姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

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第39話:オーク商人の手腕

 ガタン、ゴトン。

 車輪が凍てついた街道を噛む音が、断続的に響き続けている。

 『金鷲商会』の定期便に偽装した僕たちの旅は、出発から既に数時間が経過していた。

 本来なら、快適な馬車の旅……と言いたいところだが、現実は甘くない。

 僕たちが潜んでいるのは、客車ではない。荷馬車の、それも木箱と毛皮の山が積み上げられた荷台の、わずかな隙間に作られた空洞だ。

 外からの視線を遮る厚手の幌がかけられ、中は薄暗い。

 そして何より、狭い。

 

「……ふぅ。」

 

 僕は何度目かわからない溜息をつき、体の位置を直そうとした。

 だが、動けない。

 右肩には、柔らかく、それでいて弾力のある何かが押し付けられている。

 左肩には、華奢だが芯のある温もりが密着している。

 そして膝の上には、毛皮の塊のような重みが乗っている。

 

「……あの、二人とも。もう少しだけ、スペースを空けてくれないかな?」

 

 僕は小声で懇願した。

 右側にいるルイーズと、左側にいるネリーに。

 

「無理ですよ、エヴ様。……見てください、この積み荷の壁を。これ以上離れたら、私が木箱に押し潰されてしまいます。」

 

 ルイーズが、甘ったるい声で囁く。

 確かに彼女の背後には木箱が迫っている。だが、彼女の豊満な肢体が、必要以上に僕の腕に、そして脇腹に密着しているのは気のせいだろうか。馬車が揺れるたびに、柔らかな感触が波打つように伝わってくる。

 これは、ある意味で拷問だ。騎士の修行よりも精神力を削られる。

 

「ええ。不可抗力です、エヴ様。……狭いのは不便ですが、こうして身を寄せ合っていれば寒さもしのげますし。合理的かと。」

 

 ネリーも涼しい顔で同意する。

 彼女は僕の左腕を抱き込むようにして座っており、その体温がじわりと伝わってくる。おっとり、というかねっとりとした瞳が暗がりの中で怪しく光っている気がするのは、僕の被害妄想だろうか。

 

「……合理的、ねぇ。」

 

 二人の顔には、「役得」という文字が書いてあるように見える。

 普段は騎士としての規律を守っている彼女たちだが、この密室空間ではタガが外れかけているのかもしれない。

 

「ガウッ……。セマイ! クルシイ!」

 

 膝の上で、アグニが身じろぎした。

 彼女もまた、この狭さにストレスを感じているようだ。灰色の髪が僕の顎をくすぐる。

 

「我慢してくれ、アグニ。……もう少しで関所だ。そこを抜けるまでは、音を立てちゃいけない。」

「ウウッ……。デモ、アグリム、アタタカイ。」

 

 アグニは文句を言いながらも、僕の体温が心地よいのか、再び丸くなって喉を鳴らし始めた。

 野生動物か。

 右に猛獣、左に策士、膝に珍獣。

 マドゥワス騎士団の精鋭に囲まれているはずなのに、なぜか四面楚歌の気分だ。

 幌の隙間から、微かに外の景色が見える。

 いつの間にか、雪景色は鳴りを潜めていた。

 ブレスダン領の白銀の世界から、乾いた茶色の岩肌が目立つ荒野へ。

 冷気は相変わらずだが、風の匂いが変わっている。

 

「……入ったな。」

 

 僕は呟いた。

 ここはもう、マドゥワス領ではない。

 僕たちの南に隣接する、グルーゲル子爵の領地――『ブレスク』だ。

 グルーゲル子爵。

 野盗を使ってブレスダンを襲わせ、経済封鎖を仕掛けてきた張本人。

 彼女の領地を通るということは、敵の喉元を歩くようなものだ。もし正体がバレれば、ただでは済まないだろう。

 

「……嫌な空気ですね。」

 

 ルイーズが、戯れの気配を消して低く呟いた。

 彼女の手が、反射的に腰の短剣へと伸びる。

 彼女の愛剣であるツヴァイハンダーは荷物の下に隠してある。

 

「ええ。街道を行き交う人の目も、どこか殺伐としています。……グルーゲルの圧政と、敗戦後の混乱。民の心も荒んでいるのでしょう。」

 

