姫騎士(肉食)共から貞操を守りつつ、僕の騎士道がハードモードすぎる 作:お庭屋さん
書きたいこと多すぎで旅全然進まなくてすまん。
「……待て。」
殺意の暴風が吹き荒れる中、僕は短く、しかしよく通る声で制止をかけた。
普通なら、激昂した女性騎士たちを止めるには、大声で怒鳴るか、力づくで割って入るしかないだろう。
だが、僕の部下たちに限って言えば、その必要はない。
僕の言葉は、彼女たちにとって絶対の勅命だからだ。
「「「ッ……!」」」
ルイーズが、ネリーが、そして取り囲んでいた三十人の騎士たちが、ピタリと動きを止めた。
寸止め、というレベルではない。
商人の鼻の頭に剣先が触れるか触れないか、というギリギリの距離で、完全硬直しているのだ。
全く、相変わらず変なところで器用な連中である。
「剣を引け。……丸腰の民に刃を向けるのは、マドゥワス家の騎士道に反する。」
僕は馬から降り、ゆっくりとルイーズの隣へ歩み寄った。
そして、彼女が握るツヴァイハンダーの柄に、そっと手を添える。
「それに……こんな下劣な輩の血で、君たちの誇り高き剣を汚してほしくない。」
僕が囁くと、ルイーズの瞳からスーッと殺気が引いていき、代わりにウットリとした陶酔の色が浮かんだ。
チョロイなぁ、君の将来が心配になるよルイーズ。
……いや、信頼関係が厚いと言っておこう。
「……仰せのままに。エヴ様がそう仰るなら、このゴミムシの命、今しばらく拾わせておきます。」
ルイーズは忌々しげに商人を睨みつけると、大剣をブンッ!と風切り音を立てて鞘に納めた。
ネリーや他の騎士たちも、不承不承といった様子で武器を下ろしていく。
「ヒッ、ヒィッ……あ、あ、ありがと……。」
腰を抜かした商人が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、へたり込んだまま後ずさる。
人種差別をする気は更々無いが、先程までの下卑たニヤケ面がここまで酷い泣き顔になると多少、胸の奥がスっとする。
……股間あたりが濡れている気がするが、紳士として見なかったことにしておこう。
「勘違いするな。君を助けたわけじゃない。」
僕は冷たく言い放つと、視線を後ろの馬車、あの檻へと向けた。
「鍵をよこせ。」
「は、はい……!? で、でもあれは商品で……!」
「聞こえなかったのか?」
僕が言うのと同時に、背後で三十人の騎士たちが一斉に「んん?」と威圧的に唸り声を上げた。
地鳴りのようなその圧力に、商人は「ヒィッ! 差し上げますぅ!」と悲鳴を上げ、ジャラジャラとした鍵束を放り投げてきた。
ガラ悪すぎやしないかとも思うけれど、こんな奴にはこれくらいの扱いで丁度良いだろう。
僕はそれを空中でキャッチすると、檻の方へと歩き出した。
檻の中では、男たちが身を寄せ合い、ガタガタと震えている。無理もない。
彼らにとって、今の状況は「怖いご主人様」が「もっと怖い武装集団」に脅されているという、地獄絵図でしかないのだから。
ガチャリ。
重たい鉄の錠前を開け、錆びついた蝶番が悲鳴のような音を立てて扉が開いた。
「……出ろ。もう自由だ。」
僕ができるだけ優しい声を意識して呼びかける。
だが、彼らは動かなかった。
それどころか、「許してください」「良い子にしますから」と、虚ろな目で呟きながら、さらに檻の奥へと縮こまってしまった。
……マジか。
僕は内心で舌打ちをした。彼らに植え付けられた「逃げられぬ。」という鎖は僕の想像以上に根が深い。
彼らの心は、完全に折られている。
「自由」という概念そのものが、彼らの中から消し去られているのだ。
恐怖と暴力、そして歪んだ依存によって支配された精神は、ただ檻を開けただけでは解放されない。
