姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる 作:お庭屋さん
スリヒ台地を行く旅路は、順調そのものだった。
順調すぎて、怖いと言ってもいい。
この台地は、グラディウス帝国と南方の諸国を隔てる天然の要塞だ。
切り立った崖、迷路のように入り組んだ岩場、そして何より、旅人を狙う獰猛な魔物たちの巣窟として知られている。
本来ならば、一歩進むごとに命を削るような緊張感を強いられる場所のはずなのだが……。
「……暇だ。」
僕はオニキスの背に揺られながら、何度目かわからないボヤきを心の中で漏らした。
僕の周囲、半径五メートル。
そこは、物理的な「絶対安全圏」となっていた。
前後左右を固めるのは、我がマドゥワス騎士団の精鋭たち。
彼女たちは、まるで歩く要塞だ。
岩陰からゴブリンが顔を出そうものなら、その鼻先が見えた瞬間に、サーシャの投げた槍が眉間を貫いている。
上空から怪鳥が急降下してくれば、ネリーがノールックで投石し、撃ち落とす。
たまに地面から這い出てくる巨大サソリに至っては、ルイーズがツヴァイハンダーを振るうまでもなく、従騎士たちの集団リンチ……もとい、連携攻撃によって砂塵と化していた。
僕が抜刀する機会?
あるわけがない。
僕が剣の柄に手をかけただけで、「団長!お手が汚れます!」「我々の職務怠慢だと思われます!」と、悲痛な叫びと共に全力で阻止されるのだから。
おかげで僕は、この過酷なスリヒ台地を、まるで貴族の庭園を散歩するかのように進んでいた。
いや、散歩にしては、周囲の視線が熱すぎるけれど。
「……なぁオニキス。僕、そろそろ身体動かさないと鈍るんだけど。」
僕が愛馬の首筋を撫でて愚痴ると、オニキスは「フン」と鼻を鳴らし、鬱陶しそうに頭を振った。
『知るか。黙って乗ってろ』とでも言いたげだ。
最近、こいつのツンデレの比率が「ツン9:デレ1」くらいになってきている気がする。
最初に見せたあのデレは、幻覚だったのだろうか。
☆
そんな平和(?)な行軍が三日ほど続いた、ある日の昼下がり。
変化は唐突に訪れた。
「……停止。」
先頭を行く斥候役のミリアが、音もなく右手を上げた。一糸乱れぬ統率で、隊列がピタリと止まる。
風の音が止むと、微かにだが、乾いた岩肌に反響する喧騒が聞こえてきた。
金属がぶつかり合う音。
そして、男の悲鳴と女の怒号。
「戦闘音です、エヴ様。……風向きからして、1キロ先。街道の難所、『双子岩』のあたりかと。」
スッと馬を寄せてきたネリーが、冷静に分析を報告する。
「規模は?」
「攻め手は魔物の群れ。数は三十から四十。守り手は……キャラバンのようですね。護衛もいますが、劣勢です。」
商隊か。
この時期にスリヒ台地を超えるとは、随分と命知らずな連中だ。
あるいは、それだけ実入りのいい商売をしているのか。
どちらにせよ、見捨てるという選択肢は僕にはない。
騎士道精神云々以前に、同じ人間が魔物の餌になるのを黙って見過ごすほど、僕は落ちぶれてはいないつもりだ。
「よし。救援に向かうぞ。マドゥワス騎士団、戦闘隊形!」
僕が声を張り上げると、騎士たちの背筋がバチッと伸びた。
先ほどまでの「エヴァン様を見守る会」の空気は消え失せ、歴戦の猛者たちの顔になる。
この切り替えの早さは、何度見ても頼もしい。
「総員、突撃ィィィッ!!」
「「「ウラァァァァァッ!!!」」」
地鳴りのような咆哮と共に、僕たちは荒野を駆けた。
オニキスが凄まじい加速で大地を蹴る。
風を切り、岩を飛び越え、現場へと急行する。……はずだったのだが。
「エヴ様!危ないですから下がっていてください!!」
「第二小隊!団長を囲め!絶対に前に出すな!流れ矢一本通すんじゃないよ!」
「スクラム組めェ!肉の壁を作れェ!!」
現場に到着した瞬間、僕はまたしても「守護られるヒロイン」ポジションへと押し込められてしまった。
僕の視界を塞ぐのは、従騎士たちの背中、背中、背中。
