姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

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めっちゃ短いです。


第5話(閑話):大帝の娘

「……ククッ、フフフ……アッハハハハハ!!」

 

 重厚な扉が閉じられ、静寂が戻った執務室に、余の抑えきれない高笑いだけが朗々と反響していた。

 

 広い部屋には、つい先程までここにいた「彼」の気配が色濃く残っている。

 テーブルの上には、手つかずのまま置かれた最高級のクリスタルグラスが二つ。

 そして、ソファーの端、物理的に可能な限り余から距離を取ろうとしていた場所には、彼が腰掛けていた重みが、窪みとなって微かに残されていた。

 

 余は琥珀色の液体を一息に干すと、グラスを乱暴にテーブルへ置き、彼が座っていたその場所へと身を沈めた。

 革張りのソファーを撫でる。

 まだ、温かい。

 武骨で、鍛え上げられた男の体温が、そこには確かに残っていた。

 

「……愛い奴め。」

 

 エヴァン・クロード・マドゥワス。

 我がグラディウス帝国が下したベレイン王国の将、ラウラ・クロード・マドゥワスの、その嫡男。

 最初は、単なる暇つぶしのおもちゃのつもりだった。

 

 この世界において、男とは守られるべき存在だ。

 美しく着飾り、詩を詠み、淑やかに微笑んで女性の庇護を待つ。それが「良き男」の定義であり、帝国の宮廷に群がる貴族の男たちも皆、白粉の匂いをさせて媚びを売るような輩ばかりだ。

 どいつもこいつも権力や金に目が眩んだオス畜生ばかり。

 

 だが、彼は違った。

 日に焼けた肌、剣ダコで固くなった掌、そして余を見上げる時の、反骨心と忠誠心が入り混じった複雑な瞳。

 男だてらに「騎士」を名乗り、泥にまみれて剣を振るうその姿は、この洗練されすぎた帝都において、あまりにも異質で、野蛮で、そしてどうしようもなく魅力的だった。

 

「『今はまだ、その時ではありません』……か。」

 

 余は、彼が必死の形相で紡いだ言葉を反芻する。

 

 ――僕が貴女に相応しい、最強の騎士になるまで待っていてください。

 

 傑作だ。

 余の目は節穴ではない。

 あの時の彼の言葉が、窮地を脱するための、苦し紛れの大嘘であることなど百も承知だ。

 

 彼の瞳は泳いでいたし、額には冷や汗が滲んでいた。足先に至っては、最初から出口の方を向いており、いつでも逃げ出せるよう重心をずらしていたことさえ見抜いていた。

 

 だが、それでも。

 彼はその「嘘」に、己の矜持と命を懸けていた。

 

 金も、地位も、そして皇太子である余の寵愛さえも。

 普通の男ならば尻尾を振って飛びつくであろう甘い蜜を、彼は「騎士道」という名の盾で跳ね除けたのだ。

 ただ拒絶するのではない。相手のプライドを傷つけず、かつ自分の尊厳も守るための「嘘」を、あの一瞬で構築し、演じきった。

 

「……ククク、たまらぬな。」

 

 腹の底から、熱いものが込み上げてくる。

 ただ従順なだけの男など、掃いて捨てるほどいる。

 だが、獅子の前で牙を剥き、その上で「貴女のために強くなる。」と嘘でも宣う気概を持つ男が、果たしてこの大陸に何人いるだろうか。

 コンコン、と控えめな、しかしどこか焦りを含んだノックの音が響いた。

 

「……入れ。」

「失礼いたします、殿下。」

 

 重い扉を少しだけ開けて入ってきたのは、側近のフリーダ・マイヤ女爵であった。

 彼女はおずおずと部屋を見渡し、エヴァンの姿がないこと、そして室内に情事の形跡がないことを確認すると、安堵と落胆が入り混じったような、ひどく複雑な溜息をついた。

 

「……マドゥワス卿は、お帰りになられたのですか?」

「あぁ。脱兎のごとくな。金貨の袋をひっ掴んで、風のように去っていったよ。」

「……ご無事で?」

「心外だな、マイヤ。余が彼を食い殺すとでも思ったか?」

 

 マイヤは視線を泳がせ、「いえ、食い散らかすかと……。」と蚊の鳴くような声で呟いたが、聞こえないふりをしてやった。

 彼女もまた、エヴァンのことを気に入っている一人だ。主人が彼を壊してしまわないか、気が気ではなかったのだろう。

 

「安心しろ。指一本触れておらぬよ。……今は、な。」

「今は、ですか」

「あぁ。彼奴は約束したのだ。『最強の騎士となって、再び余の前に立つ』とな」

 

 余は、彼が置いていった空気を指先で弄ぶように、空中の塵を掴む仕草をした。

 

「青い果実は、熟してから食うのが一番美味い。……そうだろう?」

 

 今夜、力ずくで彼をねじ伏せ、籠の中に閉じ込めることは容易かった。

 だが、それではつまらない。

 手折ってしまえば、花は枯れるだけだ。

 彼が持つ「野性」や「抵抗」という輝きを失わせたまま手に入れても、余の乾きは癒やされない。

 

「……殿下。それは、彼にとって呪いのようなものでは?」

「祝福と言え。一国の皇太子に執着されるのだぞ? 光栄の極みではないか。」

 

 呆れたような顔をするマイヤを尻目に、余は再び笑い、空になったグラスに琥珀色の酒を注いだ。

 グラスの中で揺れる液体が、まるで彼の瞳の色のように見えた。

 

「マドゥワス卿は、これからどうされるおつもりでしょうか。ベレイン王国へ彼らだけで戻るとなれば、容易ではありません。」

「ふん。余からの路銀もある。この程度の旅路、踏破できぬようならそれまでの男だったということだ。」

 

 そう口では言いながらも、余は確信している。

 彼は死なない。

 あの強かな生存本能と、無駄に真面目な騎士道精神、そして彼を守るあの獰猛な猟犬たちがいる限り、必ず生き延びるだろう。

 

「行け、エヴァン。精々足掻いて、強くなれ。」

 

 余はソファーから立ち上がり、執務室の大きな窓へと歩み寄った。

 ガラスの向こうには、帝都の夜景が広がっている。その先、南へと続く広大な闇を見つめる。

 明日には、あの幼馴染たちに詰め寄られながら、必死に馬を走らせているのだろうか。

 

 その光景を想像するだけで、酒が美味い。

 逃がした魚は大きいと言うが、違うな。

 余が逃がしてやったのだ。

 より大きく、より美味しくなり、余の胃袋に収まるその日のために。

 

「だが忘れるなよ、エヴァン・クロード・マドゥワス。」

 

 窓ガラスに映る自分の顔は、酷く歪んだ、しかし歓喜に満ちた笑みを浮かべていた。

 

「この広い大陸のどこにいようと……余はお前を見ているぞ。」

 

 獲物が逃げれば逃げるほど、狩りは楽しくなるものだ。狩りは貴族の嗜みだと、いつぞやか言っていたな....あれは誰であったか……。

 まぁ興味のない人間なぞどうでも良いから、いちいち覚えてはおらんが。

 

「マイヤ、余の『目』を放て。彼奴の動向は逐一報告させろ。」

「……はッ。既に手配しております。」

「仕事が早くて助かるな。」

 

 愛しい獲物は、まだ自分が長い長いリードに繋がれていることに気づいていない。

 その無知すらも、愛おしい。

 

 いつか再び会うその時、彼がどんな顔で絶望し、そしてどんな甘い声で鳴くのか。

 余は今から、楽しみで仕方がないのだ。

 

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
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