姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる 作:お庭屋さん
野盗連合の襲撃から、数週間が経過した。
ブレスダンは今、一年で最も厳しい寒さの中にある。
連日のように降り続く雪は、屋敷の庭を白く染め上げ、ダンテ市の通りを厚い氷で覆い尽くしていた。
カステ高原から吹き下ろす風は、肌を刺す刃のように鋭い。
だが、今のこの街には、その寒さをものともしない「熱」があった。
「おーい! 屋根の雪下ろし、こっちは終わったぞ!」
「おう! 次は水路の氷を割るぞ! 固まる前にやるんだ!」
早朝の通りに、男たちの威勢のいい掛け声が響く。
分厚い冬服を着込み、頑丈なスコップやツルハシを担いだ彼らは、ブートキャンプを卒業し、さらに先日の防衛戦で「家族を守る」という誇りを手に入れた、ダンテ市の頼もしき働き手たちだ。
かつては寒さに震え、女性の背中に隠れていた彼らが、今では自ら進んで過酷な冬の仕事に従事している。その顔つきは精悍で、白い息を吐く口元には笑みさえ浮かんでいた。
「……いい光景だ。」
僕はいつものように執務室の窓からその様子を眺め、温かい紅茶で手を温めた。
室内では、暖炉の火がパチパチと爆ぜている。燃料は薪ではなく、『金鷲商会』から仕入れている燃える魔石、『炎晶』だ。
魔力を通してやれば勝手に火を起こす便利な代物だ。
これのおかげで、今年の冬は薪の残量を気にせず、凍える夜を過ごさずに済んでいる。
「ええ。……本当に、見違えるようです。」
傍らに控えるガーベラが、書類の束を整理しながら目を細めた。
「物資は潤沢、燃料も十分。さらに、バルバラ殿たちが領内を巡回してくださっているおかげで、魔獣の被害も激減しております。……これほど穏やかで、満ち足りた冬は、ブレスダン始まって以来かもしれません。」
「ああ。……ここまでは、順調だ。」
僕は頷きつつ、視線を窓の外、鉛色の空の向こうへと向けた。
北の空ではない。南だ。
僕たちの背中側にある、王都へと続く空。
「……だが、便りがない。」
僕の呟きに、ガーベラの表情が曇った。
そう。ブレスダンへ帰還してからというもの。王都にいる母上――ラウラ・マドゥワスからの連絡が、全くないのだ。
それだけではない。
「……南の街道からの行商人も、ピタリと止まりましたね。」
ネリーが、重苦しい声で補足した。
彼女の手元にある帳簿には、直近の物流記録が記されているが、そこにあるのは『金鷲商会』による北の帝国方面ルートからの入荷ばかりだ。
王都や、南の他領からの商人は、この一ヶ月、一人として関所を越えてきていない。
「グルーゲル子爵、か。」
野盗の捕虜が吐いた、黒幕の名。
僕たちの隣人であり、マドゥワス家を敵視する保守派の貴族。
彼女が野盗を使って失敗した後、今度は権力を使って「経済封鎖」を仕掛けてきているのは明白だった。
物理的な攻撃ではない。真綿で首を絞めるような、陰湿な兵糧攻めだ。
「幸い、ジョーゼットとの契約のおかげで生活必需品は足りていますが……。このまま孤立が続けば、春以降の復興計画に支障が出ます。」
「ああ。それに、母上の身に何かあったのではないかと、それが一番気がかりだ。」
終戦手続きのために王都へ残った母上。
もし、グルーゲル子爵のような輩が、王都の中枢で母上を陥れようとしているのだとしたら。
そして、そのせいで手紙一つ出せない状況に追い込まれているとしたら。
クソッ……。
――ガタンッ。
悪い想像を振り払うように、僕はカップを強めにソーサーへ置いた。
焦りは禁物だ。僕が動揺すれば、領民たちに不安が伝染する。
今は、この場所を守ることが最優先だ。
「……信じて待とう。あの母上が、そう簡単に後れを取るとは思えない。」
自分に言い聞かせるように、僕は言った。
だが、窓の外で吹き荒れる風の音は、僕の不安を煽るように、ヒュウヒュウと不気味な唸りを上げていた。
☆
その日の夜は、近年稀に見る猛吹雪となった。
視界は白一色に塗り潰され、風雪が屋敷の壁を叩きつける音が、獣の咆哮のように響き渡る。
とてもじゃないが、外を出歩ける天候ではない。
傭兵たちも、今夜ばかりは大人しく屋内の詰め所で暖を取り、サイコロ遊びに興じているようだ。
屋敷の暖炉の前。