隙間からチラリと見えるのは、巨大なハサミを持った『ストーンクラブ』の群れが、我が騎士団の暴力的な蹂躙によって甲羅ごと粉砕されていく光景だけだった。
「ギャアアアッ!」
「キシャアアアッ……!」
カニたちの断末魔が響く。
硬い甲羅も、ハサミの脅威も、ルイーズの大剣の前では豆腐同然だ。
彼女が剣を一閃させるたびに、カニ味噌と甲羅の破片が盛大に宙を舞う。
ネリーは盾で突進を受け止め、隙間に剣を突き刺して確実に仕留めていく。
強い。強すぎる。
助けを求めていた商隊の護衛たちが、ポカーンと口を開けて呆然としているのが見えた。
うんうん。わかるよ。僕も最初はそうだった。
戦闘は、ものの数分で終わった。
40匹近くいたストーンクラブの群れは、一匹残らずスクラップと化し、台地の土へと還っていった。一部は今晩の夕食になるだろう。カニパだ。カニパ。
「……状況終了。負傷者なし。」
ルイーズが血振るいをし、大剣を背中の鞘に納めながら戻ってくる。
その顔には汗一つかいていない。
「お見事。相変わらずの手際だね。」
「お褒めに預かり光栄です。……しかし、雑魚にしては数が多かったですね。」
僕が声をかけると、彼女は少しだけ表情を緩めたが、すぐに警戒の色を戻して商隊の方を見た。
魔物の襲撃を受けていた商隊は、馬車が5台ほどの中規模なものだった。
幌が破れ、積み荷が散乱し、護衛の傭兵たちが数名、血を流して座り込んでいる。
「た、助かりました……! もうダメかと……!」
馬車の陰から、一人の女性が転がるようにして駆け寄ってきた。
豪奢な、しかし旅装には不向きな派手なドレスを纏った、恰幅のいい中年のオーク女性だ。
指には宝石のついた指輪がジャラジャラと嵌められ、強烈な香水の匂いが漂ってくる。
典型的な「成金商人」といった風情である。
「我々はベレイン王国の騎士だ。通りかかったのも何かの縁。無事で何よりだよ。」
僕が馬から降りて声をかけると、商人の女性はパッと顔を輝かせた。
だが、その視線は僕の顔を見た瞬間、怪訝なものへと変わった。
「おや? 男……? 騎士様はどちらに?」
あー、はいはい。
このパターンね。
慣れたものだ。この世界では、男が甲冑を着て帯剣している姿など、猿がドレスを着ているようなものなのだろう。
「私が騎士団長のエヴァン・クロード・マドゥワスだ。部下が失礼した。」
僕が努めて威厳のある声で名乗ると、商人は「ほう……」と目を丸くし、値踏みするように僕の全身をジロジロと舐め回した。
……不快だ。
まるで市場の肉を見るような、粘着質な視線。
アンドレア殿下のそれとは違う、もっと下卑た、欲望と計算が入り混じった目つき。
「へぇ……。男だてらに騎士団長とは。それに随分と……立派な体躯をしておいでだ。」
彼女はニタリと笑うと、馴れ馴れしく僕の腕に触れようとした。
しかし、その手が届くより早く、スッと銀色の影が割り込む。
「離れろ。下衆。」
ネリーだった。
彼女は無表情のまま、商人と僕の間に割って入り、剣の柄に手を掛けている。
殺気こそ漏らしていないが、その瞳は「次は斬る」と雄弁に語っていた。
「ヒッ……!?」
商人は悲鳴を上げて飛び退いた。
「失礼な人だねぇ! 礼を言おうとしただけじゃないか!」
「気安く触れるなと言っている。……我々の主は、貴様のような者が触れていい方ではない。」
ネリーの冷たい一喝に、商人は顔を赤くして黙り込んだ。
やれやれ、助けた相手と喧嘩をしてどうする。
「ネリー、いいから。……それで、商隊の主さん。怪我人は? 積み荷の被害は?」
僕が場を収めようと話を振ると、商人はふん、と鼻を鳴らしつつも、商売人の顔に戻った。
「護衛が数名やられたがね、まぁ代わりはいくらでもいるさ。積み荷の方は……ああ、そうだ! 『商品』が無事か見てこないと!」
彼女は慌てた様子で、一番後ろの馬車へと駆け出した。幌が完全に引き裂かれ、中が剥き出しになっている馬車だ。
商品?
