転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜   作:台風200号

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※前書きです。

本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。





第137話 兆し

 

 

 

プラント独立は成った。

プラントの多くの者は歓喜に沸いた。

 

「これで俺たちは自由だ!」

 

「プラントの勝利だ!」

 

「コーディネーターがナチュラルに負けるわけがない!」

 

しかし──

彼らがそれが“錯覚”でしかないと気付いた時には、すでに全てが手遅れだった。

 

プラントは独立に際し、様々な条件を課せられていた。

その一つが「食糧生産の禁止」である。

食料生産が許可されたのは、すでに農業コロニーへと転用されつつあったユニウス市の一部のみ。

このため、後にユニウス産の食料を独占した評議会はやがて市民の憎悪の的となり、プラント内部の騒乱の火種となった。

つまり──

プラントの食料はほぼ100%外部からの輸入に頼ることになった。

だがプラント市民は心配していなかった。

自分たちの技術でいくらでも製品を輸出し、その資金でいくらでも輸入できると信じていたからだ。

親プラント国家にはエネルギーを輸出し、見返りに食料を輸入する。

 

「戦前と何も変わらぬ光景が続く」

 

市民のほとんどがそう信じていた。

それが幻想であることに気付きもしないで。

 

ユニウス条約による独立条件のひとつに「地球上に散布されたニュートロンジャマー(NJ)の回収」があった。

NJはプラント製であり、製造記録も残っていた。

地球連合はその記録を基にプラントに回収を指示した。

外交責任者は独立と引き換えにその条件を呑んだ。

それが“間違い”だと分かるまで、大した時間はかからなかった。

 

地球上に散布されたNJの総数は 1万数千基。

その全ての回収など、ほぼ不可能だった。

海の底、地下深くに潜行したNJの回収は言うまでもなく困難。

しかし地球連合は認めなかった。

 

「未回収リストに載っているNJを全て回収するまでは、作業中止を認めない」

 

それが地球連合の方針だった。

結果、プラントは地球の隅々までNJ回収に奔走することになる。

砂漠の果て、海の底、硬い岩盤の下──

そこへ大量の人員と莫大なコストを費やすことになった。

さらに、回収作業の際に周辺の廃墟や瓦礫を撤去する過程で、作業員の精神に深刻な負荷がかかった。

 

――――

 

NJによって生活できなくなった街は放棄され、瓦礫と化していた。

作業員はその瓦礫の中から親子の白骨死体、血の付いた子供の人形などを大量に片付けることになった。

NJが現実にどのような被害をもたらしたのか──

その“生々しい実例”が目の前に突きつけられたのだ。

自分たちがプラントでぬくぬくしている間に、独立のために何が行われていたのか。

自分たちが何を行ったのか。

地球上で一億数千万人の死者が発生し、それを引き起こしたのが自分たちであるという事実。

理解した途端、精神に異常をきたす者が続出した。

あるいは自己防衛のために

「下等なナチュラルなどこうなって当然だ!」

と叫ぶ者も現れた。

それを目にし、耳にしたナチュラルの感情は──

言うまでもない。

 

こうして独立の栄光とは裏腹に、プラントは徐々に疲弊し、ナチュラル・コーディネーターを問わず、

地球に住む者からの強い反感に晒されることになった。

それは──

独立というものが“幻想”でしかないと、誰の目にも明らかになる兆しだった。

 

――――

 

――瓦礫の下の真実

 

「……ここか。記録では、この地区にNJが落ちたはずだ」

 

作業員のレオンは、崩れたビルの影に立ち、手にした端末を見つめた。

周囲には、かつて街だったものの残骸が広がっている。

風が吹くたび、砕けたガラスが乾いた音を立てた。

 

彼がまだ少年のころ、地球各地を歩き回った時の記憶とは、似ても似つかない光景が目の前に広がっていた。

 

「レオン、こっちだ。反応がある」

 

仲間の声に、レオンは足を踏み出した。

瓦礫の山を越えた先──

そこにあったのは、半ば埋もれた小さな家だった。

 

「……ここに、NJが?」

 

「いや……これは……」

 

仲間が言葉を失う。

レオンは瓦礫をどけ、家の中へと入った。

暗い。

埃っぽい。

だが、すぐに目が慣れた。

そして──

レオンは凍りついた。

そこには、小さなテーブルの傍に座る“一つの影”があった。

毛布にくるまった母親と思しき女性。

その膝に抱かれた、小さな子供。

二人とも、白骨化していた。

 

「……っ」

 