僕とルイーズ、ネリー、そしてバルバラは、火を囲んで今後の警備計画について話し合っていた。……といっても、バルバラが持ち込んだ酒を飲みながらの、半ば雑談のようなものだったが。
「……ヒック。だーかーら! アタシはあの時、右から攻めようって言ったんだよ!」
「結果論ですね。あの地形なら中央突破が定石です。」
「固いねぇ、ネリーちゃんは。……旦那、どう思う?」
酔っ払ったバルバラが僕に絡んでくるのを、ルイーズが無言で引き剥がす。いつもの平和な光景だ。
そんな中、暖炉の前の絨毯で丸くなっていたアグニが、不意にガバッと顔を上げた。
「……ん?」
彼女の大きな耳が、ピクリと動く。
そして、鼻をヒクつかせながら、窓の方へと這い寄っていった。
「どうした、アグニ。腹でも減ったか?」
僕が声をかけると、アグニは振り返り、真剣な顔で首を横に振った。
「チガウ。……ニオイ、。」
「匂い? この吹雪の中でか?」
「ウン。……ヨワッテル。……デモ、 チガウ、テキノ、ニオイジャナイ。」
アグニの野生の勘は、時としてネリーの魔法探知よりも鋭い。
彼女が敵では無いと言うなら、それは敵ではない可能性が高い。だが、「弱っている」という言葉が引っかかる。
「……ソト!」
アグニが窓ガラスに張り付き、吹雪の向こうを指差した。
僕はバルバラたちと顔を見合わせ、頷いた。
「行こう。……何かある。」
僕たちは厚手のマントを羽織り、武器を携えて玄関へと向かった。
重厚な扉を開けた瞬間、暴力的な冷気が屋内に雪崩れ込んでくる。
視界は最悪だ。ランタンの灯りなど、数メートル先までしか届かない。
「ガウッ! コッチ!」
アグニが雪の中に飛び出し、門の方へと走っていく。
僕たちもそれに続く。
膝まで埋まる新雪をかき分け、門の前に辿り着くと、そこには――。
「……おい、誰かいるぞ!」
バルバラが叫んだ。
門柱の影、雪に埋もれるようにして、ひとつの「影」が倒れていた。
ボロボロの外套。凍りついた髪。
それは、かろうじて人の形をしていたが、既にピクリとも動いていない。
「しっかりしろ!」
僕は駆け寄り、その体を抱き起こした。
軽い。そして、冷たい。
生きているのが不思議なくらいに衰弱している。
顔にかかったフードを払うと、そこには青白く変色した、若い女の顔があった。
唇は切れ、頬はこけ、長い旅路の過酷さを物語っている。
「……こ、ここは……マドゥワス……。」
女が、うわ言のように微かに口を動かした。
「ああ、そうだ。マドゥワスの屋敷だ。もう大丈夫だ。」
僕が答えると、女は震える手で、懐の中から何かを取り出そうとした。
それは、革で厳重に包まれた、一通の手紙だった。
「……これを……エヴァン、様に……。」
「僕がエヴァンだ。確かに受け取った。」
女は僕の顔を見ると、安堵したようにふっと力を抜き、そのまま意識を失った。
「おい死ぬなよ!?急げ! 屋敷へ運ぶんだ! ばあや、お湯と毛布を!」
僕の叫び声に、屋敷の奥からガーベラたちが飛び出してきた。使用人たちに女を任せ、僕は手の中にある手紙を見つめた。
革の包みを開くと、中から出てきたのは、上質な羊皮紙の封筒。
そして、その封蝋に押されていた紋章を見て、僕の心臓が早鐘を打った。
盾と若木ではない。
月を背に、孤高に吠える狼の姿。
「……これは……。」
後ろから覗き込んだガーベラが、息を呑んだ。
いつも冷静な彼女の瞳が、大きく見開かれ、そして瞬く間に涙で潤んでいく。
「……間違い、ございません……。」
ガーベラは、震える手で口元を覆い、絞り出すように言った。
「『月下の雌狼』……。ご当主様、ラウラ様の個人紋章でございます……!」
母上からの手紙。
それも、正規のルートではなく、命がけの密使によって届けられたもの。
ただ事ではない。
僕は手紙を握りしめ、屋敷の暖炉の前へと急いだ。
この封筒の中に、王都の真実が――そして、僕たちが進むべき道が記されているのだ。
☆
暖炉の火が爆ぜる音だけが、静まり返った応接室に響いていた。
中央のテーブルには、密使が命がけで届けた一通の手紙が置かれている。
深紅の封蝋に刻まれた「月下の雌狼」。
それは、戦場において母上――ラウラ・クロード・マドゥワスが使用する、武人としての紋章だ。
部屋には、僕とガーベラ、ルイーズ、ネリー、そしてバルバラが集まっている。
しかし、誰も口を開かない。開けないのだ。この手紙がもたらすものが、単なる近況報告でないことは、密使の惨状を見れば明らかだったからだ。
