転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜   作:台風200号

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※前書きです。

本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。





閑話22 悲劇の前の喜び

 

 

 

これはオーブとプラントが開戦する少し前の話。

 

「ううううう〜〜〜〜〜〜〜」

 

オーブ行政府の職員食堂。

そこでトモは食事を終えてもテーブルに突っ伏したまま唸り声を上げていた。

 

「どうしたのトモエ?」

 

そんなトモの前の席へ昼食のトレイを置きながらカルアが尋ねる。

昼食には少々遅い時間だが、タイガの仕事によっては食事の時間も取れない事も珍しくない。

常にカルアがタイガに付き従い内向きの仕事を行い、外向きの仕事はアリサが行う。

それが自然に生まれたタイガの『郎党』の役割だった。

 

「あ、カルア様?」

 

「いつまでもそこに居たら迷惑でしょ?なに唸っているのよ?」

 

「あ、そうだ!私、カルア様にお訊きしたい事があったんです!」

 

「何?」

 

(まあ、衆人環視の食堂で唸ってる程度なんだから、どうせ大した事じゃないでしょうね?)

 

コップの水を飲みながらカルアはそう判断した。

そのカルアの判断は間違っていなかった。

ただし、実際にはある意味オーブという国家の未来に関わる重大な話だったのだが。

 

「カルア様!赤ちゃんってどうやって作るんですか!?」

 

カルアは――一瞬、固まった。

次の瞬間、盛大にコップの水を噴き出した。

 

・・・聞いただけではとてもそうは思えなかったが。

 

――――

 

「い、いきなり何を言い出すのよ!?」

 

タオルで口元を拭いながらカルアはトモに尋ねる。

 

「いえ、カルア様にはもうお子様がいらっしゃるじゃないですか?

だからどうやったら赤ちゃんが出来るのかなあ?と思いまして?」

 

「あ、あなたねえ?そんなのあなたも主に散々可愛がってもらってるでしょう?

だったら別に何も心配しなくても良いでしょう?」

 

「でも、カルア様もアリサも、お屋敷の他の郎党のみんなも、ほとんど子供がいるじゃないですか?

私だけいつまでも赤ちゃんが出来ないのは不安で・・・」

 

「あ、あのねえ・・・」

 

「やっぱり私がコーディネーターだから・・・」

 

「あ・・・」

 

そう。コーディネーターはナチュラルに較べて出生率が低い。

トモが気にするのも当然だった。

 

「……それは、不安にもなるわね」

 

トモの不安を理解しながらもカルアは思っている事をそのまま伝えた。

 

「でも、あなたはまだ若いんだし、そんなの気にする必要はないでしょ?」

 

「そんな事ありません!もう私アラサーですよ!

10年近くタイガ様と“夜のお付き合い”しているのに、まだ赤ちゃんが出来る様子も無いんですよ!

不安にもなりますよ!」

 

「不安ねえ?」

 

カルアは胡乱な目でトモを見やる。

コーディネーターの為か、普段の努力の為か、トモの容姿は際立っていた。

艶のある長い黒髪、形の良い大きな胸、それを際立たせる引き締まった腰、ほっそりとした肢体、10代の頃と変わらぬ肌艶。

同性から見ても嫉妬するような容姿である。

自分も負けていないとは思うが、自分の容姿は“あのアリサの”鬼のような指導によって手に入れたものだ。

しかも、少しでも油断をすると、問答無用で“あのアリサの”指導が待っているのだ。

自分のような努力?修行?苦行?をせずとも、羨むような美貌を手にしておいて何を言っているのだろう?