レオンは息を呑んだ。

テーブルの上には、色褪せた絵本。

母親の傍には燃え尽きた小さな焚火の後。

 

「避難できなかったんだな……」

 

仲間が呟く。

レオンは震える手で、子供のそばに落ちていたものを拾い上げた。

それは──

血の付いた、小さな人形だった。

 

「……俺たちが……やったのか」

 

その言葉は、誰に向けたものでもなかった。

 

その後も、レオンたちは同じような光景を何度も見た。

瓦礫の下から現れる白骨。

暖を取る為に焚火にくべられ、それでも燃え残った焼け焦げた家族写真。

抱き合ったまま息絶えた親子。

避難所の跡に残された、無数の靴跡。

NJが落ちた場所は、例外なく地獄だった。

作業員の中には、その場で嘔吐する者もいた。

泣き崩れる者もいた。

無言で作業を続ける者もいた。

そして──

精神を壊す者もいた。

 

「俺たちは……何をしたんだ……」

 

レオンは夜、テントの中で震えながら呟いた。

 

(プラントは独立した。勝った。自由を得た。そう信じていた。

だが……その代償がこれなのか?)

 

胸の奥が重く、痛かった。

 

ある日、作業中にナチュラルの老人が近づいてきた。

 

「……帰れ」

 

その声は低く、震えていた。

 

「ここは……お前たちが……殺した人たちの街だ。帰れ……帰れ……!」

 

レオンは何も言えなかった。

老人の目には、憎悪と悲しみが混ざっていた。

 

(俺は……何もしていない。だが……“俺たち”がやった)

 

その事実が、レオンの胸を締め付けた。

作業が続くにつれ、仲間の一人が変わっていった。

 

「ナチュラルなんて……こうなって当然だろ。俺たちが何をしようが、あいつらは俺たちを憎む。なら……最初から敵なんだよ」

 

レオンはその言葉に戦慄した。

 

(これが……自己防衛か)

 

恐怖と罪悪感に耐えられず、憎悪で心を守ろうとする者。

その姿は、レオンには“壊れていく音”にしか聞こえなかった。

 

作業最終日。

第二陣の交代要員が来る前日、レオンは瓦礫の中に立ち、空を見上げた。

 

(独立?勝利?自由?)

 

そのどれもが、この地獄の前では空虚に思えた。

 

(俺たちは……何も分かっていなかった)

 

プラントの市民が歓喜に沸く中、レオンは静かに思った。

 

(このままでは……プラントは滅びる)

 

それは、作業員としてではなく、コーディネーターとしてでもなく、一人の人間としての直感だった。

数年後、その「兆し」がプラントの市民たちの、そして上層部の目にはっきりと映るようになった時は全て手遅れだった。

だが、地球の惨状を、自分達の行為の結果が何をもたらしたのか、自分で直接目にしていたレオンは、

その「兆し」がはっきりと市民の目の前に現れる前に行動を起こした。

 

(もう俺達のやった事は取り返しがつかない。だが、だからと言ってこのままにしておいていい筈がない!)

 

レオンはプラントに帰国後、第一陣、第二陣、そしてその後に続く地球からの帰還者たちの声をまとめ上げて市民に公開した。

 

(誰かがやらなければ、誰もやらない!)

 

それはレオンの決意だった。

 

市民からの反応は激烈だった。

レオンたちは「根も葉もない出鱈目をまき散らす異常者」、「プラントへの愛がない非国民」として過剰なまでの非難の対象になった。

しかし市民のその怒りは、本当は「事実そのもの」ではなく「事実を突きつけられた自分たち」に向けられたものだった。

それは自分達を優生種と自認し、意識の底で「優秀な自分達が間違う事は無い」「優秀な自分達のやっている事はすべて正しい」と妄信し、

「見たいものしか見ない」「知りたくないものは知ろうともしない」プラント市民の根底にある無意識の声の具現化だった。

 

最初から市民がそのように過激に反応するとわかっていたのか、レオンは市民の反応に関係なく、帰還者からのNJの被害の様子を淡々と公開し続けた。

 

何の説明も、明確なメッセージのひとつもなくても、NJの側に転がる「血の付いた人形」「瓦礫になった街」「燃え残った家族写真」「親子の白骨死体」

それらの写真はそれだけで何があったのかを雄弁に語っていた。

レオンは帰還者たちの声をまとめ上げ、医師によるメンタルケアを手配し、新たに地球に降りた作業員には最初と最後に死者への哀悼と黙祷を必ず実行させた。

これにより、地球のプラントに対する反感は変わらなかったが、死者に対する尊厳を忘れない現地の作業員たちへの反感は次第に少なくなっていった。

 

(どんな理由があっても、たとえ独立の為であったとしても、俺達のやった事は許される事じゃない。許されてはならない。

その為に俺達に出来る事は忘れない事だ。俺達のやった事を忘れない為に記録として残す。今の俺達に出来る事はこれしかない)

 

レオンはそう信じて帰還者たちの声を公開し続けた。

 

(俺達のやった事は絶対に忘れてはならない!たとえ地球の人達が忘れても、俺達が忘れる事は許されない!

