転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
閑話 《名前ゼロシリーズ》完結です。
それから数回、トモはタイガの逃亡を手助けした。
一緒にいる間はトモはタイガを「イチローくん」と呼び周囲にばれないように気を使った。
もっとも行先はタイガの望む牛丼屋やらハンバーガー屋やらで、到底「デート」などと呼べるものではなかったが。
「もう少し相手に気を使ってくれても良いんじゃないですか?」
何度目かの牛丼屋での「デート」の後にトモがポツリと漏らした。
「ああ、もう少ししたらお礼にちゃんとした所に連れて行ってやる。それまでは俺に付き合え」
「別に私が一緒にいる必要は無いと思うんですけど?」
すっかり牛丼屋のカウンターでの注文に慣れてしまったトモが不満気な声を上げる。
「さすがに一人だと文句が来るんでな。護衛なりなんなりの名目で誰か一緒にいる必要があるんだ。
友達として諦めてくれ」
「・・・まあ、良いですけど」
「友達」と呼ばれて嬉しくて舞い上がっている内心を隠してトモは不機嫌な声を出した。
「心配しなくてもちゃんとした三ツ星レストランを予約してやる。楽しみにしておけ」
「ちょっとしたムードのあるレストラン程度であれば充分なんですけど・・・」
「なんだ?三ツ星では不満か?まさか四つ星?いや五つ星か!」
「そうじゃなくて!ちゃんとしたデートなんかした事がないから気分だけでも味わいたいなあと・・・」
「?そんなのいつでも行けるだろう?」
「私は家の為に外に嫁に出される事が決まっているんです。
下手をしたらデートどころかそのまま結婚です。
だからせめて気分だけでも味わいたいなあと・・・」
「・・・そうか。それはすまなかったな」
「いえ、これはもうどうしようもない事なので・・・。
ですからイチローくん!せめて一度ぐらいはちゃんとしたデートをお願いしますね?約束ですよ?」
「まあ、憶えていたら連れてってやる」
「何ですかそれは!結局「連れていかない」と言ってるようなものじゃないですか!」
「あ~、あ~、うるさい。「連れていかない」なんて言ってないだろう!」
傍から見れば、ギャーギャーと騒ぐタイガ達はどう見てもデート中の幼いカップルにしか見えなかった。
それはその場で何気なく口にしただけの、翌日には二人とも忘れていても不思議ではない「他愛無い口約束」でしかなかった。
しかし結局、この「約束」は果たされないまま数年の時が流れる事になる。
そしてこの「約束」が、トモの最後の「生きる支え」になる事を、この時の二人は想像もしていなかった。
――
その後、さすがにタイガの「外出」も制限されるようになり、トモとの「デート」も途絶えたころ、
世界中でS2型インフルエンザが大流行する。
世界中に感染者があふれ、それはオーブでも例外ではなかった。
五大氏族、下級氏族、市民、ナチュラル、コーディネーターを問わず感染者は拡大した。
アリサの妹もこの時感染し、生死の境をさまよっていた。
それはトモも同じだった。
コーディネーターであっても病気にならないわけではない。
単に「病気になりにくい」というだけだ。
コーディネイターといえど重症化すれば抗えない。
トモは朦朧とする意識の中で今までの人生を振り返っていた。
(詰まらない人生だったなあ・・・
親に要らないと捨てられ、オーブでは政略結婚の道具、ろくな自由もなく、
やりたい事も出来ずにこのまま死んじゃうのかなあ・・・
せめて一度ぐらい、タイガ様にちゃんとしたデートに連れて行ってもらいたかったなあ・・・
結局「約束」は守ってもらえなかったし・・・
・・・まあ、憶えているはずないか・・・
「約束」どころかあたしが一方的にお願いしただけだし・・・
・・・タイガ様に会いたいなあ・・・
無理か・・・タイガ様は「トモ」という名前しか知らないし、氏族や家の名前もお教えしてないしなあ・・・
・・・でも・・・、それでも、もしタイガ様に会えたら「約束」を・・・
・・・絶対に今度こそ・・・タイガ様あ・・・)
多くの者が命を落とし、タイガが配布したワクチンによって救う事が出来たのは一部の者でしかなかった。
しかしこのタイガの行いによって救われた者がいた事は間違いのない事実だった。
トモもこの時救われる事になった。
トモが意識を回復し、動けるようになるころにはタイガの大西洋連邦への留学が決定し、
もはや以前のように気軽に会う事は不可能になっていた。
単なる氏族の娘ではもうタイガに会う事は出来ない。
そう思って落ち込んでいるトモにサカト家から誘いが来た。
タイガに命を救われた家の娘たちが集まって、タイガに恩を返そうとしているというものだった。