「……開けるぞ。」
僕は意を決して、ペーパーナイフを封蝋に突き立てた。
乾いた音がして封が解かれ、折り畳まれた羊皮紙が姿を現す。
僕はそれを広げ、走り書きのような、けれど力強い母上の筆跡を目で追った。
『――我が愛しき息子、エヴァンへ。
この手紙が無事に届いていることを、女神に祈ります。』
冒頭は、母からの慈愛に満ちた言葉だった。
だが、すぐに文面は冷徹な報告へと変わる。
『時間がありません。単刀直入に伝えます。
現在、王都における帝国との終戦手続きは、事実上の凍結状態にあります。』
「凍結……?」
僕の呟きに、ネリーが瞳を鋭くした。
本来であれば、敗戦から一年が経過した今、正式な講和条約が結ばれ、国交が正常化しているはずだ。僕が解放されたのも、そのプロセスの一環だったはずなのに。
『原因は、国内の「徹底抗戦派」による妨害です。彼らは敗戦の事実を認めず、その責任の全てを国王陛下と、前線指揮官であった私に押し付けようと画策しています。』
徹底抗戦派。
聞こえはいいが、要するに現実が見えていない保守派の貴族たちだ。安全な王都から「戦え」と叫び、泥を被った者たちを「腰抜け」と罵る。
その筆頭が、あのグルーゲル子爵なのだろう。
『ですが、事態はもっと深刻です。
彼らの目的は、単なる政争ではありません。彼らは裏で、帝国の一部過激派と通じています。』
「なっ……!?」
ルイーズが息を呑んだ。
抗戦を叫ぶ彼らが、敵国と通じている? 矛盾しているじゃないか。
『彼らは、国王陛下と私を「売国奴」として処刑し、その混乱に乗じて国を帝国に売り渡すつもりです。自らが帝国の貴族として取り立てられることを条件に。』
胸が悪くなるような裏切り。
自分たちの保身と栄達のために、国そのものを生贄に捧げようというのか。
恐らく野盗を使ってブレスダンを襲わせたのも、その布石だったのだ。マドゥワス家の地盤を崩し、母上の足元を掬うための。
『私はこの動きを察知しましたが、先手を打たれました。現在、私は王都の屋敷にて軟禁状態にあります。外部との接触は断たれ、この手紙を託した密使も、無事に辿り着ける保証はありません。』
母上は、囚われている。
あの「国王の懐刀」と恐れられた母上が、身動き一つ取れない状況に追い込まれている。
王都の闇は、僕が想像していたよりも遥かに深く、腐っていた。
手紙を持つ手が震える。
怒りで視界が赤く染まりそうになるのを、僕は必死に堪えて続きを読む。
そこで、文体が変わった。
公的な報告から、一人の「母」としての、震えるような文字に。
『エヴァン。……愚かな母を許してください。貴方を人質として帝国へ送り出し、あのような過酷な労役を強いたこと。そして、帰還した後も、傷ついた貴方を守ってやれないこと。母として、領主として……貴方にばかり重荷を背負わせてしまった私を、どうか許してほしい。』
紙面に、滲んだ跡があった。
涙だ。
あの母上が、泣きながらこれを書いたのだ。
僕の脳裏に、幼い頃の記憶が蘇る。
「男は守られるもの」という世間の風潮の中で、母上だけは僕に剣を握らせてくれた。
「自分の身は自分で守りなさい。でも、本当に辛い時は、母が必ず守ります。」
そう言って、僕の頭を撫でてくれた、大きくて温かい手。
その母が今、自分を責め、謝罪している。
不憫な息子を、守ってやれなかったと。
「……謝ることなんて、ないのに。」
僕は唇を噛み締めた。
帝国での一年間。確かに地獄だった。体には消えない傷が残ったし、心もすり減った。
でも、そのおかげで僕は強くなれた。
こうして領地を守り、仲間たちと笑い合える「力」を手に入れたんだ。
母上の選択は、間違ってなんかいなかった。
手紙は、最後の一文で結ばれていた。
『――ですが、エヴァン。今だけは、「母」としてではなく、マドゥワス領ブレスダン領主、「戦友」として貴方に頼みます。』
そこには、凛とした意思が宿っていた。
『王都の闇を払い、この国が売られるのを阻止するために。貴方の力を、私に貸してください。……待っています。』
読み終えた僕は、ゆっくりと手紙を畳んだ。
静寂が戻る。
だが、それは重苦しい沈黙ではなかった。
火花が散る直前の、張り詰めた熱気だった。
「……ご当主様が、若様の助けを……。」
ガーベラが、ハンカチで目元を抑えながら声を震わせた。
