姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる   作:お庭屋さん

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やること無くて書き続けてるので、ちょっと雑かもしれないです。やっつけ感も楽しんでください。


第7話:スリヒ台地 Ⅰ

 台地を吹き抜ける風は、夕闇の訪れと共にその冷たさを増していた。

 赤茶けた岩肌が続く荒涼とした大地。

 視界を遮るものといえば、風化によって奇妙な形に削られた岩塔と、地を這うように生えた低木のみ。

 太陽が西の地平線に沈みかけ、長い影が大地を侵食し始めた頃、我らが騎士団は、夜を凌ぐための岩場へと到着した。

 

「総員、停止ーッ!」

 

 先頭を行く僕の合図など待つまでもなく、副団長ルイーズの手信号一つで、30騎の隊列は一糸乱れぬ動きで停止した。

 蹄の音が止むと、耳に残るのは風の唸り声だけとなる。

 

「どうでしょうエヴ様。陽も落ちて来ましたし、今晩はこの辺りで夜営というのは。」

「ん、そうだな。馬のおかげで当初の予定よりかなり移動できたし、そろそろ寝床の準備をしようか。」

「かしこまりました。総員傾注!今晩はここで夜を明かす!」

 

 僕は愛馬オニキスの首を軽く叩き、鞍から降り立った。長時間の騎乗で固まった体をほぐす間もなく、周囲ではすでに野営の準備が始まっていた。

 

「第1班、馬留めの設営とブラッシングを。第2班、テント設営。第3班は周辺警戒と炊き出しの準備。……迅速に動け。」

「「「ハッ!」」」

 

 ルイーズの短く的確な指示に対し、騎士たちは無駄のない敬礼で応える。

 正規騎士10名、従騎士20名。

 彼女たちの動きは、洗練された軍隊そのものであった。

 荷馬車から手際よく資材が降ろされ、硬い岩場に杭が打ち込まれる。天幕が張られ、焚き火用の穴が掘られる。

 その光景には、一切の淀みがない。

 僕は、自分が手持ち無沙汰であることを自覚し、せめて自分の乗馬の世話くらいはしようと、オニキスの腹帯に手を掛けた。

 

「長旅ご苦労さま、オニキス。鞍を外してやるからな。」

「ブルルッ。」

 

 こんなもん楽勝だ、と言わんばかりに嘶くオニキスの首を叩き、褒めてやる。

 この馬であれば、広大なスリヒ台地であろうと踏破することなど容易であろうと思わせてくれる走りぶりであった。いやはや、馬は騎士の宝とはいうが正しくである。

  

 オニキスが大人しく首を垂れた、その時だった。

 

「お待ちください、エヴ様。」

 

 背後から、氷のように冷たく、しかし芯に熱を帯びた声がかかる。

 振り返るまでもない。ネリーだ。

 いつの間にか僕の背後に音もなく忍び寄っていた彼女は、私が腹帯にかけた手首を、傷つけないよう優しく、しかし抗えない力で掴み取った。

 

「ネリー。……これくらい、自分でやるよ。」

「なりません。エヴ様の御手は、剣を振るうか、民を導くためにあるものです。馬具の泥汚れに触れてよいものではありません。」

「しかしだな、主たる者、愛馬の世話をするのは当然の務めだろう?オニキスも気難しい馬だし、他の者ではな……。」

「その務めを果たすのが、我々従者の役割です。……おい、ミリア!」

 

 ネリーが鋭く名を呼ぶと、近くで杭を打っていた従騎士の少女が、弾かれたように駆け寄ってきた。

 直立不動の敬礼。その顔は緊張で強張り、視線は僕の顔ではなく、僕の喉元あたりに一点固定されている。

 

「はッ! お呼びでしょうか!」

「エヴ様の馬装解除を引き継げ。……手抜かりのないようにな?」

「イエスマム! オニキス様の毛並み一本たりとも乱さぬよう、完璧に仕上げます!」

 

 ミリアは悲壮な決意を込めて叫ぶと、私の手から手綱を受け取った。

 その手は微かに震えている。

 恐怖ではない。憧れの団長の愛馬に触れるという光栄と、失敗すれば先輩騎士たちに何をされるか分からないという重圧によるものだ。

 

「……頼んだよ、ミリア。オニキスは耳の後ろを撫でてやってくれ、好きそうだから。」

「っ!? は、はいぃッ!!」

 

 僕が声をかけると、彼女は顔を真っ赤にして裏返った声を上げた。

 周囲の騎士たちの手が、一瞬だけピタリと止まる。

 無数の視線がミリアの背中に突き刺さるのを肌で感じた。それは決して声に出されることはない。

 だが、その沈黙こそが何よりも重い「羨望」と、ミスを許さない「監視」の圧力となる。

 

