姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

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お知らせがございます。
活動報告を御一読頂けますと幸いです。

バルバラ、だいちゅきです。
殿下とネリーの次にちゅき!!!


第36話:赤錆の女傑

 野盗連合との激戦から一夜明けた、マドゥワス領の朝。

 普段ならば、小鳥のさえずりと共に目覚める爽やかな時間帯のはずだが、今朝の屋敷は、まるで戦場のような喧騒に包まれていた。

 

「おいコラ! そこの筋肉ダルマ! 廊下で寝るんじゃないよ! 邪魔だ!」

「あぁん? 二日酔いで頭が痛ぇんだよ……もう少し寝かせろババア!」

「……ババア? 良い度胸ですね。その減らず口、二度と利けぬよう縫い合わせて差し上げましょうか?」

「ひぃぃッ!? す、すんません! 起きます! すぐ起きますゥ!!」

 

 ドカバキッ! という鈍い音と、女たちの情けない悲鳴。そして、それを統率するガーベラの凛としたドスの効いた声。

 僕は寝台の上で、重たい瞼を擦りながら天井を仰いだ。

 

「……夢じゃないよな、昨日のこと。」

 

 二百の野盗を撃退し、ダンテ市を守り抜いた。それはいい。

 問題は、その代償として、百名の荒くれ者たち――『赤錆の風』傭兵団を、この街に受け入れてしまったことだ。

 宿屋は満員、倉庫も半分は物資で埋まっている。結果、溢れた傭兵たちは屋敷の納屋や、酷い者は廊下の隅で雑魚寝をしている有様だ。

 

「……頭が痛いな。」

 

 物理的な頭痛ではない。今後の食い扶持と、この無秩序な集団をどう管理するかという、領主代行としての悩みの種だ。

 僕はため息をつきつつ、ベッドから降りて着替えを済ませた。

 まずは状況を確認しなければ。

 顔を洗い、部屋を出ようとドアノブに手をかけた、その瞬間だった。

 

 ――ガチャリ。

 扉の鍵を開けた途端、向こう側から強烈な気配を感じて、僕は思わず足を止めた。

 殺気ではない。

 もっとこう、濃密な……色気と、冷気が入り混じったような、奇妙な圧迫感。

 恐る恐る扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「よう、旦那。お目覚めかい?」

 

 扉のすぐ目の前。

 腕を組み、壁に寄りかかってニカっと笑っているのは、燃えるような赤髪の女傑――バルバラだった。

 彼女は寝起きなのか、いつもの軽装鎧ではなく、薄手のシャツ一枚という無防備すぎる姿だ。はだけた胸元からは、豊満な谷間と健康的な肌が惜しげもなく晒されている。

 

「バ、バルバラ!? なんで君がここに……。」

「なんでって、愛しの旦那を起こしに来たに決まってるだろ? ……さあ、朝の挨拶代わりのキスを――」

 

 彼女が身を乗り出し、僕の顔に唇を寄せようとした、その時。

 スッ。

 音もなく、彼女と僕の間に「壁」が出現した。

 黒と白の、完璧なコントラストを描くメイド服。

 ガーベラだ。

 彼女はバルバラの唇が僕に触れる寸前、絶妙なタイミングで割って入り、盆に乗せた熱いおしぼりを僕の顔に押し付けた。

 

「おはようございます、エヴァン様。……お顔色が優れませんね。まずは熱いタオルでサッパリとなさいませ。」

「むぐっ!?」

 

 視界が真っ白になる。

 蒸しタオルの熱さと、ガーベラの容赦ない拭き心地に、僕はされるがままになるしかない。

 

「チッ……。相変わらず、隙のないババアだねぇ。」

 

 バルバラが不満げに舌打ちをする音が聞こえた。

 

「お褒めに預かり光栄ですわ、バルバラ殿。……ですが、当家の主人の寝室は、野良猫が勝手に入り込んで良い場所ではございません。節度というものをお持ちください。」

 