 ネリーも警戒を強める。

 幌の隙間から見えるブレスクの光景は、荒廃していた。

 ブレスダンも酷かったが、ここはそれ以上に「希望」がない。畑は放置され、道端には物乞いの姿も見える。

 領主が私腹を肥やし、政敵を蹴落とすことに夢中になっている間に、領地は死にかけているのだ。

 

「……許せないな。」

 

 僕は拳を握りしめた。

 母上を陥れ、国を売ろうとするだけでなく、自らの領民さえも顧みない。

 グルーゲル子爵。

 会ったことはないが、その「業」の深さは十分に伝わってくる。

 その時。

 馬車の速度が緩み、御者の掛け声が聞こえた。

 

「――止まれ! 関所だ!」

 

 外部の声だ。

 兵士の、威圧的な怒鳴り声。

 

「……来たか。」

 

 僕たちは息を潜めた。

 ブレスク領の主要関所。ここを抜けなければ、王都への道は閉ざされる。

 

 馬車が完全に停止する。

 砂利を踏みしめる軍靴の音。

 ガチャリ、と金属鎧が擦れ合う音が、幌のすぐ外まで迫ってきた。

 

「『金鷲商会』だな? 積み荷の目録を出せ!」

 

 横柄な声。

 御者台の方で、ジョーゼットが対応しているはずだ。

 彼女の手腕を信じるしかないが、相手はグルーゲルの私兵だ。マドゥワス領からの通行者には、特に目を光らせているはず。

 

「あらあら、ご苦労様ですぅ。……こちらが通行許可証と、目録になりますわぁ。」

 

 ジョーゼットの、猫撫で声が聞こえる。

 いつもの、相手を油断させる商売用の声だ。

 

「……ふん。小麦に、毛皮か。……最近、北の方から不審な連中が入り込んでいるという噂がある。野盗の残党か、あるいは……ネズミどもだ。」

 

 兵士の声に、鋭い疑念が混じる。

 ドキリ、と心臓が跳ねた。

 ネズミ。それは間違いなく、僕たちのことだ。

 

「荷台を改める。……幌を開けろ!」

 

 最悪の命令が下された。

 ルイーズの体が硬直する。ネリーが音もなく短剣を抜く。

 アグニが「ウゥー……」と低い唸り声を上げそうになり、僕は慌てて彼女の口を手で塞いだ。

 見つかれば、戦闘は避けられない。

 だが、ここで騒ぎを起こせば、王都への潜入という目的は潰える。

 

 万事休すか……?

 兵士の手が、幌の端に掛かった、その瞬間だった。

 

「――お待ちなさい!!」

 

 ジョーゼットの、悲鳴にも似た、しかし凛とした叫び声が響き渡った。

 

 

 ☆

 

 

「――お待ちなさい!!」

 

 ジョーゼットの、悲鳴にも似た、しかし凛とした叫び声が関所に響き渡った。

 兵士の手が、幌の端を掴んだままピタリと止まる。

 僕たちは息を殺し、心臓の音さえも押し殺してその様子を伺った。

 ルイーズが音もなく短剣を抜き放ち、ネリーが指先で小さな魔法陣を描く。アグニは僕の手の中でフゴフゴと暴れているが、必死に抑え込む。

 

「な、なんだ。……公務の邪魔をする気か?」

 

 兵士が不機嫌そうに振り返る気配がした。

 対するジョーゼットの声には、先ほどまでの媚びるような響きは消え失せ、商売人としての鋭利な刃が混じっていた。

 

「公務? ええ、存じておりますわ。ですが、その薄汚い手で……失礼、その無骨な手で幌を開けられたら、わたくしの商売が台無しになってしまいますの!」

 

「あぁ? たかが小麦と毛皮だろうが。」

「お黙りなさいまし! 目録をよくご覧になりまして!? 一番下の欄を!」

 

 ジョーゼットが凄み、兵士が戸惑いながら目録を確認する音が聞こえる。

 

「……『特別配送品・氷雪華の苗』? なんだこれは。」

 

 氷雪華。そんなものがブレスダンに生えてるなんて 聞いたことがない。

 十中八九、ジョーゼットの口から出まかせだろう。

 だが、彼女の声には微塵の揺らぎもない。

 やはり彼女は商人としてかなりやり手だな。

  

