転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜   作:台風200号

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※前書きです。

本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。






第147話 選択肢

 

 

 

 

最初に起きたのは、歓声ではなかった。

 

拍手でも、罵声でもない。

 

沈黙だった。

 

人々は立ち止まっていた。

怒る理由を失ったからではない。

 

考え始めてしまったからだ。

 

 

誰かがスクリーンから目を離して呟く。

 

「……あれ、俺たちの話だったんだな」

 

これまで、ディステニープランは「遠い未来」「コーディネーターの話」だと思われていた。

だが今は違う。

 

「子どもが生まれる前に、人生が決まるって……」

 

「それ、もう俺たちじゃ何もできないじゃん」

 

怒りは誰かに向かわない。

制度そのものへ、静かに向かっていく。

 

 

ナチュラルの若者たち

 

一人の若者が拳を開く。

 

「努力すれば報われる、って言葉……信じてよかったんだな」

 

希望ではない。

責任を取り戻した感覚だった。

 

「負けたら自分のせい」「勝ったら自分のおかげ」

 

その当たり前が、否定されかけていたと今になって理解する。

 

「……よかったのかもな」

 

争わなくていい。

競わなくていい。

向いていることをやればいい。

「楽だ」

そう思った瞬間、指が止まる。

 

「……でも」

 

向いているって、誰が決める?

彼は自分の履歴書を見下ろす。

 

「俺、向いてるって言われたことあったっけ?」

 

 

プラント市民

 

彼らは声を荒らげない。

 

「……論理的には、反論できないな」

 

「理想は正しい。でも、唯一じゃない」

 

誰かが苦笑する。

技術職の女性は、ディステニープランを理性的に聞いていた。

 

「合理的ね」

 

無駄がない。

競争も減る。

評価基準も明確。

――そのはずだった。

 

「……あれ?」

 

彼女は無意識に画面を戻す。

 

「再評価は、いつ?」

 

「配置換えは、誰の判断?」

 

説明は、一度も触れていない。

 

 

技術者・研究者

 

端末を操作しながら、一人が言う。

 

「……経済力と遺伝子の関係、ちゃんと検証したこと、なかったな」

 

別の者が続ける。

 

「都合よく見ないふりをしてた」

 

ここで初めて、『沈黙は共犯だった』という認識が生まれる。

 

「議長は、間違ってはいない。でも、正しすぎたんだ」

 

崇拝でも反発でもない。

初めての距離感だった。

人々は誰かを叩かない。

代わりに、議論を始める。

 

「じゃあ、どうすればいい?」

 

「他の道は?」

 

それが最大の変化だった。

デュランダルの放送は答えを与えてきた。

だが今、人々は問いを持った。

この日、革命は起きなかった。

だが、不可逆の変化が起きた。

ディステニープランは否定されたのではない。

「唯一の未来」ではなくなった。

そしてそれは、どんな武器よりも強力だった。

 

 

地球圏の農業コロニー

 

中年の父親と娘が放送を聞いている。

 

「将来、何になりたい?」

 

娘は少し考えてから言う。

 

「……決められるんでしょ?」

 

父親は、笑えなかった。

 

 

プラント・学生寮

 

成績優秀な青年は安心していた。

 

「俺は、問題ないな」

 

そう言い切ったあと、胸の奥に小さな棘が残る。

 

「……じゃあ、問題ある側って、誰だ?」

 

 

プラント・共同ホール

 

スクリーンの前に人は集まっていたが、誰も叫んでいなかった。

生活は保たれ、食料も仕事も秩序もある。

だからこそ――

言葉だけが胸に刺さる。

 

「遺伝子で役割が決まるのは、合理的だろ」

 

誰かが言う。

反論はなかった。

少なくとも、すぐには。

だが次の瞬間。

 

「……じゃあさ、俺の娘は、何になるんだ?」

 

沈黙。

スクリーンでは、タイガが「選択が奪われる未来」を語っている。

 

「努力しても、適性がないって言われたら終わりか?」

 

誰も答えない。

理屈は正しい。

でも――

それは安心と同時に、逃げ場のない檻でもあると、初めて気づいた者がいた。

 