 そんな無言の圧力が、風に乗って渦巻いている。

 僕は小さくため息をつき、オニキスから離れた。

 居場所がない。

 彼女たちは優秀だ。あまりに優秀すぎて、僕が介入する余地など一ミリも残されていない。

 

「エヴ様。こちらへ。」

 

 ルイーズに促された先には、すでに特等席が用意されていた。

 風除けとなる大岩の陰。地面には厚手の毛皮が敷かれ、背もたれ代わりのクッション、恐らく誰かの私物だろう、刺繍入りの上等なものに見える。

 焚き火の煙が届かず、かつ全体を見渡せる、王座のような配置だ。

 

「……ルイーズ。僕だけ特別扱いは止めてくれと言ったはずだが。」 

「特別扱いではありません。指揮官が最良の状態で休息を取ることは、部隊の生存率に直結する重要な戦略です」

 

 彼女は真顔で言い切った。

 その理屈には一理あるかもしれないが、30人の女性が固い地面や薄い毛布で寝る中、男一人がフカフカの毛皮で寛ぐというのは、前世の感覚を持つ私にとっては拷問に近い居心地の悪さだ。

 

 だが、拒否すれば彼女たちは悲しむだろう。

 あるいは、「我々の配慮が足りなかった」と自らを罰し始めるかもしれない。

 僕は半ば諦めて、その特等席に腰を下ろした。

 

「……ありがとう。助かるよ。」

「勿体なきお言葉。」

 

 ルイーズは深々と頭を下げ、踵を返した。

 その背中からは、「エヴ様を座らせる任務、完了」という達成感が滲み出ているように見えた。

 

 空は急速に群青色へと染まっていく。

 焚き火に火が灯され、パチパチという爆ぜる音が響き始める。

 騎士たちは無言で作業を続けている。

 テントが張り巡らされ、簡易的な防壁が築かれる。

 その光景は、一つの要塞が組み上がっていく様を見ているようだった。

 

 過剰なまでの防衛体制。

 それはスリヒ台地の魔物に対する警戒ではない。

 この世界において、「男」という存在がいかに脆く、奪われやすく、そして守るべき希少なものであるか。

 彼女たちの背中が、無言のうちにそう語っていた。

 

 

 ☆

 

 

 夜の帳が完全に下りると、スリヒ台地は漆黒の闇に包まれた。

 ごうごうと吹き荒れる風の音だけが、世界の全てを支配しているかのよう。

 だが、岩場を利用して築かれた我々の野営地だけは、まるで嵐の中の孤島のように、暖かな火の光に守られていた。

 

 そして、夕食の時間。

 ここへ来てようやく、昼間から続いていた「張り詰めた沈黙」が破られた。

 

「おーいエヴァン! 肉だ肉! 特大のを焼いてやったぞ!」

 

 豪快な声と共に、私の前にドカリと座り込んだのは、燃えるような赤髪をポニーテールにした幼馴染の一人。

 第二小隊長を務める騎士、サーシャだ。

 彼女は串刺しにした巨大な肉塊を、まるで聖火のように掲げている。

 滴る肉汁、程よく焦げ目のついたソレは食欲を唆る。

 

「サーシャ、声が大きい。……ありがとう、頂くよ。」

「遠慮すんなって! ほら、こっちはアタシの特製スープだ。精力がつくキノコが入ってるからな、残さず飲めよ?」

「精力って……何をさせる気だね。」

 

 僕が苦笑すると、周囲の騎士たちからもドッと笑いが起きた。

 昼間の行軍中は「規律正しい軍人」の顔をしていた彼女たちだが、ひとたび兜を脱げば、そこにあるのは故郷で共に育った幼馴染たちの顔だ。

 男卑女尊の社会において、彼女たちは私の「盾」であり「剣」だが、同時に気の置けない「姉妹」のような存在でもある。

 

「ねぇエヴ様、私のパンも召し上がってください。フワフワですよ。」

「ずるいぞルイーズ! エヴァンはアタシの肉から食うんだ!」

「あはは、顔が赤いですよ!ささ、エヴ様?こちらの果実水をどうぞ。よければ私の膝枕も合わせて……。」

「「ネリー!貴様!」」

 

 ……騒がしい。

 右からサーシャが肉を突き出し、左からルイーズが白パンを差し出し、背後ではネリーが隙あらば膝枕へ誘導しようと画策している。

 

 規律正しい軍隊? どこがだ。

 今はただの「エヴァン大好きクラブ」の定例集会と化している。

 