彼女は知っているのだ。母上がどれほどのプライドを持って生きてきたかを。その彼女が、息子に「助けてほしい」と懇願することが、どれほどの覚悟の上なのかを。
「……ふん。腐った話だねぇ。」
バルバラが、不快そうにワインを煽った。
「国を守るフリをして国を売る。……野盗の方がまだマシな連中だ。そんな奴らにデカい顔をさせておくのは、アタシの美学に反するね。」
「同感です。……マドゥワス家に弓引く愚か者どもには、相応の報いが必要です。」
ネリーが冷徹に告げ、ルイーズが無言で頷く。
彼女たちの瞳には、既に戦いの炎が灯っていた。
僕は立ち上がり、暖炉の火を見つめた。
傷だらけの腕を握りしめる。
この傷は、誰かを守るためのものだ。
今までは、領民を守るための盾だった。
だが、今度は違う。
「……行くよ。」
僕は皆に向き直り、はっきりと言った。
「母上を助けに行く。……王都へ向かうぞ。舐め腐った貴族共めらを分からせに行こう。」
もう、守られるだけの子供じゃない。
泣いている母を、遠くから案じているだけの無力な存在じゃない。
「ブレスダンは……再生の途中だ。ここを離れるのは不安だけど、母上を失えば、この領地の未来もない。」
「御意に。」
ルイーズとネリーが、即座に膝をついた。
「我ら騎士団、エヴ様の剣となり、王都の闇を切り裂きます!」
「手筈は整えます。……潜入ルートの確保、および装備の準備を。」
二人の忠誠が、迷いを断ち切ってくれる。
だが、問題はこの領地の守りだ。
僕たちが抜ければ、ここが手薄になる。グルーゲル子爵が再び動き出すかもしれない。
「……バルバラ。」
僕は赤髪の傭兵団長を見た。
「君に、頼みがある。」
「ハッ! 言われなくても分かってるよ。」
バルバラはニカっと笑い、斧の柄を叩いた。
「留守番だろ? 任せときな。……あんたが母ちゃんを助けに行ってる間、この庭はアタシらが死守してやるよ。」
「……いいのか? 契約外の危険な任務になるかもしれない。」
「水臭いねぇ! アタシらはもう『家族』だろ? 旦那の帰る場所を守るのは、妻の務めさ!」
彼女の言葉に、胸が熱くなる。
傭兵という枠を超えた、絶対的な信頼。彼女たちがいれば、そして逞しくなった男性陣がいれば、ブレスダンは大丈夫だ。
「ありがとう、バルバラ。……信じてる。」
「おうよ! ……その代わり、帰ってきたらたっぷりと可愛がってやるからね!」
彼女はウインクを飛ばした。
よし。後顧の憂いは断った。
「ネリー。王都への移動手段はどうする? 大人数での行軍は目立ちすぎる。」
敵は国内にいる。
マドゥワス騎士団が動けば、すぐに察知されて妨害されるだろう。
隠密裏に、かつ迅速に王都へ入る必要がある。
「……それでしたら、適任がおります。ちょうど昨日、定期便の荷下ろしを終えて、明日の朝に出発する予定の者が。」
ああ、そうか。
僕たちの強い味方であり、最大の「カモ」が、まだ近くにいた。
「『金鷲商会』のジョーゼット支店長か。」
僕はニヤリと笑った。
彼女の商隊なら、王都への通行手形も顔パスも持っているはずだ。荷物に紛れれば、誰にも怪しまれずに王都へ潜入できる。
「早速、おねがいに行こうか。」
僕はマントを翻した。
待っていてください、母上。
貴方が育てた息子は、もう貴方の背中に隠れていた頃とは違う。
今度は僕が、貴方を守りに行く番だ。
☆
翌朝未明。
まだ薄暗いマドゥワス屋敷の裏門に、一台の豪奢な馬車が停まっていた。
御者台の横で、厚手の毛皮に包まったジョーゼットが、寒さと不満で顔を歪めている。
「……また、貴方たちですかぁ? わたくし、これでも忙しい身なんですのよ?」
彼女はため息混じりに、僕とルイーズたちを睨みつけた。無理やり叩き起こされた上に、妙な頼み事をされたのだから、文句の一つも言いたくなるだろう。
「すまないね、ジョーゼット。君の商隊の荷馬車に、少し『壊れ物』を紛れ込ませてほしくてね。」
「へぇ?壊れ物? ……まさか、密輸ですの?」
「いや。……僕たちだ。」
僕が指差すと、ジョーゼットは目を剥いた。
「はぁ!? 貴方様ご自身が、荷物になると!? 正気ですの!?」
「正気だよ。……王都まで、誰にも見つからずに移動したいんだ。君の商会の『顔』があれば、関所もフリーパスだろう?」
「お断りしますわ! もしバレたら、わたくしの商売に関わります!」
ジョーゼットは頑として首を縦に振らない。
まあ、当然の反応だ。