タイガは留学した。
しかしいずれはオーブに戻ってくる。
その時には人が必要になる。
屋敷の維持、来客の応対、警備、諜報、その他様々な事に人材が必要だ。
その人材に自分達がなればタイガに恩を返す事が出来る。
若い娘が身近にいればタイガの寵愛を得るという理由で家への言い訳も出来る。
この話を逃す理由はなかった。
養父には「タイガの寵愛を目的に侍女になる」と説明し、適当な他の家と縁を結ぶより、少しでもアスハ家と縁が結べるならと納得させた。
養父の家の名前で送り込まれた場合、直接的な派閥争いが激しくなることが予想されたので、養父の配下の家の下級氏族の娘として送り出された。
こうしてトモやタイガに救われた家の娘たちが集まった。
タイガは胸の大きい、スタイルの良い美人が好みという事なので集まった少女達は皆必死に自分を磨いた。
少しでもタイガに気に入られるように、少しでも助けてもらった恩を返せるように皆必死だった。
ある者は法学を、ある者は射撃や護衛を、ある者は屋敷の管理を、皆それぞれに専門家に匹敵するほどの様々な知識と技量を身に付け、
全員が最低限の護身術を習得し、どんな時でも即座にその身をタイガの盾になれるようにし、皆で当たればどんな事にも対応できるような体制を作り上げた。
――
そして数年後。
ウズミの正式な代表就任に合わせて、タイガが大西洋連邦から一時帰国する事になった。
タイガに救われた少女達は奮起した。
ある者が、懸命にタイガに尽くそうとする彼女たちにタイガについて尋ねた。
それに対するトモの答えは表向きこのようなものだった。
「タイガ様ですか? 素晴らしい方ですね!
あの方のお立場なら幼女から人妻まで自由自在に手を出せて、誰にも文句を言われたりしないのに、
手を出した方の面倒を一生見る覚悟をされている、なんてまさに女にとって理想の男性です!」
タイガに尽くそうという理由は自分達だけが知っていれば良い。
タイガに尽くす事が出来るなら他人からどのように思われようが関係ない。
トモや少女達の想いはこのようなものだった。
――
さらに数年後、タイガが自分の屋敷を与えられカルアやアリサと共にトモもタイガの郎党として屋敷に勤める事が出来た。
タイガに会った時は「トモ」だとバレるかもしれないと思い、胸が痛いほど高鳴っていたが、タイガは気付かないようだった。
しかしそれも無理はない。
今は家から与えられた氏族の名前を名乗っているし、自分の容姿も雰囲気も以前とはかなり変わった。
短かった髪を腰まで伸ばし、細身だった身体は豊満な曲線を描き、胸の大きさならアリサ以上だと自慢できる。
努力の結果、腰も細く引き締まりタイガの好みのメリハリのあるスタイルを手に入れる事が出来たはずだ。
(これだけ努力して、もう自分は昔とは全然変わっている。気付かれるはずがない)
気付かれてしまえばそれは「タイガの為に」と自分を磨き続けた数年間の努力が意味をなさなかったという事だ。
気付かれたいのに、気付かれたくなかった。
気付かれなかった事にホッとすると同時に、気付いてもらえなかった事に落ち込んだ。
アリサのタイガを捕食する計画には一番に乗った。
アスハの血を引く子供を得る事は氏族や家の目的にもかなう。
なにより数年越しのこの想いを止める事などもうできなかった。
策を弄し、タイガの逃げ場をふさぎ、酒の勢いで雰囲気を演出した状態で、酒の入った若い男女が二人きりになって何も起こらないはずもなく、
当然の事が当然のように起こったのであった。
策を弄した罪悪感も、騙すような真似をした後ろめたさも全部理解していた。
それでも止まれなかった。
意図的な結果を引き寄せ、素性を隠した事に対するタイガへの申し訳なさと、それを超える想いを遂げた満足感にトモは満たされていた。
数年越しの想いが実った幸福感の前には初めての痛みなど何の妨げにもならなかった。
夢心地のまま全身でタイガのぬくもりを感じながら、タイガの胸の中でトモは今までの想いを噛み締めていた。
「まさかこんなことになるとはなあ?」
「あれ?タイガ様後悔しているんですか?」
「まあ、なあ」
後悔しているのは自分だ。
タイガは自分が「トモ」だとは気付いていない。
何も言わず、騙すような形で一方的に関係を結んだのだ。
何も言えず黙り込んでいるとタイガから思いがけない言葉がかけられた。
「こういうのはせめて一度でもまともなデートをしてからの方が良かったんだがなあ?
お前もそう言っていただろう?トモ?」
「・・・タ、タイガ様、い、いつから気付いて・・・」
「いつからって、屋敷で顔を合わせた最初の時からだ」
「さ、最初からって・・・」
「あのなあ?いくら何でも友達の顔を忘れるほど俺は薄情じゃないぞ?