「北の極寒の地にのみ咲く、極めて希少な魔草ですわ。……王都のさる高貴な方から、特別にご注文いただいた品ですの。」

 

 彼女は一息つき、勿体ぶった口調で続けた。

 

「この種はねぇ、極めて繊細なんですのよ。ブレスダンのような寒冷地から運ぶために、荷台の中は魔道具を使って厳密な『低温管理』をしておりますの。……もし今、貴方がその幌を開けて、生温かい外気を入れたらどうなるか……お分かり?」

「……枯れる、のか?」

「ええ、一瞬で! 魔力を失い、ただのゴミ屑になりますわ!」

 

ジョーゼットの声が、脅すように低くなる。

 

「その損害額……金貨にして、ざっと五千枚。……当然、当商会はグルーゲル子爵閣下に正式に抗議し、賠償を請求させていただきますわ。原因を作ったのは、そこの貴方だと添えてね。」

「ご、五千……!?」

 

 兵士が息を呑む音が、幌越しにも聞こえた。

 金貨五千枚。

 一兵卒が一生かかっても拝めない金額だ。もし本当にそんなものをダメにすれば、クビどころか本当に首が飛ぶ。 兵士の保身心を巧みに突いた、見事なハッタリだ。

 

「で、ですが……規則で……。」

 

 兵士の声が弱々しくなる。 迷っているな。

 ここでジョーゼットは、押し切るのではなく、スッと声を甘くした。

 

「ええ、分かっておりますわ。貴方様も、上からの命令でお辛い立場でしょう? ……わたくしも、無用なトラブルで貴方様の将来を傷つけたくはありませんの。」

 

 衣擦れの音がした。おそらく、懐から何かを取り出した音だろう。こんな状況で出すものと言ったらひとつしかない。

 思わず顔を顰めるが、この状況だ。

 致し方ないだろう。

 

 

「……ご苦労様ですぅ。寒い中、大変ですわよねぇ。」

 

 チャリ、という金属音が微かに響く。  重みのある、心地よい音。 金の入った小袋だ。

 

「これはほんの気持ち。……部下の方々と、温かいものでも召し上がってくださいな。」

 

 飴と鞭。責任という恐怖を突きつけた直後に、甘い逃げ道を用意する。兵士の心理は、完全に彼女の手のひらの上だ。

 

「……くっ。」

 

 兵士が唾を飲み込む気配。

 数秒の沈黙が、永遠のように長く感じられた。

 僕の腕の中で、アグニが「ガウ……?」と首を傾げ、ルイーズの短剣が、いつでも飛び出せるように構え直される。

 

「……いいだろう。行け。」

 

 兵士の、投げやりな声が響いたと同時に、安堵の息をつく。

 

「『氷雪華』とやらに免じて、今回は見逃してやる。……さっさと失せろ!」

「感謝いたしますわぁ〜。貴方様のような話の分かる方がいて、安心いたしました。」

 

 ジョーゼットの猫撫で声が戻る。

 幌に掛かっていた手が離れ、遠ざかっていく気配がした。

 

「……ふぅ。」

 

 馬車が再び動き出した瞬間、僕たちは全員、肺の中の空気をすべて吐き出すような深いため息をついた。

 助かった。

 武力で突破することは可能だったかもしれない。

 だが、それでは「隠密」ではなくなる。商人の舌先三寸に、僕たちの命運は救われたのだ。

 

「……やりますね、あの女。」

 

ネリーが短剣を収め、感心したように呟いた。

 

「『氷雪華』などという植物は存在しません。ですが、いかにもありそうな名前と、法外な賠償金で相手の思考を停止させ、賄賂で退路を断つ。……見事でした。」

「ええ。敵に回すと厄介ですが、味方にすればこれほど頼もしいとは。」

 

 ルイーズも緊張を解き、強張っていた体を僕に預けてきた。  ……おい、どさくさに紛れて抱きつくな。

 

「ガウッ! オバサン、コエ、デカイ!」

 

 アグニも解放され、ブルブルと体を震わせた。

 彼女には言葉の意味は分からなかっただろうが、ジョーゼットの「気迫」が兵士を圧倒したことは理解できたようだ。

 馬車は関所を抜け、街道を猛スピードでひた走る。

 

