姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる 作:お庭屋さん
轟音と共に、世界がひしゃげる。
それは剣戟などという生易しいものではなかった。
トップスピードに乗った騎馬の質量と、魔術によって強化された肉体の運動エネルギーが、一点に集中して敵の前衛に炸裂したのだ。
最前列で盾を構えていた敵兵たちが、紙細工のように吹き飛ぶ。
悲鳴を上げる暇すらなかっただろう。鎧は捩じ切れ、肉が潰れる湿った音が、乾いた破砕音に混じって響く。
「――止まるなッ!! 駆け抜けろォォッ!!」
僕は愛馬オニキスの腹を蹴り、さらに加速を促した。
目の前に立ち塞がるのは、混乱の渦中にある討伐軍の兵士たち。
彼女たちの顔には、恐怖と困惑が張り付いている。
無理もない。霧の中から突如現れた「死神」に、為す術もなく仲間が挽肉に変えられているのだから。
「ひ、ひぃッ!? ば、化け物……!」
「ど、どけ! 殺されるッ!」
逃げようと背を向けた兵士の背中を、僕の剣が切り裂く。
魔術強化を施され、鍛え上げられた僕のロングソードは、吸い込まれるように敵の急所を捉え、命を刈り取っていく。
罪悪感はなかった。
彼女たちは、母上を殺し、罪なき領民を蹂躙しようとした侵略者だ。慈悲など必要ない。
「――邪魔だ!!」
僕の右側面で、轟音が響いた。
ルイーズだ。
彼女は馬上から、身の丈ほどもあるクレイモアを横薙ぎに振るっている。
本来、騎上で扱うには不向きなはずの重量級の剛剣。だが、今の彼女にとってはその重さこそが最大の武器だった。
耳を塞ぎたくなるような音を轟かせ、敵の重装兵が掲げた大盾ごと、兜が、肩が、そして胴体が粉砕される。
斬るのではない。叩き潰す。
鉄塊による暴力的な破壊。
返り血で金髪を赤く染めた彼女の碧眼は、凍てつくように冷たく、そして昏い。
「エヴ様の通り道です。……肉片一つ残さず消えなさい。」
かつての彼女は、騎士道に則り、相手にも敬意を払う美しい戦い方を好んでいた。
だが、今の彼女は正真正銘の「修羅」だ。
主君の行軍を阻む障害物を排除する、ただそれだけの殺戮機械。
そして、変わってしまったのは彼女だけではない。
「殺せ! 殺せェッ!!」
「ラウラ様を返せ! 返せよぉッ!!」
僕の後ろに続くマドゥワス騎士団の少女たち。
幼い頃から共に剣を学び、猥談で盛り上がりもした幼馴染の騎士や、まだあどけなさの残る十代の従騎士たち。
普段なら年相応に目を輝かせる彼女たちが、今は鬼のような形相で剣や槍を振るっている。
敵の喉元に穂先を突き刺し、絶命するまで何度も、何度も突き入れる。
ぐしゃぐしゃになった顔で、獣のような咆哮を上げながら、敵を刺し殺していく。
その姿はあまりにも痛々しく、そして頼もしかった。
彼女たちの純粋な愛情が、反転して純粋な殺意となっているのだ。
「……うわぁ。こいつはたまげたね。」
左側面を走るバルバラが、呆れたような、それでいて戦慄したような声を漏らした。
歴戦の傭兵である彼女でさえ、顔を引きつらせている。
「お上品な騎士様かと思ってたら、とんだ勘違いだ。……ウチの若い連中よりよっぽどタチが悪いよ。」
言いながらも、バルバラは手にした戦斧で敵兵の頭蓋をカチ割った。
「おい! 女郎ども! 遅れんじゃないよ! マドゥワスの嬢ちゃんたちに負けてたら、天下の『赤錆の風』の恥だ!!」
「「「へいッ! お頭!!」」」
傭兵たちが狂ったような笑い声を上げて続く。
彼女たちは騎士団が食い破った傷口をさらに広げ、混乱する敵兵を確実に仕留めていく。
マドゥワス騎士団という鋭利な切っ先が道を拓き、赤錆の風という毒が傷口を腐らせるのだ。
敵の陣形『長蛇』は、その横っ腹を完全に食い破られていた。
僕たちは止まらない。
目指すは、この混乱の奥にいる敵の本隊――そして、この軍を率いる指揮官の首だ。
