転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
本話はキャラクターの背景や過去に焦点を当てた内容となります。
「こんなのは原作になかった!」
「勝手に設定変えるんじゃねー!」
とのお叱りの声はあるかとは思いますが、拙作の補足回としてお楽しみください。
閑話2 黒い希望
彼らは未来を知った。
「最適な結果」がもたらす未来を。
それは別段隠されてもいない、特別な人でなければ知る事の出来ないものでもない。
少しでも未来を予測出来るのであれば誰でも簡単に知る事が出来る。
しかし誰もが知っていて見て見ぬふりをしている、数字が証明する冷酷な未来だった。
「どうする?」
散らかした資料を片付けながらアズラエルが口を開く。
「どうするとはどういう意味だ?」
「分かっているだろう? 奴らはこのままでは滅ぶ事になるよ。奴ら自身が目を逸らし続ける限り、奴ら自身の選択の結果で」
それは紛れもない事実だった。
何か対策を取っていれば数字には変化があるはずだ。
男と女が愛し合い、その結果新しい生命が生まれ、その子供が成長し、また新しい生命が生まれる。
それを現す数字に。
それに何の変化もないという事は、プラントの上層部はそれを理解していないか、理解して無視しているかのどちらかだ。
「数字が公表されている以上、連中が理解していないという事はあり得ない。
だが連中はおそらく数字を理解していても、その数字の意味を理解していない。
数字の意味を理解しているなら、もっと水増ししてそれらしい数字をでっち上げるはずだ」
そう、出生率が低下していけば人口が減るのは当たり前だ。
地球ならともかく、プラントという閉鎖環境であれば言うまでもない。
「放って置けばいい」
タイガの答えは簡潔だった。
「蜘蛛の糸を使ってバンジージャンプをやろうとしている連中に『危ないからやめて置け』と言って聞き届けられると思うか?
しかも『この糸は絶対に切れない!』と言い張っているような連中に」
タイガの答えはあまりにも冷たく、そして他人からは変えようがないという事実を指摘していた。
「連中が自分から滅ぶ事を選ぶのなら、それに部外者が横から口を挟むのは筋違いだろう?
連中自身で選択したのであれば、それを尊重するのが民主主義というものだ」
タイガの言葉には、古代ローマもかくやと思われる専制主義としか思えないプラント評議会に対する強烈な皮肉が含まれていた。
「警告ぐらいはするべきじゃないかな?」
「やめておけ。劣等種と見下している相手から指摘されて素直に従うような連中じゃない」
「でも……」
「それに……」
「それに?」
「隠しておいた事実を正面から指摘されれば激怒するのは誰でも同じだ」
それがコーディネーターでもな、と続けたタイガの言葉に、アズラエルは堪えきれずに爆笑した。
「ハ、ハ、ハ、ハ、そ、そうだよねえ、そんな事になったら誰でも怒るよねえ」
笑い転げるアズラエルを横目に、タイガは言葉を続けた。
「しかし意外だな?」
「うん? な、何がだい?」
笑いを堪えるのに四苦八苦しているアズラエルは息も絶え絶えに答えた。
「お前だったらコーディネーターが滅ぶと聞けば大喜びすると思ったんだがな?」
そう、アズラエルであれば「コーディネーターが滅ぶ」と知れば外面を放り出して狂喜乱舞しても不思議ではない。
それこそタイガの知る原作のように。
「そうだねえ、自分でも意外なんだけどあんまり嬉しくはないなあ?」
「何?」
「どちらかと言うと奴らには滅んで欲しくないかなぁ?」
「意外だな?」
アズラエルの言葉は、原作での彼を知り、現在の彼を知るタイガの目から見ても意外に思えた。
「僕はね、奴らに勝つ為にずっと努力をしてきた」
それは知っている。
その為にまともな子供らしい生活になど見向きもできない程だった事も。
「奴らに殴り倒される度にこう思っていたよ。
今に見ていろ、いつかきっとお前らを見返してやるって。
でもいつまで経ってもそんな事は出来なかった。
そのうち今でなくても将来絶対にお前らを見返してやるって気持ちに変わっていったんだ」
「それは……」
「ああ、結局、直接奴らを見返すのは無理だって僕の心はもう折れていたんだ」
それを笑う事は誰にも出来ないだろう。
ナチュラルがコーディネーターを見返そうとして行動に移す。
それにどれだけの覚悟が必要だったか、そしてそれを数年に渡って続ける事にどれだけ強靭な意思が必要だったのか想像に難くない。
「僕はね、今お前らに勝てなくても将来父様の後を継いだらお前らなんか一捻りだって内心を誤魔化していたんだよ」
アズラエルは当時の自分を思い出して苦笑していた。
将来力を発揮する為の準備をする事を努力と言うのであれば、アズラエルの言っている事は間違いではない。
むしろコーディネーターの少年がどれだけ強くても個人的なものでしかなく、大西洋連邦を代表するアズラエル財閥の後継者であるアズラエルとは比較にもならないだろう。
しかし当時のアズラエルが求めていた力は「将来」ではなく「今」必要だったのだ。
もしタイガに出会う事がなければ、アズラエルは将来、原作通りに財閥の力をコーディネーターを滅ぼす事の為に使う事を一切躊躇わなかっただろう。
「僕はね、奴らに滅んで欲しかったんじゃない。
僕のこの手で滅ぼしてやりたかったんだ。
いや、そうじゃないな。
僕は僕の今までの努力が報われさえすれば奴らなんかどうでも良かったんだ」
今までの自分の努力が無になる。
意味の無いものだと突き付けられる。
それはどれだけの虚無感を与えるだろう。
「僕が全力を尽くして超えようとしていた連中なんだ。
僕の手に掛からず滅びるなら、せめて静かに消えていって欲しいね」
そう言ってアズラエルは苦笑を浮かべた。
「そうか……」
それ以上タイガは言葉を続ける事が出来なかった。
自分が強大な敵だと思っていた相手は実はもう滅んでいた。
まだ滅んではいないが、それも時間の問題でしかない。
いまさらアズラエルがコーディネーターに仕返し出来たとしても、それは既に敗北が決まった相手に追い討ちをかける死者に鞭打つ行為でしかない。
それを理解した時、アズラエルのコーディネーターに対する敵意は意味を無くした。
「まあ、奴らの事だからそれまでに色々やらかすだろうけど、もう僕には関係ないね」
アズラエルの中では既に自分の感情に整理が付いているらしい。
それならば自分が口を出す事は何もない。
タイガはそう思って資料を片付けるアズラエルの様子を眺めていた。
その後、プラントから「出生率を改善する為の画期的な方法」と自称する政策が発表された。
「婚姻統制」
男女の結婚を、子供の出生率だけを基準に判断するというものだった。
この政策がその後プラントにどのような影響をもたらすのか?
この時点でそれを理解出来る者が声を上げる事はなく、声を上げても届く事はなかった。
理解出来ない者は何も考えずに「これがコーディネーターの叡智だ!」と自画自賛した。
※あとがきです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回はキャラクターの背景に焦点を当てた閑話でした。
本編では描ききれない部分を補完する意図で書きました。
原作とは乖離が大きいとは思いますが拙作でのアズラエルの心境はこのようなものになります。
次回お楽しみください。