――――

 

タイガは問いを続ける。

 

「確認します」

 

声は静か。

 

「あなたは、誰が適性を決めると考えていますか」

 

デュランダルは即答する。

 

「科学です」

 

「では次です」

 

「その科学は、更新される前提でしょうか?」

 

議長が一瞬言葉を探す。

 

「当然です。技術は進歩します」

 

タイガは頷く。

 

「つまり、今日の適性は明日、誤りになる可能性がある」

 

民衆がざわめく。

 

「今日、適性があると判断されても、明日にはそれが間違いになる」

 

「ディスティニープランでは、その恐怖が死ぬまで続きます」

 

「自分で選んだ人生でもないのに?

親がコーディネイトに金を掛けなかっただけなのに?

隣の者は親に最高級の調整を施され自由を謳歌しているのに?

自分の子供にも満足な調整を施せないのに?」

 

「それがすべて、自分の努力とも、選択とも、意思とも関係ない所で決定されます」

 

「それが人類の未来ですか?」

 

「議長」

 

「人類が未来へ進むために必要なのは最適化された役割ではない。

成功であっても失敗であっても『自分で』選択し、その結果を受け入れる自由です」

 

タイガは静かに告げる。

 

「議長」

 

「あなたは最初に『人は争うから危険なのではない。争いが起きたとき、何を失うかを知っているから、恐れる』と言われた。

あなたの計画は、その恐怖にこう答えた。

『――“最初から役割を決めておけば、失うものは最小で済む”』と」

 

タイガは静かなまま言葉を続ける。

 

「社会全体から見れば確かに失われるものは最小で済むでしょう。

しかし『失う者』からすれば自分の全てを失うのに等しい」

 

誰かが息を呑む声が聞こえる。

 

「しかもディスティニープランによって他の選択肢を選ぶ事も出来ない。

それが自分の意思や、能力や、選択とも無関係な所で一方的に決定される」

 

「それが『理想の世界』ですか?」

 

デュランダルは言葉を返す事が出来なかった。

 

タイガは、最後に問いを返す。

 

「議長」

 

「あなた自身は、 ディスティニープランによって 議長になると 判定されましたか?」

 

空気が凍る。

 

「あなたの知性、 カリスマ、 演説力。それらは 遺伝子で 証明できますか?それとも―― 環境と選択の結果ですか?」

 

デュランダルは、答えない。

 

『答えられない』のではない。

 

『答えない』

 

もし「遺伝子で決まっていた」と言えば、それは自分のこれまでの苦悩や努力、タリアへの想いすらもすべて「既定事項」として価値を失う事を意味する。

 

もし「環境と選択だ」と言えば、『全てが遺伝子で決定される』というデスティニープランの根幹(遺伝子決定論)を自分自身で否定する事になる。

 

雄弁なデュランダルが『答えない』という事実が、彼の論理的敗北を何よりも雄弁に物語っていた。

 

タイガは静かに告げる。

 

「私に出来る事は選択肢を提示するだけです」

 

「『管理される安心』と『不確実な未来』のどちらを選ぶか、という事です」

 

「……」

 

デュランダルは何も答える事ができなかった。

沈黙が彼の現状をこの上なく証明していた。

それでもまだタイガの言葉は止まらなかった。

 

既に勝敗は決していた。

しかし、人類の未来を賭けた論戦は続く。

 

 

 

 

 

 

 







※あとがきです。

お読みいただきありがとうございます。

本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。

「他人に自分の生殺与奪を握られる事に納得出来る人間がいるか?」

「自分の人生が、自分の意思でも、才能でも、努力でもなく『親の財力』によって決定されるなら、そんな人生に意味があるのか?」

ディスティニープランの問題点はこれらに尽きます。

それこそトモのように「他人(親)の都合で勝手に人生が決定される」事が日常になるわけです。

プラントであればディスティニープランは受け入れられたでしょうか?

とてもそうは思えませんが。

次回、ディスティニープランの裏でデュランダルが行っていた『犯罪』が暴かれます。

次回お楽しみください。
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