「おい、君たち。聞こえないのか。外に出るんだ。」
僕が檻の中に足を踏み入れると、一人の青年が、縋るように僕のブーツに抱きついてきた。
首輪と鎖をつけた、線の細い美少年だ。
「あ、新しいご主人様……ですよね? お願いです、捨てないで……何でもします、何でも……だから……。」
彼は僕の足を舐めんばかりの勢いで頬擦りし、上目遣いで媚びてくる。
その姿に、かつての人間としての尊厳は欠片もない。
胸が悪くなる。
これが、この世界の「男」の成れの果てか。
もし僕が前世の記憶を持たず、母上や幼馴染たちに守られていなければ、僕もこうなっていたのかもしれない。
そう思うと、背筋が寒くなった。
「……僕は君たちの主人じゃない。同じ男だ。」
僕はため息をつき、抱きついてきた青年の肩を掴んで、強引に引き剥がした。
そして、彼の目を真っ直ぐに見つめて告げる。
「いいか、よく聞け。僕は君を飼わないし、虐げもしない。……自分の足で立て。」
「え……?」
「君には足があるのだろう?鎖はもう外れている。どこへ行くのも、何をするのも君の自由だ。」
僕は彼の首輪に手を掛け、魔力を込めてねじ切った。
パキン、という乾いた音がして、金属の輪が地面に落ちる。
青年は呆然と、自分の首筋を触った。
そして、信じられないものを見る目で僕を見た。
「じ、じゆう……? でも、男が一人でなんて……生きていけません……。」
「生きていけるさ。……少なくとも、誰かのペットとして死ぬよりはマシな生き方ができる。」
僕は立ち上がり、檻の中にいる他の男たちにも声をかけた。
「君たちもだ。行け。近くに街があるはずだ。そこへ行くなり、故郷へ帰るなりしろ。」
男たちは互いに顔を見合わせ、おずおずと檻から出てきた。
彼らの足取りは覚束ず、生まれたばかりの小鹿のように震えている。
だが、その瞳には、先ほどまでの虚無とは違う、微かな光、困惑と、恐怖と、そしてわずかな希望が宿り始めていた。
「……あ、あの。」
最初に抱きついてきた青年が、蚊の鳴くような声で言った。
「あなた様は……何者なのですか? その……男なのに、そんなに大きくて、強くて……。」
彼の言葉に、僕は少しだけ笑った。
自嘲ではない。
彼の中に芽生えた「男でも強くなれるのか?」という問いかけに対する、肯定の笑みだ。
「僕はエヴァン。ただの騎士だ。」
「キ、シ……。」
彼がその言葉を反芻する。
それが彼にとっての新しい道標になるかはわからない。すぐに野垂れ死ぬかもしれないし、また別の誰かに捕まるかもしれない。
それでも、今この瞬間、彼らが「家畜」から「人間」に戻ったことには意味があると思いたい。
「さて……。」
僕がオニキスの元へ戻ろうとすると、商人が這いつくばったまま、恨めしそうに声を上げた。
「あ、あんた……覚えてなよ! アタシの商品は帝都の大貴族、グラディウス家の御用達なんだ! こんなことしてタダで済むと思ってんのかい!?」
はて……グラディウス家?アンドレア殿下の実家じゃないか。
いや、皇室御用達ってことか?
あんな変態……もとい、高潔な殿下が、こんな趣味をお持ちだとは聞いていないが。
さては皇帝の名を出せばビビるとでも思っているのか、このブタは。
「ああ、構わないよ。」
僕はオニキスに飛び乗ると、鞍の上から商人を見下ろす。
「文句があるなら、帝都の宮廷にでも訴え出れば良い。その時は、『マドゥワス騎士団のエヴァンがやった』と伝えるんだな。」
「なッ……!?」
「ただし。」
僕はそこで一度言葉を切り、ニッコリと、最大限の「貴族の笑み」を作って見せた。
内心では「そんな事言っていいんですか〜?