 タオル越しに、ガーベラが絶対零度の微笑みを向けているのが分かる。

 対するバルバラも、負けじと不敵な笑みを浮かべているようだ。

 

「堅いこと言うなよ。アタシらはもう、運命共同体だろ? ……それに、昨日の戦いぶりを見ただろう? アタシは、コイツの隣に立つ資格がある女さ。」

「ええ、武人としては。……ですが、マドゥワス家の『敷居』を跨ぐには、いささか品位が足りませんね。まずは服のボタンを留めることから覚えてはいかがです?」

 

 バチバチと、火花が散る音が聞こえるようだ。

 老練な執事と、最強の傭兵。

 この二人が睨み合うと、物理的な戦闘力とは別の次元で、空間が歪む気がする。

 

「……ふぅ。ありがとう、ばあや。目が覚めたよ。」

 

 僕はタオルを返し、何食わぬ顔で会話に割って入った。これ以上放置すると、廊下が戦場になりかねない。

 

「おはよう、バルバラ。……昨日はよく眠れたかい?」

「ああ! 最高の寝心地だったよ。……夢にあんたが出てきたくらいにはね。」

 

 バルバラはガーベラの牽制など意に介さず、僕の腕にガシッと抱きついた。

 柔らかく、そして弾力のある感触が二の腕に押し当てられる。オッホ……♡

 近い。そして匂い立つようなフェロモンが濃い。

 

「ちょ、バルバラ……!」

「いいじゃないか、減るもんじゃなし。……さあ、食堂へ行こうぜ、旦那。腹が減って戦はできねぇってな!」

 

 彼女は強引に僕を引っ張り、廊下を歩き出す。

 完全に、この家の女主人気取りだ。

 ガーベラが背後で「……やれやれ」と溜息をつきつつも、鋭い視線で監視を続けているのを感じる。

 

「ネエチャン! アグリム! オハヨウ!」

 

 階段を降りたところで、灰色の弾丸が飛び込んできた。

 アグニだ。

 彼女は僕の足元にタックルを決めると、すぐにバルバラの方へ向き直り、尻尾をブンブンと振った。

 

「ネエチャン! メシ! ニク、クレ!」

「おう、アグニか! 元気だねぇ! ……ほらよ、昨日の残りの干し肉だ。取っておいてやったぞ。」

 

 バルバラが懐から干し肉を取り出し、放り投げる。

 アグニはそれを空中でパクっとキャッチし、嬉しそうに頬張った。

 

「ウマイ! ネエチャン、スキ! ツヨイ! イイニオイ!」

「ハハハッ! 正直な奴は嫌いじゃないよ。……どうだい旦那、アタシとこのチビ、いいコンビだろ? 親子みたいに見えなくもないねぇ?」

 

 バルバラがアグニの頭をワシワシと撫でる。

 アグニも「ガルル……」と喉を鳴らし、満更でもなさそうだ。

 確かに、野性味という意味では似た者同士かもしれない。アグニにとってバルバラは、「強くて、餌をくれる、いいボス」という認識なのだろう。

 

「……親子、ですか。笑えない冗談ですね。」

 

 食堂の入り口から、冷え切った声が響いた。

 そこに立っていたのは、腕を組み、氷のような視線を送るネリーと、ツヴァイハンダーの柄に手をかけたルイーズだった。

 

「おはようございます、エヴ様。……随分と、朝からお熱いことで。」

 

 ルイーズの笑顔が引きつっている。

 その背後には、修羅のようなオーラが立ち上っていた。

 

「あの泥棒猫……! 昨日の今日で、もうエヴ様の腕に絡みつくとは……!」

「落ち着きなさい、ルイーズ。……物理的に排除するのは最終手段です。今はまだ、彼女たちの戦力が必要ですから……。いつか殺す……。」

 

 ネリーが小声でルイーズを諌めているが、彼女自身も普段のおっとりとした目つきを尖らせ、バルバラを射殺さんばかりに睨んでいる。

 

「あらァ? 怖い顔した小姑たちが来たねぇ。」

 

