姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

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お待たせしました。
ルイーズ視点です。
多分、解釈不一致が起きるかもしれません....。
すまん。


第33話(閑話):猛き戦乙女の憂鬱

 冬を目前に控えたブレスダンの朝は、硝子細工のように繊細で、冷徹だ。

 窓の隙間から忍び込んだ冷気が、寝台の上の私、ルイーズ・ロンズデールの頬を撫でる。

 私は無意識に身震いし、薄い瞼を持ち上げた。

 

「……ん。」

 

 視界に広がるのは、マドゥワス家の客室の天井。

 まだ薄暗く、窓の外からは、鳥のさえずりすら聞こえてこない。

 私は枕元に置いてあった懐中時計を手に取り、文字盤を確認した。

 時刻は午前四時半。

 一般的な貴族、とりわけ「男性」であれば、夢の住人となっている時間帯だ。だが、私にとっては活動開始の合図である。

 

「……よし。今日こそは。」

 

 私は気合を入れ、温かい毛布を跳ね除けて寝台から降りた。

 冷気が肌を刺すが、鍛え上げた肉体には心地よい刺激に過ぎない。

 洗面台に向かい、冷たい水で顔を洗う。水滴の滴る顔を上げ、鏡の中に映る自分と対峙した。

 そこに映るのは、この世界において「強さ」と「美」を体現したような女だ。

 

 色素の薄い、淡い黄金の長髪。

 今は寝起きで乱れているが、丁寧に櫛を通せば、朝日を浴びた麦穂のように輝く自慢の髪だ。

 瞳は、曇りのない碧眼。

 そして、何より目を引くのはその体躯だ。

 身長はもうすぐ180センチに届こうかという長身。ヒュム族の女性としても大柄な部類に入るが、決して無骨ではない。

 厳しい鍛錬によって余分な脂肪は削ぎ落とされ、鎧のように引き締まった筋肉が全身を覆っている。けれど、女性特有の曲線は失われていない。

 

 特に、大剣を振るうために発達した広背筋からくびれたウエスト、そしてヒップへと続くラインは、我ながら悪くないと思う。胸部も……まあ、激しい動きの邪魔にならない程度には豊満で、しっかりとした質量を主張している。

 

「……悪くはない、はずだ。」

 

 私は鏡の中の自分に向かって、確認するように呟いた。

 世の男性たちは、私のこの姿を見て「美しい」「頼もしい」と頬を染める。だが、私がその感想を求めている相手は、世界でただ一人。

 エヴァン・クロード・マドゥワス。

 私の幼馴染であり、主君であり、そして私の心臓を握っている唯一の男性。

 

「エヴ様は……もう少し、こう、儚げな方がお好みなのだろうか……?」

 

 私は自分の力こぶをつつき、小さく溜息をついた。

 私には、守ってあげたくなるような儚さなど微塵もない。あるのは、敵を物理的に両断する破壊力だけだ。

 彼は私のことを「頼もしい」と言ってくださる。

 それは騎士として最高の名誉だ。

 

 だが、時折不安になる。

 彼は、私を「異性」として見てくれているのだろうか? それとも、ただの「便利な筋肉の塊その1」としか思っていないのではないか?

 

「……いけない。朝から弱気になるとは。」

 

 私はブンブンと首を振り、弱音を物理的に振り払った。

 今日は、ただの騎士としてではなく、一人の「献身的な女性」として振る舞うと決めたのだ。

 私はいつもの軍装や鎧ではなく、動きやすい平服を選んだ。

 深い藍色のチュニックに、革のベルト。体のラインが出る服装だが、これなら家事手伝いもこなせるし、何よりエヴ様に「家庭的な一面」をアピールできる。

 

「よし。……エヴ様が目覚める前に、洗顔のお湯と、着替えの準備を。」

 

 私は鏡に向かってニヤリと笑みを作り、部屋を飛び出した。

 ここ数日、エヴ様は領地再生のために無理をなさっている。泥にまみれ、民を鼓舞し、先頭に立って働いている。

 その疲労は計り知れないはずだ。

 だからこそ、今朝くらいはゆっくりと寝ていてほしい。そして、目覚めた時には私が全てを完璧に整え、「おはようございます、エヴ様。さあ、お顔を拭いてくださいな」と優しく微笑むのだ。