宝石か、あるいは希少な魔導具か。
この台地を超えてまで運ぶのだから、さぞ高価なものなのだろう。僕は何気なく、彼女の後を追ってその馬車の中を覗き込んだ。
そして、息を呑んだ。
「……あ、あぁ……たす、けて……。」
「ひぃッ……! ぶ、打たないで……!」
そこにいたのは、人間だった。
いや、かつて人間としての尊厳を持っていたであろう、「ナニカ」だった。
狭い檻の中に、数名の男たちが詰め込まれていた。
彼らは一様に痩せ細り、肌は病的なまでに白く、顔には白粉が厚く塗られている。
身に着けているのは、薄い布切れ一枚か、あるいはボンテージのような革の拘束具。首には、犬のような首輪と鎖。
彼らの瞳には、知性の光がなかった。
あるのは、底知れぬ恐怖と、諦めだけ。
「よかったぁ! 無傷だね! あんた達はアタシの最高傑作なんだから、傷物になったら価値が暴落するんだよ!」
オーク商人は安堵の声を上げ、檻の隙間から手を伸ばして、一人の男の頬をペチペチと叩いた。
男はビクッと体を震わせ、媚びるように、しかし引きつった笑みを浮かべて商人の手に頬擦りをした。
「い、いい子……でしょ……ご主人、さま……。」
「ああ、いい子だねぇ。帝都のお貴族様が高値で買ってくださるはずさ。」
吐き気がした。
前世の記憶が、胃の腑から酸っぱいものをこみ上げさせる。
知識としては知っていた。
この世界では、男は「保護」される対象であり、時に「愛玩」される対象でもあると。
だが、目の前の光景は、「保護」などという生易しいものではない。
これは完全な「家畜」の扱いだ。
「……おい。それは、奴隷か?」
僕の声は、自分でも驚くほど低く、震えていた。
商人は振り返り、キョトンとした顔で言う。
「奴隷? 人聞きが悪いねぇ。これは『愛玩用男子』だよ。ちゃんと許可証も持ってる合法な商品さ。」
「愛玩用……?」
「そうさ。去勢も済ませてあるし、声帯も調整してある。躾もバッチリだ。……おや?」
商人はそこで、再び僕の方を見た。
そして、先ほどよりもさらに深く、ねっとりとした視線を僕の股間あたりに向けた。
「あんた、その体……種馬としては上等そうだねぇ。どうだい? 騎士なんて危ない真似はやめて、ウチに来ないか? 今なら特別に、厚遇で雇ってやるよ。……夜の相手も含めてね。」
彼女は、檻の中の男たちと僕を交互に見比べ、品定めをするように舌なめずりをした。
ブチッ。
僕の中で、何かが切れる音がした。
だが、それよりも早く。
「貴様。」
地獄の底から響くような声が、スリヒ台地の空気を凍りつかせた。
見れば、ルイーズがツヴァイハンダーを抜き放ち、切っ先を商人の鼻先に突きつけていた。
その瞳は、もはや人間のものではない。
完全な、殺戮者の目だ。
「今、なんとほざいた?」
「エヴ様を……我らが主を、奴隷と同列に語ったか……?」
ネリーもまた、いつの間にか商人の背後に音もなく立ち、短剣をその首筋に当てていた。
サーシャが、ミリアが、他の騎士たちが、無言で武器を構え、包囲網を狭めていく。
「ひッ……!?」
商人の顔から、一瞬で血の気が引くのが手に取るようにわかる。そんなビビるくらいなら、最初から騎士階級相手に無礼を働くなよブタめ。
「殺す。」
「八つ裂きでは生温い。」
「その舌を引き抜いて、カニの餌にしてやる。」
騎士団の全員から放たれる、どす黒い殺意の波動。
それは先ほどの魔物との戦闘時とは比較にならない、純度100%の「憤怒」だった。
……マズいな
僕は怒りを通り越して、別の意味で青ざめた。
このままでは、助けたはずの商人が、魔物よりも悲惨な肉塊に変わってしまう。
正直、この舐め腐ったメスオークをぶっ殺したい気持ちはあるけれど、指揮官である僕まで殺戮に染まる訳にもいくまい。
あくまで向こうは民なのだし。
あーあ、どうすっかなぁこれ。
メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!
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ルイーズ・ロンズデール
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ネリー
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サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
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アンドレア殿下
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ガーベラ
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アグニ
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バルバラ
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