転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
「人類の歴史で、失敗せずに成功したことがありますか?」
タイガの声は静かだった。
「失敗が画期的な発明の元になったことなど、いくらでもあります。
しかしディスティニープランでは、そのようなことは起こりません」
「ディスティニープランでは失敗は起こらない。
同時に成功も起こらない。
決められたことが、決められた通りに起こるだけです」
そして、はっきりと言い切った。
「そんなものは未来ではありません」
ここでタイガは、初めて明確にディスティニープランを否定した。
「議長?
何よりあなたは、このディスティニープランをどうやって実行するつもりなのですか?」
デュランダルは答える。
「それはもちろん、遺伝子検査を行って――」
タイガは切り捨てる。
「ディスティニープランを受け入れた国は、全国民に対して遺伝子検査を行う必要があります。
それが可能ですか?」
「遺伝子検査を受けられる国民と、受けられない国民はどうやって選別するのですか?
経済力ですか?」
「それでは富裕層が永遠に上級国民として君臨する国になりますね。
貴族制度とどこが異なるのですか?」
デュランダルは反論できなかった。
「ディスティニープランが全世界に受け入れられたとして、遺伝子検査は“人類全員”が受けられるものなのですか?」
「そのコストは誰が負担するのですか?」
「遺伝子検査が出来なければ、ディスティニープランそのものが成立しませんが?」
沈黙。
またもデュランダルは答えられなかった。
タイガは皮肉を込めて言う。
「まあ、プラントであれば全人類の遺伝子検査も可能かもしれませんね。何しろ、それだけの資産は得ていますから」
デュランダルが問い返す。
「どういう意味でしょう?」
タイガは淡々と語り始めた。
「簡単なことです。
あなた方プラントの“前大戦での犯罪行為によって得た資産”であれば、全人類の遺伝子検査など簡単だろう、ということです」
デュランダルは苛立ちを隠さず言う。
「犯罪行為ですと?我々はそのようなことは行っていない」
タイガは静かに告げた。
「ほう?あなた方が理事国からの生産指示に従わず、資材をMSや戦艦の製造に流用し、その結果生産計画が遅れたことを追及されると
“コーディネーターへの迫害だ!”と主張して戦争準備をしていたのは、犯罪行為ではないと?」
「!!!」
衝撃が走る。
むしろ、あれだけの戦力を短期間で揃えられたことの方が不自然だった。
デュランダルは否定する。
「言いがかりはやめてもらおう」
しかしタイガは続ける。
「まあ、それはこの際どうでもよろしい。しかし今現在進行中のあなたの犯罪行為は見過ごせません」
「私の犯罪行為?身に覚えがありませんが?」
「ここで自白すればそれ以上は追及しませんよ?」
詭弁だった。
世界中に強制放送されている時点でデュランダルに逃げ場はなかった。
「身におぼえがないものは答えようがありませんよ?」
そのデュランダルの答えを聞いた瞬間、タイガは大きなため息をついた。
「では説明しましょう」
スクリーンに様々なデータが表示される。
時系列。
株価。
物流記録。
公的には公開されているが、
決して一つにまとめられなかった情報。
画面にNJ投下地点の地図が映る。
「前大戦時、プラントは理事国から多額の出資を受けていました。
それ以外にも技術開発の為や生産拡大の為に民間企業からも広く出資を受けていました。
これらの企業は理事国に多く存在しました。そしてNJは出資国――特に先進国へ重点的に投下されました。
その結果、多くの企業が物理的に無くなりました。
『NJによって』」
世界が凍り付いた。
「市場取引にはショートセール――空売りというものがあります。高い時に株を借りて売り、安くなった時に買い戻す取引です」
「プラントはこれを行いました。
『NJを投下する直前に』」
再び世界が凍りつく。
「企業の株は紙くず同然になりました。しかしそれを買い戻していた連中がいます。
プラント系列の証券会社です。
さらに、プラントに投資していた企業も物理的に消滅したため、返済義務も消えました」
「これらによりプラントは国家予算に匹敵する利益を得ました。MSやジェネシスに投入された資金の出どころはこれです」
誰も言葉を発せなかった。
タイガは淡々と続ける。
「言うなればプラントは“金を貸してくれた相手を殺して借金を帳消しにし、さらに暴落した株で国家予算に匹敵する利益を得た”
ということですよ」
そして、さらに追撃する。
「これは現在、デュランダル議長が行っていることでもあります」
「!!!」
「国家規模で、議長がロゴスとして名指しした企業の株がショートセールで売却され、暴動で下落した時に買い戻されています。
これもプラント系列の証券会社によるものです」
「議長。あなたのディスティニープランは“人類の未来のための計画”ではありません」
「ただの“詐欺のための道具”です」
周囲が沈黙で満たされる。
誰も言葉を発する事が出来ず、唯デュランダルを見つめる事しか出来なかった。
自分を凝視する視線と、物音ひとつしない静寂の中で、デュランダルは微動だにしなかった。
タイガはスクリーンの向こうの群衆に語りかけた。
「みなさん!」
「あなた方のやるべきことは、怒りに任せて他人を傷つけることですか?」
「怒りのままに暴れることですか?」
「その手は誰かを傷つけるためのものではない。詐欺師に手を貸すためのものでもない」
「大切な人を抱きしめるためのものです」
「家に帰り、大切な人と過ごす。それ以上大事なことがありますか?」
タイガは同じ言葉を繰り返した。
広場のスクリーンにノイズが走る。
怒号は止まらない。
銃声もまだ遠くで響いている。
だが――声だけが静かだった。
「……聞きなさい」
それは演説ではない。
命令でもない。
「その手は、誰かを傷つけるためのものですか?」
石を握っていた男が、自分の手を見る。
「詐欺師に手を貸すためのものですか?」
誰かが看板を持ち上げたまま動きを止める。
「大切な人を抱きしめるための手です」
空気が変わった。
怒りは伝染する。
だが、安心もまた伝染する。
「家に帰りなさい」
命令ではない。
「大切な人と過ごしなさい」
脅しでもない。
「それ以上に大事なことがありますか?」
ただの、問いだった。
誰かが、石を落とした。
音は、驚くほど大きく響いた。
「……帰ろう」
最初は一人。
次に二人。
やがて“帰る流れ”が生まれた。
プラントの管制室で誰かが呟く。
「……命令していないのに収束していく」
暴動は止められたのではない。
人々が“思い出した”だけだ。
何のために働き、怒り、生きているのか。
正義でも、理念でも、計画でもない。
帰る場所があること。
抱きしめたい人がいること。
それを思い出した瞬間、暴力は居場所を失った。
スクリーンが切れる直前、最後に映ったのは――
武器でも、敵でもない。
自分の、何も握っていない手を見つめる市民たちだった。
それは、デュランダルのディスティニープランが存在する意味を失った瞬間だった。
※あとがきです。
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
人類の未来を賭けた議論は決着が付きました。
「人類の救済」と称する計画の裏では、それと対極的に矮小な詐欺行為が行われていました。
もはやデュランダルの言葉に耳を傾ける者はいません。
これによりプラントの未来も決定されました。
デュランダルの行為は『プラントの終わり』を早めるだけの結果に終わりました。
次回お楽しみください。