 

 完璧だ。完璧な「できる部下」の作戦だ。

 私は足音を忍ばせ、エヴ様の寝室がある東棟へと向かう。廊下は静まり返っている。使用人たちもまだ起きていない様だ。

 

 フッ……勝った。

 今日の「一番乗り」は頂いた。

 そう確信し、エヴ様の部屋の前に到達した、その時だった。

 

 ――ブンッ。

 

 微かな、しかし空気を鋭く切り裂く音が、開け放たれた中庭の方から聞こえてきた。

 風の音ではない。

 もっと重く、鋭利な、何かが振るわれる音。

 

「……まさか。」

 

 嫌な予感がして、私は窓から中庭を覗き込んだ。

 そして、言葉を失った。

 朝霧が立ち込める薄暗い中庭に、一人の男がいた。

 

 エヴァン様だ。

 彼もまた平服姿で、手には鍛錬用の木剣が握られている。両足をしっかりと大地に根付かせ、背筋を伸ばし、無心に木剣を振り下ろす。

 

 ――ブンッ。

 ――ブンッ。

 

 正確無比な素振り。

 一振りごとに、彼の背中の筋肉――僧帽筋から広背筋にかけてのラインが、生き物のように躍動する。汗が玉となって肌を滑り落ち、冷たい空気に触れて白い湯気となって立ち上っていた。

 

「……嘘でしょう?」

 

 私は窓枠に手をつき、愕然と呟いた。

 今はまだ、日が昇る前だ。

 昨日は日没まで農作業をし、夜遅くまで書類仕事をしていたはずなのに。

 この世界の男性なら、まだ夢の中で微睡んでいる時間だ。いや、女性の騎士でさえ、昨日の疲労があれば泥のように眠っているだろう。

 なのに、彼は起きている。

 誰に見せるわけでもなく、誰に命じられたわけでもなく。

 ただ己の肉体と精神を研ぎ澄ませるためだけに、氷点下の寒さの中で汗を流している。

 

「……あぁ、やっぱり。……敵わないなぁ。」

 

 悔しさと、それ以上の愛おしさが、胸の奥から込み上げてくる。

 私が「早く起きてお世話をしよう」なんて浮ついたことを考えている間に、彼は遥か先を見据えて、孤独な戦いを続けているのだ。

 その姿は、異質だ。

 この世界の常識からすれば、「男がそんなことをして何になる」「肌を粗末にするな」と笑われるかもしれない。

 

 だが、私には分かる。

 あの背中こそが、ブレスダンを支える柱なのだと。

 あの傷だらけの、汗にまみれた肉体こそが、世界で一番美しく、尊いものなのだと。

 私はしばらくの間、時が経つのも忘れて、その光景に見入ってしまった。

 木剣が空を切る音だけが、静寂な朝のリズムを刻んでいる。

 それはまるで、私の鼓動とシンクロしているようで……。

 

「……ふぅ。」

 

 千回、あるいはそれ以上だろうか。

 エヴ様が動きを止め、深く長い息を吐いた。

 白い呼気が、朝霧の中に溶けていく。

 彼は木剣を下ろし、首筋に浮かんだ汗を乱暴に手で拭った。

 終わった。

 鍛錬が終わったのだ。

 ということは……。

 

「……チャンス。」

 

 私の脳内で、作戦変更の合図が鳴り響いた。

 「寝起きのお世話」作戦は失敗した。だが、新たな、そしてより魅力的なミッションが発生したのだ。

 汗だくで、薄着の主君。

 彼がこれからすることといえば、一つしかない。

 汗を拭き、着替えることだ。

 私は窓から離れ、廊下を走った。

 足音を忍ばせつつも、その速度は戦場のそれだ。

 リネン室から清潔なタオルを奪取し、エヴ様の部屋から着替え一式を確保する。

 

 待っていてください、エヴ様。

 貴方の忠実なる騎士が、今すぐその汗をお拭きに参りますから!

