転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜 作:台風200号
※前書きです。
本話は独自設定・原作改変を含みます。
原作とは異なる表現、矛盾、人物が登場しますが
本作独自の創作ですのでご容赦ください。
※時系列的には22話の後の話になります。
オーブに帰国した後、タイガは様々な氏族を訪ねていた。
内政の要であるセイラン家に続き、この日彼が訪れたのは、軍事を司る五大氏族の一角――サハク家であった。
そして現在、タイガに正対しているのはサハク家当主、コトー・サハクであった。
表面上の儀礼的な挨拶から始まった対談は、やがて互いの「喉笛」を探り合うような真剣勝負へと変貌していった。
しかし、言葉を重ねるうちに、意外にも両者の間で多くの共通項を見出す事になる。
「オーブを守る。その為には力が必要です。それは間違いない事です。
そうではありませんか?タイガ様?」
「その通りだな。平和?中立?大いに結構。
しかし本来「中立」とは『誰の味方もしないが、誰も味方してくれない』という事だ。
宣言するだけで他国から攻め込まれなくなる魔法の呪文ではない。
他国の侵略を全て独力で跳ね除けるだけの『力』が必要だ。
例え相手が圧倒的な物量を持つ相手でも、圧倒的な技術を持つ相手でもな。
そうでなければ『平和』など無意味な寝言だ」
「その通りですな」
コトーはタイガの言葉に頷いた。
「しかしウズミ様には中々それを理解して頂けないようで。
困ったものですな」
「まあ、兄上には兄上の考えがあるのだろう。
しかし、いくら兄上の考えが正しくても、その結果、国が焼かれて大勢の民の血が流れるような事になるのであれば意味がない」
タイガの言葉はウズミに対する批判と受け取られても仕方がなかった。
タイガを諌めようとしたコトーは続いたタイガの言葉に硬直した。
「まあ、その時は……“正しい選択をする者”が必要になるだろうな」
「タイガ様・・・」
「国が滅びる選択を正義と呼ぶなら、俺は悪で構わない」
「・・・」
それは明言されていないものの「ウズミに対するクーデターを起こす」と言っているに等しかった。
「まあ、そんな事があるはずがないがな。平和が一番だ。そうは思わないか?」
「・・・全くですな」
コトーは目の前のタイガに関する考えを改めていた。
今までは「単なる多少知恵の回る子供」としか思っていなかった。
しかし、現状の認識、未来の予想、それに対して必要なものの選別、それを実行するだけの胆力。
まだ二十歳になるかならないか程度の目の前の少年、いや、「男」はこれらを全て兼ね備えていた。
(・・・なるほど・・・ウナトがいきなり連絡してきてこの方をやたらと持ち上げていたが、ウナトが『オーブの虎』と呼ぶのも伊達ではないという事か・・・)
「失礼します」
その時、扉が開くとお茶が運ばれてきた。
お茶を運んできたのはメイドではなく、タイガよりやや年長の背の高い美女だった。
(でかいな。出会った時のトモよりも背の高さに差があるな)
S2型インフルエンザ流行前にトモと出会い、それから数年経った現在、タイガも相当背が伸びていた。
それでも成人男子の平均程度で、再会したトモと同じ程度であった。
しかし部屋に入ってきた美女はタイガを悠に追い越し、190cmはあるように見えた。
「紹介します。養女のミナです。ミナ。タイガ様にご挨拶を」
「サハク家の養女。ロンド・ミナ・サハクと申します。よろしくお願いします。タイガ様」
「ああ、タイガ・ウラ・アスハだ。よろしく頼む」
丁寧な言葉とは裏腹に、ミナの視線はタイガの心根まで見透かそうとするように鋭いものだった。
ミナの視線が突き刺さる。
(測っているな……)
力か。覚悟か。それとも――“殺せるかどうか”か。
タイガは一瞬だけ笑った。
(なるほど。いい目だ)
(しかし、見えているのは目の前の
ミナが立ち去った後、コトーは冗談めかして言った。
「タイガ様さえ良ければ、あのミナを貰っていただきたいものですな?」
それに対するタイガの答えは簡潔だった。
「アスハ家とサハク家が直接結びつく事など兄上が許さないだろう」
「全く残念ですな」
分かっていたのかコトーの返事もあっさりしたものだった。
(あの娘では、この男には届かんか・・・)
偽りのないコトーの本音だった。
最もタイガの本音はもっと切実なものだった。
(あんなちょっとでも油断したら、こっちの喉笛を食いちぎりかねない物騒な女を嫁に?冗談はよしてくれ)
夜はカルアやアリサやトモといった郎党の女たちに「肉食獣の前の獲物」の如く、
襲われて続けている現実から目を逸らしたタイガの本音だった。
――――
「オーブを守るのに『力』が必要なのは事実だが、必要以上の『力』は必要ない」
「オーブを守れない『力』になど意味はないでしょう?」
「その場合、オーブを守る為には世界中を敵に回してでも勝利し続けなければならなくなる。
そんな事は世界征服でもしなければ不可能だな」
そのタイガの言葉はサハク家が目論む「オーブによる世界征服」を否定するものだった。
「オーブを守る為には選択肢としてあり得るのではありませんか?」
「バカバカしい。何でそんな事をする必要がある?