「――全軍、吶喊ッ!!」
僕の号令に、血塗れの乙女たちが呼応する。
復讐の宴は、まだ始まったばかりだ。
☆
タラル平原を覆っていた濃霧が、急速に晴れていく。
視界が開けると同時に、眼下に広がる戦場の全貌が明らかになった。
本陣のある小高い丘の上で、北部諸侯連合軍の総大将、私……ゾーラ・フォン・アウグスは、愛用の馬上槍を片手に戦況を見下ろしていた。
その黄金の瞳が、鋭く戦場を射抜く。
「……見事だ。」
短く、しかし深い感嘆の言葉思わずが漏れた。
彼女の視線の先――敵軍である討伐隊の陣形のど真ん中に、巨大な亀裂が走っていたからだ。
横に長く伸びた『長蛇の陣』。
その腹を食い破るように、漆黒の楔が深々と突き刺さっている。
エヴァン率いるマドゥワス騎士団と、バルバラの傭兵団、そして我が軍から貸与した重装騎兵部隊だ。
彼らはまさに報復の矢となり、敵の防衛線を粉砕し、肉を裂き、骨を砕いて、敵の中枢へと直進していた。
「ひ、左翼、崩壊ッ! 支えきれません!」
「中央も突破されました! 敵の勢いが止まらないッ!」
風に乗って、敵軍の悲鳴に近い報告が聞こえてくるようだ。
指揮系統は寸断され、兵士たちはパニックに陥り、右往左往している。
マドゥワスの若き領主が放った一撃は、単なる物理的な打撃以上の効果――「恐怖」という毒を敵全体に回らせていた。
「……ラウラよ。貴様の息子は、貴様が思っていた以上に『男』ではないのかもしれんぞ。」
私はかつて憎んだ亡き盟友を想い、口元を緩めた。
だが、次の瞬間には、その表情は冷徹な指揮官のものへと戻す。
「好機だ。……これより、『狩り』を始める。」
彼女は馬上槍を天へと掲げた。
その穂先が、太陽の光を浴びて煌めく。
「伝令ッ! 全軍に告ぐ!」
腹の底から響く号令が、本陣の空気を震わせた。
「敵の『長蛇』は胴体を断ち切られた! もはや奴らは蛇ではない、ただのミミズだ! ……左右の翼を展開せよ! 分断された敵を包囲し、一匹たりとも逃がすな!!」
ドォォォォンッ!! と合図となるドラが打ち鳴らされ、待機していた北部諸侯の軍勢が、堰を切ったように動き出した。
「「「ウオオオオオオオオオオッ!!!!」」」
地響きと共に、左右に展開していた騎兵隊が敵の両翼へと襲いかかる。
中央を突破され、指揮系統を失った敵軍に、側面からの攻撃を防ぐ術はない。
右から、左から。
鋼鉄の波が押し寄せ、混乱する敵を飲み込んでいく。
「……ふん。幕引きにはまだ早いが、勝負は決したな。」
私は鼻を鳴らし、再び視線を中央へと戻した。
そこには、未だ止まることなく敵陣の奥深くへと突き進む、小さな、しかし誰よりも力強い「鏃」の姿があった。
「行け、エヴァン。……その剣で、我らの正義を証明してみせろ。」
包囲網は完成しつつある。
あとは、彼が敵の心臓を貫くだけだ。
☆
ゾーラ伯爵の包囲網が敵の両翼を締め上げる中、僕たちマドゥワス騎士団は、敵陣のさらに奥深くへと突き進んでいた。
前衛の雑兵たちは既に蹴散らされ、生き物だったものの山と化している。
だが、その奥――敵の本陣を守るように展開していたのは、これまでの烏合の衆とは違う、整然とした「壁」だった。
「――構えッ!!」
野太い号令と共に、数百の重装歩兵が隙間なく大盾を連結させ、槍の穂先を突き出した。
密集陣形、ファランクス。
王国正規軍が誇る、鉄壁の防御陣形だ。
彼女たちの装備は統一されており、その瞳には恐怖ではなく、エリート特有の矜持と敵意が宿っている。
「止まれッ! 逆賊ども!!」
指揮官らしき女騎士が、盾の隙間から剣を突きつけて叫んだ。
「貴様らが勢いだけでここまで来たことは認めてやる! だが、正規軍の精鋭を舐めるな! 我らが鉄壁、貴様らごとき田舎騎士に破れるものか!!」
「……チッ、面倒な!」
バルバラが舌打ちをする。
彼女の戦斧が唸るが、密集した盾の壁は分厚く、簡単には崩せそうにない。