それにあんな顔で言われて忘れられるはずがないだろう?」
自分に「お願い」してきた時の、明るい口調とは裏腹なトモの寂しげな顔を思い出してタイガは顔を顰めた。
「・・・タイガ様」
「それに結局お前の約束は守れなかったし」
「約束って・・・」
『せめて一度ぐらいはちゃんとしたデートをお願いしますね?約束ですよ?』
「あ・・・」
昔の他愛無い約束が胸に浮かぶ。
「約束を守れないままほったらかしたわけだしなあ。お前には顔を合わせづらくてなあ・・・」
「憶えていてくれたんですね・・・」
「あのなあ、俺も結構準備していたんだぞ?
あの店が良いか、この店が良いかとか?
お前がムードにこだわるからそれも調べたし」
「タイガ様・・・」
「昔のように「イチローくん」でも良いぞ?」
「・・・」
トモはもう何も言えなかった。
「結局あんなことがあってお前も顔を見せなくなって、色々手を尽くして探し回ったが、もう半分あきらめていたんだがな・・・
郎党の中にお前の顔を見つけた時は驚いたぞ。
・・・同時に、ようやく見つけたって思ったよ」
タイガが街へ逃げ出した日に来客予定だった氏族の娘。
タイガが探し回った時には、既に配下の氏族の娘になっていて見つける事は出来なかった。
何よりS2型インフルエンザは世界的に大流行したのだ。
知人が亡くなっていても不思議ではない。
見つからないのは当然だった。
それでもタイガは憶えていてくれたのだ。
あの病床で自分を支えた小さな約束を。
彼はそれを忘れず、ずっと自分を、トモを探していたのだ。
こみあげてくる涙を必死に隠してトモはことさら明るい声を出した。
「・・・じゃあ今度、その調べたお店に連れていってください。もう約束を破っちゃいやですよ?」
「・・・まあ、憶えていたら連れてってやる」
「何ですかそれは!また結局「連れていかない」と言ってるようなものじゃないですか!」
「あ~、あ~、うるさい。「連れていかない」なんて言ってないだろう!」
数年前に戻ったような二人のやり取りは夜が更けるまで続き、
時を隔てて再び出会った二人の影は、まるで最初から一つだったかのように重なった。
「もう二度と離れまい」というように、自分にしがみついたまま腕の中で眠るトモを起こさないように、タイガはそっと囁いた。
「心配するな・・・今度こそちゃんとした三ツ星に連れて行ってやるから・・・」
「・・・別に心配なんかしていません。でも・・・」
眠っていたと思っていたトモが答えを返す。
「ん?」
「もう、あの牛丼屋でもいいですよ?」
「お前なあ・・・」
最初は「不満」だった。
それが今では「思い出」に変わっていた。
そのまま二人の影は朝まで重なり合っていた。
――
数年後、レオンはプラント独立の条件であるNJの撤去作業から帰還後、地球からの帰還者たちの声をまとめ上げて市民に公開していた。
理不尽な市民からの激烈な反発と非難は連日レオンを攻め立てた。
トモからのメッセージが彼の元に届いたのは、彼がそんなNJの後処理に忙殺されている頃だった。
正式な結婚は出来なかったもののタイガとの間に子供を授かったという知らせだった。
幸せに満ちたトモの顔を見て、レオンは届かなかった自分の初恋の終わりを胸に刻み、
幼馴染の幸福を心から願った。
――それが、
この救いのない世界で彼が抱いた、ただ一つの救いだった。
※あとがきです。
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
本作で最初に登場した『最古のヒロイン』『最初のヒロイン』は「第8話 帰国2」で登場した「ある少女」でした(笑)
タイガとトモの出会いは、時系列的にはS2型インフルエンザ流行前、本作登場はカルアがタイガの元に来る前になります。
レオンも本来であれば単なる作業員という扱いでしたが、話が進むにつれ「あれ、もっと出世させれば面白くね?最後に救われた方が良くね?幼馴染がいた方が話が深まるよなあ?」
という結果、「第8話 帰国2」のモブの少女との幼馴染という設定が生まれ、「プラントのコーディネーターがなぜオーブに?」という疑問からトモの設定が生まれました。
・・・勢いというのは恐ろしいですね(汗)
ま、まあ、「第8話 帰国2」で登場した「ある少女」は最初から登場は確定していましたので、
トモが「本作で最初に登場した『最古のヒロイン』『最初のヒロイン』」というのは何も間違っていません!(強弁!)
これにて閑話《名前ゼロシリーズ》完結になります。
次回より『運命《ディスティニー》編』開始となります。
次回お楽しみください。