征服とは支配だ。支配とは、被支配者の不満を管理し続ける無限の苦行だ。
どれだけ優遇しても支配される者はどんな事にも不満を持つ。
それに一つ一つ対応するなんて無駄以外の何物でもない」
「・・・他にオーブを守る方法があるのですか?」
「あるとも。世界征服なんかしなくてもオーブを守る方法がな」
「・・・どんな方法です?」
半信半疑でコトーはタイガに尋ねた。
「『オーブに手を出せば確実に破滅する』という恐怖を植え付けてやれば良い。
例としてなら『核』もしくは、それに類するものだな」
「・・・核ですか・・・」
それは禁忌の言葉だった。
だからこそ抑止力として有効だった。
「オーブに侵攻した相手に対して『核を使用する』と宣言すれば『オーブに侵攻しよう』などと考える者などいなくなる。
わざわざ世界征服なんぞする必要はない」
「・・・『核』の保有など現状の世界情勢では不可能でしょう?
実行できなければ意味がありませんが?」
「実際に核を保有する必要はない。
相手に『オーブは核を保有している』と信じ込ませる事ができればそれで良い。
使うかどうかは問題じゃない。
そして所有していなくても使用する方法はある」
「それは?」
内心(そんな事が出来る筈がない)と思うコトーの疑問にタイガは静かに答えた。
「核を保有する相手からの借用だな。
オーブが核を持っていなくても他国から一時的に借用する。
『同盟』『取引』『利害関係』等『一時的に借り受ける方法』はいくらでもある」
コトーは驚愕した。
それは他国に対する「脅迫や不法ハッキングによる核使用の強要」に他ならなかった。
コトーの内心を知ってか知らずかタイガは話を続けた。
「それに別にオーブが無理に核を使用する必要は無い。
例えば『オーブに侵攻した国はある国を破滅させる機密を握っている』という情報を流しても良い。
『その情報が公開されれば国が破滅する』ようなものであれば核の使用はその国の問題だ。
オーブは関係ない」
「しかし、それは・・・」
「もちろん国そのものの機密である必要もない。核を使用できる立場の人間でも良い。
そいつが、『オーブを助ける』という大義名分があるのであれば、自分の破滅を回避する為に核の使用を躊躇うかな?」
コトーにはその時の光景がまざまざと想像出来た。
「例えその国の他の連中が反対しても、自分の破滅を回避する為であれば必死に説得するだろう。
その後は、その情報をオーブに侵攻した国に流せば良い」
情報ひとつでオーブが護れるなら安いものだろう?というタイガの言葉にコトーは何も言い返せなかった。
「他国との関係悪化が懸念か?悪化したのなら改善すればいい。後からいくらでも挽回は可能だ。
オーブが滅びれば悪化も何もあったものじゃない」
(違う!・・・この方は我々凡人とは視点が違いすぎる!)
コトーは自分たちサハク家とタイガの視点の高さの違いに強い敗北感を覚えた。
そしてコトーの内心を確信させるようにタイガの言葉は続いた。
「オーブは核を使う“可能性”があると信じさせればそれでいい。そして・・・」
タイガは一拍置いて言葉を続けた。
「必要なら使う。それだけだ」
コトーは戦慄した。
オーブは核など所有していない。
今後も所有する事はないであろう。
しかし目の前のこの『男』であれば・・・
(この男は本当にやる!)
それは根拠のない、しかし間違いのない確信だった。
(誰が使うかは問題じゃない。結果だけが残ればいい)
それがタイガの結論だった。
相手に信じ込ませるだけなら世界征服よりよっぽど簡単だ。と言うタイガの言葉にコトーは言い返す事が出来なかった。
「オーブを護る事ができるなら世界征服など不要だ。
世界征服の為に国内のリソースを浪費し、オーブを危機に陥れるようなら本末転倒だ。
目的が果たされるのであれば手段などどうでも良い。
例えそれが『核』だろうと『それ以外の何か』だろうとな」
タイガの脳裏には『ジェネシス』や『レクイエム』といった狂気の産物が浮かんでいた。
「タイガ様・・・」
それは正道を歩むウズミの対極にある姿だった。
だが、それはウズミとは別の形の「オーブを愛する姿」だった。
「中立?条約?国際法?そんなもので国を護れるのか?
