転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
「その島の基地の指令室なら外に出るまでに三十分はかかるな?
さて、俺がこのボタンを押すのに三十分かかるかどうか試してみるか?」
そう言ってタイガは、透明なカバーの付いた赤いボタンを目の前に取り出してみせた。
「う……」
「外に出ても、それから最低二十〜三十キロは離れる必要があるな?
俺がボタンを押してから、それが出来るかな?」
出来るはずがなかった。
逃走?
解体?
時間稼ぎ?
――すべて無駄だ。
アウラは全身の力という力が抜け、奈落の底に落ちていくような、深い虚無感を感じていた。
「無駄・・・、今まで妾のして来た事、費やして来た時間、妾の願いは全部無駄だったと言うのか・・・」
思わず漏れたアウラの呟きに、タイガは淡々と答えた。
「願いね?
ブリーダーが血統書付きの犬をどれだけ増やしても、それがライオンを目の前にして意味があるのか?」
「な!」
『アコード?だったか?
お前に出来た事は『ライオンを前にすれば何の意味もない血統書付きの犬を増やす事だけ』だ」
「な、なん・・・」
「ライオンの目の前に『毛並みの良い子犬』を並べる事に何の意味がある?
しかもその子犬で世界を導く?
バカも休み休み言え」
タイガは容赦なかった。
「お前がどんな願いを持とうが、それにどれだけの時間を費やそうが、そんなのは世界には関係ない。
現実に、お前の願いや費やした時間とは無関係に、世界中にニュータイプは広がっている」
「……」
「どんな願いを持っても、身の程知らずの願いは身を滅ぼすだけだ。今のお前のようにな」
「わ、妾が身の程知らずだと!」
それは、今まで研究に打ち込み、その才能と能力を称賛されてきたアウラには、決して投げ掛けられなかった言葉だった。
「“自分の能力で実現できない願いを持つ”――身の程知らず以外にどう言えと?
正にイカロスだな」
「な!」
イカロスは蝋で固めた翼で空を飛び、愚かにも太陽に近づきすぎて墜落した。
タイガは、アウラはそれと同じだと言うのだ。
「それを否定するなら、ニュータイプを超えるコーディネーターでも作ってみろ。
出来るものならな」
「……」
そんなものが出来るはずがなかった。
スーパーコーディネーターを超えると自負する最強のアコード
――シュラ・サーペンタインでさえ、十分もかからず破れ去ったのだ。
それを超えるなど、もはや人間ではない。
そしてニュータイプは、それを遺伝子に何も手を加えず、自然に実現している。
それを実現しようなどと、到底自分の手の届くものではなかった。
「無駄だったのはお前の願いじゃない。
願いを叶えるだけの力を持たなかったお前が無能だったから無駄になっただけだ」
「わ、妾の願いが・・・妾のやってきた事が・・・」
自分の全てを正面から否定され、アウラにはもう何も言い返す気力は残っていなかった。
「さて、そろそろ答えてもらおうか?
降伏か? 拒否か?」
「う……」
アウラは、画面の中でタイガが握る赤いボタンを見つめた。
「俺もあまり気が長い方ではないのでな。
俺の気が変わらない内に答えた方がマシだぞ?」
そう言うとタイガは、ボタンを覆っていた透明なカバーを指で弾き飛ばした。
弾かれたカバーが机の上を転がる乾いた音が、やけに大きく響いた。
「はあ……はあ……はあ……」
脂汗を流し、呼吸を乱し、アウラは硬直していた。
指令室にいる全員の視線がアウラに――アウラの答えに集中していた。
「ま――」
「答えられないなら、こちらで決めてやろう」
タイガは殊更冷たい声で言った。
「そこにいるお前たちの誰でもいい。その女を撃て」
「な!」
「その女を撃てば、このボタンは押さないでいてやる。
お前たちは間違いなく助かるぞ?
生き残るチャンスを無駄に捨てるのか?」
指令室の誰もが顔を見合わせた。
ここにいるのは全員、アウラの腹心と言ってよい者ばかりだ。
忠誠心も普通の者とは比較にならない。
しかし――
“主君を差し出せば自分は助かる”と言われて、心が揺れない者がいるだろうか?
「答えは出ないようだな。それでは――」
タイガの指が、ボタンに力を込める。
「こ、降伏するわ!」
その瞬間、アウラは叫んでいた。
「わ、妾は……アウラ・マハ・ハイバルは……ファウンデーション王国は……オーブに降伏するわ!」
タイガはゆっくりと指を離し、アウラに告げた。
「良かったな。誰が銃に手をかけていたのか知らなくて」
「!!」
それは、自分の腹心が自分を撃とうとしていたという事、
この先、彼らを前にしても心から信じる事は出来ない、
という事を意味していた。
タイガの言葉は本当だったのか?
銃に手をかけていた者は本当にいたのか?
誰が?
どの顔が?
アウラには、それを確かめるために後ろを振り向く事は出来なかった。
それはもはや、この先アウラが“統治者”として振る舞う事は出来ない事を意味していた。
女王としてのアウラは、この瞬間死んだ。
※あとがきです。
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
次回お楽しみください。