 しばらくして、御者台の方から小窓が開き、ジョーゼットの顔が覗いた。

 彼女は額の汗をハンカチで拭いながら、不敵な笑みを浮かべている。

 

「……聞こえてまして? 」

「ああ。助かった、ジョーゼット。」

 

 僕が礼を言うと、彼女はフンと鼻を鳴らした。

 

「勘違いしないでくださいまし。わたくしは、自分の()()を傷つけたくなかっただけですわ。それに……。」

 

 彼女はチラリと、僕の懐(アグニがいるあたり)を見た。

「あそこで騒ぎになって、その野生児に暴れられたら、それこそわたくしの命がありませんもの。」

「ガウッ! オバサン、ウソツキ! デモ、ニク、クレタラ、ユルス!」

 

 アグニが小窓から顔を出し、ジョーゼットに吠える。   ジョーゼットは「ひぃっ」と顔を引きつらせ、パタンと小窓を閉めた。相変わらずの凸凹コンビだが、この奇妙な信頼関係が、今の僕たちの命綱だ。

 

 幌の隙間から見える景色は、荒涼としたブレスク領から、次第に緑の多い平野へと変わっていく。

 王都へ続く街道だ。

 関所という最大の難所を越えた今、目指す場所はもうすぐそこにある。

 

「……もうすぐ見えてくるはずです。」

 

 ネリーが呟き、幌を少しだけめくった。

 夕暮れの光が差し込み、薄暗い荷台を茜色に染める。

 その光の先に、巨大な影が浮かび上がっていた。

 

 高く聳える石造りの城壁。

 その向こうに広がる、無数の尖塔と、威容を誇る白亜の城。

 ベレイン王国 王都『ベルリネ』。

 この国の心臓部であり、今や腐敗と陰謀が渦巻く伏魔殿。そして、我が母上が囚われている場所。

 

「……着いたな。」

 

 僕は呟き、自分の腕の傷跡を無意識に撫でた。

 ここから先は、商人の交渉術だけでは通じない。

 己の剣と、知恵と、そして覚悟が試される「戦場」だ。

 

「行こう。……母上を迎えに。」

 

 僕の言葉に、ルイーズとネリーが力強く頷き、アグニが「ガウッ!」と応える。 商隊の馬車は、夕闇に沈みゆく王都の門へと、ゆっくりと吸い込まれていった。

 

 

 ☆

 

 

 関所を抜けてから数刻。

 車輪の響きが変わった。

 土と砂利の感触から、綺麗に舗装された石畳の硬質な音へ。

 幌の隙間から差し込む光も、夕暮れの茜色から、人工的な街灯の暖色へと移り変わっていた。

 

「……着きましたわよ。」

 

 御者台の方から、ジョーゼットの少し疲れた声が聞こえた。

 馬車が速度を落とし、やがて完全に停止する。

 周囲からは、人のざわめきと、活気ある喧騒が聞こえてくる。だが、それはダンテ市の温かい賑わいとは違う。もっと雑多で、どこか焦燥感を含んだ都会の音だ。

 

「降りてよろしくてよ。……ただし、顔は隠しなさって。」

 

 ジョーゼットの合図で、僕たちは幌の裏側からこっそりと外へ出た。

 そこは、商会の倉庫らしき建物の裏庭だった。

 高い塀に囲まれ、外からの視線は遮られている。

 

「……ふぅ。やっと外の空気が吸える。」

 

 僕は大きく背伸びをして、肺いっぱいに夜気を吸い込んだ。

 だが、その空気は決して美味くはなかった。

 香水の甘ったるい匂い、路地裏の汚物の臭い、そして鉄と煙の匂い。様々なものが混ざり合った、大都市特有の濁った空気が喉に張り付く。

 

「ガウッ……。ココ、クサイ。ハナ、マガる。」

 

 アグニが顔をしかめ、鼻を手で覆った。

 清浄な山岳地帯の空気で育った彼女にとって、この王都の匂いは拷問に近いかもしれない。

 

「我慢してくれ、アグニ。……ここが、王都ベルリネだ。」

 

 僕は塀の向こう、夜空を焦がすように輝く街の灯りを見上げた。

 ベレイン王国の心臓部。

 かつては憧れの場所だったが、今は巨大な怪物の腹の中にいるような圧迫感しか感じない。

 