「その時は、君が『違法な人身売買』をしていた証拠も一緒に提出することになるだろうけどね。……帝国法では、人攫いは重罪だったはずだ。」
商人の顔色が、青から白、そして土気色へと変わった。
どうやら図星だったらしい。
「合法な商品」なんて言っていたが、あんな拉致監禁まがいの調達がまともなルートであるはずがない。
「ひ、ひぃぃぃ……!」
商人は悲鳴を上げ、自分の馬車の下へと逃げ込んだ。
なんだか最初から最後まで三下ムーブの止まらない奴だな。
「……さっすがエヴ様! 痺れます!」
「悪を挫き、弱きを助ける! まさに騎士の鑑!」
「あの捨て台詞、メモしておきます!」
騎士団の面々が、キラキラした目で僕を見上げている。
いや、ただのハッタリだからね?
帝国の法律にそこまで詳しい訳じゃないし。
そんなに褒められると、逆に居心地が悪いんですが。
さて、男達を解放したとはいえ、こんな魔獣の湧き出る荒野にほっぽり出してもすぐに死んでしまうだろうし、どうするかな。
また帝都まで引き返すような余裕はこちらにもないし……。
あっ、そっか。コイツ使お。
☆
「……というわけで。彼らを隣町まで送り届けるのが、君の『贖罪』だ。わかったね?」
僕はツヴァイハンダーを鞘に納めたルイーズを背後に従え、商人にニッコリと微笑みかけた。
流石に、魔物がうろつく台地のど真ん中に、丸腰の彼らを放り出すような真似はしない。それは解放ではなく処刑だ。
僕は商人に対し、「彼らを『お客様』として丁重に次の街まで馬車で送ること」を命じた。
うーん、こちらの労力を使わずに安全な場所まで送り届けられるし、殿下の名前を出したから男達にまた首枷を付けるような真似はしないはず。
我ながらナイスアイデアだね。うん。
「も、もちろんさ! 彼らは大事な……い、いや、大切なお客様だからね! 指一本触れさせないし、食事もたっぷり出すよ!」
商人は顔を引きつらせながら、首をブンブンと縦に振った。
彼女の視線の先では、ネリーが巨大な岩を手刀で叩き割り、「もし彼らに何かあれば、次は貴様の頭がこうなります。」という無言のパフォーマンスを行っている。
効果は絶大である。
「よし。では行け。……二度と僕の前に顔を見せるなよ。」
僕の言葉を合図に、商人は逃げるように御者台へ駆け上がった。
馬車の中からは、元奴隷の男たちが、涙ながらに手を振っているのが見えた。
「ありがとうございます! 騎士様!」
「この御恩は一生忘れません!」
彼らの声が、風に乗って遠ざかっていく。
すぐに強くなることは無理でも、少なくとも彼らは「自分の意志」を取り戻した。
あとは彼ら次第だ。無事、この辛い世界でささやかでも幸せを掴み取れる事を願うばかりだ。
「一件落着ですね、エヴ様。」
「あぁ。少し時間を食ったな。先を急ごう。」
僕はオニキスの手綱を握り直し、再び荒野へと馬を進めた。
背中に浴びる部下たちの視線が、いつにも増して熱っぽいのを感じながら。
☆
その日の夜営地は、台地の中腹にある風化した遺跡の跡地だった。
夜風を凌ぐには丁度いい壁があり、水場も近い。
理想的な夜営地だ。そのせいか、跡地には最近使われたであろう焚き火の後も残っている。
いつものように、僕の周りには過剰なまでの防衛線が敷かれ、焚き火を囲んでの夕食タイムが始まっていた。
今日のメインディッシュは、昼間に狩った『ストーンクラブ』だ。
美味いんだよなぁコレ。ズワイガニだよ。マジで。
「……エヴ様。本当にこれを食べるのですか?」
ルイーズが、目の前に積まれた巨大な甲殻類の残骸を、汚物を見るような目で見下ろしている。
他の騎士たちも同様だ。
無理もない。この世界において、昆虫や甲殻類系の魔物は「不浄な害虫」という認識が強い。見た目もグロテスクだしね。
「騙されたと思って食べてみてくれ。……ほら、こうやって殻を割って。」
僕は茹で上がったストーンクラブの太い脚を手に取り、ナイフの柄で叩き割った。
パカリ、と殻が外れると、湯気と共に真っ白な身がプリリと現れる。
漂うのは、磯の香りと濃厚な甘い匂い。
ビジュアルだけでヨダレが垂れそうな1品だ。
「ホレ。あーん。」
「えっ!? エ、エヴ様!? その、自分で……!」
「いいから。毒見だと思って。」
僕が差し出すと、ルイーズは顔を真っ赤にしながら、恐る恐るその身を口に含んだ。
咀嚼すること数回。彼女の目が、カッと見開かれた。
ほれみろ、美味いだろう?