「みんな、落ち着いてくれ。自分で食べられるから!」

「ダメです! エヴ様の手は剣を握るためのもの。スプーンなんて重い物を持たせるわけにはいきません!」

「スプーンくらい持てるよ!というか剣より重いスプーンがあってたまるか!」

 

 僕が抗議すると、再びドッと笑い声が上がった。

 従騎士の少女たちも、最初は遠慮していたが、先輩たちの勢いに飲まれて楽しそうに笑っている。

 彼女たちは、騎士である前に、僕と同じ故郷で育った幼馴染であり、普通の少女たちなのだ。

 

「あーあ。昔はエヴァン、もっと素直だったのになぁ。」

「そうそう! 泥だらけになって帰ってきて、私たちによく泣きついてきたっけ。」

「可愛かったですよねぇ。今も可愛いですけど。」

 

 焚き火を囲みながら、昔話に花が咲く。

 この世界では「男は守られるもの」だが、ガキ大将だったサーシャや、おませだったルイーズに振り回されていた記憶は、僕にとっても懐かしく、温かいものだ。

 

 アンドレア殿下の城での緊張感ある日々とは違う、気の置けない空気。

 少し過保護すぎるし、スキンシップが激しすぎるが、悪い気分ではない。

 だが、この温かさが、僕の心を救っているのも事実だった。

 

「……ふぅ。ちょっと飲みすぎたかな。」

 

 果実水、と彼女たちが言うが、度数の低い酒だろう。

 少し顔が熱くなった僕は、輪を離れて立ち上がった。

 

「おや、どちらへ? トイレならお供しますけど。」

「いらないよ! ……オニキスの様子を見てくるだけだ。すぐ戻る。」

 

「えーっ」というブーイングを背に受けながら、僕は逃げるようにその場を離れた。

 これ以上あそこにいると、本当に骨抜きにされそうだ。

 

 野営地の端、闇との境界線に愛馬オニキスは繋がれていた。

 彼女は僕が近づくと、座り込んでいた体を起こし、低い声で嘶いた。

 

「よう。お前も、あの騒ぎは苦手か?」

 

 僕が苦笑しながら首筋を撫でると、オニキスは「フン」と鼻を鳴らし、僕の胸に顔を擦り付けてきた。

 その体温と、静かな鼓動が心地よい。

 

「ブルルッ。」

「ハハッ騒がしかったか?……でもまあ、悪い連中じゃないんだよ。」

 

 僕はオニキスの艶やかな黒い毛並みに寄りかかり、夜空を見上げた。

 満天の星が、台地の冷たい空気に研ぎ澄まされ、突き刺さるように輝いている。

 背後からは、まだ「あーん」だの「こっち向いて〜」だのという楽しげな声が聞こえてくる。

 

 平和だ。

 束の間なのだろうけれど、和気藹々とする幼馴染達の声を聴きながら夜風に当たるこの空気。

 嫌いじゃない。

 

 ……だが、その平和な空気を、オニキスの異変が切り裂いた。

 ビクッ、とオニキスの耳が動く。

 彼女は僕の胸から顔を上げ、風下、闇の奥深くをじっと睨みつけた。

 耳が後ろに倒れている。最大級の警戒サインだ。

 

「……どうした、オニキス。」

 

 僕が囁くと、オニキスは地面を蹄で強く叩いた。

 風に乗って、微かに漂う臭い。

 料理の香りではない。もっと鼻を突く、脂と泥、そして錆びた鉄の臭い。

 風呂に入っていない人間特有の体臭だ。

 

 酔いが一瞬で覚めるのを感じた。

 前世の感覚を研ぎ澄ませる。

 闇の向こうで、何かが蠢いている。一つや二つではない。数にして50近く。

 

「……囲まれているな。」

 

 野盗だ。

 我々の楽しげな笑い声を、獲物の居場所を知らせる合図として集まってきたハイエナ共。

 僕は剣の柄に手を掛け、オニキスの背に飛び乗った。

 

「ヒヒ……。ツイてるねぇ。こんな上玉、帝都の遊郭でもお目にかかれないよ。」

 

 下卑た囁き声と共に、岩陰から姿を現したのは、薄汚い革鎧を纏った女たちだった。

 手には手入れのされていない斧や鉈。髪は乱れ、その瞳には理性よりも獣の欲望が色濃く宿っている。

 頭目と思しき巨躯の女が、歪んだ笑みを浮かべてこちらへ歩み寄ってくる。

 

「抵抗するんじゃないよ、坊や。痛い目には合わせない。……たっぷりと可愛がってやるからさ。」

 

