転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜   作:台風200号

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※前書きです。

本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。





第83話 亀裂

 

 

「まあ、私を解放ですか?」

 

小首を傾げてこちらを見るプラントの歌姫に、マリューは思わず言葉に詰まった。

柔らかな物腰、穏やかな声。

目の前の少女からは、とても“政治闘争の渦中にいる人物”という実感が湧かない。

 

(こんな子に……)

 

マリューは一瞬だけ視線を逸らした。

 

(世間の裏側の悪意を教えるのは、気が引けるけど……)

 

だが、躊躇は許されなかった。

ラクス・クラインという存在は、すでに一人の少女ではない。

彼女は“象徴”であり、“道具”であり、そして――

放置すれば確実に利用され、消される存在だった。

マリューは深く息を吸い、現実をそのまま言葉にした。

プラント内部の空気。

強硬派が急速に主導権を握りつつあること。

ラクスの存在が、それにとってどれほど邪魔かということ。

そして――

 

「つまり」

 

ラクスは、少しも取り乱すことなく、静かに問い返した。

 

「パトリックおじ様や、その周囲の方々が……

プラント内の意見を強硬派で固めるために、私を殺そうとする、という事ですか?」

 

その言葉は、あまりにも淡々としていた。

マリューは一瞬、言葉を失ったが、はっきりと頷いた。

 

「……ええ」

 

ラクスは目を伏せ、わずかに考える素振りを見せる。

だが、すぐに顔を上げた。

 

「それを防ぐために……

私から、パトリックおじ様の息子であるアスランに話をつけてほしい、と?」

 

「そうです」

 

マリューは続ける。

 

「いくら強硬派でも、自分たちの中心人物の息子を、

あなたと一緒に殺害しようとは思わないでしょう?」

 

ラクスはしばらく黙っていた。

その沈黙は、恐怖でも動揺でもなかった。

むしろ――覚悟を測るような、静かな間だった。

 

「……なるほど」

 

やがて、ラクスは柔らかく微笑んだ。

 

「そのために、キラが一緒に来る、と……」

 

キラの名前を口にした瞬間、ほんの一瞬だけ、その声が揺れた。

だが、すぐに元の穏やかさに戻る。

 

「分かりました。アスランは、私が説得しましょう」

 

即答だった。

 

「よろしいのですか?」

 

マリューは思わず念を押した。

 

「危険なのよ?あなたは、もう“守られるだけの存在”じゃないわ」

 

ラクスは頷いた。

 

「承知しています。でも……誰かが止めなければ、止まらないのでしょう?」

 

その言葉に、マリューは何も返せなかった。

こうして、ラクス・クライン解放の準備は整えられた。

 

作戦は、極めて単純だった。

ラクスを乗せた救命ポッドと、ダミーポッド。

それらをストライクが牽引する。

オープンチャンネルでアスランを呼び出し、

ラクス本人を確認させる。

その後は――状況に応じて撤退。

簡単に言えば、それだけ。

だが。

それが、どれほど困難な作戦か。

マリューはそれを少しでも成功させるために、思いつく限りの知恵を振り絞った。

 

――

 

キラ・ヤマトは、今まさにその操縦席で実感していた。

 

(……撃てない)

 

この状況で、敵が出てきたらどうする?

ザフトが強硬に介入してきたら?

ストライクは戦える。

だが、戦えば――

ラクスは“交渉材料”から“戦死者”に変わる。

 

(アスラン……)

 

親友の顔が、何度も脳裏をよぎる。

説得できなければ?

拒絶されたら?

それでも前に進まなければならない。

キラは操縦桿を握り直した。

ストライクの前方で、二つの救命ポッドが静かに宇宙へと放たれる。

本物と、偽物。

だが、これから始まるのは、どちらが“正しい”かを選ぶ試験ではない。

誰が引き金を引かずに済むか。

誰が、殺さずに終われるか。

そのための、綱渡りだった。

 

――

 

アーク・エンジェルからの通信は、それまでヴェサリウスに沈殿していた敗北感に別種の重さを加えた。

 

「……休戦、だと?」

 

ヴェサリウスのブリッジで、イザークが吐き捨てるように言った。

 

「しかも――」

 

オペレーターが言葉を継ぐ。

 

「交渉役として、アスラン・ザラを指名しています」

 

一瞬、空気が止まった。

 

「名指しかよ……」

 

ディアッカが乾いた笑いを浮かべる。

 

「随分と都合のいい話だな」

 

その背後で、クルーゼは何も言わず、通信内容を静かに読み込んでいた。

指定宙域。

随伴艦なし。

ストライク単機での来訪。

条件だけを見れば、あまりにも無防備。

だが、だからこそ――罠の匂いがした。

 

「どうしますか?」

 

艦長アデスが問いかける。

 

「……フム」

 

クルーゼはゆっくりと仮面に手を当てた。

 

「我々の本来の任務は、足付きの追跡だ。

ラクス嬢の奪還でも、オーブとの交渉でもない」

 

「ですが、無視すれば――」

 

「無視はできんな」

 

クルーゼは淡々と言った。

 

「連中は“こちらが応じざるを得ない形”で投げてきている」

 

アスランに視線が向く。

 

「君が指名された理由は、分かっているな?」

 

「……ラクス、ですね」

 

苦い声だった。

 

「それだけではない」

 

クルーゼは続ける。

 

「交渉に応じなければ連中は我々がラクス嬢を見捨てたと宣伝するだろう。

『プラントの歌姫をザフトが見捨てた』とな」

 

アスランは拳を握った。

 

「つまり、断ればこちらが悪者になる」

 

「そういうことだ」

 

クルーゼは軽く肩をすくめる。

 

「それに……確認したいこともある」

 

「確認?」

 