 ケケケ。と、バルバラは余裕の笑みで僕の腕を抱きしめ直した。

 挑発だ。完全に遊んでいる。

 間に立たされる僕の身にもなって欲しい。

 朝イチから胃が痛いよ……。

 

「安心しなよ。アタシは独り占めする気はないさ。……まあ、旦那がアタシを選んじまったら、その時は仕方ないけどね?」

「……言わせておけば!」

 

 ルイーズが一歩踏み出す。

 一触即発。

 昨日の共闘の熱い空気はどこへやら、マドゥワス屋敷は今、別の意味で危険な「戦場」と化していた。

 

「み、みんな! 朝食にしよう! 腹が減ってはなんとやらだ!」

 

 僕は冷や汗を流しながら、強引にその場を収めた。

 これからの復興、そして百名の傭兵の管理。

 前途多難な未来を予感させる、騒がしすぎる朝の始まりだった。

 

 

 ☆

 

 

 朝食のドタバタ、主にアグニの肉争奪戦と、傭兵たちの二日酔い介護が一段落した頃。

 僕は屋敷の喧騒から逃れるように、裏庭に面したテラスへと出ていた。

 冷たい風が火照った頭を冷やしてくれる。

 屋敷の中では、ガーベラが傭兵たちの寝床割り当てに奔走し、ルイーズとネリーが物資の管理に目を光らせている。

 僕がそこにいても、かえって彼女たちに「エヴ様は座っていてください!」と怒られるのがオチだ。

 色々とやらなきゃいけないことは山積みだが、戦闘の翌日なんだ。少しくらい羽を伸ばしたい。

  

「……ふぅ。嵐のような朝だったな。」

 

 手摺に積もった雪を払い、溜息をつく。

 これからどうなることやら。

 そんな不安と、それでも頼もしい戦力が手に入った安堵がない交ぜになっていると、頭上から声が降ってきた。

 

「よう、旦那。ここなら静かだねぇ。」

 

 見上げれば、テラスの上の屋根に、バルバラが腰掛けていた。

 彼女は片手に酒瓶、もう片手に杯を持ち、雪景色を肴に優雅に(?)昼酒を決め込んでいる。

 

「バルバラ? 君、そんなところで……寒くないのか?」

「ハッ! この程度の冷気、酒で散らしちまえばいいのさ。……ほら、あんたも上がりな。いい眺めだぞ。」

 

 彼女が手招きする。

 断る理由もない。僕は身体強化を使って軽く跳躍し、彼女の隣へと降り立った。

 屋根の上からは、雪に覆われたダンテ市の街並みと、遠く広がる白い平原が一望できた。昨日の戦場となった場所も、今はただ静かに白く塗りつぶされている。

 

「……飲むかい?」

 

 バルバラが杯を差し出してくる。中身は琥珀色の蒸留酒だ。香りで分かる、度数が高いやつだ。

 

「少しだけ頂くよ。」

 

 僕は杯を受け取り、一口だけ口に含んだ。

 喉が焼けるような熱さ。だが、不思議と嫌な感じはしない。

 

「……悪くないな。」

「だろ? 帝国の倉庫からくすねてきた上等な酒さ。」

 

 バルバラはニカっと笑い、自分の分の酒をラッパ飲みした。

 豪快だ。

 横顔を見ると、彼女の白い肌には、いくつかの古傷が刻まれているのが見えた。派手な髪色と露出度の高い鎧に隠れがちだが、彼女もまた、死線を潜り抜けてきた戦士なのだ。

 

「……なぁ、バルバラ。」

 

 僕は昨日聞けなかった疑問を問いかけた。

 

「君は、どうしてそこまでしたんだ?」

「あん?」

「百人の傭兵団だぞ。維持するだけでも莫大な金がかかる。それを、『結納品』なんて冗談のために……。」

 

 傭兵は金で動く。

 だが、彼女が帝国を見限ってまでここまで来た理由は、金だけではない気がしていた。

 僕の問いに、バルバラは酒瓶を置き、少しだけ遠い目をした。

 