 

 

 ☆

 

 

 私は呼吸を整え、足音を殺して中庭へと足を踏み入れた。手には、最高級の肌触りを誇るタオルと、私が厳選した着替え一式。

 完璧だ。準備に抜かりはない。

 

「……ふぅ。」

 

 中庭の真ん中で、エヴ様が木剣を下ろして息を吐いていた。

 朝霧の中に立つその姿は、神々しいという他ない。

 肩で息をするたびに、広背筋が波打ち、大胸筋が収縮する。肌を滑り落ちる汗の雫が、朝日を浴びて宝石のように輝いていた。

 

「……おはようございます、エヴ様。」

 

 私は努めて冷静な、騎士としての声を張り上げた。

 あくまで、「たまたま早起きして、主君の鍛錬に気づいた優秀な副団長」を演じるのだ。

 

「ん? ……ああ、ルイーズか。おはよう。」

 

 エヴ様が振り返る。

 その瞬間、ムワッとした熱気と、強烈な「匂い」が風に乗って私の鼻腔を直撃した。

 

「ッ……!!」

 

 私は危うく膝から崩れ落ちそうになるのを、鋼の理性を総動員して堪えた。

 なんという香りだろうか。

 鉄と土、そして雄々しい獣のような体臭。

 世の軟弱な男たちが振りまく香水の、人工的で甘ったるい香りとは次元が違う。これは生命の、そして闘争の香りだ。

 脳髄が痺れる。肺の奥まで彼の粒子で満たしたいという、危険な衝動が駆け巡る。

 

……落ち着け、私。ここで鼻血を出せば不審者だ。あくまでクールに、スマートに……!

 

「随分と、早起きなのですね。……鍛錬、お疲れ様でございました。」

 

 私は一歩踏み出し、捧げ物をするようにタオルを差し出した。

 

「ああ、ありがとう。……目が覚めちゃってね。体が鈍るといけないから。」

 

 エヴ様はタオルを受け取り、無造作に顔と首筋を拭った。

 ゴシゴシと拭かれるたびに、彼の肌が微かに赤らむ。その無防備な仕草だけで、白飯が三杯はいける。

 

「お背中、お拭きいたしましょうか?」

 

 口が勝手に動いた。

 勤勉な主人をお世話しつつ、あわよくばお触りもイケる最高の作戦だ。我ながら天才か?

  

「え? いや、大丈夫だよ。タオルで拭くだけで十分さ。」

「そうですか……では、お着替えを。汗が冷えては風邪を召されます。」

 

 そうね。大丈夫。これくらい想定範囲内だ。 

 私は第二の矢を放つ。

 手に持っていた着替えを広げ、彼に差し出した。

 それは、薄手のリネンシャツだ。

 ただし、普通のシャツではない。私が夜なべをして、胸元のボタンを三つほど弾き飛ばし……じゃなくて、意図的に広く開くように加工した特注品である。

 

「あれ? これ、いつも着てるやつより襟ぐりが広くないか?」

 

 流石はエヴ様、鋭い。

 だが、想定問答は済んでいる。

 

「はい。これは『クールダウン用』の最新モデルです。鍛錬直後の火照った体を冷やすために、通気性を極限まで高めてあるのです。」

「へぇ、そうなんだ。……便利なものがあるんだね。」

 

 チョロい。心配になるほどに。

 私の主君は、騎士道には詳しいが、ファッションには疎い。

 彼は疑うこともなく袖を通し……。

 

 ムッチリ♡ 

 嗚呼、計算通りの光景が完成した。

 広く開いた胸元からは、盛り上がった大胸筋の谷間と、鎖骨の深い窪みが惜しげもなく晒されている。

 生地が薄いため、汗で張り付いた部分から腹筋の凹凸が透けて見えるのもポイントが高い。

 野性味と色気、そして禁欲的な騎士の雰囲気が同居した、奇跡のコーディネート。

 あ〜もうなんでそんなにムチムチしてるの?