もしプラントが素知らぬ顔をして、自分達のやった事を忘れるような連中しかいないなら、そんな国は存在してはならない!

そんな国は滅びるべきだ!その時は俺がこの国を、プラントを滅ぼす!)

 

それがレオンの決意だった。

その後レオンは帰還者たちの代表として評議員の一員となった。

レオンは後のプラントを襲った波乱、「デュランダルによる混乱」「スーパーコーディネーターによる仮初の黄金時代」「地球からの援助拒否」これらの苦難の後に、評議会議長の座に就く事になる。

 

だが、その時には既にプラントの衰退はもはや手の打ちようがない所にまでに進行していた。

レオンの懸命な努力によってわずかながらも衰退の速度が遅くなりはしたものの、もはやその歩みを止める事は出来なかった。

そして地球のNJの撤去の負担に耐えかねたプラントの市民は、「地球に対しNJ撤去の免除を申し入れるよう」、

あわせて「NJに直接的な殺傷能力は無い事」を理由に、「エイプリルフール・クライシスの死者とプラントは無関係である事」を

地球に表明するように評議会に要求した。

ある市民などは「NJに殺傷能力はありません!死んだのはナチュラルの自己責任です!」とまで言い放った。

レオンは市民のこの要求と発言に茫然とした。

 

――市民は地球で自分達が何をやったのか理解していないのか?

――「NJの撤去の免除」?

  NJを撤去しているからこそ、まだわずかながらも地球からの食料輸入も黙認されているのに?

――「エイプリルフール・クライシスの死者とプラントは無関係」?

  そんな事を表明すれば怒り狂ったエイプリルフール・クライシスの遺族が核をプラントに撃ち込んでも不思議ではない。

  ましてそれを止める者など誰もいないであろう。

 

茫然とした後、レオンは絶望した。

 

――駄目だ。この国はもう駄目だ。

――いや、最初から国として駄目だったのだろう。プラントが独立など要求する事自体が間違いだったのだ。

――もはやこんな国の存在は許されるべきではない!この国は滅びるべきだ!

 

そう確信したレオンは様々な政策を実行し始めた。

それは一見するとプラントの負担を軽減し、市民の声に応えたもののように見えた。

負担が軽減された市民はレオンの手腕を称賛したが、レオンの政策は実際には将来世代に負担を先送りしただけのものだった。

 

(市民が望むのなら、望み通りにしてやるだけだ。未来など知ったことではない)

 

そしてレオンはその将来世代の負担の解決策を意図的になにひとつ実行しなかった。

それは将来的に必ずプラントが負担に耐えかね破綻する事を意味していた。

 

「さて、この国はいつまで保つかね?市民の声を聴く限り全く期待できないな。

『滅ぶべき国が、滅ぶべくして滅ぶ』それだけの話だな」

 

プラント破滅の道筋を作り上げ終えたレオンが、冷笑と共に思わず漏らした呟きを聞いていた者は誰もいなかった。

 

――

 

そんな未来が訪れる前のある日──

今日も市民からの強烈な非難にさらされて疲労困憊して家に帰ったレオンの元に、私信でメッセージが届いていた。

それは数年前に地球に降りた幼馴染からのものだった。

「なかなか好きな人との子供ができない」と悩んでいたが、つい先日「子供を授かった」との喜びの声を伝えてきていた。

子供は順調に育っている事、エイプリルフール・クライシスの影響は無事にやり過ごせた事、他にも他愛もない近況報告が綴られていた。

NJの落ちた世界でも幼馴染が無事であった事にレオンは安堵した。

写真の中の幸せに満ちた幼馴染の顔を見て、レオンは遂に届かなかった自分の初恋の終わりを胸に刻み、 幼馴染の幸福を心から願った。

――それが、

この救いのない世界で彼が抱いた、ただ一つの救いだった。

 

 

 






※あとがきです。

お読みいただきありがとうございます。

本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。

次回お楽しみください。


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