「……エヴ様。あちらを。」

 

 ジョーゼットから受け取った外套のフードを目深に被ったネリーが、倉庫の隙間から見える高台を指差した。

 そこには、街を見下ろすように聳え立つ白亜の巨城と、それを取り囲む貴族街の屋敷群があった。

 煌びやかな魔導照明に照らされ、そこだけが別世界のように輝いている。

 

「ラウラ様は……あの中にいるんですね。」

 

 ルイーズが、今は布でぐるぐる巻きにして荷物に偽装した愛剣を抱きしめながら呟く。

 その声には、怒りと焦燥が滲んでいる。

 

「ああ。……必ず、助け出す。」

 

 僕は拳を握りしめた。

 だが、焦って飛び込めば、待っているのは破滅だ。

 グルーゲル子爵のような敵が、網を張って待ち構えている。

 まずは拠点と情報の確保だ。

 

「……さて。約束通り、ここまで運びましたわよ。」

 

 荷降ろしの指示を終えたジョーゼットが、扇子を仰ぎながら近づいてきた。

 その顔には「厄介払いができた」という安堵と、少しばかりの疲労の色が見える。

 

「感謝するよ、ジョーゼット。君のおかげで助かった。」

「お礼なら結構ですわ。その代わり……例の『商売のネタ』、忘れてはいませんわよね?」

 

 彼女はギロリと僕を睨んだ。

 さすがは商人。転んでもタダでは起きないし、貸しはきっちり回収するつもりだ。

 

「もちろん。……ブレスダンに戻ったら、優先的に話を通すよ。期待していてくれ。」

 

 ハッタリだが、まあ何か考えよう。アグニが見つける変なキノコでも売りつければいし、最悪の場合は殿下に泣きついてもいいだろう。多分……。

 

「ふん、調子のいいこと。……この倉庫の二階、空いていますわよ。宿を取るのも危険でしょうから、今夜はそこをお使いなさい。」

 

 ジョーゼットは素っ気なく言い捨てて、背を向けた。

 

「……いいのか?」

「勘違いしないでくださいまし! 貴方たちが下手に街をうろついて捕まったら、運んだわたくしまで共犯にされますの! ……ほとぼりが冷めるまで、大人しくしていてくださいな!」

 

 彼女はバタンと扉を閉めて去っていった。

 素直じゃないが、彼女なりの気遣いだろう。敵に回すと厄介だが、味方にするとこれほど頼もしい存在もいない。

 

「……ふふ。ツンデレ、というやつですね。」

 

 ネリーが小さく笑った。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……。今日はここで休もう。本格的に動くのは明日からだな。」

 

 僕たちは倉庫の二階へと上がった。

 埃っぽいが、雨風は凌げるし、外からは見つかりにくい。隠れ家としては上等だ。

 硬い床に毛布を敷き、簡単な食事をとる。

 干し肉と、硬いパン。

 みんなで囲んだクリークボアの牡丹鍋のような温かさはないが、不思議と味気なさは感じなかった。

 僕の周りには、頼れる仲間たちがいる。

 

「エヴ様。……私の太ももを枕になさいますか?」

「いえ、私の肩の方が寝心地が良いはずです。」

 

 ルイーズとネリーが、狭いスペースで僕の左右を陣取り、無言の牽制し合いを始めている。

 アグニは「アグリム、ヒザ、イイ」と、特等席である僕の膝の上で丸くなり、既に寝息を立てていた。

 ……まあ、これなら凍えることはなさそうだ。

 窓の外、王都の夜景を見つめる。

 華やかな光の影で、誰かが母上を陥れ、国を売ろうとしている。

 その正体を暴き、すべてをひっくり返す。

 

 簡単なことじゃない。

 剣を振るうだけでは勝てない戦いだ。

 だが、僕たちは一人じゃない。

 ブレスダンで待つバルバラや、領民たちの想いも背負っている。

 

「……おやすみ、みんな。」

 

 僕はアグニの頭を撫で、目を閉じた。

 王都の夜は長い。

 だが、必ず朝は来る。

 そしてその朝は、僕たちが反撃の狼煙を上げる時。

 マドゥワス領再生の物語は、舞台を王都に移し、新たな局面を迎える。

 潜入、成功。

 ここからが、正念場だ。

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
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