 何その大胸筋は。雄っぱいデカすぎでしょ。 

 

「……どうかな? なんか、スースーするけど。」

「完璧です。実にお似合いですよ、エヴ様。……その、男らしさが際立っていて、とても……素晴らしいです。」

 

 私は親指を立てて絶賛した。

 視線は胸元の「絶対領域」に釘付けだ。

 ああ、あの谷間に指を滑らせたい。滴る汗を指で救って、そのまま舐め……いけない、理性が蒸発する。

 

「そう? ……まあ、ルイーズが言うなら間違いないか。」

 

 エヴ様は照れくさそうに頭を掻き、ボタンを留めようとした。

 だが、私が細工したせいで、ボタンホールは縫い潰されている。

 

「あれ? 留まらないな。」

「ああっ、貸してください! 私がやります!」

 

 私はすかさず距離を詰め、彼に密着した。

 私の長身が、彼の視線を遮る。

 目の前には、愛しい主君の胸板。至近距離で嗅ぐフェロモンに、頭がクラクラする。

 

「……そこは、そのままで良いのです。換気用ですから。」

「そうなの? ……まあ、屋敷の中だし、いいか。」

 

 私は甲斐甲斐しく襟を整えるふりをして、さりげなく彼の大胸筋に指先を触れさせた。

 硬い。熱い。

 心臓の鼓動が、指先を通じて伝わってくる。

 これだ。この「生」の実感こそが、私の生きる糧なのだ。

 

「……ふぅー……。」

 

 至福の溜息が漏れそうになった、その時だった。

 

「――早朝から、何を盛っているのですか。この発情ゴリラ。」

 

 絶対零度の声が、背後から突き刺さった。

 ビクリと肩を震わせ、恐る恐る振り返る。

 そこには、腕を組み、蔑みと呆れをない交ぜにした表情で仁王立ちするネリーがいた。

 彼女はいつもの軍服姿だが、その背後には歴戦の猛者のようなオーラが見える気がする。

 

「……ネ、ネリー。おはよう。……貴様こそ、早いな。」

「おはようございます。……貴女が猫のような足取りで部屋を抜け出したので、何か悪巧みをしているかと思いましてね。」

 

 ネリーは私の横を通り過ぎ、エヴ様に向かって優雅に一礼した。

 

「おはようございます、エヴ様。……また、随分と『風通しの良い』お召し物ですね。」

「あ、おはようネリー。……これ、ルイーズが選んでくれたんだ。最新の流行らしいよ。」

 

 エヴ様が無邪気に胸元を開いて見せる。

 ネリーの視線が、一瞬だけ鋭くその谷間を捉え、ピクリと眉を動かした。

 ……見たな。貴様も見たな。

 やはり、同志だ。

 

「……なるほど。ルイーズの『趣味』が爆発したわけですね。」

 

 ネリーは私に向き直り、冷ややかな視線を送ってきた。

 

「副団長。主君の身嗜みを整えるのは良い心がけですが、私欲を混ぜるのは感心しませんね。……そのだらしない顔、鏡で見てきなさい。」

「なっ……! だ、誰がだらしない顔だ! 私はただ、主君の健康管理を……!」

「鼻の下が伸びていますよ。あと、指先がピクピクしています。……全く、油断も隙もありませんね。」

 

 ネリーは呆れたように肩を竦めると、エヴ様に向かって言った。

 

「エヴ様。朝食の準備が整っております。……その格好では冷えますので、上着をお持ちしました。どうぞ。」

 

 彼女が差し出したのは、厚手の上着だ。

 それを着れば、私の苦心作である「絶対領域」は完全に隠されてしまう。

 

 ……貴様ァァァ……! 私の芸術を……!