「んんっ!? ……美味しい!?」
「だろう? この台地の岩ガニは、ミネラル豊富で身が甘いんだ。」
「信じられません……あんな醜悪な魔物が、こんなに繊細な味だなんて!」
ルイーズの驚愕の声を聞いて、遠巻きに見ていた他の騎士たちも、我先にとカニに群がった。
そこからはもう、無言の戦場だった。
「硬っ! ……セイッ!(素手でハサミをへし折る音)」
「ミリア、そっちの味噌の部分も美味いぞ。」
「団長! おかわりを所望します!」
「あっ!それアタシの爪だよ!コラ!離さんか!!!」
焚き火を囲んで、カニを貪る女騎士の集団。
絵面としてはかなりシュールだが、みんなが笑顔ならそれでいい。昼間の殺伐とした空気が嘘のように、温かい空気が流れている。
「ふぅ……。」
僕は一足先に食事を終え、果実水を片手に夜空を見上げた。
満天の星空の下、オニキスがのんびりと草を食んでいる。
「お疲れ様です、エヴ様。」
隣にネリーが座った。
彼女の手には、綺麗に身をほぐしたカニの小皿がある。
……いつの間に作ったんだ。こういう器用な所が垣間見えるのってなんかいいよね。魚の食べ方が綺麗な人は心も綺麗〜みたいなのわかる?
「昼間のこと……無茶をされましたね。」
「そうかな? 騎士として当たり前のことをしただけだよ。」
「……そう仰ると思いました。」
ネリーは小さく笑い、僕の方へ体を預けるように少しだけ距離を詰めた。
「貴方は、この世界の常識からは外れている。……男なのに剣を取り、男なのに誰かを守ろうとし、男なのにこんなに強い。」
彼女の声は、どこか誇らしげで、そして少しだけ寂しげにも聞こえた。
「その優しさが、いつか貴方を傷つけないか……私たちはずっと心配しているのです。」
「……過保護だなぁ。」
「それが私たちの役目ですから。」
ネリーは僕の肩に頭を乗せようとして、寸前で思いとどまり、代わりに僕のカップに果実水を注ぎ足した。
騎士としての節度と、幼馴染としての甘え。
その境界線で揺れている彼女たちが、僕には愛おしく思えた。
「大丈夫だよ。僕には君たちがいてくれる。」
「はい。……地獄の果てまで、お守りしますよ。」
ネリーの重すぎる忠誠の言葉に、僕は苦笑いで答えた。嬉しいけど、君たちを地獄に案内する気は更々ないよ。
スリヒ台地の夜は更けていく。
昼間に助けた彼らも、今頃はどこかでこの星空を見上げているだろうか。
それぞれの自由な人生を歩んでくれることを願いつつ、僕はカニの食べすぎで少し重くなった腹をさするのだった。
メインキャラが増えてきたので....みんなの好きなキャラを教えてくれぇ!!!書くわよ〜!!!!
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ルイーズ・ロンズデール
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ネリー
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サーシャ、クロエ、ミリア他騎士団
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アンドレア殿下
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ガーベラ
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アグニ
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バルバラ
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上記以外のキャラクターは感想等で教えてね