『中立を貫きました。しかしオーブは滅びました』等となったら何の意味もない。
中立も条約も国際法も国を護る為にある。
国を護れないのならそんなものは不要だ」
それはオーブを護る為であれば、中立も条約も国際法も踏み躙り、核の使用さえ明言するタイガの本心だった。
タイガは『中立』や『国際法』を墨守して国を滅ぼすつもりは毛頭なかった。
タイガにとっては、中立も条約も国際法も『晴れの日の傘』や『暖かい日のコート』に過ぎず、
「必要であれば使う」「必要なければ捨てる」
その程度の意味しかなかった。
「・・・確かにオーブを護る為に必要以上の力は不要ですな」
「正確には『必要なのはオーブを護る為の力』だ。
オーブに他国に攻め込む為の外征能力など必要ない。
そんな物を揃えるぐらいなら国内の輸送網を整備した方が有事の際によっぽど役に立つ」
「もっともですな」
「重要なのは情報だ。
オーブに攻め込もうとする情報をいち早くキャッチできれば対応は簡単だ。
混乱させて、オーブよりも優先しなければならない状況を発生させれば少なくとも時間は稼げる。
時間が稼げれば対応する方法も増える。
場合によっては攻め込む理由そのものを消す事も可能だ」
「サハク家の悲願の為に用意したのですがね・・・」
世界征服達成の為に、密かに各国の軍事関係者に張り巡らせた情報網。
それを既にタイガに把握されている事を理解した時、コトーは抵抗よりもタイガへの協力を選択した。
「それでも停められない場合には、最終的に必要なのは『力』だ。どんな手段であってもそれを得る事は間違っていない。
引き続き各国の軍部との接触は頼むぞ」
そのタイガの言葉を聞いた後、コトーは思わず聞き返した。
「ご自分で為されようとはされないのですか?
我々がタイガ様の意に沿わぬ事をするとは考えないのですか?」
「軍事関係はお前たちの専門だろう?素人の俺が口出しする事じゃない。
それに俺の目的はオーブを護る事だ。
お前たちも同じだろう?
それならお前たちを疑う理由がどこにある?」
「タイガ様・・・」
こうしてサハク家はタイガに協力する旗色を鮮明にした。
以後、サハク家の世界征服という目的の為の力は、オーブを守る為に使われる事になる。
そして数年後、プラントの混乱と地球の争乱が終結した頃、タイガの思惑通りオーブは「世界を左右する力」を手にする事になる。
その結果、世界中のどんな国もオーブの意向を無視する事は出来なくなった。
「支配する事なく、『力』のみを顕示する」
「他国を支配しない。しかし他国に従わない」
「誰も支配しない」
だが――
それはもはや「中立」ではなかった。
『誰の味方でもない国』ではない。
――『誰も敵にできない国』
それがオーブだった。
それはサハク家が放棄した「オーブによる世界征服」が名前を変え、限りなくそれに近い形で実現されたものだった。
――――
幕間:ダイエットの果てに
サハク家からタイガの屋敷への帰り道の車の中。
「あら?」
車のハンドルを握っていたトモが何かに気付いて車を停め、後席のタイガに声をかける。
「タイガ様?どうやらカルア様が倒れていらっしゃるようですが?」
セイラン家からサハク家へ「ダイエットの為」という理由で徒歩で移動していたカルアは、案の定サハク家へ向かう途中で力尽きていた。
「しょうがない奴だなあ?アリサ、水は持っているな?」
タイガは隣に座るアリサに声をかける。
「はい?持っていますが?」
アリサはペットボトルの水を取り出してみせた。
「よし。それなら・・・」
――――
「ひい、ひい、ひい・・・」
カルアはサハク家へ向かう道の路傍で倒れ伏していた。
そんなカルアの目の前にタイガの車が停まった。
「主!」
カルアはこれで助かったと喜んだものの、車から降り立ったアリサはカルアの目の前に静かにペットボトルの水を置いた。
「???・・・アリサ?・・・これは?・・・」
「タイガ様からのお言葉です。『家の扉の鍵は開けておくから早く帰ってくるように』との事です。がんばってください」
水を置いてそれだけを言い放つと、アリサが乗り込んだタイガの車はそのままカルアを残して走り去っていった。
「主~~~~~~~!!!!!!」
走り去る車の背に、カルアの悲痛な叫びが響き渡った。
まだ本格的な戦火が上がる前の、オーブの平和な一日の光景であった。
※あとがきです。
お読みいただきありがとうございます。
本話には本作独自の設定が多数ありますが、創作上の出来事としてご容赦ください。
これにて『ファウンデーション王国編』終了になります。
次回からは短めの間章的な『オーブ飛翔・前夜編』の始まりになります。
次回お楽しみください。