 

 私が目で抗議すると、ネリーはフンと鼻を鳴らし、小声で囁いた。

「……独り占めは重罪、と言ったのは貴女でしょう? ……これ以上見せびらかして、使用人たちを卒倒させる気ですか?」

「……っ。」

 

 正論だ。

 悔しいが、彼女の言う通りだ。この姿を他の女……使用人やアグニに見せるのは、私にとっても損失である。

 こう言うのは一人で楽しむから良いのであって、決して周りの女共に見せびらかしたいわけではないのだ。

  

「……分かった。貸せ。」

 

 私はネリーから上着をひったくり、不承不承エヴ様に羽織らせた。

 貴重な筋肉タイムは終了だ。

 

「ありがとう、二人とも。……じゃあ、行こうか。今日も忙しくなるぞ。」

 

 エヴ様は爽やかに笑い、食堂へと歩き出した。

 その後ろ姿を見送りながら、私はネリーと並んで歩き出す。

 

「……抜け駆けは失敗だったようですね。」

「うるさい。……次は、負けん。」

「はいはい。……でも、少しだけ感謝しますよ。」

「あ?」

「あの胸元の開き具合……中々の『絶景』でしたから。」

 

 ネリーが、誰も見ていないのを確認して、ニヤリと笑った。

 この女。

 やはり、中身は私と同類だ。

 私たちは顔を見合わせ、共犯者の笑みを浮かべた。

 今日も今日とて、私たちの「戦い」は続くのだ。 

 

 

 ☆

 

 

 朝食を終え、エヴ様は再び作業着に着替えて屋敷を出た。

 向かう先は、昨日開墾を始めた裏手の荒地だ。

 アグニはすでに「ミミズ! ミミズ!」と叫びながら先走っており、ネリーは屋敷に残ってガーベラ殿と物資の管理を行うとのこと。

 つまり、ここから先はエヴ様と私の、二人きりの時間ということになる。

 ……アグニはノーカウントだろう。

 

「……ふふ。」

 

 私は愛剣ツヴァイハンダーを背負い、主君の斜め後ろ、護衛として最適な位置をキープしながら、緩みそうになる頬を必死に引き締めた。

 先ほどの「着替え作戦」はネリーの介入により不完全燃焼に終わったが、あの胸元の絶景はしっかりと網膜に焼き付けた。あの残像だけで、向こう一週間は飯が美味いだろう。

 

「ルイーズ。」

 

 不意に、前を歩くエヴ様が足を止めた。

 

「は、はいッ! 敵ですか!?」

 

 私は反射的に剣の柄に手をかけ、周囲を警戒した。

 だが、殺気はない。

 エヴ様は振り返り、朝日を背にして穏やかに微笑んでいた。

 

「いや、違うよ。……ただ、少し思ったんだ。」

 

 彼は私の顔……ではなく、私の全身を、まじまじと見つめた。

 その視線に、心臓が早鐘を打つ。

 な、何だ? 今日の私は平服に軽鎧を合わせた、いつものスタイルだ。平時なので流石にフルプレートメイルは着ていないが……どこかおかしなところでもあっただろうか。

 髪が乱れている? それとも、鼻の下が伸びていたか?

 

「……やっぱり、ルイーズにはその大剣が似合うな。」

「えっ?」

 

 予想外の言葉に、思考が停止する。

 

「この国じゃ、女性が剣を持つのは当たり前だけど……。ルイーズがそのツヴァイハンダーを背負って立っている姿は、なんていうか、格別なんだ。」

 

 エヴ様は一歩近づき、私の髪に視線を移した。

 朝日が差し込み、私のペールゴールドの髪を透かしている。

 

「その薄い金色の髪が、朝日に透けてすごく綺麗だ。……凛としていて、強くて、本当に格好いいよ。」

 

 ――ドクン。

 心臓が、肋骨を内側から蹴り破りそうなほど大きく跳ねた。

 綺麗。

 格好いい。

 似合っている。

 その言葉の弾丸が、私の胸の中枢を貫き、脳内を幸福物質で満たしていく。

 世の男たちが捧げる「お美しいですね」という薄っぺらい賛辞とはわけが違う。

 私がコンプレックスにすら感じていた、この大柄な体躯と、武骨な大剣。それらを全てひっくるめて、エヴ様は「格別だ」と言ってくださったのだ。

 私の理想とする「儚さ」なんて、もうどうでもいい。

 彼が肯定してくれるなら、私はこの筋肉も、この身長も、一生誇りに思える。

 

「……っ!!」

 