 逃げ場はない。野盗たちは勝利を確信し、獲物を品定めするような粘着質な視線を一斉に注いでくる。

 彼女たちの目的は金品ではない。僕という「男」そのものだ。

 いやはや、全く不快である。

 

 息を吐き、抜刀しようとした。

 だが、それよりも早く。

 

「不愉快だ。」

 

 先ほどまでの楽しげな喧騒が、嘘のように消え去っていた。

 僕の前に立ち塞がったのは、副団長ルイーズ。

 その手にはツヴァイハンダーが握られ、全身から殺気立っている。

 構えはない。

 だが、全身から放たれる凍てつく殺気が、野盗たちの足を縫い止める。

 

「あァ? なんだそのナマクラは。貴族のお嬢ちゃんの護衛ごっこかい?」

 

 頭目の女が嘲笑を浮かべた、その刹那。

 風が爆ぜる音がした。

 ルイーズの大剣が、豪風と共に一閃されたのだ。

 

 悲鳴を上げる間もなかった。

 巨躯の頭目の上半身が、水風船のように弾け飛び、肉塊となって岩盤へ叩きつけられる。

 ドサリ、と下半身だけが崩れ落ち、断面から鮮血の噴水が上がった。

 

 静寂。

 野盗たちは、目の前で起きた事象を理解できず、呆然と立ち尽くしていた。

 

「総員、殲滅を。……この汚物どもを、エヴ様の視界から消し去れ。」

 

 ルイーズの無機質な号令が下された。

 次の瞬間、闇の中から30の影が躍り出た。

 サーシャが、ネリーが、そしてミリアたち従騎士が、無表情で各々の武器を構えている。

 さっきまで笑い合っていた「幼馴染」の顔は、そこにはない。

 あるのは、「主を汚そうとした害虫を駆除する」という、冷徹なる処刑人の顔のみ。

 

「ひ、ひぃッ!?身体強化魔法!?」

「こいつら、正規兵だ!? それも精鋭の……ギャアッ!!」

 

 逃走を図る野盗の背を、サーシャの槍が正確無比に貫き、心臓を抉る。

 ネリーの振るうアーミングソードが野盗の首を躊躇なく跳ね飛ばす。

 従騎士たちは盾を使い、敵を押し包み、体勢を崩したところを短剣やショートソードで喉を掻き切っていく。

 

 命乞いなど許さない。降伏すら認めない。

 断末魔の叫びと、肉が斬り裂かれる濡れた音だけが響く。

 それは戦闘と呼ぶにはあまりに一方的な、熟練者による「清掃作業」であった。

 

 わずか数分。

 スリヒ台地の乾いた地面には、48人の野盗たちが物言わぬ骸となって転がされていた。

 生存者はゼロ。徹底的な殲滅だった。

 

「……クソッ! 近づくんじゃないよ!」

 

 唯一、包囲を抜けた小柄な野盗が、錯乱状態で僕の方へと駆け寄った。

 自身の生存本能のみに従い、人質を取ろうとした浅はかな判断。女がナイフを振り上げ、僕の喉元へと迫る。

 僕は動かなかった。いや、動く必要がなかったのだ。

 

 ドカァッ!

 

 オニキスの強靭な後肢が、美しい軌道を描いて女の頭部に炸裂した。

 頭蓋が砕ける嫌な音が響き、女の身体は糸の切れた人形のように吹き飛び、二度と動かなくなった。

 

「……状況終了。」

 

 ルイーズが、大剣についた血糊を布で拭いながら、静かに告げた。

 乱れた呼吸一つない。血の海の中に立ちながら、彼女たちは何事もなかったかのような涼しい顔で、私の前に跪く。

 

「エヴァン様。お目汚しをいたしました。」

「全く心強い事この上ないな。見事な手際だったよ。」

 

 短く労いの言葉をかけ、剣から手を離した。

 彼女たちは「女」である以前に、ベレイン王国が誇る精鋭騎士団なのだ。

 僕という男一人を守るために発揮されるその過剰なまでの武力と、敵に対する一片の慈悲もない冷酷さ。

 その切っ先が、決して自分に向くことがないよう祈ろう。うん。

 

 台地を吹き抜ける風が、血の匂いを彼方へと運んでいく。

 動くもののいなくなった荒野で、マドゥワス騎士団の夜は、再び死のような静寂を取り戻したのであった。

 

メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!

  • ルイーズ・ロンズデール
  • ネリー
  • サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
  • アンドレア殿下
  • ガーベラ
  • アグニ
  • バルバラ
  • 上記以外のキャラクターは感想等で教えてね
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