「……冗談じゃないさ。本気だよ。」

 

 彼女は空を見上げ、独り言のように語り始めた。

 

「アタシはずっと、一人で戦ってきた。……斧を振り回し、強気な口調で、舐められないように虚勢を張ってな。傭兵の世界じゃ、弱みを見せた瞬間、食い物にされるからね。」

 

 この世界では、女性が戦うことは普通だ。だが、荒くれ者の傭兵たちを束ねるとなれば話は別だ。

 そこには、常人には計り知れない苦労と、孤独があったはずだ。

 

「強い男が好きだって言ったろ? ……あれは半分本当で、半分嘘さ。アタシが欲しかったのは、ただ強いだけの男じゃない」

 

 彼女は視線を戻し、僕を真っ直ぐに見据えた。

 

「シルバッツの森で、あんたを見た時……震えたよ。男のくせに、誰よりも傷だらけで。それでいて、誰よりも誇り高く立っていた。」

 

 彼女の大きな手が、僕の頬に触れる。

 その指先は意外なほど熱く、そして硬いタコに覆われていた。剣を握り続けてきた者の手だ。

 

「あんたは、アタシと同じだ。……『常識』ってやつと戦ってる。男は守られるもの? 女は強くあるべき? ……そんなくだらない枠組みの中で、あんたは一人で牙を研いでいた。」

「……バルバラ。」

「だから、思ったのさ。……この男の隣に立つのなら、アタシも半端な覚悟じゃ釣り合わないってな。」

 

 彼女は自嘲気味に笑った。

 

「ただの女として口説いたって、あんたは見向きもしないだろう? だから、アタシは『力』を持ってきた。あんたが背負ってる重荷を、半分持ってやれるだけの力をな。」

 

 百人の部下。

 それは彼女が、僕のために――僕の隣に立つ資格を得るために、必死でかき集め、鍛え上げ、維持してきた「愛の証」だったのだ。

 

 胸が熱くなる。

 彼女のアプローチは強引で、常識外れだ。

 けれど、その根底にあるのは、不器用なほど純粋な、一人の「将」としての敬意と情熱だった。

 

「……参ったな。」

 

 僕は苦笑し、残りの酒を一気に飲み干した。

 いや、本当に参ったな。ここまで真っ直ぐ求婚される事などこれまで無かったのだ。

 アンドレア殿下のアレは『竜の涙』とか言う媚薬だかなんだか分からん酒のせいだろうし、エルフ共のアレはアレ過ぎてアレだった。

 騎士団のみんなからも()()()()()で見られていることは自覚しているけれど、それは男と無縁の生活を強いてしまっているからだろう。

 オタサーの姫状態なのだ、僕は。

 だから、本気で僕を見て好意を伝えてくれる相手に戸惑っている。

 まぁそれはそれとして……。

 

「君は、強いよ。……武力だけじゃない。その心意気が、誰よりも強い。」

「ハッ! 口説いてるのかい? 色男。」

「事実を言っただけさ。……ありがとう、バルバラ。君が来てくれて、本当によかった。」

 

 僕は心からの感謝を込めて言った。

 彼女がいなければ、昨日の戦いで多くのものを失っていたかもしれない。彼女の「愛」が、この街を救ったのだ。

 

「……チッ。そんな顔で礼を言われたら、調子が狂うねぇ。」

 

 バルバラは少しだけ顔を赤らめ、視線を逸らした。

 そして、居住まいを正すように僕の方へ向き直り、ジリ、と距離を詰めてきた。

 

「……なぁ、旦那。」

 

 声のトーンが落ちる。

 甘く、粘着質な響き。

 あ〜これ知ってる〜!大体エロい感じの流れになるやつ〜!