 私は湧き上がる歓喜の絶叫を必死に喉の奥で押し殺し、努めてクールな「副団長」の仮面を貼り付けた。

 だが、頬がマグマのように熱くなるのは止められない。

 

「こ、光栄です……! この身も、この剣も、全てはエヴ様をお守りするためにありますから……!」

 

 声が裏返らなかった自分を褒めてやりたい。

 エヴ様は「あはは、朝から堅苦しいなぁ」と無邪気に笑い、再び歩き出した。

 

「さあ、行こうか。今日もアグニが張り切ってるし、負けてられないな。」

 

 彼は軽く手を振り、先行していたアグニの方へと駆けていく。

 その後ろ姿を見送りながら、私はその場に立ち尽くしていた。

 ……無理だ。

 もう、限界だ。

 あんな無防備な笑顔で、あんな殺し文句を投下されて、正気を保っていられるわけがない。

 胸が苦しい。尊さが飽和して、物理的に何かが爆発しそうだ。

 

「……すぅー……はぁー……。」

 

 深呼吸をする。

 だが、高鳴る鼓動は鎮まらない。むしろ、体中の血液が沸騰して、有り余るエネルギーが指先まで充満していく。

 このままでは、奇声を上げてのたうち回る不審者になってしまう。

 どこかに、この行き場のない情熱をぶつけなければ。

 

 ふと、視界の端に、立ち枯れて半分朽ちかけた太い古木が入った。

 ちょうどいい。

 開墾の邪魔になりそうだった木だ。

 私はゆらりと近づき、愛剣……ではなく、己の拳を握りしめた。

 全身のバネを、右腕一点に集中させる。

 

「……好きだァァァァァッ!!!」

 

 音にならない絶叫を心の中で上げながら、私は渾身の正拳突きを古木に叩き込む。

 

 ――ドォォォォォォォンッ!!!

 落雷のような轟音が響き渡り、大人が三人で抱えるほどの太さがあった古木が、私の拳が触れた一点から粉々に粉砕され、木っ端微塵になって弾け飛ぶ。

 衝撃波が周囲の草を薙ぎ倒し、パラパラと木屑の雨が降った。

 

「……ふぅ。」

 

 私は拳についた木屑を払い、前髪をかき上げた。

 少しだけ、スッキリした。

 これでまた、冷静な副団長として振る舞えるだろう。

 

「……相変わらず、加減というものを知らないのですね、貴女は。」

 

 背後から、呆れ果てた声が聞こえた。

 振り返ると、屋敷の方からネリーが歩いてきていた。手には書類を抱えているが、その視線は粉砕された古木の残骸に向けられている。

 

「……うるさい。開墾の手伝いをしただけだ。」

「素手で木を爆破することがですか? ……まあ、エヴ様から何か『燃料』を投下されたことは想像がつきますが。」

 

 ネリーは、鋭い瞳で私を見透かすように言った。

 普段のおっとりとした目つきはどこへやら。

 彼女にはお見通しらしい。

 だが、今の私は無敵だ。エヴ様の言葉という最強のバフがかかっている。

 王国や帝国のへなちょこ魔術師共の強化魔法とは比べ物にならない強力なバフである。

 

「ふん。……貴様には分かるまい、この高揚感は。」

「はいはい。……ですが、あまり暴れてエヴ様を怖がらせないように。後片付けをする身にもなってください。」

 

 ネリーは溜息をつきつつも、どこか楽しげに口元を緩めた。

 前方では、轟音に驚いたエヴ様が「えっ、何!? 雷!?」とキョロキョロしているのが見える。

 その反応すらも愛おしい。

 私は背中のツヴァイハンダーを担ぎ直し、愛しい主君の元へと走り出した。

 

「お待たせしました、エヴ様! 今行きます!」

 

 私の髪が、朝日の中で黄金の軌跡を描く。

 彼が綺麗だと言ってくれたこの髪をなびかせ、私は今日も彼の盾となり、剣となる。

 そしていつか、その心臓を射止めるその日まで。

 マドゥワス領ブレスダンの騒がしい一日は、物理的な破壊音と共に、今日も幕を開けたのだった。

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
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