無理に突っ込めば、隙間から突き出される無数の槍の餌食になる。
勢いが止まる。
その一瞬の停滞が、命取りになるかもしれない。
「――下がっていてください、エヴ様。」
静かな、しかし有無を言わせぬ声が響いた。
ルイーズだ。
彼女はオニキスの前にゆっくりと馬を進めると、その碧眼で敵の盾の壁を見据えた。
「鉄壁……ですか。笑わせますね。」
彼女はクレイモアを片手で担ぎ直した。
その切っ先が、敵の指揮官を指し示す。
「ラウラ様が守ろうとした国を、民を、己の保身と欲のために食い物にする貴女たちが……何を偉そうに!」
「なっ……!? 小娘が、生意気な!」
「貴女たちのその薄っぺらい誇りごと、私が叩き潰します。」
ルイーズが鐙を踏み込み、馬を急加速させた。
真正面から。
小細工なしの、一直線の突撃。
「馬鹿め! 串刺しにしてくれるわ! ……放てッ!!」
指揮官の合図で、無数の槍がルイーズに向かって繰り出される。
だが、彼女は避けなかった。
彼女が振るったのは、防御のための剣ではない。
ただひたすらに、目の前の全てを破壊するための一撃。
「――ムンッ!!!」
空気が破裂するような轟音。
黒い鉄塊が、遠心力と魔力強化、そして彼女の激情を乗せて旋回し、突き出された槍の穂先が、飴細工のようにへし折れる。
そのまま剣速は衰えることなく、指揮官が構えていた大盾に直撃した。
バギィィィィンッ!!!!
金属が悲鳴を上げ、粉々に砕け散る。
盾だけではない。
その向こう側にいた指揮官の鎧が、兜が、そして肉体が、強烈な衝撃に耐えきれず、歪み、弾け飛んだ。
「あ……が……ッ!?」
指揮官だったものは、半身を失い、血の霧を撒き散らして吹き飛んだ。
彼女の後ろにいた数人の兵士たちも、将棋倒しのように巻き込まれて倒れ伏す。
「……な……隊長……!?」
「ば、化け物……!」
静寂。
そして、爆発的なパニック。
絶対的な自信を持っていた「鉄壁」を、たった一人の少女に、たった一撃で粉砕されたのだ。
正規兵たちの戦意が、音を立てて折れた瞬間だった。
「――今だッ!! 畳み掛けろ!!」
僕は叫び、崩れた陣形の隙間へとオニキスを走らせた。
「マドゥワス騎士団、突撃!!」
「ハハッ! 美味しいとこもってきやがって! お前らも続くんだよ!!」
一面に雪の降り積もった平原に雪崩が起きた。
敗走を始めた兵士の雪崩である。
指揮官を失い、盾を砕かれた敵軍に、もう僕たちを止める力は残っていなかった。
メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!
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ルイーズ・ロンズデール
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ネリー
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サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
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アンドレア殿下
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ガーベラ
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アグニ
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バルバラ
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上記以外のキャラクターは感想等で教えてね