 

「言葉での礼はもう十分だ。……そろそろ、行動で示してくれてもいいんじゃないかい?」

「え?」

 

 気づけば、彼女の顔が目の前にあった。

 酒の匂いと、彼女自身の野性的な香りが混じり合い、脳を揺らす。

 逃げ場はない。背後は屋根の傾斜だ。

 

「……アタシは気が短いんだ。冬が終わるまで待てなんて、言わないでおくれよ?」

 

 彼女の手が、僕の首筋に回される。

 強い力。抵抗を許さない、捕食者の抱擁。

 その瞳は、潤んでいながらも、獲物を射抜く鋭さを失っていない。

 

「試しに一回、どうだい? ……アタシとなら、悪くない夢が見られると思うけど?」

「ちょ、バルバラ、顔が近い……!」

「いいじゃないか。……誰も見てないよ。」

 

 彼女の唇が、ゆっくりと近づいてくる。

 赤い髪がカーテンのように視界を覆い、世界を二人だけの空間に閉ざしていく。

 

 ――ドクン。

 心臓が早鐘を打つ。

 これは不味い。

 彼女の「本気」が、物理的な圧となって押し寄せてくる。

 騎士として、男として、どう対応すべきか。拒絶するべきか、それとも――。

 唇が触れるまで、あと数センチ。

 彼女の熱い吐息が、僕の唇にかかった、その瞬間だった。

 ズズズズズズ……ッ!!

 足元の屋根が、不穏な振動を始めたのは。

 

 

 ☆

 

 

 ズズズズズズ……ッ!!

 足元の瓦が悲鳴を上げ、微細な振動が僕の背骨を駆け上がった。

 地震か? いや、違う。この振動源は――直下だ。

 

「……アン?」

 

 バルバラが怪訝な顔で動きを止めた、次の瞬間。

 ドゴォォォォォンッ!!!

 爆音と共に、僕たちのすぐ足元の屋根が内側から弾け飛んだ。

 木片と瓦礫が空中に舞い散る中、粉塵を纏って飛び出してきたのは、全身から噴き出る殺気を纏った鬼神――副団長ルイーズだった。

 

「そこまでだァァァッ!! この泥棒猫ォォッ!!」

 

 彼女は空中で身をひねり、持っていた木剣(流石に真剣ではなかった)をバルバラと僕の間に割り込ませるように振り下ろした。

 凄まじい風圧が、バルバラを仰け反らせる。

 

「おっと!?」

 

 バルバラは咄嗟にバックステップで距離を取り、口笛を吹いた。

 

「危ないねぇ! 屋根を突き破ってくるとは、随分と情熱的な挨拶じゃないか!」

「黙れ! エヴ様の唇は、マドゥワス領の重要文化財であり、 貴様のような余所者が、許可なく触れていい場所ではない!」

 

 ルイーズが屋根の上に着地し、僕を背に庇うように立ちはだかる。

 その背中からは、「近寄ったら噛み殺す」という猛犬のような威圧感が放たれていた。

 クゥン…………………………。

  

「……はぁ。やはり、こうなりましたか。」

 

 続いて、破壊された屋根の穴から、ネリーが優雅に(?)顔を出した。

 彼女は瓦礫の埃を手で払いながら、冷ややかな視線をバルバラに向ける。

 

「バルバラ殿。……貴女の『結納品』である戦力には感謝していますが、契約書に『夜の相手』は含まれておりません。これ以上のセクハラ行為は、追加料金……いえ、契約違反とみなして排除対象とさせていただきます。」

「おいおい、怖いねぇ。アタシはただ、旦那と親睦を深めていただけだよ?」

 

 バルバラは両手を挙げて降参のポーズを取りつつも、その表情は楽しげだ。

 彼女にとって、自分に向かってくる刃は「遊び道具」の一種らしい。

 

「それに、旦那だって満更でもなさそうだったぜ? なぁ?」

「えっ? い、いや、僕は……。」

 

 僕が言葉に詰まると、ルイーズがバッと振り返り、涙目で訴えかけてきた。

 

「エヴ様! 惑わされてはいけません! その女は猛毒です! 触れたら骨まで溶かされます!」

「いや、骨までって……。」

「私の屍を越えない限り、指一本触れさせませんから!」

「待て待て、勝手に死ぬんじゃあない。」

 