カルアがそう思っても無理はないだろう。

 

「そんなに不安なら主にお願いしてみなさい。ちゃんと応えてくれるでしょう?」

 

真面目に相手をするのが馬鹿馬鹿しくなり、カルアは適当に話を流した。

 

「それはもうお願いしました。昨日は5回も応えてくれたんです。でも、やっぱり不安で」

 

「今日、主がいつもよりお疲れだったのはあなたが原因だったのね・・・」

 

主の体調不良の思わぬ原因を知り、頬をひくつせるカルアだった。

 

「他の首長家の方々にも『オーブの王家の血を引く者は一人でも多い方が良い』

『オーブの未来の為にもタイガ様の子供を是非!』と言われてまして・・・」

 

「あのねえ、そんな話は無視しなさい。他の首長家の事なんて気にする必要はないわ」

 

「それはそうなんですが、言ってる事は間違っていませんし・・・」

 

「まあ、ねえ?」

 

オーブが立憲君主制の国になった結果、それまでと異なる問題が出て来た。

「王家の存続」である。

アスハ家が元首と定められた以上、その存続は国家の重要事項である。

その正統性は血筋に求められる。

首長達が自分達の王と認めたのはウズミであり、アスハ家だった。

今までは暗黙の了解で五大氏族の当主は養子が主流だったが、王家となったアスハ家にそんな事が認められる筈も無い。

素性の知れない、何処の馬の骨とも分からない者がオーブの王となり、自分達の上に君臨するなど首長達に認められるはずもなかった。

第一継承者のカガリは名目上養子だが、ウズミの実子として黙認されている。

第二継承者はホムラだがホムラにはまだ子供がいない。

次はタイガだがタイガは結婚していない。

 

問題は――次の世代だった。

『オーブ王家』は次世代の存続に大きな不安を抱えていた。

しかし結婚はしていないとはいえ、タイガには既に数人の子供がいた。

その為、その子供達は裏では半ば公然と、オーブの親王や内親王殿下として扱われていた。

つまりタイガによって次世代の問題は解決されつつあった。

そんな状況で首長家の者達がオーブの安定を望むのは当然だった。

 

「カルア様のような有力な氏族家の方でしたら、他の首長家の方々にも正面からものを言えるでしょうけど、

私は氏族家の者と言っても、今は下級氏族の娘で所詮養女ですし、コーディネーターですから・・・」

 

「・・・」

 

首長家の影響力の影の部分の現れであった。

 

「トモエ・・・」

 

カルアは首長家に翻弄されるトモにかける声を失った。

もっとも次にトモの口から出た言葉にそんな感傷はどこかに消えてしまったが。

 

「何よりタイガ様の赤ちゃんが欲しいんです!

それにここで赤ちゃんが出来れば、あの嫌味ったらしい小言ばっかりの連中をギャフンと言わせられます!

もうネチネチと鬱陶しい事を言われなくても済むんです!

赤ちゃんの顔を見せ付けて、何も文句を言えなくなった連中の顔を見る事が出来ればどんなにスッキリするかと思うと!」

 

「子供をあなたの鬱憤晴らしの出汁に使おうとするんじゃないわよ!」

 

「タイガ様の赤ちゃんが出来るのが一番の目的ですよ?その他はついでですよ?」

 

「だからってねえ!」

 

「もう、カルア様のお子様に『おばちゃん』って言われるのは嫌なんです!

そりゃあ母親と同年代でしたら『おばちゃん』でしょうけど、私はまだ若いんです!

でも赤ちゃんが出来れば『おばちゃん』って言われても気にならなくなるでしょうし、

首長家の連中にも嫌味を言われる事も無くなるし、オーブ王家の問題も解決出来るし、

何よりタイガ様の赤ちゃんが欲しいんですう!」

 

「あのねえ・・・」

 

女としての愚痴と、母親になる希望と、多少の報復と、愛する男への想いと、ついでに『国家の未来』が入り混じったトモの本心からの叫びだった。

 

その後もトモの愚痴と嘆きとタイガとの惚気の暴露とカルアの突っ込みは続き、しばらくの間オーブの行政府は賑やかな喧騒で満たされた。

 

トモの望みが叶うのはエイプリルフール・クライシスによって悲劇が巻き起こり、世界が混乱に陥る直前の事だった。

 

それは――

世界で悲劇が始まる、ほんの少し前の幸福だった。

 

 

 






※あとがきです。

お読みいただきありがとうございます。

本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。

新章開始前の閑話になります。

次は新章「仮初の黄金時代編」になります。

次回お楽しみください。


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