転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
本話には今後の展開に関わる話が出てきます。
原作とは異なる解釈や独自設定が含まれますのでご了承ください。
「こんなのは種じゃねー」
「こいつにこんな役はいらねーだろー」
というようなご不満、ご批判等はあるかと思いますが
創作上の話ですのでどうかお許しください。
タイガは走っていた。
しかし本人には逃げたという意識はない。
(やってられっか! 俺はオーブを破滅から救うために戻ってきたのであって、おっさん連中のご機嫌伺をするために戻ってきたんじゃねえ!)
そう、タイガは朝から晩まで他の氏族や当主と会合を行っていた。
しかし内容は「うちの氏族を〜」「ウズミ様にお取次ぎを〜」「できればうちの娘を〜」といったものばかりで、タイガの目的には何の役にも立たないものばかりだった。
(俺にはそんな事をしている余裕はないんだよ!)
心の中でそう叫んだタイガは目的地の敷地に滑り込んだ。
「お、おい! 貴様!」
敷地内の警備員に誰何されるも構わずタイガは叫んだ。
「俺はタイガ・ウラ・アスハだ! ウナト・エマ・セイランにお会いしたい!」
――
カルアは怒っていた。
正確には激怒していた。
自分がせっかくタイガの希望を酌んで予定を組み上げたのに、一顧だにする事なく全て放り出されたのだ。
激怒しないはずがなかった。
しかもタイガは逃亡の準備は周到だった。
用意されていた衣服は全て脱ぎ捨て、通信端末も持たず、短時間だがシャワーを浴びて体に張り付けられた発信機を洗い流し、アズラエルに用意させた衣服を身に着けて逃亡したのだ。
衣服は全て脱ぎ捨てられたので、パンツのゴムに仕込んだ発信機も意味を持たなかった。
そんなタイガの逃亡先をカルアは正確に追いかけていた。
「よくタイガの行き先が分かるねえ?」
タイガの逃亡に加担したのが後ろ暗いのか、アズラエルはカルアに同行していた。
「タイガ様には発信機を取り付けていますので」
「発信機? どうやって?」
タイガは服を脱ぎ捨てて全裸になった挙句、シャワーまで浴びて身に着けているものは全て洗い流したのだ。
髪まで細かいブラシで梳き、短時間で執拗なぐらい洗浄していたので、アズラエルにはとても発信機が残っているとは思えなかった。
「足の踵に無痛注射器で埋め込みました。お休みでしたので簡単でしたよ」
何でもないように言うカルアに、アズラエルの背中には「そこまでするのか」という畏怖で冷汗が止まらなかった。
「ちゃんと逃げるなら足を切り落とすべきでしたね。そうすれば逃げ切れたでしょうね」
感情を込めずにつぶやくカルアを前にして、
(足を切り落としたら逃げられないんじゃないかなあ?)
という見当違いの事を考えて現実逃避する事しかアズラエルには出来なかった。
――
「ここですね」
カルアは一軒の邸宅の前で足を止めた。
ここはウナト・エマ・セイランの邸宅だ。
首長代表会議の議員ではあるものの、取り立てて重要な法案の審議に関わった事のある者ではない。
可もなく不可もなく。
それが一般的な評価だろう。
「なんだお前たちは?」
屋敷の警備員がカルアとアズラエルを誰何する。
「私はタイガ様の侍従カルア・デラ・ホクハと申します。タイガ様がいらっしゃいますね? 連れて帰ります」
カルアは「タイガの侍従」と名乗る事で公的な立場を表明し、氏名を名乗る事で氏族出身者の身分を提示し、タイガがいる事を確認するのでもなく断定し、「出してくれ」でも「会わせろ」でもなく「連れて帰る」と断言してのけた。
「す、少し待て! 今確認する!」
「待ちません。タイガ様にはやっていただく事が山積みですので」
無表情に警備を力ずくで突破しようとするカルアに、警備員は狼狽えるしかなかった。
「応援! 応援を〜!」
「なんだこいつ!」
数人の警備員に周囲を囲まれながら歩みを止めないカルアの姿に、アズラエルはドン引きしていた。
「オーブの女性は情熱的なのは間違いないみたいだねえ」
アズラエルは再び目の前の光景から現実逃避する事しか出来なかった。
――
ウナト・エマ・セイランの向かいに座り、紅茶を楽しみながらこの男を観察する。
原作でのウナト・エマ・セイランの評判は芳しくない。
息子のユウナ・ロマ・セイランも同様だ。
しかしそれは彼らに戦時下での経験が不足していた為である。
経験していない事に初見で対応しろというのはあまりにも酷だろう。
だが初見であってもそれに対応し成功させなければならないのが政治家というものだ。
その意味ではウナト・エマ・セイランもユウナ・ロマ・セイランも政治家失格といえる。
しかし戦時下以外であれば?