 完全にスイッチが入っている。こうなるとルイーズは止まらない。

 屋敷の下からは、騒ぎを聞きつけたガーベラや使用人たちが、呆れたような顔で見上げているのが見えた。

 ああ、屋根の修理費が……。

 

「ガウッ! ナニ? ケンカ!?」

 

 さらに悪いことに、下からアグニが壁をよじ登って参戦してきた。

 彼女はバルバラとルイーズを見比べ、状況を理解しようと首を傾げる。

 

「ネエチャン、ルイーズ、タタカウ? ……ワタシ、ドッチノ味方?」

「アグニ、これは喧嘩じゃない! 大人の話し合いだ!」

 

 僕が叫ぶと、バルバラがケラケラと笑い出した。

 

「ハハハッ! いいねぇ、賑やかで! ……気に入ったよ、マドゥワス騎士団! あんたらのその『鉄壁』、いつか必ずこじ開けてやるから覚悟しな!」

 

 彼女はルイーズに向かって挑発的に指を突きつけると、僕の方へウインクを飛ばした。

 

「ま、今日のところは引き分けにしてやるよ。……冬は長いんだ。チャンスはいくらでもあるさ。」

「……チッ。油断のならない女だ。」

 

 ルイーズが警戒を解かずに唸る。

 一触即発の空気は、バルバラの余裕によって霧散した。

 僕は深いため息をつき、破壊された屋根の穴を見下ろした。

 

「……とりあえず、場所を変えようか。屋根の修理もしなきゃいけないし、今後のことも話さないと。」

 

 ――数刻後。

 屋敷の応接室にて、改めて正式な契約が結ばれた。

 エヴァン・クロード・マドゥワス領主代行と、バルバラ率いる『赤錆の風』傭兵団。

 契約内容は以下の通りだ。

 

 一、傭兵団はマドゥワス家の『領地防衛隊』および『開拓土木隊』として、領内の治安維持と復興作業に従事すること。

 二、報酬は当面の間、屋敷での衣食住の保証と、金鷲商会から得た物資の一部現物支給とする。

 三、領地の財政が回復した暁には、正規の金銭報酬に加え、特別なボーナスを支払うこと。

 

「……これで文句はないかい?」

 

 僕が羊皮紙を差し出すと、バルバラは内容を一瞥し、サラサラとサインをした。

 

「上等だ。……ま、一番の報酬は『あんたの隣にいられること』だけどね。」

「……その項目は却下されました。」

 

 横でネリーがすかさず釘を刺す。

 ともあれ、これで百名の即戦力が正式に味方になった。

 野盗の残党狩り、魔獣の駆除、そして春に向けた大規模な開墾。人手不足で滞っていた計画が、これで一気に進むはずだ。

 

「よし、お前ら! 今日からここはアタシたちの庭だ! 飯の分だけきっちり働くぞ!」

 

 バルバラが窓から顔を出し、庭にたむろする部下たちに檄を飛ばす。

 

 「「「オオォッ!!」」」という野太い返事が返ってきた。

 その声を聞いて、使用人たちも「やれやれ」と苦笑いしつつ、夕食の準備に取り掛かる。

 マドゥワス屋敷の夜は、かつてないほど騒がしく、そして力強い熱気に包まれていた。

 

 僕の周りには、最強の幼馴染たち。

 頼れる傭兵団。

 マスコットのような野生児。

 そして、全てを支えてくれるばあや。

 カステ高原からの寒風が窓を叩くが、この屋敷の中は春のように暖かい。

 

「……さて。明日からも忙しくなるぞ。」

 

 僕は温かいスープを啜り、小さく独りごちた。

 色々と問題……主に女性関係の問題は山積みだが、このメンバーなら、どんな冬も乗り越えられる気がした。

 マドゥワス領再生の物語は、ここからさらに加速していく。

 赤き風と、鋼鉄の防壁に守られながら。

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
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