「ラクス嬢が、本当に彼らの手にあるのか。そして――」

 

仮面の奥で、視線が鋭くなる。

 

「オーブと連合が、どこまで“同じ方向”を向いているのか、だ」

 

沈黙。

アデスが一歩前に出る。

 

「アスラン・ザラ、単独での出頭を命じます。護衛は出しません」

 

「……了解しました」

 

アスランは短く答えた。

背後でニコルが不安そうに声をかける。

 

「アスラン……」

 

「大丈夫だ」

 

そう言いながら、その表情に余裕はなかった。

 

(これは戦闘じゃない……でも、もっと厄介な“戦場”だ)

 

「指定宙域を狙撃出来るように準備しておけ。

最悪ラクス嬢などおらず、アスランをその場に釘付けにし、

我々を拘束する為の時間稼ぎの可能性もある。

油断するな!」

 

「ハッ!」

 

クルーゼの命令にアデスは応えた。

 

――

 

指定宙域に、ストライクとポッドがふたつ漂っていた。

 

(来た!)

 

アスランの駆るイージスがその場へ到着した。

 

「キラ!」

 

アスランが呼びかけるも、キラは「アスラン!そこで止まって!」と静止すると、

ポッドをひとつ宙に漂わせた。

宙に浮かんだポッドは距離を取ると――爆発した。

 

「な!」

 

爆発を確認したヴェサリウスには緊張が走った。

 

「隊長!」

 

「動くな!こちらから指示があるまでは絶対に動くなと狙撃班に伝えろ!」

 

ストライクからは、これは警告である事。

一定時間経過後は爆発は解除される事。

その場に留まり動かない事が通達された。

 

(巧妙だな。これではラクス嬢を確認するまではこちらは動けん。様子を見るしかないか)

 

「ラクスはこっちのポッドにいる。アスラン、君が確認してくれ」

 

「キラ!」

 

「早く!」

 

アスランはキラに言いたいことが山ほどあった。

今まで何をしていたのか?

なぜこんな事をしているのか?

なぜナチュラルなんかと一緒にいるのか?

――お前は俺達と同じだろう!

だがキラにはそんな余裕はなかった。

今この瞬間にも、どこからか狙撃されるかもしれない。

それも自分達がやった事にされて。

アスランがラクスの側に行けば、強硬派も凶行に及ぶ事はないだろう。

だから少しでも早く、と焦っていた。

両者はお互いに言葉を交わしたいと思っていても、

向いている方向は全く異なっていた。

 

 

「アスラン、お久しぶりですね」

 

「ラクス」

 

アスランはほっとしていた。

間違いなくラクス本人だ。

 

「アスラン。安心しているところ申し訳ないのですが、お話しておく事があります」

 

自分の父がプラント内の意見統一の為にラクスを殺そうとする可能性がある事を告げられたアスランは――混乱した。

 

「……そんな、ことが……」

 

否定したかった。

理屈でも、感情でも。

父は確かに強硬派の中心にいる。

だが――自分の知る父は、少なくとも「ラクスを殺す」などという男ではなかった。

 

「父が……そんな事をするはずがない……」

 

絞り出すように言った声は、しかし確信を伴っていなかった。

ラクスはそれを責めることも、否定することもしなかった。

 

「ええ。私も……信じたくはありません。でも周りの方全てがそうだとは限りません」

 

静かな声だった。

強硬派が全て同じ考えとは限らない。

より穏健な者、より過激な者、様々な考えの者がいるのは当然だ。

それらの一部が暴走しないなどと、誰が言えよう。

 

「だからあなたは私としばらくここにいてください。

いくら強硬派の方々でも、おじ様の息子のあなたまで殺そうとはしないでしょう」

 

それは納得できる理由だった。

 

 

「アスラン!」

 

アスランが納得した事で、キラが声をかけた。

キラはアスランと話したい事があった。

今まで苦労してきた。

つらい事もあった。

でも友達が助けてくれた。

僕の周りには、友人と呼べるいい人たちがたくさんいる。

それをアスランにも伝えたかった。

しかし――

アスランからの返事は、キラの期待したものとは大きく異なっていた。

 

「キラ!なんでお前が“そっち”にいる!」

 

「え?」

 

「お前は“こっち”だろう!お前はあんな連中の所にいるべきじゃない!」

 

「アスラン?」

 

アスランにとっては、それは必然だった。

キラは今まで自分が見てきたコーディネーターの中でも最高の能力を持っていた。

自分でさえ敵わないところがあった。

それなのに呑気で、自分の事には無頓着で、いつもぼ~としていた。

アスランはそんなキラがナチュラルに良いように利用されているようにしか思えなかった。

 

「お前はあんな連中と一緒にいるべきじゃない!

俺達と一緒にいるべきだ!

俺達と一緒にプラントの独立のために戦おう!」

 

“プラント独立の為”

それはアスランにとってあまりにも当たり前の事で、

全てのコーディネーターがそれに協力するのは当然と思い込んでいた。

しかもキラのような優秀なコーディネーターであれば、どれだけ独立の助けになるか。

そこには悪意は存在しなかった。

 

ただ――

他者から自分の言動がどのように見えるか?

という視点が欠けていただけだった。

アスランからプラントへいざなわれたキラは混乱していた。

 

戦う?

何の為に?

独立?

誰と?

トールや、サイや、カズイや、ミリアリアや、フレイと?

僕の大切な友人たちと戦えと?

誰が言っている?

目の前のアスランが。

大切な友達が。

自分の親友が。

親友が友達と戦えと、戦って“殺せ”と言っている?

 

「キラ!」

 

 

パンッ

 

 

それを理解した時、

キラはアスランの差し伸べた手を――振り払っていた。

 

 

 






※あとがきです。

お読みいただきありがとうございます。

本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。

次回お楽しみください。
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