だが、僕には切り札がある。
「残念だな。……実は、帝都から連絡があってね。アンドレア殿下経由で『新しい商売のネタ』を見つけられそうだったんだが。」
「……ネタ?しかも殿下の?」
商人の耳がピクリと動く。
「ああ。クリークボア以上の、極上の素材さ。……それを君に独占契約で卸そうと思っていたんだが、協力してくれないなら他を当たるしかないな。」
もちろんハッタリだ。殿下からの連絡もないし、何があるかなんて分からない。
だが、彼女の欲望を刺激するには十分だ。
それに加えて。
「……それに、断るとアグニが悲しむかもしれないな。」
僕の背後から、アグニがぬぅっと顔を出した。
彼女はジョーゼットをじっと見つめ、鼻をヒクつかせた。
「オマエ……クサイ。……ウソツキ。……クウ?」
ジュルリ、と涎を垂らす音。
前回のトラウマが蘇ったのか、ジョーゼットの顔色が青から白へと変わる。
「ひぃっ!? わ、分かりました! 分かりましたから、その子を近づけないでくださいまし!」
交渉成立だ。
やはり、暴力と利益は万国共通の言語らしい。
「ガウッ! アグリム、ドコイク? ワタシモイク!」
アグニが当然のように、僕の足元にまとわりついてくる。
今回の旅は危険だ。置いていくつもりだったが、彼女の「鼻」と「戦闘力」は、未知の王都で大きな武器になる。
それに、彼女を置いていけば、屋敷が物理的に破壊されるかもしれないし……。
「……分かった。アグニも一緒だ。ただし、絶対に勝手な行動はしないこと。いいな?」
「ガウ! ヤクソク! ……アグリムト、イッショ!」
アグニは嬉しそうに荷台へと飛び乗った。
こうして、王都へ向かうメンバーが決まった。
僕、ルイーズ、ネリー、そしてアグニ。
少数精鋭。隠密行動には最適な布陣だ。
「……行ってらっしゃいませ、エヴァン様。」
見送りに立ったガーベラが、深々と頭を下げた。
その手には、母上からの手紙が握りしめられている。
「ご当主様を……ラウラ様を、よろしくお願いいたします。」
「ああ、任せてくれ。……必ず、二人で帰ってくるよ。」
僕はガーベラの手を握り返し、そしてバルバラに向き直った。
「留守は頼んだぞ、相棒。」
「おうよ。……安心しな。帰ってくるまで、この庭の草一本たりとも抜かせやしないよ。」
バルバラはニカっと笑い、親指を立てた。
その頼もしい笑顔を胸に刻み、僕は荷馬車の幌の中へと潜り込んだ。
ガタン、と車輪が回り出す。
住み慣れた屋敷が、そして愛すべきダンテ市の街並みが、朝霧の向こうへと遠ざかっていく。
目指すは王都。
この国の心臓部であり、今や腐敗と陰謀の渦巻く伏魔殿。
待っていてください、母上。
貴方が守ろうとしたこの国を、そして貴方自身を。
僕が、僕たちの手で、必ず取り戻してみせます。
マドゥワス領再生の物語は、ここから新たな局面へと突入する。
舞台は雪の辺境から、権謀術数の都へ。
傷だらけの騎士の、本当の戦いが始まろうとしていた。
メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!
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ルイーズ・ロンズデール
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ネリー
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サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
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アンドレア殿下
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ガーベラ
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アグニ
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バルバラ
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上記以外のキャラクターは感想等で教えてね