オーブは国土を焼かれたにもかかわらず、数年後には空母を建造し、艦隊を海外に派遣させるほどの復興を遂げている。
これは並大抵の事ではない。
そして二人ともそれ相応の野心を持っている。
ならば俺に協力する可能性は高い。
――
「タイガ様、それでは私どもにどうしろと? あなたに協力しろと? しかしそれは無理です。何しろウズミ様が代表になったばかりです。私どもにそれに反対する事は出来ません」
「違う。俺に協力しろとは言わない。ただこのような提案があるという事を覚えておいてくれ」
「提案、ですか?」
「そうだ。お前たちが兄上を超えてこの国を支配できるようにする提案だ」
その言葉に室内の空気は間違いなく一瞬凍り付いた。
――
「もう〜、どうしてこうなったんだよ?」
結局、カルアとアズラエルは警備員の数に抗しきれず、そのまま不法侵入者として警察に引き渡された。
暗い留置場でぶつぶつと文句を言いながらも、アズラエルは
(まあこんな経験なんて滅多にできないから良いか?)
と逆にポジティブに考える事にした。
「このままでは予定が、無理を言って時間を作ってもらったのに、ああ……」
カルアの嘆きが暗い留置場の壁に反響する。
その時、ガチャリと音を立てて留置場の扉が開いた。
「出ろ。釈放だ」
カルアとアズラエルが留置場を出ると、そこにはタイガが佇んでいた。
――
「タイガ! 君のせいでえらい目にあったよ! どうしてくれるんだ!」
「滅多にできない経験が出来て良かったじゃないか? 評議会議員の家に不法侵入しようとしたんだから、本当ならもっとそのままでも良かったんだぞ?」
そのままタイガは続けた。
「それにお前の事だから珍しい経験だ! とか言って喜んでいたんじゃないのか?」
「そそそんな事あるわけがないだろう!」
「どうだかな」
「タイガ様」
カルアの押し殺した声がタイガの耳に届いた。
「私は」
何か発言しようとするカルアを、タイガは手で止めた。
「明日からの予定はすべてキャンセルだ」
「は?」
カルアの耳は主人の声を理解する事を拒んだ。
「明日からは俺の指定する者との会合を優先してくれ。それ以外のものは必要ない」
「しかしそれは!」
言い募ろうとするカルアに、タイガは冷たく返す。
「命令だ!」
滅多に他人に命令しないタイガによる明確な命令だった。
「……わかりました」
感情を押し殺してカルアが答える。
「それでは失礼します」
自分は主であるウズミの「タイガを助けろ」という命令を叶える事が出来なかったのだ。
もうここにいる意味はない。
帰ったら荷物をまとめよう。
そう自分に言い聞かせ踵を返して帰ろうとするカルアの背中に、タイガは声をかける。
「では、明日からまた頼むぞ」
「え?」
カルアは自分の耳を疑った。
「私は暇を出されるのではなかったのですか?」
「俺がそんな事を言ったか?」
「いえ。しかし主人の望みをかなえる事が出来なかったのです。暇を出されて当然ではないのですか?」
「お前以上に優秀な者がいればそうする。それまではお前がやれ。いいな」
「……ハイ」
カルアの胸には安堵か反発か苛立ちか、自分でも理解できない感情で満たされていた。
――
「タイガ〜、警備員の人達ね、僕がアズラエル財閥の跡取りだって知ってビビってたよ。いや〜有名人ってつらいねえ」
「お前はもう少しあそこに入ってろ!」
二人の他愛のない掛け合いが、オーブの夜の街に溶け込んでいった。
第13話でした。
タイガの「提案」。
これが後にオーブを根本から変える事になります。
どこまでも付いてきてくれる侍従がいるってのはいいですねえ(背中に冷や汗)
次回以降、物語はさらに加速していきます。
彼らの選択が、世界の形を大きく変えていく瞬間をぜひ見届けてください。
次回お楽しみください。