も、僕にとっては、誰かを守るために、生き延びるために支払った当然の代償だ。

 でも、彼女たちにとっては違ったらしい。

 

「……若様。そのお身体、そのお傷は……。」

 

 一人の女性が、震える手で僕の首筋の傷に触れようとして、恐れ多いのか空中で指を止める。

 

「グラディウスは……あの帝国は! 国の為と尽くしてきた若様を、どれほどの地獄へ投げ出したというのです!?」

 

 その叫びをきっかけに、村中に慟哭が広がった。

 女性たちが次々とその場にひざまずき、声を上げて泣き始める。

 僕は狼狽えた。

 筋肉がついてしまった身体を憐れんでいるのではない。僕が不在だった一年間、どれほどの苦難をで背負ってきたのか。その身体に刻まれた歴史を見て、彼女たちは自分のことのように胸を痛めてくれているのだ。

 

「お労しい……。ああ、私たちの若様が、こんなに傷だらけになられて……!」

「申し訳ありません、若様! 私たちが力不足で、あなたを一人で行かせてしまったばかりに……!」

 

 口々に謝罪をする彼女たちだけれど、謝らなければならないのは、僕の方だ。

 こんなに荒れ果てた領地にしてしまった。彼女たちに、こんなに悲しい顔をさせてしまった。

 なのに、彼女たちは僕の無事を喜び、僕の傷のために涙を流している。

 世間の美醜なんて、ここでは何の意味もなかった。

 泥だらけの手で僕の腕に触れ、無事を確認し合う彼女たちの姿に、僕はただ立ち尽くすことしかできない。

 

「みんな、顔を上げてくれ。……この傷は、僕が皆の元へ帰ってくるために必要だったものだ。僕は、ちっとも後悔なんてしていないよ。」

 

 僕はひざまずく彼女たちの手を、一人ずつ取って立ち上がらせる。

 農作業で硬くなった指先の感触。

 かつて共に土を耕したその温もりが、僕の心の中にあった自責の霧を、静かに、だが確実に晴らしていくのを感じた。

 そうだ。僕は、この人たちのために帰ってきたんだ。

 この涙を、もう一度笑顔に変えるために。

 僕の身体に刻まれた傷が、いつか彼女たちの誇りになるような、そんな領地をもう一度取り戻すために。

 

「……エヴ様。」

 

 いつの間にか隣に立っていたルイーズが、静かに僕の肩に手を置いた。

 彼女の瞳も、村人たちの想いに打たれたのか、うっすらと潤んでいるように見える。

 

「……行きましょう、エヴ様。この地を、もう一度私たちの手で……。」

 

 僕は深く頷いた。

 故郷は荒れている。だが、人々の心までは枯れていなかった。

 だが、そんな再会の余韻を、場違いな咆哮が乱暴にぶち壊したのは、その直後だった。

 

 

 ☆

 

 

 しんみりとした、どこか救われるような空気を乱暴にぶち壊したのは、背後の荷馬車から響いた、場違いな咆哮だった。

 

「ガウッ! ササグ! ササグ!!」

 

 馬車の幌を跳ね除け、灰色の影が飛び出してきた。カステ高原から密航同然についてきた、あの亜人の少女だ。

 彼女は僕の元へ駆け寄る村人たちを、獲物を狙うような鋭い目で見据え、あろうことか広場で呑気に草を食んでいた鶏に狙いを定めた。

 

「アグリム、! ニク、ニク!!」

「ちょ……待て! それは村人の大事な……!」

 

 僕が声を上げるより早く、隣にいたルイーズの空気が一変した。

 

「……いい度胸ですね。エヴ様がどれほどこの地を愛しているか、その身を持って分からせてあげます。」

 

 ルイーズの手は、その手にあったはずの手綱が間にか離れ、少女の襟首を正確に捉えていた。

 その背後には、氷のような冷徹さを湛えたネリーも控えている。

 

「エヴ様、ご安心を。この村の平穏を乱す不心得者には、相応の教育が必要です。……ルイーズ、裏の空き地へ。」

「承知した、ネリー。」

 

 暴れる少女は、ルイーズの手によってずるずると裏手へ引きずられていく。彼女は必死に僕の方へ手を伸ばし、「アグリムー! アグリムー!ガウー!」と叫んでいたけれど、今のルイーズたちに慈悲を求めるのは無駄だろう。

 しばらくして、村の裏手からはドカバキという鈍い音と、少女の悲鳴が交互に響き渡ることとなった。

 

 

 ☆

 

 

 やがて日が沈み、村の広場に小さな焚き火が灯された。

 村人たちが代わる代わる運んできたのは、欠けた木の器に盛られた、お世辞にも豪華とは言えない野菜スープだった。

 具材は小さく刻まれた根菜と、申し訳程度の干し肉。それだけ、この一年の蓄えが厳しかったことを物語っている。

 

「若様、どうぞ。……これくらいしか、お出しできなくて。」

 

 申し訳なさそうに差し出されたその器を、僕は両手でしっかりと受け取った。

 

「何を言う。ご馳走じゃないか。お前たちもしっかり食べているか?いや……、失言だったな。すまない。」

「め、滅相もございません…!」

「必ずまた豊かな土地にしよう。ささ、冷めぬ前に頂くとしよう。いただきます。」

 

 一口啜ると、熱い液体が喉を通り、冷え切った内臓に染み渡っていく。

 滋味深い野菜の甘み。それは、帝都での豪華な晩餐よりも、エルフの森の不思議な果実よりも、ずっと僕の心に深く染み込む味だった。

 足元には、すっかり大人しくなった亜人の少女が、ルイーズによる「教育」の結果、借りてきた猫のように丸まって座っている。

 

「アグリム、ダイジ。……、トらない。ヤクソク。」

 

 青アザでもできたのか、頬をさすりながら片言で誓いを立てる彼女の頭を、僕はそっと撫でた。

 焚き火の爆ぜる音だけが、静かな夜の空気に溶けていく。

 

 僕は改めて、自分の手に刻まれた傷跡を見つめた。

 帝国での一年。そして、帰郷の旅路。

 それは僕に多くの傷と、そして「守り抜く」という実感を刻み込んだ。

 だが、この地の荒廃は、僕がその役目を果たせなかった証でもある。

 

「……明日から、忙しくなるな。」

 

 誰にともなく、僕は呟いた。

 荒れた畑、詰まった水路。そして、それでも僕を信じて待ってくれた民。

 やるべきことは、山のようにある。

 けれど、もう迷いはない。

 傷だらけのこの身体で、かつてのように泥にまみれよう。

 失った時間を嘆くのではなく、これから来る収穫の時を信じて、この大地を一から作り変えるんだ。

 この地を、もう一度――『再生』させる。

 揺れる炎を映すスープを飲み干し、僕はゆっくりと、だが確かな力強さを持って立ち上がった。

 

 

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。